例えば、組み分け帽子が性急じゃなくて。   作:つぶあんちゃん

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休暇は平穏からは遠く

 

「あんた、どう思う? アンブリッジとブラック先生がデキてるって噂」

 

スリザリン寮、湖深くに位置する談話室。

冬が深まり湖の風景も単調になってくると、談話室はどうしたって寒々しい印象になる。それでも暖炉は軽やかな音を爆ぜ、生徒が紅茶を沸かす音は冬の風物詩だ。貴族の多いスリザリンでは、紅茶の香りが特に芳しい。

 

刺繍が施された厚手のブランケットを抱き寄せると、シャルロットはクッキーに手を伸ばした。

 

「馬鹿馬鹿しいと思う」

 

にべもないシャルロットの返答に、質問の主であるパンジーはニヤッと笑った。

 

「やっぱり? ありえないわよね。あんたの前で言うの悪いけど、アンブリッジって半純血だしね」

 

たいして悪びれてなさそうにパンジーは言った。

周囲に純血だと宣っているアンブリッジだが、本当の出自は名家に詳しい貴族なら大概が知っている。

 

「あと確かにアンブリッジはブラック先生のこと気に入ってそうだけど…『ブラック』の肩書きと容姿しか見てない気もする」

 

「ああ、それわかる」

 

ミリセントが同調してくれた。

今日のお茶菓子は彼女が用意してくれたのだが、上品な甘さで美味しい。…曾祖母のお手製クッキーには敵わないけど。

後で店名を聞こうとシャルロットは決めた。

 

「私たちのためにブラック先生も、アンブリッジに愛想良くしてる気はするよねー」

 

パンジーはちょっと悪どい笑みを浮かべる。

15歳となった自分たちには少しずつそう言った大人の機微が見えるようになってきた。最も社交術に重きを置くスリザリンが、それに顕著なのかもしれない。

 

「あと私の勘だけど、ブラック先生って好きな人いるよね」

 

今まで黙って話を聞いていたダフネが、クッキーを齧りながら口を開いた。

 

「うっそ!? 私、卒業したら狙おうと思ってたのに!」

 

パンジーが大仰な仕草で肩を落とした。

そんな他愛ない友人のやり取りを眺めながらも、ダフネの勘の鋭さにシャルロットは内心舌を巻いた。

 

 

 

 

ハグリッドが帰ってきた。

 

絶望の淵にいたハリーだったが、友の帰還に禁じられた森の入口にある彼の家へ馳せ参じた。

 

久しぶりに入るハグリッドの小屋は懐かしささえ感じた。

ファングはハーマイオニーに飛びかかり、大きな薬缶は煮え立ち、香ばしい藁のような匂いが小屋に充満している。ベッドは少し埃っぽくなっていたので、3人で協力して呪文を掛けるとフカフカ布団の出来上がりだ。

しかし、そんな穏やかな住居の中で家主は傷まみれだった。

 

「どうしたの、その大怪我!」

 

再会の喜びより先に、彼の顔を見た瞬間ハーマイオニーは悲鳴に近い声を上げた。

 

「よぉ、おまえさんたち。 元気にしてたか?」

 

ハグリッドは3人の顔を見るなり相好を崩したが、そうするとさらに傷は酷く見えて痛々しい。

 

ハリーはお世辞にも元気とは言えない精神状態だったが、目の前のボロボロの友人を見て一先ず彼の近況が気になった。

 

ハグリッドはバケツのように大きいマグカップを4つ取り出すと、紅茶を並々と注ぐ。

いつもの定位置にそれぞれが腰を落ち着かせると、ハグリッドの話は始まった。

 

ハグリッドは巨人に、ダンブルドア陣営に付くよう交渉してきたようだった。

マダム・マクシームとのロマンスを交えたその物語は、残念ながらいい着地点にはならなかった。

巨人との交渉が、決裂したのだ。

 

既に学校外では、死喰い人が暗躍していることを知り、ハリーは背筋に冷たいものが走った。

 

ハグリッドの話はさらに続きそうだったが、間の悪いことにアンブリッジが訪れた。十中八九、ハグリッドの偵察に来たのだろう。

 

ハリーたちは慌てて透明マントに隠れ、事なきを得たのであった。

アンブリッジの悪辣な態度を見て、ハグリッドの授業査察が上手くいかないであろうことを3人は悟りつつ、そのままハグリッドの家を後にした。

 

城までの道すがら、雪が舞い降りていることに気付く。

 

「もうすぐクリスマス休暇ね」

 

ハーマイオニーは家族と共にスキーに行くのだと言う。ロンは、マグルが板を足につけて山から滑り降りるというこの娯楽に大爆笑だったが、ハリーもシリウスと行ったことがあると知ると少し興味を抱いたようで、今度行ってみたいと手のひらを返した。

 

「休暇は嬉しいんだけど、ほら僕の家って今は騎士団のアジトになってるじゃん? 落ち着かないんだよね、色々な人が出入りして」

 

「まー、確かに休みの日にマクゴナガルの顔は見たくない」

 

ロンは笑ったあと言葉を続けた。

 

「それなら隠れ穴に遊びに来いよ」

 

その提案は悪くないものに思えた。

 

「いいね。 パパに訊いてみるよ。 アーサーおじさんとモリーおばさんにも久しぶりに会いたいな」

 

短い道中でも、玄関ホールに着く頃にはハリー達の手はかじかんでいた。

雪が髪に降り積もり、薄ら湿っている。早く寮の暖炉にあたりたい。

 

「DAは休暇前に集まれるの、あと1回かしらね」

 

ハーマイオニーは『DA』と言う単語を声を潜めて言った。

 

「んー、そうだね。 休暇前に新しいことしても仕方ないし、その日は復習の回にしようか」

 

ハリーの言葉に2人も賛同してくれた。

例年よりも休暇が待ち遠しいのは、今の学校生活がそれくらい陰鬱なのがあるだろう。

 

そしてハリーは休暇前の最後のDAのあとに、蛇の夢を見たのだった。

 

 

 

ハリーの体は冷たい夢を這っていた。

視線はかなり低い。床にぴったりと腹這いで、見覚えのあるエントランスを進んでいる。

辺りは暗いのに、変な鮮やかさで周囲が視認できた。

 

…そう、ハリーは夢の中で蛇だった。

 

どれくらい進んだのだろう。

ずっと冷たい石の床をハリーは這っていた。徐々に辺りの壁の様子も変わり、奥深くに入り込んでいるのが分かった。

 

やがて、行く手に男が見えた。どうやら居眠りをしているようだ。

 

殺したい。この男を殺してやりたい。

 

ハリーは高々と伸び上がり、その男の体に歯を立てた。夥しいほどの血が迸る。

 

ハリーは自分の絶叫で目が覚めた。

 

「ロン! 大変だよ! アーサーおじさんが!!」

 

ロンは既に起きていた。いや、ネビルもディーンもシェーマスも起きていた。

そのくらいハリーの絶叫は凄まじいものだったのだろう。

 

火を当てられたかのように、傷跡が鮮烈に痛む。

ハリーはベッド脇に激しく嘔吐した。ロンは心配そうに何かを言いながら近寄り、背中を摩り始めた。

 

ハリーは今まで見続けていた夢の場所が、魔法省であることを理解した。

 

「アーサーおじさんが!」

 

ハリーはぜえぜえ息を吐きながら、もう一度言った。このことを直ちに伝えて分かってもらわなければいけないと思った。

 

「どうしたんだよ。 僕のパパがなんだって?」

 

ロンは目をぱちくりとしている。

 

「魔法省で大怪我したんだ! 夢だけど…夢じゃないんだ! マクゴナガル先生を呼んで!」

 

ロンは未だ戸惑いながらも、緊急性は感じたようでパジャマのまますぐ部屋を出て駆けて行った。

 

数分後、寝間着姿にターバンキャップを巻いたマクゴナガルがきびきびとやってきた。

休暇中に会いたくないなどと憎まれ口を叩いたが、この時ほど騎士団のメンバーであるマクゴナガルを有難く思ったことはなかった。

そして、ロンと共にハリーは校長室へと向かうことになった。

 

ダンブルドアはいつもと同じように、校長室で静かに佇んでいた。違うのは、彼が白い寝間着に上等そうなガウンを羽織っていることくらいだ。

 

ハリーは起きたことを全て話した。

まだ動揺しているせいか、言葉は明瞭にならずもどかしかった。今この瞬間にもアーサーが死んでしまうかもしれない、そう思った。

 

ダンブルドアは一度もハリーのことを見なかった。

 

「エバラード、ディリス」

 

全てを聞き終えたダンブルドアは鋭い声で、狸寝入りを続ける額縁へと指示を出した。

 

「ミネルバ、他のウィーズリーの兄弟もここに呼びなさい」

 

やがて連れてこられたパジャマ姿のまま戸惑いと焦燥の色が隠せないウィーズリー兄弟妹たちに、ハリーの胸は痛んだ。

ジニーは今にも倒れてしまいそうだ。

ようやく恋人の死から立ち直りかけてる彼女に、これ以上惨いことが起きていいわけがない。

 

「そんな顔するな、まだ親父は死んでねーよ」

 

ジョージが彼らしくないぎごちない笑みを浮かべて、ジニーの肩に手を置いた。

 

「さあ、ここに来なさい。 グリモールド・プレイスでシリウスが待っておる。 病院へいくのに、隠れ穴より便利なはずじゃ」

 

ポート・キーを掴むその瞬間、ダンブルドアの青い瞳がハリーの顔を捉えた。

ハリーの中に突然憎悪が湧き上がった。あまりに暴力的なその激情は、途端にハリーを支配した。

 

目の前のこの老人を殺したい。牙を喉に突きつけてやりたい--!

 

臍の内側がぐいっと引っ張られる。

視界がぐるぐると回ると、次の瞬間そこは慣れ親しんだ我が家だった。

 

目の前に心配そうな顔をしたシリウスとリーマスがいる。

ハリーの中の荒れ狂った憎悪が風船のように萎んでいくのが分かった。

 

今すぐにでも聖マンゴに押しかけようとする子どもたちを宥めると、一先ず皆は腰掛けた。

 

「倉庫にバタービールがあったはずだ。 リーマス手伝ってくれ」

 

項垂れて声も発しない皆に、シリウスは努めて明るく立ち上がった。

 

「待って、僕も行く」

 

慌ててハリーも追いかける。

そして、倉庫に入るとハリーは先程のことを2人の大人に打ち明けた。

 

蛇の視点でアーサーを襲ったこと、そしてダンブルドアに先程殺意を抱いたことを話すと、シリウスとリーマスの顔は険しさを増した。

バタービールを手にしたままハリーの話を聞いていた2人は、聞き終えるとどこか覚悟が決まったかのように目配せをする。

 

「なに? 何か知ってるんだね?」

 

ハリーはそれを見逃さず、すかさず畳み掛けた。

 

「パパたちが、騎士団に僕たちを関わらせたくないのは分かるよ。 でも僕は当事者だ」

 

ハリーの緑の瞳を真正面から受け止めると、やがてシリウスは頷いた。

 

「分かった。 あとで必ず話すと約束する。だが、今はとにかくアーサーの様態が先だろ。 ハリー、このバタービール持っていってくれ」

 

そうしてせっかく人数分を出したバタービールだが、結局は皆ほとんど口を付けなかった。

 

永遠とも思われる長い夜のあと、アーサーの容態が安定し命に別状がないという知らせが届いた。

薄ぼんやりとした夜明けの中、皆は心から安堵し、ジニーは涙ぐんだ。

 

 

 

 

聖マンゴ魔法疾患傷害病院。

 

子どもたちの前で無理をしていただけかもしれないが、思いの外元気そうなアーサーに会えた。

 

家族のお見舞いも束の間、騎士団の話になり子どもたちは追い出され、ハリーとロンは何となく立ち寄ったカフェルームで奇妙な組み合わせに会った。

 

「あら、ハリー」

 

シャルロットとネビルだった。

校内ではまず見ない組み合わせに驚いたが、次の瞬間ハリーは合点がいった。

2人とも、親がここの長期入院患者だからだ。

 

「あれぇ? ネビル、君も誰かのお見舞い?」

 

事情を知らないロンが訊く。

ネビルは何も言いたくなさそうに俯き黙ってしまったので、シャルロットが彼を小突いた。

 

「言いたくないならそう言いなさいよ。 黙ってたら一番困るわ」

 

「アー、うん。 …いや、言うよ。 2人ともDAの仲間だもん。 僕の両親ね、ここにずっと入院しているの」

 

「そうなんだ。怪我?」

 

「いや……死喰い人に拷問されておかしくなっちゃったんだ。 僕のこともわからない」

 

途端にロンは恥じ入った顔をした。

聞いてはいけないことを聞いたと思ったのだろう。

ハリーも『憂いの篩』で知っていたが、まさかそれをネビルに気取られるわけにはいかない。どうしていいか分からず黙り込んでしまった。

 

「私のママと少しだけ境遇が似てるからね、ネビルとはよく会うのよ」

 

空気を察してかシャルロットはそう話をまとめると、病院に備え付けてある紅茶をカップに注ぎ、ハリーとロンに手渡した。

今日のシャルロットは質の良い濃紺のローブに身を包み、いかにも魔法界の貴族然としている。本人はマグルの格好の方が楽で好きらしいから、恐らく曾祖母に着せられたのだろう。

 

ハリーは手渡された紅茶を口に含む。びっくりするほど味が薄くて不味かった。

 

「僕はそろそろばあちゃんのところに戻るね」

 

逃げるような勢いのネビルと別れると、シャルロットは母親に会っていかないかと提案した。そしてハリーとロンは彼女の案内のもと特別病室へと向かった。

 

部屋にはセブルスも居た。

穏やかな顔で妻の髪を梳いていたセブルスは、ハリーとロンが近づくと僅かに笑いかけた。

 

「来てくれたのか」

 

「うん。 レイチェルおばさん、また髪伸びたね」

 

時々セブルスの手によって、眠り姫の髪は手入れされているらしい。それでも彼女の髪は腰を通り越すほどに長く伸びていた。

 

「こんにちは。 スネイプ先生」

 

思わず校内で会ったような挨拶をするロンに、セブルスはふっと表情を弛める。

 

「もう私は教師ではない。 ···紹介しよう。 ここでお昼寝してる女性がシャルの母親だ。 良かったら何か話しかけてあげてくれ」

 

ロンがおずおずとベットに近付いた。

 

「本当に寝てるだけに見えるでしょ」

 

「うん。 君とそっくりだね」

 

シャルロットはくすぐったそうな照れた笑みを浮かべた。

 

「そういえばね、こないだ気付いたんけど貴方の好きなクィディッチチーム…えっと、名前なんだっけ? ママも好きだったらしいのよ」

 

「え! チャドリー・キャノンズを? 君のママは見る目があるねぇ!」

 

ロンは顔を輝かせて、目の前の眠り続ける女性を見つめた。

彼女が目を覚ましたら、ぜひともそのチームが未だに負け続きな事実を教えてあげて欲しいところだ。

 

「どんなチームなの? ママはどの選手が好きだったのかしらね」

 

ロンは、楽しそうにチャドリー・キャノンズの説明を始めた。

 

「例のあの人との…絆の話を聞いたらしいな」

 

雑談に話を咲かせる2人を横目に、セブルスはそっとハリーに囁いた。

 

「…うん」

 

ハリーは小さく頷く。

シリウスから話されたその話は、衝撃が大きく未だに自分の中で噛み砕けていない。しかし、納得できる部分が多かったのも事実だ。

 

「大丈夫か?」

 

セブルスは眉を寄せ困ったような顔で、ハリーのくしゃりとした頭に手を置いた。

父親と同じ髪質は彼らにとって懐かしいのか、幼い頃からよくこうして頭を撫でられていた。

 

しかし、記憶にあるよりずっとセブルスとの顔が近い。

どうやら自分はまた身長が伸びたらしい。

 

「セブルスおじさん、白髪あるよ」

 

「なんだと!?」

 

セブルスは、らしくない大声を上げた。

そしてブツブツと呟きながら髪を弄っている。それが可笑しかったので、ハリーは笑った。セブルスもつられて相好を崩す。

 

「ハリー、何も心配することはないんだぞ。 私たちがついている」

 

「そんなこと言ったって…ヴォルデモートはきっと僕を狙うよ」

 

どこか強がるようなその言葉に、セブルスは胸が痛くなる。

それを隠して、セブルスはふんと鼻で笑った。

 

「それを子どもが気にする必要はない。 勉強でもしてろ。 ジェームズもシリウスも、O.W.Lは悪くなかったんだぞ」

 

恐らくセブルスは、あの人との絆のことを知って欲しくなかったんだなと、ハリーは漠然と思った。

 

「もう子どもじゃないよ。あと2年で成人だ」

 

「つまり、まだ子どもだ」

 

ロンのジョークがハマったのか、シャルロットは大きな笑い声を上げた。

大人びた格好をしていても、未だにその顔は少女時代の残り香がある。

 

「シャルもおまえも…そう急いで大人になろうとするな」

 

唐突にセブルスはそう言った。

思わず、ハリーは彼の顔を見つめた。

 

「もう少し私たちのために、子どもでいてくれ」

 

目覚めない妻を見守りながら、そう言うセブルスはどこまでも淋しそうだった。

 

 

 

 

休暇が終わる目前、その諍いは起きた。

 

レギュラスがハリーに閉心術を教えることになったのだ。

 

アーサーの退院が決まり、そのお祝いの食事会が開かれることになった。騎士団の本部であるグリモールド・プレイス12番地に、スキー帰りのハーマイオニーやシャルロットも集まり最後の休暇の晩餐を楽しむことになったのだ。

 

そこに、苦虫を噛み潰したような顔のレギュラスが現れ今に至る。

 

「死喰い人が、俺の息子に何を教えてくれるって言うんだ? 服従の呪文か?」

 

「私が教えたいと懇願したとでもお思いなのですか? ダンブルドアからの指示に決まっているでしょう。 それすらも分からないとは無職は悲しいですね」

 

「あ? 俺の友人の情けで、その仕事にありつけたのに偉そうな立場になったもんだな」

 

「おや、大嫌いだったブラック家の財産で食いつないでる貴方も偉そうな立場だと思いますが? くだらない出資もなさっているようですね」

 

2人の間にビリビリと圧が行き交う。

今にも杖を抜きそうな剣呑とした雰囲気を壊してくれたのは、モリーだった。

 

「子どもたちが見ているんですよ! 兄弟喧嘩は他所でやってください!」

 

この2人の溝は兄弟喧嘩という言葉で括れるような程度では無いのだが·····ウィーズリーの母は強し。あのシリウスとレギュラスが同時に口を噤んだ。

 

「シリウス! 貴方ここの家主でしょう。準備、手伝ってちょうだい! レギュラスはここで食べていくのかしら? それなら貴方も手伝いなさい」

 

叱られたシリウスはむっすりと湿気こんだ顔で、モリーに着いていく。

レギュラスはにべもなく断ると、さっさと暖炉のフルパウダーを手にした。シャルロットしか気づいていなかったが、その様子をハーマイオニーが残念そうな顔で見つめていたのは言うまでもない。

 

「モリーおばさん、すごい」

 

レギュラスと個人授業という最悪な決定事も忘れ、思わずハリーは感心した。

 

「モリーは…ギデオンとファビアンを亡くしているからね。 血の繋がっている兄弟同士が仲違いするのが見ていられないんだろう」

 

リーマスは遠い目でどこか疲れたようにそう言った。

それはハリーに聞かせるつもりはなく、本心がつい漏れ出た言葉のようだった。

 

ハリーは、屋敷しもべ妖精のアンと朗らかに笑い合いご飯の支度をするモリーへ視線を戻した。

快活に振舞っている彼女だが、よく見るとだいぶやつれているように思えた。

 

ハリーは双子から聞いた、パーシーがクリスマスプレゼントを送り返してきたという話を思い出した。

 

休暇は終わり、ハリーたちは一先ずテストに追われる学生へと戻っていく。

 

それでも少しずつ、戦争の足音が近付いていることをハリーはどうしようもなく実感した。

 





次話は27日に投稿予定です。

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