例えば、組み分け帽子が性急じゃなくて。   作:つぶあんちゃん

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W.B.W

 

日刊預言者新聞は、ハリーに妄想癖と虚言癖があることをねちっこく書き続けた。

 

罰則は未だに続き、手の甲は疼くらしい。シャルロットの作った薬がなければさらに地獄だっただろう。

 

「…癇癪を抑えることはできないの?」

 

アンジェリーナと大喧嘩し鼻息荒くソファーに戻ったハリーに、ハーマイオニーはそっと問いかけた。

 

卒業したウッドのあとを継ぎ、アンジェリーナがクィディッチの新キャプテンとなった。

新しいメンバーの選考会に、シーカーという大切なポジションであるハリーが罰則で欠席することに対して、キャプテンとしての彼女の怒りは尤もなように感じた。

 

ハリーはまだ溜飲が下がらないのか、ギロリと視線を向ける。

怒りの矛先が自分に変わったことに気付いたハーマイオニーは、先制して言葉を続けた。

 

「分かってるわよ。 もちろん貴方が一番それに参加したかったって気持ちはね」

 

今年の夏休み中、ハリーはロンと会う度にクィディッチの練習に付き合っていた。

どうやらロンはウッドの後釜としてキーパーを狙っているようで、トンクスやら暇になったシリウスを巻き込んでかなり熱心に練習していたのだ。

 

そんな張本人であるロンは、同じ談話室内にいるものの一緒には居ない。

 

少し離れたソファーでラベンダーと顔を近づけてクスクスと何やら笑っている。

2人は去年のダンスパーティーの時から急接近したようだ。

 

ハーマイオニーは--時たまラベンダーが勝ち誇ったような顔で此方を見るのは置いといて--それを微笑ましく感じている。

 

親友が幸せになるのは嬉しいし、必要以上にお喋りなところや感情の高低差が激しい点に目を瞑れば、本質的にラベンダーはいい子だ。

ハリーに対しても最初は魔法省のキャンペーンを信じていたようだが、最終的にはロンの言葉を信じたらしい。

 

傍から見て、2人はなかなかいいコンビに見えた。

 

「そりゃ僕だって、アンブリッジにその日だけ罰則をずらしてもらえるよう頼んださ! だけど結果は今アンジェリーナに話した通りだよ!」

 

ハリーは苛ついた口調を隠さずそう言った。

 

ハリーの手の甲は今やズタズタに傷ついている。

彼はプライドを守るためなのか暫くの間、この残酷な罰則を自分とロンに隠していた。

 

だが、幼馴染には弱音を吐けたようでシャルロットはそれを知り、薬を調合してくれたらしい。それに助かりはしているが闇のマジックアイテムで負った傷を本質的に治療することは出来ず、いわば応急処置のようなものだ。

 

そんな状況下のハリーが精神的に余裕がないのも分かっていたので、ハーマイオニーは彼のフラストレーションを無言で受け流した。

 

気まずい空気を変えたのは、双子だった。

 

「さあさあ! お立ち会い! 我らがお届けする、魔法のスーパーアイテムだ!」

 

「こりゃ見なきゃ損だぜ! ほら、そこの新入生の君たち、ぜひ前の特等席に来てくれたまえ」

 

大仰な仕草で談話室みんなの興味をかっさらった双子は、あれやこれやと物品をテーブルに並べた。

 

「あの2人は…また……!!」

 

くらりと眩暈を覚えたハーマイオニーが、同じ監督生という身分であるロンをギロッと睨む。

ロンは自分に止めるのは無理だとでも言いたげに、首を竦めてみせた。しかし、その視線は双子に向いており興味津々なのは明らかだった。

 

「さぁ、最初に紹介するのはこれだ! インスタント煙幕! 投げれば、ほらこの通り! 簡単に暗闇が作れる」

 

双子のひとり--恐らくジョージ--が、小さな球体を掲げそれを地面に叩きつける。

目の前で実演され、下級生たちはキャッキャと声を上げて反応し、目を輝かせた。

 

「見てくれたか? 素晴らしいアイテムだと思うだろう、これで君たちは例え先生に追われても逃げおおせるわけだ」

 

「仮に見つかって没収されても、くれぐれも我らの名前は出さないように」

 

わざと重々しくそう告げれば、観衆たちは堪らずクスクスと笑う。

さすがこの双子は人の心を掴むのが上手かった。

 

「なんと! これを今見てくれた君たちみんなにプレゼントしよう!」

 

「なーに!上級生からのほんのプレゼントさ!これでホグワーツをより良く楽しんでくれたまえ!」

 

双子は『インスタント煙幕』を惜しみなく前方にいる生徒たちに振りまく。

そして練習したかのように--いや双子だからこそ出来る芸当なのか、息ぴったりにこう続けた。

 

「「もし気に入ってくれたなら次は俺たちから買ってくれ! 」」

 

商品と共に手作りらしいビラを配る。

怖いもの知らずの彼らは涼しい顔でハーマイオニーにもそれを手渡した。

ハーマイオニーが何かを言い募る前に、ハリーにもそのビラを渡す。実演販売を見て少し機嫌を直したハリーに、双子はウインクした。

 

「おっと、もちろん君からはお金は取らない」

 

「好きなだけ商品を自由に使ってくれ。もちろん宣伝はしてくれよな!」

 

手渡されたビラにはカラフルな文字でこう書かれていた。

 

『悪戯専門店W.B.W !!』

 

正式名称はウィーズリー・ブラック・ウィーズ。

 

 

 

 

 

 

 

一応、闇祓いのトップとして前線を走り続けてきた親友にこんなことを言うのは失礼かもしれない。

しかし、セブルスはこう思ってしまうのを止められなかった。

 

--間違いなく、悪戯専門店がこいつの天職であると。

 

「それでな、次はこいつを見てくれ。『だまし杖』だ。使おうとすると…こうなる!」

 

どこからどう見ても本物の杖に見えたそれは、ポンと音を立てるとチューチュー泣くゴムのネズミへと変化した。

 

ワハハとシリウスは得意げに笑った。

魔法省を辞めてから伸ばし始めた髪は、無造作に肩までかかりむしろそれが以前より若々しく見える。

 

「すごいな。 これはどういう仕組みなんだい?」

 

グリモールド・プレイス12番地、応接間で持参したケーキをつつきながらリーマスは目を輝かせた。

 

「成程。縮小呪文と対象の出現呪文の重ね掛けか。それで杖にネズミを隠し、動かすと反応するわけだな」

 

セブルスが推察した持論を述べると、シリウスは露骨に嫌そうな顔をした。

 

「おい。 これから俺が説明しようと思ったのに取るんじゃねーよ」

 

どうやら大正解だったらしい。

 

仕事を失ったシリウスが、ウィーズリー家の双子のスポンサーになったのはつい数ヶ月前のこと。

事情を知ったモリーと激しい口論を交わしたのもつい最近のことである。

 

『実際、かなりの商才があるよ。あの2人は』

 

スポンサーになったばかりの頃、シリウスは大真面目な顔でそう言った。

 

『失敗すると思ってる事業に金出す馬鹿はいないさ。ブラック家だって財産が無限にあるわけじゃない。 あの二人となら仕事をやってもいいと思えたから手を出したんだ』

 

悪戯グッズで生徒の知名度を上げたあとは、身を守るための魔法アイテムを売ることを提案したのもシリウスである。

 

相談もなしに勝手に魔法省を辞めた挙句に悪戯グッズをウキウキと弄るシリウスに、最初ダンブルドアは頭を抱えていたようだが、店の方向性を聞いたあとは何とか許して貰えたらしい。

 

シリウス曰く、『この年でそんな何度もダンブルドアに説教されたくねえよ』とのこと。…これに対して自業自得だと評したのは騎士団全員である。

 

「それで…ハリーはどうしてるんだ? 元気なのか?」

 

セブルスが訊く。

去年までは毎日のように顔を合わせて手が届く距離に居た分、校内のハリーとシャルロットが心配で仕方なかった。

 

「いやまあ…元気ではあるんだろうが……」

 

シリウスは一転渋い顔でそう言った。

手紙は送られてくるものの、魔法省の閲覧を考慮し無難なやり取りしかしていない。

正直な話、今ホグワーツで何が起こっているのか分からないのだ。

 

「まあ、碌でもないことになってる可能性は高いね。 この女がいるんだから」

 

リーマスが彼らしくない冷えきった声を出した。その目には、反人狼法を起草した人物への静かな怒りが溢れている。

 

日刊預言者新聞には『ドローレス・アンブリッジ 高等尋問官に就任』と大きな見出しが付けられ、ガマガエルのようなその女は厭らしい笑みを浮かべていた。

 

馬鹿馬鹿しいと、去年までホグワーツにいたセブルスは心から思う。

あのダンブルドアが生徒を私兵にすると、まさか魔法省は本気で信じているのだろうか。

 

「この女が教師になるとはなぁ… 」

 

シリウスは頭を抱える。

セブルスはこの女と接点はないが、友人たちの反応を見る限り度を越して悪辣な人間なのだろう。

 

「きっとハリーは…辛い思いをしているんだろうな」

 

セブルスの口から呟くように言葉が漏れる。

側にいてやれないのが心苦しい。

 

「ああ。 額の傷も最近は頻繁に痛むらしい」

 

「ダンブルドアはやはりハリーと『例のあの人』に繋がりがあるとお考えなのか」

 

リーマスの言葉に、シリウスは彼らしくない慎重な面持ちで頷く。

 

「明言はしていないが、恐らくそうなんだろうな。 去年の夏休み、ハリーが夢で見たあの館でヴォルデモートと…ぺティグリューがマグルの老人を殺したのは実際に起きたことだった。 それを偶然とはできない」

 

「厄介なのは、それを『例のあの人』が気付いていた場合だな」

 

「それなら、ダンブルドアはハリーに閉心術を教えるつもりかもしれないね」

 

リーマスは再びケーキをつつきながらそう言った。もう3個目だ。

見てるだけで甘ったるくなったセブルスは、紅茶に口をつける。

 

「閉心術か。俺、苦手なんだよな」

 

シリウスは呻くように言う。

閉心術は、自身の感情や内面への侵入を防ぐ魔法である。言うまでもなく、感情の振り幅が大きいシリウスに適性があるとはお世辞にも言えまい。

 

「ダンブルドアが直々にハリーに教えてくれたら助かるが…忙しそうだもんな、あの人」

 

シリウスの言葉に、セブルスは適任者を思いついたが口には出さなかった。

 

未だ目の前のこの男にとって、弟の存在はとことん地雷なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

淹れたばかりの芳醇な紅茶の香りが室内を満たす。

 

校内の屋敷しもべ妖精が焼いてくれたスコーンは文句のつけどころがない出来である。

 

外には寒さが迫るものの自室は暖かく、仕事の合間に訪れた最高のティータイムだ。

 

ただ一人、招かれざる来訪者を除いては。

 

「あらあら、ちょうどお茶の時間でしたの? ご一緒していいかしら」

 

鼻にかかった甘い声で、ドローレス・アンブリッジは笑みを深くした。

 

「勿論です。 席をご用意しましょう、ドローレス」

 

嫌悪感を顔の後ろに隠し、レギュラスは柔らかく微笑んでみせた。

どんな笑みを浮かべれば相手が自分を気に入るのか熟知していた。

 

憎々しい兄が魔法省で一波乱起こしたからか、最初はアンブリッジから警戒を持たれた。

しかし、彼女はレギュラスは兄と全く違うとすぐに悟ったらしい。

 

容姿も優れ、根っからの純血主義だと誰からも思われているレギュラスは、今やアンブリッジの大のお気に入りであった。

レギュラスとしても、多くのスリザリン寮の生徒がアンブリッジ側についている今、この状況は好都合だった。

 

尤も生徒たちの内心は冷ややかなものである。

 

家族の大多数が同じくスリザリンである彼・彼女たちはアンブリッジの血筋も魂胆も知っているのだ。

 

それでもアンブリッジに尻尾を振るのが、家族を守るため、この学園で今一番安全に暮らすためならば、躊躇いなくそうする。それを狡猾と言わずしてなんと言うのだろうか。

 

「まあ、さすがレギュラスですわ! センスが良いんですのね」

 

無神経に部屋を歩き回るこの女に反吐が出そうになる。

アンブリッジはティーカップを勝手に物色し始めた。

 

「この柄が一番素敵ですわね。 これでお茶を頂いても?」

 

レギュラスの指がピクリと痙攣する。

 

「…すみませんが、それはとある客人専用でして。 他のものなら好きなのを」

 

「あら、そう」

 

幸いなことにアンブリッジはそこまで大した興味はなかったらしい。あまり残念そうでもなく、他のティーカップを選んだ。

 

紅茶が注がれ、アンブリッジは腰を下ろす。

 

「先日シビルの査察から始めたと伺っています。高等尋問官でしたっけ、大変そうですね」

 

皮肉を込めて言ったのだが、アンブリッジはにんまりと厭らしい笑みを浮かべた。

小さな瞳は、蛙を狙う蛇のように捕食者の様相である。…似ているのは蛙の方なのだが。

 

「ええ、ええ。 やはりホグワーツの教師陣は魔法省が求める水準に達しているとは言い難いですわね」

 

「まあ、確かに」

 

この女のことはいけ好かないが、正直レギュラスもこれには賛同してしまった。

シビル・トレローニーは本当の預言者(・・・・・・)としての才能は置いといて教師としての実力は酷いものだし、去年ハグリッドが教師になったこともレギュラスは否定的な意見だ。おまけに『闇の魔術に関する防衛術』の教師はここ数年、殆どが犯罪者だったのである。

 

アンブリッジは気を良くしたようで、エヘンと少女のような咳払いをした。

 

「でしょう? ああ、もちろん貴方は別ですわよ。 レギュラス。 きっと素晴らしい授業をなさるんでしょうね。 スリザリンの可愛い生徒たちも貴方のことを大変尊敬しているようですわ」

 

「それは恐縮ですね」

 

レギュラスはあっさりと謙遜を返した。

 

「ねえ、レギュラス」

 

気味が悪いほどの猫撫で声であった。

 

「貴方はこんなとこで終わる人間でないと、私は思っていましてよ。 言ってる意味がお分かりかしら? 私でしたら大臣にお話を通せますわ」

 

何となく予感していた話ではあった。

レギュラスは僅かな笑みをたたえたまま、紅茶を嚥下した。

 

何て答えるのが最適なのか、表情を崩さず黙考していると控えめなノック音が鳴った。

このタイミングの客人とは何と有難いことだろう。

 

「どうぞ」と促すと、扉がそっと開かれた。

来訪者は…レギュラスが一番この部屋に来て欲しい人物で、そして同時に今は一番来て欲しくなかった人物だ。

 

ハーマイオニー・グレンジャーは戸惑った顔で、奇妙なお茶会の出席者を交互に見つめた。

 

アンブリッジの瞳に鈍い嫌な光が帯び、そして口元を悪辣に歪めた。本人としてはこれは微笑んでいるつもりなのだろうか。

 

「あらあら、ミス・グレンジャー。 グリフィンドールいちの才女の貴女がここに何の用かしら?」

 

「グレンジャーにはグリフィンドールクラス分のレポートを集めておくよう頼んだのです。 あの寮は遅れるものが多いですから」

 

ハーマイオニーが何か口を開く前に、嘲笑を交えた口調でレギュラスは言った。

視界の端でハーマイオニーが明らかに狼狽しているのが分かり、胸に鈍い痛みが走る。

それに蓋をして、言葉を続けた。

 

「グレンジャー、此方の教室へ。…ああ、ドローレス。すぐ戻るのでゆっくりしていてください」

 

かび臭い魔法薬学室に入ると、後ろ手で扉を閉める。

 

「ブラック先生…?」

 

「グレンジャー、もう今年から私の部屋に来てはいけません」

 

きっぱりとレギュラスは言った。

ハーマイオニーは驚いたような傷ついたような顔をして、しかし食い下がった。

 

「どうしてでしょうか? 生徒が教師に質問をするのは当然の権利だと思います」

 

放たれた言葉は彼女らしい芯の強いもので、そしてそれは正論だった。

 

「貴方は…ハリー・ブラックと近いから目をつけられている。 私としても迷惑なのです」

 

狡い言い方をしているのは分かっていた。

そもそも部屋に入れるようにしたのは自分だというのに。

 

「いいですか、グレンジャー」

 

レギュラスは彼女の背に合わせて少しだけ屈むと、チョコレート色の瞳を覗いた。

 

「あの女に何か飲み物を差し出されても絶対にそれを飲まないこと。 これは…貴方のお仲間にも伝えてあげなさい。 わかったならお行きなさい。 この部屋にはもう二度と来ては行けません」

 

ハーマイオニーは羊皮紙を手にしたまま俯いた。

そこにはいつも通り、魔法薬への質問がたくさんあったのだろう。

 

彼女は暫くの沈黙のあと、再び意志の強い瞳を上げた。

 

「ブラック先生、最後に質問です」

 

「なんでしょう」

 

「ブラック先生は…その…ダンブルドア校長の味方なんですよね? つまり…悪い人の味方ではないんですよね?」

 

レギュラスは少しだけ微笑んだ。

 

「グレンジャー、貴方はどうやら勘違いをしているようですね。私は過去も今も、変わらずずっと悪人です」

 

そして、扉は閉められた。

 





少し遅刻しました。すみません。

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