スパロボだコレ、小ネタ置き場 (永島ひろあき)
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エイプリルフールにつき没バージョン「スパロボだ、コレ!?」
黄金の鎧を纏った巨神が、姑息な策略によって片腕を落とされながらも闘志を欠片も萎え去ることはなく、周囲に蠢く異形の神々を睨み据える。
オリュンポス三大神が一柱、大神ゼウス。黄金の光を纏う偉大なる神は同格の神たるハーデスとその配下達を前に、孤独な戦いを挑まんとしていた。
「ゼウス、三大神の一柱に数えられながら人間などという未開の下等生物に肩入れする愚か者め! 大いなるウラヌスの命に背いた貴様はオリュンポスの恥晒しだ。これまでの武功に免じてせめてこのハーデスが貴様の首を刎ねてやる!」
機械の体を持つオリュンポスの神々は、他の神々との戦争の為に地球の古代バードス島基地に前線基地を設けていた。
オリュンポスの神々は地球人の抹殺を考えたが、人類に神々から失われた愛や勇気を見出し、愛したゼウスはこれに真っ向から逆らい、戦いを挑んでいたのだ。
神の中の神とまで謳われたゼウスの力はすさまじく、同格のハーデスを含めた神々の軍団を相手にしても一歩も辞さぬ戦いぶりで、正面から戦っては被害甚大と悟ったハーデス側はゼウスの案を認めると誘い出し、隙を見せた彼を騙し討ちにしてその右腕を斬り落としたのだ。
「ハーデス、そして同胞達よ。地球人達を下等と断じ、彼らを見ようとしないから気付けないのだ。彼らには我らから失われて久しい他者への思いやりや、暴力に屈しない勇気が確かに存在する。
彼らの全てが善き生命とは私も言わない。だが彼らは誰しもが残酷な悪人にも、慈悲深い聖者にもなれる可能性がある。私はその可能性の芽を摘みたくはない。いつか彼らが星の海に漕ぎ出し、新たな同胞になり得る生命だと信じている!」
「愚か、愚か、まことに愚かよ、ゼウス! 未開も未開、文明も精神も肉体もなにもかも未成熟なこやつらが我らに肩を並べる時など、億年待とうとも訪れぬ。そして我らが根絶やしにすれば、永劫に訪れぬわ。そこまで肩入れをするのなら、貴様も共に滅びるがいい!」
巨大な神々が手に持った大鎌や剣を構え、ゼウスに殺意を殺到させる。光の力を高め、黄金の戦闘形態にあるゼウスも、果たして隻腕、そして孤軍のこの状況でどこまで抗し得るか。
神々の包囲網がいよいよ狭まろうとしたその瞬間、大気を震わせる力強い声が戦場に響き渡り、ゼウスの右側に青い炎の柱が出現し、反対側には全身に鎧を纏った美しき女神の姿が現れる。
「そうはさせん!」
「おお、プルート、ペルセポネ、来てくれたのか!」
青白い炎に丸みを帯びた黒い顔のような文様が浮かんでいるのがプルート、月の光の如き神々しい鎧と白いマントを纏うプラチナブロンドの女神がペルセポネ。
共にゼウスやハーデスら三大神に次ぐ力を持つ高位の神であり、そしてゼウスの盟友であった。
「ゼウス、君はいささか無茶が過ぎるぞ。事を起こす前に僕達にも声を掛けなさい」
「む、すまん。なにしろ事は急がねばならなかったのでな」
「まあまあ、この星の人類では神々がその気になればあっという間に絶滅してしまいますからね。ゼウスが焦るのも無理はありませんよ」
それまでの切迫感を忘れる程に、ゼウスにとってこの二柱の援軍は心強い。今や宇宙に覇権を広げる事に熱中する神々の中にあって、この二柱は穏健派の筆頭であり、オリュンポスの支配下に収まった星々の原住民を積極的に保護している変わり種だった。
三大神には及ばずとも並みの神々では相手にならない二柱の出現に、ハーデスは焦りよりも怒りの炎を激しく燃やした。
「プルート、貴様までゼウスに感化されたか。いや、貴様にゼウスが感化されたと言うべきか! 貴様こそオリュンポスの汚点、誤りそのものだ!!」
ハーデスは死者の国である冥府を治める王だが、プルートもまた冥府の王として推挙された事があり、ハーデスにとっては最も身近なライバルだった。そしてなによりプルートの妻ペルセポネへの横恋慕が、彼にはあった。
「ペルセポネ、貴様もだ。冥府の女王と呼ばれながらプルートの傍にいるばかりか、ゼウスの愚行に加担するとは! その知性を狂わせたか」
「都合の悪い事は相手に欠陥があるからだと考えるのは、神と呼ばれる者であれ傲慢ですわねえ。なにより滑稽です。より強い力を持った存在が現れたら、ただ滅ぼされるしか道のないオリュンポスの神々らしい。
私がゼウスに助力する三つの理由を教えて差し上げます。一つ、元々私達はゼウス同様、徒に原住民を殺害する事には反対です。二つ、この星の生命に可能性を見出しています。三つ、そもそも私はあなた方が大嫌い。以上、よろしくて?」
「ぺ、ペルセポネェエ!!」
「はははは、ハーデス、醜い嫉妬はそこまでにしておくのだな。お前の男としての格を下げるばかりで醜いぞ!
そして地球人類を皆殺しにしようとする同胞達よ、その企みを捨てぬ限りこのプルート、ペルセポネ、そして我が移動領地タルタロスとエリュシオンを守護する
古代地球に降り立った機械神、オリュンポスの神々による壮絶な戦いが行われたのを、後世の人々の多くが知ることはなかった。
*
そして時は流れ――
「起きて。起きてください」
膨大な量の黄金と水晶、貴金属を用いられた豪奢な広間は、数十メートルサイズの存在が闊歩してもまるで問題のない広さだ。
天井には巨大な水晶が埋め込まれていて、内部から零れる白い光が広間を隅々まで照らし出している。中心部で燃える青い炎に向けて、目の醒めるようなプラチナブロンドの美女が話しかけている。
「起きてくださいな。いくらなんでも寝すぎですわよ?」
「むにゃ」
とむずがっているような声が美女の目の前の炎から零れる。宙に浮いた全高三メートルほどの炎の表面に顔のような文様が浮かび上がると、瞼をパチパチと愛嬌ある仕草で動かす。
「ほら、もう寝坊助さんですわね。いい加減にしゃっきりとなさいな、プルート!」
「おおう! その声は、おお、我が麗しの愛ペルセポネ!」
青い炎こそは数千年の昔、ゼウスと共にオリュンポスの神々に反旗を翻した神プルート。そして目の前の人間にしか見えない女性こそは彼の愛妻ペルセポネであった。
「おはよう、ペルセポネ。僕が眠りに就いてから随分と経ったのか、それとも然して時間は経っていないのかな? しかし、なぜ君が人間の姿を模しているのだい?」
「おはようございます。まず私のこの姿ですがあなたよりずいぶんと早く覚醒したので、今は人間の社会に紛れて行動しておりますの。この姿はその為のものです。
それと今ですが私達の戦いから既に数千年の時が経過し、人類は宇宙に進出して人工の大地を作り出すまでに至りました。今は火星の辺りまで生存圏が広がっておりましてよ」
「ほお! よく滅びずにそこまで繁栄したものだ。神々を封じたとはいえ他の脅威や、人間自身の過ちで滅びる可能性もあったろうに」
よかったよかった、と素直に喜ぶプルートの姿に、ペルセポネはバツの悪そうな表情を浮かべる。今日まで滅びずに来た地球人類だが、これから先はどうにも雲行きが怪しいと人間を愛する夫に伝えなければならないからだ。
「それがどうにも昨今は厳しい状況です」
「むう、そうか。同胞同士で争うのは神と呼ばれた僕らでもやったからな。今の人類もそういう感じなのかな?」
「ええ、今の地球人類はそのままに生まれたナチュラルと遺伝子操作を施して生まれたコーディネイターとに分かれ……」
「うん?」
「さらに宇宙の彼方からゲートを通じてゾンダーと伝説の緑の星の関係者が……」
「あら?」
「木星ではかつて地球圏から追いやられた人々が異文明の力を得て……」
「おお?」
「別惑星から地球の軍事力を危惧した勢力が現れ接収を目論み……」
「ええ……」
「またオリュンポスの遺物とゼウスの右腕を人間が発掘し……」
(コズミック・イラじゃない? ……“また”スパロボだ、コレ!?)
この時、オリュンポスの神プルートに前世ヘイデス・プルートと前々世スパロボプレイヤーの記憶が蘇ったのだ! 彼はまたしても謎のスパロボ時空へと転生してしまったのである。しかも、今度はオリュンポスの神々として!
驚きを口にこそしなかったものの、縦に長く伸びるという体を使った表現で驚愕を露にするプルートにペルセポネは肩をすくめて見せた。それは前世とそっくりな仕草であった。
「まあ、驚く気持ちは分かります。よくも一つの惑星にこれだけの危機が訪れたものだと呆れますものね。今思えば前の貴方はこういう事態を想定したとしか思えない手際の良さを見せていましたけれど、今回は貴方の代わりを務められる逸材がいるのかしら?」
ペルセポネにとってプルートには聞かせるつもりのない独り言であったが、かつてヘイデスだったプルートには聞き逃せない単語がいくつもあり、思わずプルートはこう口にしていた。
「ん? ……ひょっとして、所長?」
まさか、と夫婦の直感を頼りに前世でもっとも呼んだ名前を口にすると、ペルセポネは本気で驚いた顔を浮かべて、すぐに喜色満面に変わる。
「あら、ふふふふ。思い出してくださいました、ヘイデス・プルート総帥? 私が前世を思い出したのはつい最近でしたけれど、貴方もつられるように思い出してくださって嬉しい限りですわ」
それは前世でプルートが何度も心を奪われた微笑だった。
「いや、いやあ、なんというか今回もよろしく?」
プルートは、闇の帝王を青色にしてゆるキャラっぽくした体を左に傾けた。人間が首を傾げるようなものだろうか。
「ええ、もちろん、今回は思い出す前からの数千年来の夫婦なのですから。前世と同じくとことんまでお付き合いいたします」
「はああ、夫婦そろって生まれ変わってまた夫婦かあ。地球人から随分とかけ離れた姿になったけれど、また夫婦になれてとても嬉しいよ」
「私も同感です。ふふ、貴方も思い出してくださってなによりです。お陰でずっとやりやすくなりました。では現状報告をもう少し詳しく進めさせていただいても?」
「うん。ゼウスと共にハーデスを封印して、地球の記録をオリュンポスから全て抹消し、それからここに戻ってきて眠りに就いたのは憶えているよ」
ゼウスはハーデスらの封印で力を使い果たしたが、まだ余力のあったプルート・ペルセポネ夫妻は冥闘士を率いてオリュンポス本拠地へ赴いて、地球が再び戦火に見舞われないようにあの手この手を尽くしたのだ。
彼らの庇護下にあった星々や他の神々、超文明と助力して戦い続け、当時、銀河の覇権を巡り戦っていた全ての勢力が壊滅に近い被害を受けて戦いは終結し、全員が細々と生き残るか壊滅する事となった。さしずめ共存共栄ならぬ共損共栄といったところか。
「で、話を戻しますと、現在、地球は大西洋連合、東アジア共和国、ユーラシア連邦などから成る地球連合、オーブ連合首長国、スカンジナビア共和国などが主要国です。他にもいろいろありますが、まあ、また改めて。
宇宙はコーディネイター達の立ち上げたプラント、通称木星蜥蜴が勢力を伸ばしています。それに地球連合と密かに交渉しているゾヴォークもいつ本格的に介入してくるか」
(わーお、今回はガンダムSEEDベースの世界か。あの世界もなあ、相手を全滅させるのが正しい行動だって信じ込んでいるようなのが指導者層にいるんだもんなあ。ヤバいわあ。
それでえーと、ナデシコの木連とザフト、メガノイド、それに真マジンガーの機械獣軍団とハーデス達の復活もまずありき、か。ゾヴォークはインスペクターとゲスト双方が攻め込んでくる可能性も……)
プルートが青い炎のような体をユラユラと揺らす仕草を、所長ことペルセポネは愛しさを込めて見ていた。いつか目覚める時を待ち続けた彼女の献身が報われているのだ。さながらもしもの可能性として、コロスがドン・サウザーの完全な目覚めに立ち会えたかの如く。
「まあ、悩んでもしょうがない。今回も君と幸せになれるように頑張るまでさ」
「人類が不幸な目に遭ったら後味が悪いから出来るだけ手助けしつつ、ですか?」
「そうそう。前は正義の味方のスポンサーだったけれど、今度は正義の味方を表から裏から助ける助っ人勢力で行こう!」
戦隊もののシルバーやゴールドあたりのポジションが、今回の方針となるのだった。
******以下、ダイジェスト******
「一応、私の方で兵器開発の為の研究所は立ち上げましたけれど、会社経営には向いていないので、前世同様お任せしますね」
「うん。まあ、流石にプルート財閥規模は無理かもだけど、やれるだけやってみるよ。それでなにか作るものの目星はあるのかい?」
「ええ。今回は戦闘機から発展したリオンシリーズとクリスマス級という万能母艦の設計図を引いてあります。後は資材と機材が揃えばいつでも生産できますわ」
*
「あの日、地球に投下されようとしたニュートロンジャマーを破壊したのはこの私、プルートだ。そしてユニウスセブンに放たれた核ミサイルを直前で破壊したのも私だ!」
*
「ストレスから解放する為に取る手段がこれ? 暴走した結果とはいえ、紫の星の科学者達も、ゾンダーなどと迷惑なものを残してくれたものですわねえ。
お陰であんな小さな護君に頼らなければならない羽目になるとは、我ながら今世でも情けない。せめて冥府の女王と呼ばれたペルセポネの力で、Gストーンの勇者達を手助け致しましょう」
*
「馬鹿な!? どうしてラースエイレムが効かない? 停止した時間の中で、動けるんだ、邪神め!」
「吠えるな、ジュア=ム・ダルービ。ますます小物の印象が増すじゃないか。このプルートは仮にもオリュンポスの機械神の端くれ。
高次元生命体である我らは時空への干渉能力を大なり小なり備える。ハーデスなどは咆哮一つで次元を揺るがすほどだ。なればラースエイレムの干渉を振り払う程度は出来る!」
*
「数千年の昔に滅びた筈のオリュンポスの神々がこれほど残っているとは。やはり地球は危険だ。銀河法に照らし合わせるどころか、これでは人類どころか星そのものが災いを招き寄せる特異点ではないか!」
「ゾヴォーク……ウォルガ、ゾガル、名前は変わり歴史は移ろうともかつて守護した星の子孫が、今は敵か。
しかし、テイニクェット・ゼゼーナン、大義名分をかざして己の欲の為に他者を利用しようとする点は、ありふれた凡俗さだ。凡俗は悪ではないが、君の傲慢さはハーデス達を思い出す。口にするほど、自分が高尚な存在だと本気で思っているのか? 見るに堪えんよ」
*
「しかし、いいのかい? 君らはもう戦いに倦んでいると思ったが。新婚旅行にでも行って来たら?」
「ふ、魅力的な提案ではあるが」
(! マスター!!)
「余計なお節介とはいえ、衣食住の面倒を見てもらった礼はせねばなるまい? それに世界は違えどこの星も地球であることに変わりはない。かつては多大なる迷惑をかけた身なれば、ここで詫びの一つもしておくべきであろう。エセルドレーダ」
「はい、マスター。私はここに」
「新婚旅行はこの戦いの後だ。お前はペルセポネに色々と話を聞いておくと良い」
「は、はい!」
(デモンベインかスパロボUX終了後のマスターテリオンとエセルドレーダっぽいけど、スポット参戦じゃなくてレギュラー参戦ってやばくない? ありがたいんだけど、色んな意味で)
*
「地球人類との協力か、うん、いいよ! 我らタルタロス軍、今日より地球人類の味方となろう!」
スパロボ史上もっともフレンドリーな勢力、爆誕!
<おしまい>
☆第三勢力 タルタロス軍
初期戦力
Lv85プルート(元ヘイデス・プルート)
Lv90ペルセポネ(元所長)
Lv99マスターテリオン&エセルドレーダ(搭乗ユニット/リベル・レギス)
Lv70冥闘士×108(正体は魔改造したタロス像)
■宇宙世紀じゃない? ……スパロボだ、コレ!?
■コズミック・イラじゃない? ……スパロボだ、コレ!?
■西暦じゃない? ……スパロボだ、コレ!?
上から宇宙世紀ベース、SEEDベース、00ベースと考えて現在は宇宙世紀ベースの話を採用していますが、思い付きで三つ案があったわけです。
まさかこれほど好評を得て続きを書く気力が湧くとは、なにがあるか分かりませんね。
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小ネタ もし版権敵勢力に憑依転生して味方になったら
とある勢力に本編終了後のヘイデスと所長夫妻が憑依するお話です。エイプリルフールのアレに近いです。
難易度はウルトライージーモードくらいを想定しています。
インベーダーと呼ばれる存在が居る。
地球人類を進化させたという宇宙より降り注ぐエネルギー・ゲッター線に寄生し、無機物と有機物を問わず取り込んで際限なく成長し、増殖し、貪り食らう破壊魔、満たされない飢えに突き動かされる化け物である。
ゲッター線の存在する宇宙のいくつかに存在しており、場合によっては宇宙を食らいつくす規模にまで繁殖し、高次宇宙に至ったゲッター艦隊とすら戦える可能性を持つ極めて厄介で人類との共存はまず不可能な天敵だ。
とある宇宙にもインベーダーは存在した。地球より数万光年は離れた場所で誕生した超微生物だったインベーダーが、ゲッター線を吸収する事で急速に成長と増殖、進化を行い、その存在規模を巨大化させてゆく。
そのまま行けば他の宇宙と同様に、通常の生物の進化とは異なる異質なものとして、ゲッター線に“またかよ”と愚痴られながら拒絶されただろう。
この時点のインベーダー達に言語を操る知性や、思考らしい思考は存在していなかったが、あえて言葉にするなら彼らの行動原理はこうなる。
――もっと餌をくれ。もっと食わせてくれ。
――もっと、もっと力を寄越せ。
――もっと大きく、もっと広く、もっともっとだ!
――足りない、足りない、満たされない。乾く、飢えるのだ。
――食らえ、取り込め、融合しろ。支配するのだ。
――この飢えを満たしたい。もっと進化したい。さらに先へ、より優れたものへ。より高みへ!
――ゲッター、ゲッター、ゲッター! 進化の光、進化の力、進化の扉、進化の鍵!! まだだ、もっと我らに食らわせろおお!
飢えた破壊魔と呼ぶべき原始的にして強烈な欲求に突き動かされる彼らだが、この宇宙の彼らにだけある特異な現象が起きたのは、このゲッター線に寄生し始めたばかりの頃であった。
――いやですわねえ。知性も理性も品性もありはしない。これではどこの世界でも嫌われるわけです。なまじ力と生命力ばかりあるものですから、“憎まれっ子世に憚る”を体現しているのですね。
それは涼やかな女の声だった。声一つだけ溢れんばかりの才気と知性を感じさせる、類まれなる声。この場合は、意思、意識と評するのが正しいだろうか。
ゲッター線に寄生してエネルギーを得て、周囲を漂う隕石群や破壊された宇宙戦艦を同化して巨大化していたインベーダーは、自分の内部から聞こえてきた異質なる意識に当惑した。
――なんだ、我らではない。お前はなんだ!
――あなた達の一部ですわよ。まだ一応は私もあなた達に含まれますわね。でもまあ、あなた達と同じ存在だというのは願い下げですので、あなた達は私が頂戴します。それではさようなら。この世界のインベーダー。
――ま、待て。お前は、お前はいったいなん!?
――さあ? あなたにはもう関わりのない事です。
ブツリと電源を切るようにインベーダーの意識と呼ぶべきものは消えて、蠢く不気味な黒い細胞の塊だったインベーダーの肉体は、女の意識の支配するところとなった。
それからの変化は劇的だった。見るものに嫌悪と恐怖を抱かせる不気味でおぞましい細胞の塊が、徐々に新たな形をとりはじめて行き、それは見る間に裾の長い黒いドレスを纏う女性の形へと落ち着く。
プラチナブロンドの髪を長く伸ばし、アイスブルーの瞳を持った北欧系美女の容姿を持った、全高百九十メートル超の巨人型インベーダーである。
巨人型インベーダーは巨大な手で自らの髪をかき上げ、無重力の宇宙にプラチナブロンドの髪が開花するように広がる。
「ふう、人間以外になるのはこれが初めてではありませんが、まさかインベーダーとは。運命というものは今もなお不思議に満ちていますわね」
巨人型インベーダーは自らの手を見て、染み一つない真っ白い皮膚の下に蠢く黒い肉を意識した。見た目こそ人類の至宝の如き美女だが、一皮剥けばインベーダーの醜い肉の塊が圧縮されているのだ。
「おそらくあの人もこの宇宙に居るでしょうから、気長に探しますか。それとこの時空の地球も気にかけておきましょう。見知った、けれど初めて会う顔がいくつもあるでしょうからね。
その為にもまずは勢力を広げるとしましょう。インベーダーの流儀に反した平和的で、理性的なやり方で、ね?」
そう言って周囲を漂うゼントラーディら巨人族の破壊された艦艇と機動兵器を見て微笑む巨人型インベーダーは、後に始祖インベーダー、あるいはインベーダー・クイーンと呼称される個体である。
そして、かつてはプルート財閥総帥夫人にしてヘパイストスラボの所長だった女性に間違いなかった。
*
インベーダー・クイーンが誕生した頃、宇宙の中心部と接続する上位次元に、全長約百キロメートルに達する巨大な生物が君臨していた。
それは虚空より来る破壊神と呼ばれるアポカリュプシスの尖兵であり、宇宙の消滅しようとする力の具現である宇宙怪獣の一種であると、いくつもの宇宙の地球人類は判断するだろう。
だがこの世界の宇宙怪獣はそれらとは異なり、宇宙のルールの一部ではなく、単にこのような生物である、という、考えようによっては余計にどうしようもない存在だった。
何故なら宇宙のルールならば、それをクリアする条件があるのに対して、単なる生物であるならば、それこそ絶滅させるか、絶滅させられるかの二つしか選択肢がないのだから。
そしてこの巨大宇宙怪獣は――衛星、惑星サイズも存在する事を考えれば宇宙怪獣の中では特別巨大ではないが――スパロボにこれまで一度も登場していない、宇宙怪獣の上位種宇宙超獣を統べる最上位存在“グレートアトラクター”であった。
原作漫画“トップをねらえ! NeXT GENERATION”では、精神生命体へと進化を果たし、神を自称した存在だ。宇宙怪獣は全てこの個体の手足であり、宇宙を内包するに等しいエネルギーを持つバスターマシン・グレートガンバスターと決戦を行っている。
さて賢明なる読者諸氏はもうお気づきであろう。
あのヘパイストスラボの所長がインベーダーの女王として新生したならば、あの男が、フラスコの外から中にやってきたヘイデス・プルートが憑依&転生するのにこのグレートアトラクターほど、釣り合いの取れる版権ボスキャラはそうは居ない。
「いやあ、まいったなあ。人間じゃない存在になるとかさあ。まあ、コイツならよほどのことが無ければ生命の危機がないのはせめてもの救いだけれどさあ……」
音ではなく思念という形だったが、グレートアトラクターことヘイデスは状況を把握すると嘆息したい気持ちで心を満たした。
恐る恐る宇宙空間の方を確認すれば、彼の支配下にある宇宙怪獣の群れがうごめいている。数はざっと百億ほどか。今の時系列は不明だが、原作基準で考えればおかしくはない規模だが、おそらくトップをねらえ! の原作開始時点ではもっと多いだろう。
「確か漫画で宇宙超獣とかいう知性と意志のある上位種が出てきたよな? そいつらはまだいないみたいだ。たしか、こいつは宇宙意志とかうそぶいていたグレートアトラクターだったっけか。
決着はついてなかったはずだけれど、まあ、グレートガンバスターに負けで決まりだろう。それに僕が地球人類を絶滅させる必要はないし、敵対する理由もないか」
ただヘイデスの経験からするに、ここが純粋なトップをねらえ! シリーズの世界とは限らない。宇宙怪獣ともなれば大概の版権勢力に負けはしないが、バスターマシン3号のような兵器を用いられる可能性もあるし、油断はできない。
イデオンやペルフェクティオ、アンチスパイラルの他、自身の欠片を完全に集めれば一瞬で宇宙を破滅させられるというル=コボルという例もあるのだ。
「とりあえず彼女もこの宇宙のどこかに来ているだろうから、勢力を増やしつつ接触を図ろう。後、地球の様子も確認しようっと。
ただ宇宙怪獣の増殖の仕方が恒星に卵を産み付ける、なんだよなあ。恒星を犠牲にしていたら、将来的に宇宙を開拓する時に困るし、それに精神が男なのに卵を産むって、なんかこう、抵抗がある……」
初代ピッコロ大魔王や人造人間セルじゃあるまいし、卵を産むというのはメンタルが成人男性のヘイデスにとっては大いに抵抗がある。例え卵を産むのが配下である無我の宇宙怪獣であってもだ。
それに恒星という貴重な資源を犠牲にするのは、経済人ヘイデスとしての感性がノーを訴えている。
「そうだ、細胞分裂による増殖とかどうだろう? あくまで自分の細胞とエネルギーを消費する形で増殖するんなら、誰に迷惑をかける事もないもんね。時間だけはありそうだし、のんびりと進めて行こうか」
*
所長の意識がこの宇宙のインベーダーを乗っ取り、インベーダー・クイーンとして新生してからどれだけの時が経ったかもわからぬある日の事。
今や恒星にも匹敵する超巨大巨人型インベーダーと化した所長は、虚空に優雅に立って、新たに生み出した知性と自我を持つ新世代インベーダーからの報告に耳を傾けていた。
青い雫に濡れたような長い髪を持った巨大な美女型インベーダーが、自分よりもけた違いに大きな母なる女王へと報告をしている。
その気になればフォールド通信の真似事も出来る彼女が、身を寄せるようにして所長へ報告しているのは、ひとえに母たる所長を慕うが故の甘えだった。
報告者は全高が約13,000キロメートルに達する惑星級インベーダーであり、個体名称はインベーダー・アース。
所長は知らなかったが、ヘイデスが彼女を見れば漫画作品“ゲッターロボ飛焔”のラスボスであるゲッターガイアを連想したかもしれない。
まあ、あちらよりもはるかに巨大で、はるかに強大で、はるかに人間に似た容姿の嫋やかな美女である。もっと具体的な例を挙げるなら、アニメ、ドラゴノーツ―ザ・レゾナンス―のマキナに似ていた。
「そう、地球の位置が分かりましたか。ではこれまで通りあくまで穏便な接触を。くれぐれも丁重に行うのですよ。暴力的な接触など、私は一欠けらも望みません」
「はい、クイーン。全ては母なるあなた様の御心のままに」
このインベーダー・アースのような特別な個体が、他にも太陽系の惑星と衛星になぞらえて、インベーダー・マーキュリー、インベーダー・ヴィーナス、インベーダー・ムーン、インベーダー・マーズ、インベーダー・ジュピター、インベーダー・サターン、インベーダー・ウラノス、インベーダー・ネプチューンとして存在している。
ヘイデスが知ったら、どこのセーラー戦士!? と開いた口が塞がらない事だろう。
所長は言うなればインベーダー・サン、すなわち太陽に相当する別格の個体と言える。
流竜馬を筆頭とするゲッターチームや早乙女博士との付き合いも長く深い所長は、ある程度進化した段階で高次元のゲッター艦隊と接触し、ゲッターエンペラーこと流竜馬に彼にとって懐かしいだろう日本食を再現した差し入れを持って挨拶に赴き、この宇宙におけるゲッター艦隊からの様子見の約束を取り付けている。
惑星級インベーダーは、名前の由来となった惑星と同サイズの巨体と細胞単位のゲッター線増幅装置とゲッター炉心、そして人体の心臓に相当する超巨大縮退炉を搭載しており、単体で恒星間航行可能な文明を滅ぼす力を持ち、今もなお進化し成長する超兵器である。
そして冥王星たるプルートーの名を冠したインベーダーは存在していないのだが、その理由はヘイデスがこの宇宙に居ると信じるからこそ、採用していないのだと知る者は所長のみである。
「アース、あなたは相変わらず真面目ですわねえ。あなたの名前の由来となった地球という星は、もっとしっちゃかめっちゃかで退屈しない星ですわよ?」
「ですがこれがクイーンより与えられ、許された私の個性です」
「それを言われると弱いですねえ。まあ、他の姉妹と合わせて見れば不思議と調和が取れていますし、よしとしましょう。さて、それでは地球の様子を見に行こうかしら」
「クイーンが直々に行かれるのですか?」
アースは驚いた表情を浮かべ、全高1,300万キロメートルオーバーの母なる女王の顔を見た。
「もちろん、ある程度近づいたら、これまで接触してきた知的生命体と同様に、交渉用の端末を作って送りますわ」
ここまで成長するにあたり、所長率いるインベーダー達はスパロボに参戦済み・未参戦の勢力と数多く接触しており、その経験からヒューマノイドタイプのインベーダーを生み出して、交渉担当としている。
まるっきり地球人と変わらない者も居れば、青い肌に黒白目の者、下半身が蛇だったり蜘蛛だったり、またあるいは四本の腕を持ち額には第三の目があったり、と人外要素を持った者も多い。人外スキーが目撃すれば、その場で歓喜の脳汁と絶叫を迸らせそうなバリエーションの豊富さである。
「クイーンがどうしてもと言われるのでしたら、私はお止めしません」
「ふふ、あなたは聞き分けの良い子ですわね」
コレーを思い出しますね、と所長は人間だった頃にお腹を痛めて産んだ、人ならぬ身となってもなお愛おしい娘を思った。
(それにしても必ずあの人と同じ宇宙で新生するのは、シュメシとヘマー、それにフェブルウスが手を回してくれているからかしら? ふふ、子供の世話になるのも親の醍醐味かもしれませんね)
*
インベーダー・クイーンこと所長の率いるインベーダー軍団百億超が、ゆっくりと太陽系を目指して観光がてら向かっていた頃、白鳥座方面のある宙域では、地球連邦政府に所属する超光速宇宙戦闘艦ルクシオンを中心にした、るくしおん艦隊が五年間に及ぶ銀河系探索航行の為に宇宙の闇を進んでいた。
地球の持てる科学力の全てを注ぎ込んで完成した艦隊は、今や白鳥座デネブの近辺を観測する地点にまで到達している。
新星の多いこの宙域は、電波化したエネルギーによってレーダーの精度が落ちる、という悪条件があったが、銀河系探索という任務の為に避けては通れぬ場所だった。
彼らはその悪条件の中、超光速でエーテルの波を切り裂きながらレーダーを掻い潜り、るくしおん艦隊へと急速に接近してきた。
にわかに慌ただしくなるルクシオンの艦橋で、艦隊司令のタカヤ提督は地球出立後初めて遭遇する何者かに対して、表には出さない緊張を抱いていた。
「接近中の物体、艦隊との相対速度を光速の二十三パーセントにまで低下。レーダー観測圏に入りました。映像、正面スクリーンに投影します」
そうして正面スクリーンに投影された映像に、高潔な武人然としたタカヤ提督さえも息を呑んだ。
画像には全長三十メートルほどのカブトガニかなにかのような、ずんぐりむっくりとした奇妙な生物達が映し出されていた。数はレーダーに映っているだけでも一万を超える。
スパロボユーザーにもおなじみの宇宙怪獣・兵隊であり、正式名称バボラーだ。
兵隊級の前脚にはなぜか看板が握られており、そこには日本語をはじめ地球各地の言語でこう書かれていた。
【はじめまして! ぼくたちはわるいうちゅうかいじゅうじゃないよ!】
るくしおん艦隊が遭遇したのは、宇宙を延々とさ迷い、ようやく地球の位置を把握したグレートアトラクターことヘイデスが率いる宇宙怪獣艦隊の先遣隊のひとつであった。
この宇宙において恒星に卵を産み付けるのではなく、自ら分裂し増殖する方法を確立した宇宙怪獣達は、高度な知性を有する宇宙生物としていくつかの文明に知られており、運送業やレスキュー活動などで天の川銀河の外では立場を確立している。
同時に宇宙規模で見ても、規格外の物量と進化能力を併せ持つ超ド級の大勢力として恐れられてもいた。
まあ、ヘイデスとしては地球に関してはよほどアレな内情でなければ、平和的な接触をするつもりであったし、基本的に対話を前提としたスパロボのプレイヤー部隊をモデルとした勢力を作ったつもりである。なお傍から見たらどうかと言われたら、まあ、ねえ?
兎にも角にもこのようにしてこのスパロボ時空の人類は、インベーダーと宇宙怪獣が基本的に全面的に味方という状況になるのだった。なお、ヘイデスはるくしおん艦隊との接触時点では、ここがスパロボ時空だと気付いていない。
彼が――
「トップをねらえ! ……じゃない? スパロボだ、コレ!?」
――と気付くのは、もうちょっと先なんじゃよ。
<終>
地球に理不尽に敵対する場合、ゲッター線と話をつけ、更には所長の頭脳でクロスオーバーテクノロジーによるパワーアップを果たした巨人美女型インベーダー軍団とヘイデスの率いる独自進化宇宙怪獣軍団がもれなく敵に回る素敵仕様のスパロボです。ゼゼーナンやウェンドロはよく考えて行動しましょう。
なおバジュラとは仲良しという裏設定。
追記
御指摘を受け白鳥座の距離関連を修正。ありがとうございました。
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【もしスパロボオリジナル勢力に憑依して味方になったら】
「それではこれにて本日の御前会議を終了いたします」
と厳かに告げるゼ・バルマリィ帝国宰相シヴァー・ゴッツォが仮面の奥でソワソワとしているのを、霊帝ゲベル・ガンエデンことヘイデス・プルートだけは気付いていた。
(今日はウルティマセブンの放映50周年記念の特別番組が放送予定だからな。セブン推しのシヴァーとしては録画ではなく、リアルタイムで視聴したいのだろう)
外見と声だけは第三次スパロボαのラスボスそのままのヘイデスは、長く帝国の繁栄に寄与している宰相の心中を察し、バルマー版円●プロダクションの創設を推した判断は間違っていなかったな、と過去の自分を褒める。
ゼ・バルマリィ帝国もといバルマーもといエアロゲイターは、スパロボシリーズにおいて様々な作品に関わっていて、オリジナル勢力の中でも古参かつ露出の多い方だろう。
ヘイデスはそんな勢力のラスボスに転生して、かれこれ数千年あるいはそれ以上の時を過ごしていた。スパロボプレイヤーとして、そしてこれまでの虚憶あるいは転生の記憶を思い出したのは、ナシム・ガンエデンと別れて少し経ってからだ。
思わず自分が並行世界の調和を崩すほどの力を持つ――記憶を取り戻した時点ではそこまでの力はない――負の無限力の化身であるのに気付いた時には、やだー、大物じゃないですか!? と水木一郎ボイスで思わず叫んでしまったものだ。
それでも流石に転生というか憑依というか、別人の人生を歩むのにも慣れてきたヘイデスは即座に平静を取り戻した。人間ではない存在に生まれ変わるのも何度か経験しているし。
「α時空なら宇宙怪獣、プロトデビルン、バッフクラン、イデ、アポカリュプシスと厄ネタが満載ですやん。下手こいたらビッグファイアとBF団も?」
思わず頭を抱えた彼を誰が責められよう。そうしてヘイデスは一つの決心を固めた。
「よし、原作のような敵対勢力になるのは止めよう。負の無限力とか知らん顔だ。そういえばαの世界にもインスペクターやゲストらしき勢力は居るんだったか……。
ユーゼス曰くバルマーはゼントラーディみたいな戦闘種族化しつつあるとか言っていたし、ここはひとつ、文明的かつ平和的かつ宇宙怪獣やゼントラーディに負けない軍事力を持った大国を作って、将来的には地球と二人三脚の関係に持ち込もう!」
ゼゼーナンが秘密裏に地球に降伏を迫ったところに顔を出して、もうバルマーと手を組んでいるので降伏はしませーん、ねえ今どんな気持ち、どんな気持ち? と煽ってやろうかしら? とヘイデスはしょうもない目標を含めて、真っ当な(?)ゼ・バルマリィ帝国づくりを固く誓ったのである。
そうして今、ヘイデスは原作において偽りの霊帝だった傀儡ルアフ・ガンエデンを延命させるようなことはせず、それぞれの時代で最も念動力に長けたものを神子=マシアフとして傍らに置き、現在はルアフとうり二つのコナン・ガンエデンがマシアフの座を務めている。
また原作のゼ・バルマリィ帝国は、文化や嗜好品、娯楽といったものは十二支族と呼ばれる特権階級が臣民の堕落を防ぐという名目で独占していたが、芸能関係にも幅を利かせたプルート財閥の総帥がそれをするわけもなく、ゼ・バルマリィ帝国は文化の花々が爛漫と咲き誇る銀河有数の国家となっている。
幸い共和連合(インスペクターやゲストの所属する恒星間勢力)とも、緊張を孕みつつも友好的関係を築けており、ゼントラーディや宇宙怪獣相手との戦いでは時に共闘する仲である。
またゼ・バルマリィ帝国の文化豊かなりしを象徴し、かつ共和連合を驚嘆させた対ゼントラーディ戦術もまた、ヘイデスの努力が結実したものの一つであった。
今日も銀河のある宙域では、総数五百万隻に達するとあるゼントラーディ基幹艦隊を前に、ネビー・イーム級要塞四、ヘルモーズ級百隻、フーレ級一万八千隻、その他帝国に恭順する異星人艦隊の総数五万隻からなる混成艦隊が対峙していた。
いつ砲火が放たれるかと緊張が増す中、真珠の如きネビー・イームから複数の女性達のライブ映像が宇宙空間に投影され、ゼントラーディ基幹艦隊に大きな動揺を巻き起こし始める。
「みんなー、今日は私のライブに来てくれてありがとう!」
誰もの心に残る満面の笑みを浮かべ、煌びやかな衣装に包んだその歌姫を見て、ゼ・バルマリィ帝国混成艦隊からは一斉に歓声が巻き起こる。
そう、彼女こそはトウマ・カノウを慕ったり、クォヴレー・ゴードンとはフラグを折られたりしたバルマーの重要人物。
しかし、この宇宙においてはファンの歓声が銀河を揺らすと評される、“超次元アイドル”“歌って踊る霊姫”ことアルマナ・ティクヴァー(現在念動力Lv8)その人だった!
なおズフィルードの巫女という立場は原作と変わらないが、その巫女の役割が帝国臣民を慰撫し、銀河にあまねく良き文化を広げる、という要するにアイドル活動にすり替わった結果がこれであった。
そしてバルマーの人々はゲベルとナシムが協力して生み出した地球人ベースの種であるが、ゲベル・ガンエデンがバリバリ目覚めて統治している影響か、はたまたズフィルードの巫女の役割がすり替わった影響か、バルマー星人の平均念動力はLv3、軍の念動力者部隊ともなればLv5に達し、さらに選抜されたエリートともなるとLv7にまで達する。
その中にあってアルマナのLv8は驚愕の一言だが、彼女には成長の余地があり、当代マシアフ・コナンと同じLv9に達するまで時間はかからない、というのがサイコドライバーのゲベルことヘイデスの見立てだ。
こうしたアルマナや歴代の巫女の活躍により、帝国に帰順したゼントラーディの数は相当数に昇っている。
原作では名もなき星々を侵略し、住民を洗脳して兵士に仕立てるなどしていた帝国だが、この時空においてはそういった行為はヘイデスが固く禁じている為、原作以上に無人機に頼っている面も見られる。
その代わりと言ってはなんだが、ヘルモーズからズフィルード、メギロート、エスリムと何から何までシヴァーの設計した兵器を運用していた帝国の陣容は、ゼントラーディの自動兵器工廠や喧嘩を売ってきたのを返り討ちにしたキャンベル星、ボアザン星その他スーパーロボット系勢力を取り込み、独自色を帯びたものへと変貌している。
なおキャンベル星を陥落させたり、皇帝になったばかりのズ・ザンバジル率いるボアザン星を返り討ちにし、ラ・ゴールこと剛健太郎を皇帝として復権させた事で、多くの原作ブレイクをかましたのだが、ヘイデスはそっと目を逸らして見なかったことにした。
だってしょうがないじゃん。平和的に接触したこっちを舐め切った態度で攻撃を仕掛けてくるんだもん!
「多分、ナシムが彼女なんだろうけれど、今頃、なにしているのかな。というか思い出しているのかなあ?」
とゲベルことヘイデスは今世における妻の転生先最有力候補を思い、辺境銀河へ向かう艦隊の編成案に目を通しながら一人黄昏るのだった。
なおヘイデスの予想通り所長はナシムへと転生しており、記憶が戻ったのは地球に戻り、超機人大戦によって荒廃する地球を目撃した直後だった。
その後、ブチ切れたナシムこと所長は妖機人や百邪、破壊神の類は根こそぎ根絶し、生き残った超機人達を手厚く保護する一方、過激な思想を持つ孫光龍らを時にげんこつ、時にびんた、時にお尻ぺんぺんで矯正しながら、“バラル”を【影から地球人類の繁栄と未来を極力平和的に守護する秘密結社】へと作り変えるのだった。
真・龍王機や超機人達を起動させる為の念のあて? ダンバインシリーズの擬似オーラ力発生器よろしく擬似強念発生器を開発・量産して解決しましたとさ。
そうして離れ離れになった二つのガンエデンとヘイデス夫妻が再会するのは、新西暦187年、スーパーロボット大戦αの歴史が始まってからであった。
なお小ネタですがゼ・バルマリィ帝国ではるウルト●マンならぬウルティママンシリーズが宰相の推しという事もあり大人気です。本当にこの宇宙にいるんじゃないか、とかなりガチな雰囲気で辺境銀河を探して回ったりしています。
ユーゼスについては……深く考えていなかったり。
バルマー全権大使としてイングラムが地球に赴く、とかもちょこちょこ考えましたが、これくらいでよいかな、と投稿しました。
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とあるゴッツォ日記
・とあるゴッツォの日記※前話小ネタ設定宇宙です。
×年〇月□日
我が帝国においてウルティマンシリーズはマスケイドライダーシリーズ、ハイパー戦隊シリーズ、ゴッドジラシリーズと並ぶ五大特撮作品の筆頭である(私個人の贔屓もあるかもしれないが)。
かくいう私もまた特に初代ウルティマンを愛する者の一人である。我がゴッツォ家においてはウルティマンを推しとする者が多く、本家の当主にして帝国宰相シヴァー閣下などはウルティマセブンを激烈に推している。
この銀河は争乱に次ぐ争乱に満たされているが、その中にあってゼントラーディの如く戦闘のみに傾倒するでもなく、またインベーダーや宇宙怪獣、ラダム、フェストゥムの如き怪物共とは違い、文化を発展させることは極めて大きな意義があるだろう。
かつて我が帝国とほぼ同規模の勢力を誇ったプロトカルチャーの二の轍を踏まない為にも、我らは軍事力の強化と同時に平和的な異種族間での交流と融和、文化の発展に務めなければならないのだ。
話を戻そう。なぜ私がウルティマンを推すのか、固執するのか、惹かれるのか。それは私が物心ついた時から脳裏によぎる未知の光景が原因だ。
光り輝く巨人達がゴッドジラのような巨大生物を相手に戦い、無力な人々を守る光景。
高度に発展した文明の中で宇宙を荒らす犯罪者を取り締まる組織に所属し、そして荒れたどこかの星の環境を再生すべく奮闘するも失敗して事態を悪化させて絶望する私。
二万人のサイキッカーの脳髄を抉り出し、とある兵器を運用する為のパーツとする私。
とてもではないが書ききれない光景の中には吐き気を催す悍ましい行為も多々含まれており、思わず寝台から跳ね起きて嘔吐しそうになったのは一度や二度ではない。
そうして知らない記憶に悩む中、私の心に強く焼き付いたのは光り輝く巨人達の姿であった。神の如き慈悲と力でもって未熟な生命を無償で守る彼らは、しかし自らを神と驕りもせず、その姿は私の悍ましい記憶の中にあって太陽の如く輝いている。
そして私は光の巨人達をウルティマンに重ねてみたのだ。我ながら幼稚な、とも馬鹿な、とも思えるが、しかし、どうしても私はウルティマンと彼らの関連性に思いを馳せずにはいられない。
その思いが高じて私はこの世界において彼らの存在を求め、無限に広がる宇宙に飛び立つことを決めた。この宇宙のどこかに彼らの如き存在が居るのではないかと、私はどうしても思わずにはいられないのだ。
×年>月“日
帝国の版図外の外宇宙を調査するにあたり、数多の脅威が存在する事を考慮すれば相応の武力を伴わなければただの自殺と変わらない。
幸いにして私の目標を叶えるのにうってつけの任務がある。それは辺境銀河の探索だ。これには帝国の誇るヘルモーズ級を中核とし、フーレ級やゼントラーディ系の艦艇を含む大規模艦隊が運用される。
これに加われば大手を振るって未知の宇宙を探索できるというものだ。幸い、私は科学を司るゴッツォ家にあっても優秀な才覚を持つ、と自他ともに認めている。望めば赴任は叶うだろう。
艦隊司令はハイブリッドヒューマンであるジュデッカ・ゴッツォが任命されるので、目指すのは副司令の地位だ。
ちなみに我が帝国の象徴たる霊帝ゲベル・ガンエデン陛下は、特定の目的の為に人工生命を生み出すのを忌避しておられる。生み出された生命そのものは臣民と等しく慈しまれるのだが、神ならぬ身で生命を弄ぶかの如き所業を憂いておられるのだ。
それでもハイブリッドヒューマン達が今日でも運用されているのは、建国以来帝国を襲う侵略者達との戦いの中で、どうしても人手が不足してしまったからに他ならない。
幸いにして霊帝陛下のお力によって帝国が征服されたことはないが、その過程でハイブリッドヒューマン達の活躍は数多く、今でも彼らの存在は珍重され、また存在そのものに対して臣民達からは道具ではなく英雄としての敬意が向けられている。
陛下のご意向を汲んだ最高評議会シケムによって、生み出された目的を果たした後のハイブリッドヒューマン達には、臣民と同等の基本的人権が与えられるようになって五百年以上が経った。
まあ、大抵のハイブリッドヒューマン達はそのまま軍務につくが、稀に市井に下って臣民と結婚する者や芸術や学術の道に進んだ前例もある。こうした例が霊帝陛下の御心を少しでも穏やかなものにしてくれるのを祈るばかりである。
×年%月&日
いーいーな゛あああ゛あ゛ーーーーー。
×年%月‘日
いかんいかん。羨望のあまり私らしからぬ内容を日記に記していた。猛省である。
さて私がらしからぬ嫉妬と羨望に身を焦がしたのは、私の同僚であるゴリアテ・ブリタイが監察軍の辺境銀河調査艦隊に闘爵待遇で赴任が決まったからである。
彼は一千年ほど前に帝国に亡命したゼントラーディ艦隊の子孫だ。少し尖った耳とやや緑がかった皮膚、宇宙空間でも特に装備なしで生存可能な生命力と“ブリタイ”の名字がその名残だ。
彼も私同様、特撮に出てくる特殊な生物に類似した存在がいないか確かめるために調査艦隊勤務を狙っていたのだ。彼はゴッドジラに次ぐ怪獣物のガッメラファンだ。あの回転しながら空を飛ぶ亀である。
人類の敵にも味方にもなるゴッドジラに比べれば、ガッメラは人類の味方側であるから、まあ、戦闘の被害で民間人の死傷者がえらい事になるが、ゴッドジラとはまた違ったファン層を獲得している。
それにしても、案外、調査艦隊への参加を希望するバルマー星人の中には、私やゴリアテのように自らのロマンを求める者が多いのかもしれない。もちろん職務は真面目にこなすが、これが知れたら陛下のお怒りを買うか、あるいは呆れられてしまうかもしれない。
ただ宰相閣下はセブン推しだし、養子であるサイコドライバータイプのハイブリッドヒューマンのハザルは帰ってきたウルティマン、エイスはウルティマンエース推しだし、我が帝国はもう手遅れでは?
×年(月)日
我が帝国でロボものがイマイチ人気がないのは、やはり古今、侵略しにやってくる者達の運用する機械兵器への潜在的な嫌悪感があるからだろう。
ただその気風に異を唱えるように、四十年近く前からトッミーノ、イシツ・カーワといった巨匠達がロボットもののアニメーションや映画作成を進めており、陛下もロボ分野の発達が特撮に比べて遅れているのを憂いておられたようで、積極的に支援するように珍しく口添えしておられたとのこと。
こうしてロボットについて日記に書いたのは、フリード星の科学力の結晶グレンダイザーやバームのゴッドアーモン、ボアザンのゴードルといった素晴らしい機動兵器のデータを閲覧したからであろう。
バームは母星を失い宇宙を漂流していたところに接触し、彼らの故郷に近い環境の無人惑星を紹介して以来、帝国と良好な関係を築いている。
ボアザンはラ・ゴール帝の復権に力を貸し、以後は自治を認めている帝国傘下の星間国家だ。ゴードルはかの国で古代に作成された機体で、惑星の遺跡に複数が眠っているのが確認されている。
そうそうバームとボアザンと言えば、三千年前にはバチバチにやり合っていた間柄らしく、その際にバームとボアザンの科学者が恋に落ちて子供も生まれている。両勢力から迫害を受けたその親子を助けたのは、霊帝陛下と当時のマシアフ猊下である。
親子とその友人達はバルマーに亡命し、今でもその子孫達は頭に角と背に翼を持って生まれており、帝国の版図ではバームとボアザンの種の特徴を併せ持つ姿を見かけるものだ。
そういえばフリード星の王子とベガ星の王女は婚約者だったか。ベガ星の帝王は相当の野心家と聞く。我が帝国の軍事力を知る以上、軽挙な行動に移らないとは思うがあくまで私見だ。どうなることだろうか。
仮に結婚式が行われる際には、当代マシアフ、コナン・ガンエデン猊下が霊帝陛下の名代として赴かれる。猊下は政治的な権限は一切ないが、霊帝陛下の名代と言う唯一無二にして重大な役割を担われている。
念動兵器としてのガンエデンの運用を許されている唯一の御方でもあり、陛下を除けばバルマー最強の念動力者だ。
それにしてもあのグレンダイザーを詳細に分析したい……。
#年!月~=日
ついに私の念願の第一歩が叶った。ラオデキヤ・ジュデッカ・ゴッツォ士帥が艦隊司令を務める第七艦隊の副司令としての赴任が決定したのだ。やったね!
こほん。いや、日記で咳払いもおかしいか。まあいい。私達の目標は太陽系第三惑星、現地語で“地球”と呼称される文明の調査である。霊帝陛下よりプロトカルチャーの遺産が多々眠る重要な地との情報が齎されており、陛下より直々にお言葉を賜った第七艦隊の面々の士気は天を突かんばかりである。
かくいう私もプロトカルチャーの遺産にウルティマンかそれに類似した存在の情報がないか、と密かに期待している。
今回の調査には帝国傘下の惑星からも人員が参加しており、ボアザンの皇太子ハイネル殿下、バーム星のリオン大元帥の子息リヒテル提督とその妹君エリカ姫といった歴々である。
傘下惑星とはいえ連れて行っていいのか? と思わないでもないが、これも帝国の良き友人達との交流の一環。そしてまた地球という発展途上の未知の文明との接触は、彼らにも我らにとっても希少な経験となるだろう。
気掛かりなのは共和連合のウォルガとソガルがそれぞれ独自に地球にアクションを見せている、と情報を得た事だ。先を越されてはどうなるか分かったものではない。
いまだ見えぬ光の巨人達の痕跡を求めて、私は逸る気持ちを胸に秘めて、第七艦隊と共にバルマーを旅立つのだ。
#年!!月&‘日
ラダムがなんぼのもんじゃい! 基幹艦隊がなんぼのもんじゃい!
<年}月{日
バジュラの一部が合流してきた。どうやら彼らも地球に興味があるらしい。彼らは銀河間や並行世界間を渡り歩く超生物であり、正面からの物量戦でゼントラーディやメルトランディの基幹艦隊を撃滅する戦闘力を誇る。
基本的に温和なので縄張りに無為に侵入したり、悪意を持って接しなければ危害が加えられる事は滅多にない。幸い霊帝陛下の保管しておられたプロトカルチャーの記録と、ズフィルードの巫女らの活躍により、友好関係の構築に成功している。
また特別な交感能力がなくともバジュラ用の手話と肉体言語があるので、調査艦隊に配属される者ならばバジュラとの意思疎通はある程度可能である。ちなみに私はバジュラ語検定一級を持っている。フフフ。
<月$月**日
インベーダーがなんぼのもんじゃい! フェストゥムがなんぼのもんじゃい! ゾンダーがなんぼのもんじゃい!
<年“月$日
宇宙を漂流中のヒューマノイドを保護した。青い藻類のような髪の毛の青年である。ふむ、なにか見覚えがあるような? それにしても髪の毛がウネウネしていることよ。
皆さん、ユーゼスが好きだなあと思って日記ネタを入れました。
ヘイデスがゲベルに憑依転生している宇宙での出来事です。
ところでデトネイター・オーガンのイバリューダーが光速の三億倍の速さで戦闘可能って、本当ですか? 速すぎると驚きました。スパロボでは大幅弱体化修正を受けていたんですねえ。
追記
ウルティママン→ウルティマンへ修正
イシッカーワ → イシツ・カーワへ修正
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とあるゴッツォの日記2
途中、言葉が汚くなります。
<年“月@@日
例の漂流者の青年について。パイロットスーツ一つで宇宙空間を漂っていた為、体調が心配されたが生命に別状はないとの報告を受けている。現在、彼はヘルモーズ内の医療施設で治療中だ。意識はまだ戻っていないが直に目を覚ますだろうとのこと。
だが何よりも私を驚かせたのはあの青年の遺伝子情報が、私と同一であったという報告だ。つまり私のクローンにあたるわけだが、しかし、なぜ私のクローンなのだ?
私は十二支族ゴッツォ家において最高の頭脳の一角であるという自負はある。だが、対外的には宰相にして近衛師団長、最高評議会議長であり、数多くの優秀な兵器を手掛けたシヴァー閣下の方が私よりもはるかに高名だ。
単純に戦闘能力という点で考えれば、武を司るドバン家当主にして近衛師団の将軍バラン・ドバン殿、念動力という点で考えればコナン猊下、アルマナ姫、トーラー家のエツィーラ・トーラー殿が思い浮かぶ。
列挙した方々の遺伝子情報を入手するのは至難どころか無謀だが、私などよりよほど価値があり、入手を試みる価値がある。
私のクローンを制作するメリットが分からない。とはいえ自分のクローンが与り知らないところで作られていた、というのは私に少なからず動揺を与えており、こうして日記を記録する事で自らを落ち着かせようとしているのだ。
兎にも角にも青年の意識が戻ったなら、色々と問い質さねばなるまい。まずは名前を尋ねるところから始めよう。
それにしても、万が一にもあり得ないとは思うが、もし、もしもだ。青年が私を見て自分のオリジナルだからと、“パパ”と呼んできたらどうしよう。
ウルティマセブンやウルティマタロウのような子持ちのウルティマンに助けを求めたい気分である。この心配が杞憂で終わることを祈る。
追記
地球へ赴くにあたり練習をかねて現地の単位や固有名詞を使用することにした。
<年“月@「日
例の青年が意識を取り戻した。私もその場に立ち会ったのだが、意識を取り戻した瞬間から強い警戒心を見せていた青年が私の姿を見るやいなや警戒心を殺気に変えた。
控えさせていた念動兵達が即座に反応し、サイコキネシスで青年の動きを拘束する。巨人族の動きも止めるサイコキネシスの拘束は、青年にベッドの上から起き上がる事も許さない。
青年の反応からみるにどうやら我が帝国を敵、特に私かあるいはゴッツォ家の人間を強く敵視しているようだ。クローンと言う出自を考えれば、そのように刷り込まれていると考えるべきか?
建国より二万年近いゼ・バルマリィ帝国は、天の川銀河の中心に近い為、常に侵略の危機に晒されており、かなりの数の侵略者を撃退し、逆征服してきたが、現在も多くの敵が存在している。その敵対勢力の中のどれかが放った刺客、あるいは奇策やもしれん。
青年が、帝国基準でレベル5の念動力者達と念動力増幅装置の合わせ技による拘束を解くのは無理だと理解するのに、そう時間はかからなかった。
私は溜息を一つ零し、青年の拘束はそのままにこちらに敵意がない事をまず伝え、ついで我が帝国の紹介をかいつまんで行い、青年の居る場所がどこなのかといった事情を口にした。
それでも青年の警戒と敵意は緩まなかったのだが、我が帝国のおおまかな方針を伝えた時には、何を言っているんだこいつは? という表情をされたのが印象的である。
ゼ・バルマリィ帝国の大まかな方針とは
その一・まずは対話から
その二・未知の文化に対しては基本的に敬意を払う
その三・どうしても分かりえない部分は尊重し合い適切な距離を置く。傷つけあうよりよっぽどいいじゃない
その四・非常時には遺恨を忘れて協力し合う
以上の四つなのだが、青年はまるで我が帝国がこの四つの方針を何一つ守っていないだろう、と言わんばかりの視線を私に向けてきたのである。
失礼な。霊帝ゲベル・ガンエデン陛下の庇護の下、我ら帝国臣民一同、異文明とは手を取り合い共栄共存してゆく、を第一に掲げているというのに。
残念ながら青年がこちらに向ける敵意から、このまま治療後自由にさせるというわけにも行かないので、しばらくは厳重な監視下に置く事となった。
それにしても遺伝子的には私と同一の筈なのだが、顔立ちや髪の色と異なる点が目立つ。クローンなのに見た目は別人とはこれはいかに?
そうそう他に収穫としては、この青年の名前がイングラム・プリスケンというものであると判明した事だろう。
<年“月「「日
本日の宇宙の天気はラダム獣のちゾンダー。他生物を強化した上で寄生するラダムと他生物を同化しゾンダー化させるこの二種は不倶戴天の間柄である。今回、我々が立ち寄った星系では、大規模な巣を構築していたラダムに対してゾンダーが大攻勢を仕掛けている最中だった。
下手に手を出して巻き込まれては堪ったものではない、と我ら第七艦隊はそそくさと背を向けようとしたのだが、残念ながらラダムに取り込まれた異星人テッカマンの部隊と遭遇してしまい、一当てしなければ脱出できない状況に追い込まれてしまった。
ゾンダー相手に下手にメギロートなどを投入すると取り込まれかねないので、こちらにはヴァイクルに搭乗した念動力者部隊をぶつけ、艦艇による遠距離飽和攻撃で対処した。
ラダムはテッカマンの放つ反物質の一種フェルミオンを用いたボルテッカが厄介だが、ラダム獣自体はそう怖い相手ではない。まあ、その分、テッカマンが硬い、速い、強いの三拍子そろった難敵なのだが……。
ラオデキヤ司令はテッカマンをゾンダー共のひしめく戦場に誘導しつつ、ラダム獣はメギロートやゼントラーディ系の兵器をぶつける戦術を取った。
帝国に帰化したゼントラーディ系の兵器は、ズフィルード・クリスタルと量子波動エンジンの搭載をはじめとした改修が加えられている。
プロトカルチャー全盛期に伍する技術力を有する我が帝国ならば、こうしたゼントラーディの自動工廠に手を加える事も可能なのである。ムフフ。
ゼントラーディ・メルトランディ系の艦艇とフーレ級の火力はゾンダーに集中させたため、ラダム相手には機動部隊で対処する事となったが、やはりテッカマンが手強い。
改造元となった種族の知性はそのまま残る為、そうそう簡単にゾンダーとの戦闘宙域まで誘導されてくれず、メギロートよりもさらに小さな体でさんざん暴れてくれるものだ。
それでも元々ゾンダーと戦っていたことで消耗が見られ、その隙を突いたラオデキヤ司令の素早い指示により、ラダムの艦隊に我らが母艦ヘルモーズ・シヴァーの主砲レギオンバスターを叩き込み、逃げの一手を取った。
殿はバジュラが務めてくれた。彼女らにとってもラダムとゾンダーは敵対勢力なのである。
一応、我々が全力を出せばどちらも壊滅させられたが、我々の目的は敵対勢力の撃破ではなく辺境銀河の調査なのだ。目的をはき違えてはならない。とはいえラダムとゾンダーの勢力範囲の把握は重要だ。本国に報告しておこう。
随分前から回収したゾンダーメタルを解析し、アンチゾンダー技術の開発が進められているが、一刻も早く結実して欲しいものだ。
<年&月「日
今度はフェストゥムとインベーダーとギシン帝国とザール星間帝国が争い合っていた。ちなみ全ての勢力がバジュラと敵対中である。バジュラが我々バルマーに友好的なのは、このように銀河に敵対勢力ばかりで話の通じる相手が希少というのもあるだろう。彼女らも苦労しているのだ。
フェストゥムとは今ある次元を無にすることで高次元に到達しようとしているはた迷惑な連中だ。しかも我々に対して同化行為をしてくるのも、一緒に連れて行ってあげようという地獄のような善意が理由だという。はた迷惑オブはた迷惑である。
フェストゥムを統括・生成しているのはミールと呼ばれる存在で、これらミールが宇宙には無数に存在している。同化した相手の影響を受ける例があるので、たまに個性らしきものを発芽する群れが散見される。
とりあえずフェストゥムに対しては、五百年近く前にバルマーにやってきたバルマーミールに対処を願った。より正確に言うと、今もバルマー星に樹木のような形で根付いたミールから分化した群れだ。
フェストゥムにはフェストゥム。同種の上位互換が相手とあってはどうしようもあるまい。
なにしろこちらのフェストゥムはズフィルード・クリスタル由来の再生能力、カルケリア・パルス・ティルゲムと長年の学習による念動力を合わせ持っているのだ。そんじょそこらのミールのフェストゥムなぞ敵ではない。
戦闘後、我が艦隊のミール……バルマーミール・クタナー通称“バルミク”からはアルマナ姫の最新アルバムと星間ライブの特等席をねだられた。まあ、彼女らの協力を得る対価と考えれば安いくらいだ。
彼女ら小さなバルマーミールは我々のような調査艦隊に一株(?)ずつ派遣されており、今回のような有事には協力してもらっている。
このようにフェストゥムと相互理解を果たすまでに、五百年前の帝国では多大な苦労を強いられたという。
霊帝陛下が最前線に立ってフェストゥムの同化行為を阻み、こちらにその意思がない事と高次元に連れて行ってくれなくて結構、など伝えるのに苦労したという記録が十二支族には克明に伝えられている。
どうにか今回も戦いを切り抜けて、やれやれと溜息を吐きながら艦内を歩いて食堂に赴くと、監視付きで食事を摂っているイングラムの姿があった。
ここ数日大人しかったので、ある程度は出歩くのを許可したのだ。イングラムは私を見ると反射的に警戒するが、今日に至るまで艦隊を襲った敵の数々との激闘と私の疲れた様子を見てか、先日より多少態度が和らいだように見える。
彼に刷り込まれた帝国に対するネガティブな意識が変わり始めたのだろう。やはり行動で示す方が早いか。ふむ。
<年!月$日
ベガがやりやがった! あろうことか自分のところの王女の婚約相手の居るフリード星に攻め込み、瞬く間に制圧したのである。ぬかった。その間、本国の艦隊にはギシン帝国が大攻勢を仕掛けており動けなかったのだ。
そうベガ星のベガ大王はギシン帝国の皇帝ズールと手を結び、フリード星を欲望のままに襲って我らゼ・バルマリィ帝国と敵対する道を選んだのだ!
それにしてもズールめ、数十年前に霊帝陛下と行った一騎討ち――『超決戦、銀河最強決定戦!』などと謳われた戦い以来、我々に対しては大人しくしていたが、いよいよ動き始めたか。
ズールは単独で霊帝陛下と戦う事が出来るうえに、銀河を破壊しうる力を秘めた、負の無限力の化身だ。消滅させるとなればこちらも本腰を入れなければならない。
だがその前に我々を舐めたベガ大王には相応の報いを与えねばなるまい。またフリード星の生き残りの保護とグレンダイザーと共に脱出したデューク王子、行方不明のマリア王女の捜索も並行して行わなければ。
<年!月$▼日
経過観察は継続するがイングラムの待遇が変わった。いつまでもタダ飯を食わせるわけにゆかないから、難民扱いとして働いてもらうことになったのである。
テストしたところパイロット、技術者、指揮官、どれも一級の能力を持つ彼であるが、出自の怪しさからそれらの能力を活かせる=軍機に触れる、となるので食堂の皿洗いから始めてもらうことになった。
オートメーション化は進んでいるが、どこかしらに人の手が関わるようにしてあるので、皿洗いという作業は今現在も現役なのだ。
それを告げるとイングラムは渋い顔になったが、自分の立場は理解しているようで拒みはしなかった。労働基準法に則った賃金と労働時間、休暇は守られるので勘弁してもらいたい。
<年!月▼▼日
デジマ!? もといマジで? 我が世の春来ちゃった? 来ちゃった?
<年!月▼□日
この世はクソだ。
<年!月▼〇日
我ながらあまりの言葉の汚さには呆れるばかり。帝国士族の男子たるもの紳士でなければならぬ。だがそれはそれとして奴らはクソだ。
とある星系に到達した我々が遭遇したのは白く輝く体を持つ巨人達であった。一般に巨人族というとゼントラーディの男女を指すが、彼らよりもさらに巨大な体を持ち、宇宙空間をも自在に動き回る奴らはまったくの別種であった。
当初、私は夢であったウルティマンあるいはそれに近しい存在とついに邂逅を果たしたのでは、と年甲斐もなく胸を高鳴らせたものである。しかし、その期待は儚く泡となって散った。
巨人達の内、指揮官と思しい黒い巨人――フーム・ラカーブと名乗った個体は、我々に対して一種の精神干渉による洗脳を仕掛けてきたのだ。
ウルティマンが、あの光の巨人達がそんな真似をするか!? クソボケが!!!
失礼。筆が乱れた。幸いにしてこれまでの戦訓から我々の艦隊には対霊異、対因果律、対精神干渉の防衛装置が配備されており、まがい物の巨人どもからの洗脳は免れた。
一応、フェストゥムのようなはた迷惑な善意の可能性もあるので、行動の意図を問うたのだが、フームは我々が教化を受け付けぬほど強く、そして穢れた生命であるとして殲滅しようとしてきたのである。こいつらは本当に私を苛立たせる天才だ。
怒りのあまりアンティノラに乗って出撃した私に続き、スカールークに乗ったハイネル殿下、ガルンロールに乗ったリヒテル提督も戦線に加わり、我々は既に巨人達に洗脳されていた野良ゼントラーディを含む敵部隊と激突した。
バジュラ、バルミクを含む我ら第七艦隊は苛烈な猛攻を加えたが、巨人達の戦闘能力はかなりのものだった。雑兵でもこちらのゼカリアやハバククを一回り上回る巨体とそれに見合ったパワー、高出力の光学兵器を備えており、ダメージを恐れずに挑んで来るのだ。
それでも私が最前線でアンティノラの量子波動エンジンが焼き付かんばかりに大暴れしたのとヴァイクル部隊をはじめとした精鋭達の活躍により、フーム・ラカーブを討ち取るのに成功した。
バルマー星を出立してから今日に至るまでに経験した数百の戦いが、我々の練度を高めていたのは言うまでもない。
フームの野郎を滅ぼし、彼らに洗脳されていたこの星系の人々やゼントランを救出する術を考え始めた私の前に、クソオブクソが姿を見せた。
黄金に光り輝く巨体、四本の腕と光輪を持つそれは巨人達の王、カドゥム・ハーカーム。これまで私達が戦った巨人はフームを含めてカドゥム・ハーカームの分身に過ぎないようで、このそびえたつ黄金のクソを滅ぼさなければ巨人もといハーカーム共を根絶できないのだった。
戦いを始める間にカドゥムが語ったところによれば、どうやら彼らはいずれ来る試練に打ち勝つ生命体を育て、鍛えるのを目的としているらしく、教化と呼ぶ洗脳行為はその一環であるようだ。
ただしカドゥムにとって、我ら第七艦隊の面々は教化するには我が強く、闘争心に溢れる危険な存在と認識されたようで、直前のフーム同様私達に死を宣告してきた。
上等だ、やってやる、と私達は売られた喧嘩を買い、百倍にして返してやるべくハーカームとの決戦に臨んだ。
だが流石にカドゥムは強かった。雑兵はおろかフームすら復活させ、更にカドゥム自身が極めて強力な個体だったのである。確実に私のアンティノラよりも上だ。あるいは霊帝陛下をお守りする守護獣よりも?
加速度的に激しさを増す戦いの中で、こうなればインスタントズフィルードを起動させるか、と奥の手の一つの使用を考慮した時、戦場に動きがあった。
ヘルモーズからズフィルードとはまた別の奥の手が出てきたのである。我が艦隊の奥の手はズフィルード、開発中のジュデッカ、そして各調査艦隊に一機ずつ配備される機動兵器“トロエル”。
かつて共和連合が帝国に齎した“ライグ=ゲイオスショック”に際し、かの高級量産機をまとめて相手取れる超高性能機の開発計画が持ち上がり、開発されたのがこのトロエルだ。
現在、バルマーが占有している惑星トロンから産出されるトロニウムを用いたトロニウム・レヴと特注の量子波動エンジンの二つを動力とし、装甲には再生能力に特化させたズフィルード・クリスタルを使用し、ズフィルードに次ぐ性能を誇る傑作機である。
カルケリア・パルス・ティルゲムは操縦の補助に留めて、パイロットへの負担を極力減らす方向で採用された本機は、ラオデキヤ司令か私でなければ操縦できないように生体情報のロックが掛けられていたのだが……。
生体情報がキモである。最近、皿洗いが板についてきたイングラムがトロエルに乗り、出撃していたのだ。彼と私の遺伝子情報は合致している。その所為でトロエルは彼を私と誤認して搭乗を許したのだ。
ゼカリアやハバククでもアレなのに、帝国の軍機の中でもかなりの上位に位置するトロエルに乗られてしまうとは、私は血の凍るような思いであった。
幸いにしてイングラムは私達と共闘する道を選び、カドゥムとの戦いに加わってくれた。そこへ全長10kmを超すバジュラの大戦艦級を複数含む増援が駆け付けてくれて、私達はさらに続けとばかりにアルマナ姫のライブ映像と星間アイドル達の歌を戦場に流し、自らの士気を高めつつハーカーム達からの精神干渉を跳ねのけて、忌まわしい光の巨人のパチモン共を跡形もなく消滅させてやったのだった。
惑星を五つほど吹き飛ばしてもお釣りの来る火力を叩きつけられれば、さしものカドゥムも滅ぶしかなかった。
滅び様、どうやら彼以外にも複数のカドゥム・ハーカームがこの宇宙に存在することが判明し、また新たな敵の出現に私はげんなりした。なんでこんなに物騒なのだろうか?
<年!月〇〇日
結果的に助けられたとはいえイングラムをどうするべきか、ラオデキヤ司令を含む艦隊上層部で顔を突き合わせて処分を決める会議を行っていたところ、寝耳にウォーターな事態が起きた。
なんと本国から霊帝陛下直々に通信が繋げられたのである。その時の私達の驚きと言ったら、心臓が石に変わっていてもおかしくないほどだった。
陛下が言われるにはかのイングラムと私との間には極めて強固な因果の鎖が繋がっており、彼と私が出会うのは必然だったという。そしてあろうことか彼と一対一で話がしたいと言われるのだ!
銀河最強の一角たる陛下にイングラムが生身で何が出来るとも思えんが、誰もが御止めするも陛下は頑として譲られず、仕方なしにイングラムに拝謁の栄を与える事が決定された。
帝国臣民にとってはこの上ない名誉なのだが、イングラムにとっては眉間の皴を深くするだけで、コイツ、不敬だなと私は思わずにいられなかった。
独房に入れられていたイングラムはすぐに覚悟を決めた顔になり、陛下との会談に応じた。それから数時間に渡り、イングラムと陛下は余人を交えぬ会談を執り行われたのだが、会談後、イングラムはこれまでの態度が嘘のように緊張が抜け、私を見る目がなぜか生暖かった。
ええ、態度が変わり過ぎでは? なんだか怖い。それにしても陛下といったいなにを話されたのか。興味が尽きず、何度かイングラムに問いかけるが、彼は黙して語らなかった。
ただ困ったように苦笑するきりで、そこに陛下への悪意は感じられない。なんだか古なじみの友人にでも会ったような不思議な苦笑いであった。
とにかく陛下の取りなしにより、異例ながらイングラムのトロエルへの搭乗は不問に処され、彼を正式に第七艦隊の一員として迎え入れる事となった。
どうやら地球についてなにか知っている素振りなのだが、まだまだ地球への道のりは長い。この氏素性の不明な青いウネウネ髪の青年は、我が艦隊にとって薬となるか、それとも毒となるか。心労の絶えぬ日々である。
ただあのハーカーム達について、本国に伝える前に本性があらわになったのはせめてもの救いだ。
私のように彼らがウルティマンに類する存在だ、とシヴァー閣下やハザルが期待を抱き、それを裏切られたらこの星系はどうなっていたか、考えるだに恐ろしい。くわばらくわばら。
<続>
□トロエル
共和連合の開発したライグ=ゲイオスの性能と量産機である、という事実に衝撃を受けた当時のゼ・バルマリィ帝国の面々がエゼキエルをベースに開発したバルマー版エグゼクスバイン。
グルンガスト並みの巨体にエグゼクスバイン級の出力と機動性、マシンセル顔負けの再生能力、更に安定性までも兼ね備えた傑作機。調査艦隊に一機ずつ配備されている。
□インスタントズフィルード
データを収集して敵の兵器を上回るのではなく、過去に起動したズフィルードのデータをコピーしたバージョンの簡単ズフィルード。データを集める必要はないが、起動に莫大なエネルギーが必要なのは変わらない。
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とあるゴッツォの日記 エペソ編
××年×月×日
余はエペソ・ジュデッカ・ゴッツォ。
栄えあるゼ・バルマリィ帝国監察軍、辺境銀河第一調査艦隊司令にして、士帥の位を頂いている。
偉大なる霊帝ゲベル・ガンエデン陛下の思し召しの下、帝国の更なる繁栄と異文明との交流と友好を求め、銀河の中心に近い母星バルマーより銀河辺境へと艦隊を率いて旅立った者である。
ネビーイームにヘルモーズ、フーレ、さらにゼントラーディとメルトランディ系の戦闘艦艇だけでも一万隻を数える艦隊は、道中、無数の危機に晒されつつも順調に未知の銀河辺境を開拓していった。
余と同じハイブリッドヒューマンであるスミルナ、ペルガモ、テアテラ、サルデス、ヒラデルヒア、ラオデキヤら六人のジュデッカ・ゴッツォらも、余と等しく帝国の為、臣民の為、そして友邦の為に任を全うしている事であろう。
しかし、余の如く危難、いや、奇禍? に見舞われているジュデッカ・ゴッツォは居るだろうか。余はこうして筆を取る間も、宇宙の神秘に思いを馳せずにはいられない。
現在、我が第一艦隊は本来の次元軸から離れ、異なる次元の並行宇宙へと迷い込んでいた。長距離ワープを行った際に、外部からの干渉を受けた結果、この異なる宇宙へとワープアウトしてしまったのだ。
我らの目の前に青く輝く美しい星“地球”が存在していた。地球、それは帝国でもごく一部の者にのみ伝えられる、霊帝陛下の故郷にしてバルマー人のルーツとなる始祖の星。残念ながら、我らの辿り着いた星はどうも違う地球であったようだが。
そこで余らが目撃したのは、負の念を帯びた多様な怨念たちと戦う、海上を走る武装した女人らの姿であった。ただちに調査を命じ地球人類の状況把握に努めた余らであったが、我が艦ヘルモーズ・エハッドと艦隊の一部を人の去った海域に降下させた時、それは起きた。
艦橋にて座す余の前で強烈な輝きが生じ、そこに余やヘルモーズ・エハッドの艦首のクリスタルに酷似した髪色の女人の姿が出現して、あまつさえこう告げたのである。
「ヘルモーズ級外宇宙航行用戦闘母艦ヘルモーズ・エハッド、ただいま着任いたしました。銀河の中心から果てまで、お供いたしますね、司令!」
緑の髪を長く伸ばし、眦鋭き緑の瞳に白く透けた肌。黒いボディスーツにヘルモーズ級の装甲を思わせる白い金属のパーツを重ね、胸と両肩は我がエハッドの艦首を思わせる緑色の水晶の花の如き意匠であった。
自らをエハッドと名乗った娘を前に、余を含む艦橋の者らは一瞬、我を忘れていた。だがすぐにこの現象に思い当たった。
我々が漂着した並行宇宙の地球で、今まさにこのような現象が起きているのだから。
古の軍艦の魂と記憶を持った女性――艦娘とそれを指揮する提督、彼女らの根拠地となる鎮守府ないしは基地、泊地。
「まさか、そなたは我がエハッドが艦娘として顕現した者だというのか?」
信じがたい気持ちと共に告げた余の言葉に、自称エハッドは仕方ないか、と言わんばかりの表情で答えた。
「はい。この地球を取り巻くルールが私達にも適用されたのです、エペソ艦長。いえ、提督とお呼びするべきかもしれませんね。さしずめこの私、ヘルモーズ・エハッドがエペソ提督の初期艦兼秘書艦兼鎮守府、ヘルモーズ・エハッド鎮守府でもあります」
自信ありげに豊かな胸を張って【(`・∀・´)エッヘン!!】とするエハッドに、さしもの余も意味が分からん、と天を仰いだが、他のジュデッカ・ゴッツォ達も同じ状況に置かれればそうしたであろう。
かくして我々はこの並行宇宙の地球を襲う災厄に対し、あくまでのこの世界のルールに則った上で立ち向かわなければならなくなるのであった。
追記
ワープ事故について、サルデスの艦隊が漂着した世界で用いられたG弾と呼ばれる兵器の影響だったことが判明した。
現地の地球人類はBETAと呼ばれる自律型重機と交戦しているようなのだが、地球各国と接触したサルデス曰く一度、滅びた方がいいかもしれないと思う程、滅亡の淵に立たされてなお酷い状況だという。
サルデスにそこまで言わせるとは、いったいどのような世界なのだろうか? 知りたいような知らずに済ませたいような……。余の念動力は知らぬ方が良いと告げているので、サルデスには必要があれば増援を送る、と伝えておいた。
<おわり>
ラオデキヤ艦隊以外はG弾の影響で異なる次元の宇宙へ飛ばされました。なお同行しているバジュラのお陰で元居た宇宙へは普通に帰ってこられる状況。
・エペソ → 艦隊これくしょん
・サルデス → マブラヴ
・ヒラデルヒア → ストライクウィッチーズ
・スミルナ → 未定
・ペルガモ → 未定
・テアテラ → 未定
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とあるゴッツォの日記 ヒラデルヒア編 サルデス編
■小ネタ時空における各調査艦隊戦力纏め
・ネビーイーム(直径40km) 一基
・ヘルモーズ級(全長27.8km) 一隻
・ヘルモーズ・アフ級(全長15km) 十四隻※ズフィルードを持たない簡易量産型
・フーレ級(全長5,400m) 一千隻前後
・ズフィルード・エヴェッド 一機 対基幹艦隊用に起動済みのもの
・セプタギン 七機 原作とは異なる監視・情報収集用
・5000m級艦隊指揮用戦艦
・4000m級中型艦隊指揮用戦艦(ブリタイ艦)
・4000m級強襲揚陸艦
・3500m級標準戦艦
・3000m級大型フリゲート艦
・3000m級艦隊指揮用戦艦
・3000m級惑星揚陸強襲艦
・2500m級高速巡洋艦
・2000m級標準戦艦
・1800m級中型短射程砲艦(ミリア艦)
・1500m級中型砲艦
・1500m級中型長射程砲艦
・500m級斥候艦
・500m級ピケット艦
上記のメルトランディ、ゼントラーディ系艦艇は量子波動エンジンやズフィルード・クリスタル、トロニウムエンジン、ディフレクトフィールド各種搭載などの改修が加えられている。おおよそ九千隻前後。本国に増援を要請すれば数千隻程度なら即座に派遣される。
これに加えてバルマーミール所属のフェストゥム、バジュラ、輸送艦や艦隊の生活を支える工作艦、プロトカルチャーの工廠プラントなどが加わる。
◇ヒラデルヒア編
・ストライクウィッチーズ世界、扶桑皇国近海にヒラデルヒアの座乗艦ヘルモーズ・シシャーがワープアウト直後、近隣で勃発したウィッチ対ネウロイの戦闘を見ながら
「なんと、かような女子まで戦場に出なければならぬとは。苦境に追い込まれたころの帝国を思わせるな。余のようなハイブリッドヒューマンを作り出す技術がないのでは、致し方ないか。それにしても……」
動物の耳や尻尾を生やした少女が、あまりに無防備に下半身を晒して戦う姿に、青い髪のヒラデルヒアは困惑したように眉根を寄せた。
「肌を晒し過ぎであろう。これでは若い者達には目の毒だな。この状況、想定外ではあるが、想定外は想定内でもある。メギロートの発進準備を進めよ。場合によっては少女を救援し、コンタクトを取る」
ゼ・バルマリィ帝国監察軍に所属する、辺境銀河調査第六艦隊とこの世界の地球人類とネウロイとのファーストコンタクトの一幕である。なおヘルモーズ・シシャー以外の艦隊は太陽系内にバラバラに分散していた。
・その後、ウィッチとネウロイの解析を進め、艦隊参謀を務めるエキセドルタイプのゼントラーディより報告を受けて
「報告いたします。ウィッチの用いる魔力について、我が帝国で解明された霊力、念動力とは厳密に異なるものであると判明いたしました。なおネウロイに対して、霊力ならびに念動力を用いた兵器は通常兵器よりも有効であることが認められます」
「物理法則以外にも元居た我らの次元と共通するところはあったか。帝国の者が魔力を用いる事は可能か?」
「サンプルが少ないですからな。まだまだ研究が必要かと。使い魔からウィッチが受ける影響、ストライカーユニットによる増幅を経て発現する特異な能力、極端に性別が偏っている点やピークに達する時期が早いなど欠点はありますが、魔力というエネルギーは実に興味深いものがあります」
「あの工作レベルと技術水準でストライカーユニットや魔導エンジンの開発に至ったのは、称賛に値しよう。地球という星は特別なのか、それとも過酷な環境が地球人類を闘争に適応させたのか。しかし、あの戦装束はなんとかならぬのか?」
「ウィッチと交流する現場の者からは好評ですが、しかし、衣服というものは文化によって異なりますからなぁ。
ましてや彼女らにとってはごく当たり前の衣服で、戦闘においても合理的な理由があってのあのデザインですから。そこは文化の違いと認めるしかないのでは?」
「これぞヤック・デカルチャー、か」
「向こうからすれば我らこそネウロイ並みに恐ろしいでしょうな。一万隻を数える艦隊に隔絶した技術力。コミュニケーションこそ取れるものの、何を要求されるか分かったものではありませんから」
別に要求するといっても、文化や技術の交流くらいのものなのだが。
「こちらもワープ事故による不意の遭遇ゆえな。しかし、霊帝陛下やアルマナ姫、コナン猊下、そして帝国臣民に恥じるような真似は慎まねばなるまい。
ネウロイらの真意はいまだ不明だが、この星の地球人類と良き隣人となれるよう知恵を尽くさねばならん。こうして余らと彼らが出会ったのもまた一つの縁。ならばそれを良縁であったと、後の世で語られるために」
・順調に交流が進む中、ウィッチに代わると目される可変型兵器を披露されて
「ほう。既にこれほどの無人機を開発するとは素晴らしい技術だ。その熱意と研鑽、努力には惜しみない称賛を述べたい。搭載したネウロイのコアを介する事で、敵性ネウロイを支配下に置く、か。こちらも見事な技術だ。しかし……」
「まあ、あれですな。コアの使用が裏目に出てネウロイにコントロールを奪われるフラグが林立しているのが目に浮かぶようですな。
瘴気を祓う為の環境改善キットの配布と合わせて、メギロートの制御技術の一部を提供してはいかがですかな?」
「それが妥当なところか。ネウロイのコアの使用には危険性が伴うが、あまり我らが口出ししても良い結果にはなるまい。
それでもこのウォーロックはウィッチばかりに頼らざるを得ず犠牲を強いてしまう現状を変える一石だ。出来る限りの事はしたいものだな」
ウォーロックVerバルマーカスタム、対ネウロイ主力兵器の道が開ける。
◇サルデス編
・BETAが襲来してから現在に至るまでの地球人類各国の行動を調査して
・サルデスのストレスゲージ 500 / 999
「そなたらは滅びたいのか、滅びたくないのか、どちらなのだ!?」
・指向性蛋白、ハッキング用のバックドア仕込みのOS等などを知って
・サルデスのストレスゲージ 900 / 999
「なるほど……理解した。そなたらは滅びたくないのではなく、最後に滅びる席を巡って、この期に及んで迄、人類同士で争っているのだ。そうでなければ斯くの如き愚行を犯すとは信じがたい。……万が一を考えねばならぬか」
・G弾による地球環境を引き換えにしたハイヴ攻略作戦やオルタネイティブ計画の詳細を把握して
・サルデスのストレスゲージ 1,000 / 999
☆サルデスのストレスゲージが999を超えてしまいました! バルマー単独攻略ルートに分岐します!
※サルデスの選択肢と原作主人公や横浜の魔女さんの頑張り次第で、ルートは他にいくらでもありますよ!
「もう良い。ゼ・バルマリィ帝国監察軍、辺境銀河調査第五艦隊司令たる余がここに宣言する。本日、現時刻をもって太陽系内に存在する全ハイヴを我らの手で破壊する! 地球人よ、そなたらはもう何もするな。戦うな。死ぬな。ただただBETAの終焉を眺めているが良い」
その日、ゼントラン系含む第五艦隊戦闘艦艇一万隻余、ネビーイーム、バジュラ大艦隊、フェストゥム軍団など機動兵器総数一千万超が太陽系のハイヴへと襲い掛かった。なお地球各国からの抗議や問い合わせはすべて無視した。
・BETA駆逐後、サルデス艦隊が食料・医療・環境改善など人道的支援以外は口出ししないのをいい事に、BETAと地球人類が同じ炭素系生命体であるのを利用した研究や対人に特化した戦術機の開発が進められ、荒廃しきった地球の覇権を巡って争う地球人類を前にして
・サルデスのストレスゲージ 10,000 / 9,999
☆サルデスのストレスゲージが9,999を超えてしまいました! 地球制圧ルートに分岐します!
「………………艦隊司令サルデスより艦隊総員に通達する。これより我ら第五艦隊は地球全土の制圧を行う。なお民間人への攻撃行為の一切を禁じる。外宇宙への最低限の監視員と防衛戦力を残し、地球圏に戦力を集結させよ」
旗艦ヘルモーズ・ハミシャーの艦橋スタッフは、この宣言の直前、サルデスが苦渋の決断を下すのに際して、自らの奥歯をかみ砕く音が聞こえたという。
地球の惨状によりサルデスの強固な筈の自制心や理性や色々なモノが粉砕され、ついに地球の制圧行動に移った一幕である。
この星の地球人類は滅びても仕方ないのでは、という過激な意見も出たが個々人を見れば善良な人間、手を差し伸べたくなる人間はまだまだいくらでもいるといった意見により、あくまで地球の情勢と自然環境が回復するまでと期限を設けて地球を征服した。
その後、地球環境の改善と人口回復など目途が立ったところで地球各国の主権を返上し、サルデス艦隊はBETAの創造主と交渉ないしは殲滅すべく、第五艦隊は外宇宙へ旅立った。
監視装置たるセプタギン一機を残して。
これ以上地球に関わりたくない、とサルデスが思ったかどうかは謎である。
サルデスについては原作主人公や夕呼先生の選択次第で共闘ルート他、いくつものルート分岐があるイメージです。小ネタにおける地球制圧ルートは、地球人類が全滅しないルートの中で一番やらかしたルートをイメージいたしました。
追記
ヴァイシュラバについて修正。
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とあるゴッツォの日記 ペルガモ編
とあるゴッツォの日記 ペルガモ編
自分の外見が他者から見てかなり威圧感を与えるものであることは、これまで嫌という程職務質問をされてきた経験から自覚している。
だからまずはいきなり声を掛けるのではなく、視界に入って存在を認識してもらうところから始める。その段階でも相手には怯えられてしまうことが多いのだが、こればかりは仕方がない。
そうして相手にゆっくりと近づき――じわじわと威圧感が増してくる、急いだらそれはそれで怖いと感想を頂いた――懐から名刺入れを取り出して、引き抜いた名刺をこちらをじっと見ている少女へと差し出す。
「突然失礼いたします。アイドルに興味はありませんか?」
そう告げると星の輝くような翡翠の瞳と深い緑色の長髪の少女は、きょとんとしたとてもあどけない表情になって、つい、といった調子で私の名刺を受け取った。
*
「という事があったのです、ペルガモ司令」
休暇で観光をしていたらアイドルにスカウトされた、とゼ・バルマリィ帝国辺境銀河調査第三艦隊司令ペルガモ・ジュデッカ・ゴッツォに告げるのは、同艦隊所属ミミ・ミリア・ドバン。
メルトランディ系のエースパイロットに多いミリアタイプの血を引く、武門の大家ドバン家の少女である。地球人換算で女子高生相当の少女は、こう見えてバルマー星バトルスーツ【クァドラン・ガン】を駆り、撃墜スコア一千機を超えるエースだ。
艦隊のエースからの思わぬ相談に、ペルガモは執務室のソファに深く腰掛けながら微笑を浮かべる。
原作ではSTMCとの戦いで壊滅したとされるペルガモ艦隊もまた、マブラヴ時空のG弾の影響により、異なる宇宙の地球へとワープアウトしていた。
「なるほどな。だが分からない話でもない。戦場でのそなたを知らない地球の人々から見れば、スカウトしたくなるだけのものは持っていよう」
帝国の軍服に身を包み、休暇時にはストレートで流している髪をアップにしてまとめているミミは、艦隊トップからのお褒めの言葉に照れ臭そうに小さな声で答えた。
「はあ、お褒め頂き光栄ではありますが」
「我が艦隊がこの地球に漂着してから三カ月。この宇宙は平穏であり、我らが力を振るう必要性は極めて低い。実際、ミミ闘爵、汝もこちらに来てからは一度も実戦を行ってはおるまい?」
「はい。おっしゃる通りです。どうもこちらには宇宙怪獣とインベーダーはもちろん、ギシンやザールをはじめとした敵性国家も確認できておりませんし、シミュレーターと実機での訓練がほとんどであります」
「こちらの地球とは技術的な交流よりも文化的な交流に重きを置くとして、我らはこれまで各国と接触を図ってきた。その成果で一部の国々では汝のように艦隊の一員が観光に訪れる事も叶っている。
そろそろ次の段階に話を進めてみるのもよかろう。その一環として我が艦隊の者が地球にてアイドルとしてデビューする。本国でもさぞや話題となるだろう。軍属としては、休職扱いが妥当か」
「し、しかし、アイドルとは臣民に夢と希望を与え、日々の生活に潤いを齎し、より良き文化の象徴たる偶像です。小官の如き武辺者にはとても」
「ふむ、だがそれは我が帝国におけるアイドルの定義であろう。古くはズフィルードの巫女による奉納の歌や舞いにより、霊帝陛下と臣民を慰撫し霊力と念動力の萌芽と成長を促すもの。
しかし時を経るにつれてズフィルードの巫女に限らず、人々に文化の喜びを与える者が増え、そうした市井の者達をアイドルと呼び始めたのが帝国におけるアイドルの始まりだ。
余としては帝国のアイドルとしても、地球のアイドルとしても、汝が志すとしてなんの問題もないと判断する。むろん、大成するかどうかは汝の努力と運次第だが」
「恐れながら小官はレベル8の念動力者です。非常時にはガンエデン・アフに搭乗し、バルマーの民を守る義務がございます」
ガンエデン・アフ。その名の通り帝国最強の念動兵器であるゲベル・ガンエデンを量産化した機体であり、念動力レベル8以上でなければ運用できない特殊な機体で、帝国全土でもトロエル未満の少数しか存在しない。
男性的な外見を持つゲベル・ガンエデンと違い、最初から湾曲した角を持つ竜の如き姿をしている。パイロット次第では完全起動したズフィルードを上回るポテンシャルを発揮する、帝国の切り札の一つだ。
「ふ、責任感の強い事だ。それともアイドルにそれほど興味がないのか?」
「いいえ、その、ないと言い切るのは違うと言いますか、語弊があると言いますか」
どうやらアイドルへの興味はきちんとあるらしい。ペルガモは知らないが、ミミの同僚や友人達は、彼女の私室が本国や地球のアイドル達のグッズで一杯なのを知っている。
「汝の案ずるところは余も分かる。ガンエデン・アフを十全に操れるパイロットは、上級念動力者の中にあってなお希少だ。バルマー星の危機とならば、艦隊を離れて戻る義務もある。
だが、危機が訪れるまでと先方に伝えてアイドルをしてもよいのではないか? それにシヴァー閣下をはじめとした技術者達の開発した新型機が次々とロールアウトし、精錬されたトロニウムも順調に出荷されている。バルマーが危機に陥る事はそうそうなかろう」
ミミとしてはてっきりペルガモから注意を受けるかと想像していたのだが、逆にアイドルにしようとしてくるのに困惑を隠せない。そうしてメルトランディの血を引く部下が戸惑っている隙を突くように、ペルガモは畳みかける。
「では都合の良い時間に先方と連絡を取り、見学をさせて貰うところから始めてはどうだ? 日本の法律に当てはめれば汝は未成年となるし、保護者の同伴が必要とあれば余が代理として赴こう」
「…………は?」
ちなみにミミのメルトランディ系の母方とドバン家の父方は、双方ともに健在であり、近衛師団で今もバリバリの現役として日夜侵略者を返り討ちにしている。
さてそんなこんなで後日、TPOに合わせてオーダーメイドの地球風スーツに身を包んだペルガモとミミは、ミミをスカウトしたプロダクションの応接室に居た。何とも行動の速いジュデッカ・ゴッツォである。
ミミをスカウトしてきたプロデューサーの応接室には、プロダクション側の人間が四人いる。
一人は大柄の体格に鋭い三白眼と目元の皴が特徴的な男性プロデューサー。見た目だけで判断するとなかなか威圧感のある風貌だ。
他にはプロデューサーの直属の上司である眼鏡をかけた温和そうな初老の男性に、ややウェーブがかった髪を後頭部で結わえた、険の強い印象を受ける女性。そして長い茶髪を三つ編みにして垂らし、緑色のジャケットを着た事務員の女性。
「本日はようこそおいでくださいました。ペルガモ司令……とお呼びすれば?」
異星人とのコンタクトにひどく緊張した顔で、プロダクション側のトップ――美城専務が口を開く。
彼女もまさか部下がスカウトしたのが、三カ月前に地球上空に突如出現した異星人の一人だったとは夢にも思わなかったろう。しかも艦隊のトップを引き連れて見学に来たのだから。
「ただのペルガモでも構わない。余はあくまで帝国の人間であり、貴殿らはこの星の日本という国の人間。貴殿らがこちらの流儀に無理に合わせる必要はないとも。そちらの常識に則った範疇で対応してもらえれば、それでなにも問題はない。
美城専務、今西部長、千川アシスタント、そして貴殿がミミをスカウトしたシンデレラプロジェクトのプロデューサーであるか。ふむ、見る目のある事だ」
とペルガモは愉快そうに強面のプロデューサーを見る。ペルガモの視線を受けたプロデューサーもまた自分のスカウトから、とんだ異星文化交流の道が開いた事に内心で仰天していた。
それは応接室の外で聞き耳を立てているシンデレラ達も同じだったろう。
「というわけでして、本日、不肖ミミ・ミリア・ドバン、保護者代理であるペルガモ・ジュデッカ・ゴッツォ司令をお連れして、御社のアイドル活動について見学に参りました。
日本政府とは既に話を通してありますので、ご安心ください。本日かあるいは後日、普段の皆さんの行動を見学させていただければ幸いと存じます」
かくて後に地球史上初となる異星アイドル誕生の幕が上がるのだった。なお、後にミミは遊佐こずえ、依田芳乃、白坂小梅、高峯のあ、ウサミン星人等々、美城プロダクション所属のアイドルの一部から妙に気にかけられることとなる。
<終>
原作でSTMCに壊滅させられた分、本二次創作では美味しい空気が吸えているペルガモでした。サルデスはペルガモにキン肉バスターやベルリンの赤い雨をしても許されると思います。
バルマー珍道中の赴く先として色々とご意見を頂戴しておりますが、申し訳ない。ほとんど知らないか触れたことのない作品ばかりでした。
追記
ウサミン星人を追加。
■霊帝ヘイデス世界の切り札的機動兵器
1 ゲベル・ガンエデン(オリジナル。約二万年間改造中)
2 ゲベル・ガンエデン(コナン・ガンエデン用のレプリカ)
3 ズフィルード
4 インスタントズフィルード
5 ガンエデン・アフ
6 トロエル
後にジュデッカも追加予定。うーん、切り札がいっぱいですね。
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霊帝ヘイデス世界における所長=ナシム・ガンエデンについて
約二万年前にバルマー星でゲベル・ガンエデン(ヘイデス未覚醒)と別れたナシム・ガンエデン(所長未覚醒)は、クロスゲートを用いずに天の川銀河のあちこちを旅しながら地道に地球へと帰還した。
この道中、遭遇した知的生命体に故郷である地球の話をして回った為、多くの星々に銀河辺境の地球の話が伝わることとなる。
そうして一万と数千年の旅を経て地球に帰還した時、ナシムが見たのは人類を守護するべく作られた超機人と
望郷の念に駆られ一万数千年の時を掛けて辿り着いた故郷の惨状に、ナシム・ガンエデンの感情は振り切れた。あるいはこれが所長の記憶と人格を覚醒させるトリガーだったのかもしれない。
かつてはマスターテリオンとエセルドレーダを友とするオリュンポスの機械神として転生し、同じく機械神となったヘイデス、盟友ゼウスと共にオリュンポスの神々を始めとした人類の敵と戦い。
あるいはインベーダーの母にして女王として転生した時には、グレートアトラクターとなりそこからさらに進化したヘイデスやゲッターエンペラー、虎の軍団、兜卒天羅王など数々の超越者と共に時天空に戦いを挑み。
時にはアインストへと転生してカドゥム・ハーカームの一体に転生していたヘイデスと共に、その世界の地球と地球人類を版権・オリジナル勢力から守り抜き。
気付けば地球の神格の一つになっていて、同じ身の上になっていたヘイデスと共に、銀河の中心から復活し、超光速で地球に迫る悪魔王サタンとその支配者聖魔神を魔人D・Sや人類の生き残り、天使らと協力して消滅させたり。
はたまた地底世界ラ・ギアスの古代文明トロイアにおいて人柱にされたヨーテンナイに転生した時には、既に封印の楔にされてしまった後で途方に暮れたが、数万年してからラ・ギアス人に転生していたヘイデスが助けに来てくれた時には思わず泣く程感動したものだ。
感動ついでにラングラン王国をぶち上げて、ラ・ギアス全土を統一したのは我ながらはしゃいだなあ、と今思い出しても恥ずかしい。
あるいは覚醒しないまま生を終えた転生もあったろう。上記は所長・ヘイデス夫妻の転生履歴のほんの一部だが、そういった転生を経ていた所長の魂はなんだかもうヤバかった。
三次元の領域を超越した転生を度々経験した事により、夫妻の魂の格はジャンジャカ上がっていたが、そのくせ、精神が摩耗する事もなく、心が淀む事もなく、魂が腐る事もなく、一人間としてのミクロな視点を維持したまま今日に至っているのだからデタラメである。
銀河最強の念動兵器であるガンエデンは、銀河最強のサイコドライバーであるナシムの強念と、ナシムの激情に呼応した所長の魂の波動を受けてかつてない力を発揮した。
「ぬぁにをやっているのですかああああああ!!」
所長の叫びと同時に地球全土に数億発の念動力の砲弾から成るマヴェッド・ゴスペルが降り注ぎ、一発の誤射もなく全目標に命中という離れ業をやってのけた。
それを生き延びた百邪達には、ヒート・ラハヴートによる高熱源体である光の羽と念動力による爆破が襲い掛かり、それでもまた息のある個体はエデン・ゴラーでまとめてナシム・ガンエデンの正面に転移させられ、強大な念動力を浴びせかけられるという地獄の連続攻撃を味わわされた。
百邪に対して一切の手加減をしなかった所長=ナシム・ガンエデンだが、超機人に対してはゲンコツ程度に威力を留め、闘いを制止するだけであった。
超機人側からすればはるか昔に地球を後にし、のこのこ帰ってきた侵略者のようなものだが、所長として覚醒せずともナシム・ガンエデンが地球と人界を守ろうという意思は本物であったし、四霊や四神の他、残る超機人が力を結集させても敵わないのは明白。
こうして百邪とソレに与する悪の超機人が一切合切滅ぼされた後、人界を守護していた超機人とそのパイロット達は渋々ナシム・ガンエデンの傘下に下り、後に結成される人類守護機関【バラル】の一員となる。
その後、所長は――
「四凶と四罪の超機人……パイロット殺しに共食い上等の味方殺しぃ? この超機人を作った方は阿呆ですか、馬鹿ですか、破滅主義者ですか? こんな本末転倒な機体を作ってどうするんです!? せめてもの情け、苦しまずに破壊してあげましょう!」
と宣言して、饕餮王を始めとした暴虐にして凶悪、邪悪な超機人らを分子にまで分解する勢いで破壊した。さらにその後は――
「ふむ、龍玉が失われ、百邪との戦いで重傷を負った応龍皇を復活させる為に、強念者の魂を捧げたいと?」
「ああ、そうなんだよ、ナシム。龍玉が失われたとはいえ応龍皇の力は君も認めてくれるだろう?
百邪を撃退出来たとはいえ、虚空の破壊神やムー帝国との戦いで眠りに就いている妖魔帝国のような敵はまだまだいる。君を除けばバラルの最高戦力を戦える状態にしておきたいと考えるのは当然だろう?」
「このお馬鹿さん! 食らえ、地獄の断頭台!」
「ちょ、いきなりなにを、ぐえええ!?」
応龍皇復活の為に生贄を提案するアヴォット・アクラヴ――後の孫光龍に対し、生前の所長時代の肉体を再現して普段使っている所長は、容赦なく悪魔超人の必殺技を叩き込んだ。
そこから虫の息になったアクラヴの体を抱え起こし、正義超人ロビンマスクの必殺ホールドの一つタワー・ブリッジを容赦なく実行する。孫光龍の背骨はすぐさま悲鳴を上げ始めた。
「ぎええええ」
「なんですか、そのいかにも目的と手段がすり替わっているようなセリフは! 己の正義に酔い痴れ、堕ち果てた守護者がいかにも口にしそうな大の為に小を犠牲にするありがちな思考!
大はもちろんの事、貴方が切り捨てようとしている小を守る為の超機人、その為に剣を取ったのではないですか! 一人で守り切れないというのなら仲間を頼りなさい。
超機人の頂点に立つ応龍皇の操者である貴方の口から、そんな三下そのものの台詞が飛び出るとは、私は情けないですよ!」
「が、ぎ、ぐ、苦し……」
「応龍皇も応龍皇です。人界守護の使命を忘れようとしている前兆ではないのですか? 霊亀皇や龍王機、虎王機を見習いなさい! アヴォット、貴方を含めて一度、お尻を思い切りひっぱたいて性根を鍛え直す必要がありますね、覚悟なさい!」
「ぎゃああ……あ……あ………………」
アクラヴや応龍皇をはじめとした一部の操者と超機人にお灸をすえたり。
「こちら疑似強念発生装置です。まだ試作段階ですが、貴重な強念者の生命を対価にするよりは余程マシでしょう。
応龍皇をはじめ、傷がまだ治っていなかったり、消耗している超機人の治療にはこちらをお使いなさい。まったく他者の人命の軽視っぷりは早々に矯正しなければなりませんね」
「以前、破壊した四凶と四罪他、超機人や妖機人のパーツにラ・ギアスの技術を組み合わせて、新たに超機人
それと四神の龍王機を参考にして
いずれ来るスーパーロボット大戦に備えて、着実にバラルの戦力を増強し、時には表の世界にも干渉しながら、秘密結社バラルとその愉快な仲間達、所長はいずれ来る時を待つ。
「ふむ、火星にあった演算ユニットと木星にもあった古代文明の遺跡……たしかボゾンジャンプだったかしら? 有効に活用させてもらうとしましょうか」
「ナシム、少しいいかい?」
「あら、その顔つき、どうやら真面目なお話のようですね」
原作のナシムとは違い、地球帰還後も特に休眠せずにバリバリ活動する所長に、二十世紀に突入したある日、孫光龍の名前で通しているアクラヴが真剣な面持ちで相談を持ち掛けてきた。
「悪いけれど僕はもうバラルから降りるよ。もちろん今すぐの話じゃない。でもそうだね、後、四、五十年以内の話になるかな?」
白い帽子にスーツと洒落た着こなしの孫光龍は、帽子を手に取り、真摯な態度で所長に離脱を告げた。その理由を所長は把握していたから、特に驚かなかった。
「V.Bですか? 彼女と同じ時間を過ごしたくなったのでしょ」
V.B、欧州の名家ブランシュタイン家の一人である女性だ。孫光龍が珍しく熱を上げている女性で、所長も鮮明に記憶している。
「参ったな、そんなに分かりやすかったかな?」
「年の功です。それに恋に焦がれ、愛に悶える人間の表情や雰囲気は今も昔も変わりませんよ」
「お手上げだね。それなら僕も見栄を張らずに赤裸々に胸の内を語ろう。人界の守護という使命を忘れた事は一度たりともなかった。
けれど、今の僕はV.Bと共に生きる世界に夢中になってしまっている。そして彼女を失った後で、自分だけ老いもせず、病む事もなく、延々と生き続けるのを想像すると、堪らなく辛い。耐えられないんだ。
笑ってくれて構わないよ。もう何千年も生きているくせに、尻の青い子供のような我儘で、人界の守護者としての使命を放棄しようとしているのだから」
「まさか。長い時を生きられる寿命を捨ててまで添い遂げたい相手を見つけた、それはとても素晴らしい事です。特に私にとっては何より身に染みる話です。
アクラヴ、あなた達は人界の守護者ではありますが、あなた達自身もまた守られるべき人界の一部であるのを忘れてはいけません。
誰に憚ることなく自分の幸せを求めてもよいのですよ。もちろん、節度と良識の範疇でね。異議を申し立てる者が居たなら、私が心を込めて説得しましょう。物理的な説得も厭いませんわ」
「ははは、君に力で脅されてはバラルの誰もが黙るしかないさ。出会ったころから思っていたけれど、君の暴力は本当に怖いんだ。最後の手段にとっておいてくれよ」
「あら、いつもそう心掛けておりますわ」
応龍皇の操者・孫光龍の離脱という事件を経て、やがて時代はいよいよスーパーロボット大戦の幕開けに至る。機動兵器を用いた人類初の大戦争が勃発しているその裏では、操者を失って数百年を経た応龍皇が、自らに相応しいと認めた新たな操者が誕生していた。
バラルの園の格納庫で全長八千キロメートルの応龍皇の前に、先代孫光龍を模した白いスーツの上下に帽子を纏った、美しい黄金の長髪の美少女が所長ことナシム・ガンエデンと共に立っていた。
「応龍皇は貴女を新たな操者と認めました。おめでとう。これで今日から貴女は晴れて二代目孫光龍となります。しかし、よかったのですか? 孫光龍の名を継ぐ必要はないのですよ」
V.Bと先代孫光龍直系の子孫であり、ブランシュタイン家の一員でもある二代目孫光龍は、二十歳前のあどけなさを残す美貌に笑みを浮かべて、二万年以上の時を生きるナシム・ガンエデンに答えた。
「もちろん。何百年も前にブランシュタイン家とバラルの縁を繋いだ奇特なご先祖様が、まさかこんなに大きな
そしてこの応龍皇と共にかつてのご先祖様同様に、この青い星とそこに住む人々を星の海の彼方や地の底、次元の壁の向こうからやってくる者達から守って見せます。親愛なるナシム・ガンエデン」
そう告げて帽子を胸に当てて気品あふれる礼をする二代目に、ナシムはふむ、と頷き返す。
「よろしい。ではこれから貴女を応龍皇共々、精々こき使ってあげますから覚悟なさい。特に応龍皇は長い事、操者不在で鈍っていますから、徹底的にしごきますわよ? それに」
そろそろ総帥がこちらに来る頃なんじゃないかと、私の勘が囁いておりますし。
これまでの経験上、離れ離れの状態で覚醒した夫婦が合流する場合、それはその世界における特大の危機が発生する予兆であることが多い。二つのガンエデンが再会すると同時に、一体なにがこの宇宙を襲うのかと考えると、さしもの所長も身の引き締まる思いであった。
(おそらくゲベルが総帥だとは思いますが、銀河の中心にあるバルマーでは、相当苦労しているでしょうねえ)
それはそれとして、妻は夫の状況を正確に言い当てるのだった。
今回の小ネタは霊帝ヘイデス時空の所長サイドです。
バラルは機動戦艦ナデシコの火星文明の遺跡を接収したり、オリジナル超機人を開発したり、四霊、四神の超機人が全機稼働中とかなり強化されています。
また初代孫光龍はV.Bとめでたく結ばれ、そのまま同じ時を生きて死亡しています。二代目孫光龍はそんな彼らの子孫で、艦これのビスマルクのような容姿のドイツ系美少女です。初代に比べれば未熟ですが、未熟であるがゆえにやる気に満ちており、応龍皇からすると相棒の忘れ形見であるとやや過保護気味。
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