ランデブー
炎ホー|つきあってる
見慣れた男が縁側に座っている。
降り注ぐ蝉の声と陽光を浴びて、額に光る汗と色素の薄い髪がきらきらと輝く。背中の羽は行儀よく折りたたまれており、その根本近くの衣服は汗で色を変えている。暑いだろうに、わざわざそんなところにおらずともと何度注意しても聞き入れない。
何が面白いのか、後ろ手に身体を支えて足をぶらぶらと遊ばせ、常備してあるつっかけを飛ばしては羽で拾ってを繰り返している。
「ホークス」
袋に入ったままのホークスの分の氷菓を放ると、前を向いたまま羽でワンクッション置き、向きを変えて棒の部分を掴む。開封しながら「ボリボリ君だ。やっぱ夏はこれですよね」と笑ってかぶりつき、しゃくりと軽快な音を立てた。
「ウマーイ!」
冷凍庫から出したばかりだというのに、ホークスのものは角が丸みを帯びてゆるみ始めている。エンデヴァーが近づくと、熱で火照った顔がこちらを向く。少年のような、純粋さと素直さが掛け合わさった笑みが眩しい。
本当は十五だと言われても信じてしまいそうなほどのまっさらな笑顔は、二回り近く離れた男と爛れた関係にあるなどとは到底思えない。実に今更ではあるが、なんとなく色々なことに後ろめたい気持ちになる。
「エンデヴァーさんもここで食べます?」
「そのつもりだったが中で食べる」
「ええ?」
身体を大きくひねり、エンデヴァーを見上げた顔には「なんで?」と書いてある。
「じゃあ俺も中に入ります! 涼しいとこで食います!」
足を振ってつっかけを放り、エンデヴァーの腕にかきついてくる。その拍子に、棒に残っていた水色がずるりと重力に促されるまま滑り落ちた。
「あ」
磨き上げられた廊下の上に横たわるのを剛翼がすくい取る前に、手を取り引き寄せ、冷えた唇を吸う。同時に軽い音が下方から聞こえる。廊下に何を落としたのかは明白だ。液状化した氷菓に濡れる指を絡ませ、もう片方の腕は腰に回す。
びくりと痩身が強張る。すぐそばにあるホークスの耳に触れるか触れないか、その距離で固定する。エンデヴァーは自分の声と吐息が彼にどのように作用するか、いやというほど知っている。
「じゃあ食べてくれ」
俺のことも。
効果は絶大だったようで、ホークスはエンデヴァーの肩口に額を擦りつけて身を震わせている。乱れつつある呼吸をもっと乱したくなり、今度は口を開かせて舌を捻じ込む。
夏の日差しは強く、二人を照らす。じりじりと炙られ、汗が浮いて流れる。まばらに聞こえていた蝉の声が、わずかな間を置いて一斉に鳴き始める。
正しく蝉時雨だ。声の雨はエンデヴァーとホークスの二人に容赦なく降り注ぎ、二人きりのような錯覚を起こす。
茹るような気温と音の中で、息継ぎすらうまくできている気がしない。熱い体温と快感を分け合い、ときに高温の空気を吸い、ずっと熱がこもったままだ。
敷地内とはいえほぼ外の、誰でも見える場所で溺れそうになっている。みっともないし弁えるべきところだとわかっているが、どうしても止められない。
「ん、ふ、エンデバ、さん、連れてってください」
舌を吸われすぎてうまく喋れないくせ抱きついてくるので、絡めていた指を解いて片手で抱き上げる。
「フフ、」
何がおかしいのか、ホークスはエンデヴァーの首にしがみついたまま笑う。
「あなたのアイス、袋も開けんまま溶けちゃって」
ホークスの背を支えている手に持っているのは、彼に与えたのと同じものだ。歩むたびに袋の中で水色の液体が波打っている。
「代わりに俺のこと、いっぱい食べてくださいね」
「言われずとも」
「ンモー、そういうとこ!」
けらけらと声を上げて笑う恋人を運ぶ。誰も来ない、蝉の声すら遮断する奥の部屋へと。
だらしなく転がった履物も、廊下におちた氷菓も、全てはあとだ。