例えば、組み分け帽子が性急じゃなくて。   作:つぶあんちゃん

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帝王の復活

薄ら靄のかかった道は数歩先の景色すら見えず、不安でたまらなくなる。

 

ハリーは杖を強く握りしめたまま、迷路を進んだ。

 

しかし、そんなハリーの緊張感を裏切るように全く敵には会わなかった。

 

おかしい。

強烈な違和感を振り切るように、ハリーは汗をローブで拭った。

 

シリウスは危険なことがあれば、すぐに棄権しろと言った。しかし、こうも何も起きないなら棄権のしようもない。

結局ハリーは、薄暗い迷路を進むしかなかった。

 

どれくらい歩いただろう。

突然、辺りを劈く悲鳴が響き渡った。それがフラーのものだと分かると、ハリーは思わず声のする方に向かおうとしたが、この入り組んだ道では辿り着けるか分からない。

 

やがて棄権を知らせる閃光弾が空に打ち上がるのが見えた。フラーのものだろう。

 

結局ハリーは、殆ど敵に会わないまま迷路の奥へと辿り着いた。

その先にあるのは金色に輝くトロフィー。

 

おかしい。こんなに最終課題が簡単なわけない。

これは罠なのではないか?実はあのトロフィーは偽物なのでは?

 

ハリーがそう逡巡し、進むのを躊躇ったその時。

 

「や、やった! ゴールだ!!」

 

ハリーの居るところの少し先にあるもう一本の道から、ローブをボロボロにしあちこち怪我を負ったセドリックが現れた。セドリックが目を輝かせながら、トロフィーに走り寄る。それに釣られて、思わずハリーも一歩足を踏み出した。

 

「クルーシオ!!」

 

セドリックが悲鳴を上げながら、その場に倒れ落ちる。思わずハリーは、セドリックの背後に杖を突きつけた。

 

そこに居たのは、能面のような表情をしたビクトール・クラムだった。

 

 

 

 

激しい魔法がいくつも打ち込まれる。

 

セドリックとハリーは二人がかりで漸くそれを押し留めていた。

 

「クソッ! どうなってるんだ!!」

 

好青年として評判高いセドリックが、らしくない悪態をつく。彼の頬すれすれを磔の呪文が飛び交った。

 

「多分『服従の呪文』だ!! 習っただろ! 授業で!!」

 

ハリーも横っ飛びに呪文を避けながら、そう怒鳴り返した。

 

「一体、誰がこいつを操っているんだ!?」

 

セドリックは息も絶え絶えにそう言うと、妨害の呪文をクラムに打った。代表選手に選ばれただけあって、実に強力な呪文だった。しかし、それは弾かれた。

 

埒が明かない。このままではジリ貧だ。

ハリーは覚悟を決めた。

 

「セドリック! 僕にプロテゴをかけて! 頼む!」

 

ハリーはそう叫ぶと、クラムに走り寄った。

クラムの意識がハリーに向く。

 

「な、なにを……っ…プロテゴ!!」

 

セドリックが呪文をかけるのと、クラムが磔の呪文をかけるのはほほ同時だった。

セドリックの放った厚い防御呪文は見事にハリーの身を護った。

 

「うぉぉおおおおお!!」

 

磔の呪文のように強い魔力を要する攻撃は、そう何度も続けて打てない。操られてるとはいえ未成年のクラムの魔力なら特にその例に漏れない。

 

ハリーはその隙をついた。

杖を投げ捨て、クラムの胸元を左手で掴み--右手で全力のパンチを撃ち込んだ。

 

「どうだ! パパ直伝のマグル式パンチ!!」

 

クラムの体は吹っ飛び、そのまま意識を失った。ふんす、とハリーは鼻息を荒くしながら構えていた手を解いた。

 

「君ってやつは……」

 

セドリックは言葉を失い、へなへなとその場に崩れ落ちた。

 

「斬新すぎるよ。 杖捨てて殴るって…」

 

「パパから教えてもらったんだ。 魔法界に慣れてる人ほど、この戦術は有効だよ。 まあ…喧嘩以外で--実戦で使う日が来るとは思わなかったけど」

 

セドリックとハリーは、同時に顔を見合わせた。…そして、どちらからともなく笑った。

 

「僕を信用して…プロテゴかけてくれてありがとう。 君がいなかったら勝てなかった」

 

「お礼を言うのはこちらの方さ! 素晴らしい判断だったよ。 …クラムが気の毒ではあるけど」

 

セドリックはバツが悪そうに頭をかいた。

しかし誰かがが優勝をすれば、すぐにクラムにも助けが来るだろう。

 

優勝杯。目の前にある黄金に光るそれに、暫し2人は目を奪われた。ほんの一瞬の沈黙だったが、それは長く感じた。

 

やがてセドリックは何かを決心したようにこちらに向き直った。

そして、ハリーの肩に手を置く。

 

「さあ、君が優勝杯を取れ」

 

ハリーは驚いて目を丸くした。

 

「冗談だろ? クラムが居なければ、セドリックの方が先に優勝杯を取っていた。 君が取ってくれ」

 

「馬鹿なこと言うなよ。 ハリー、君は第一の課題も第二の課題も、僕より優れてた。 ···ちょっと嫉妬しちゃうくらいね。 だから、君が取れ」

 

ハリーの頭の中に、優勝杯を持った自分が浮かんだ。

シリウスが誇らしそうな顔で抱きしめ、ルーナからはキスをしてもらえるかもしれない。ロンやハーマイオニー、ドラコやシャルロットも祝福してくれるだろう。リーマスやセブルスだって、褒めてくれるに違いない。

 

でも--。

 

そんな考えは、目の前のセドリックの頑なな表情を見て直ぐに吹き飛んだ。

 

「それなら、セドリック。 2人で同時に取ろう。 ホグワーツの同時優勝だ」

 

今度はセドリックが目を丸くした。

 

「君は--それでいいのかい?」

 

「もちろん。 ···ただ信じてほしい。 つい自分でゴブレットに名前入れたように振舞っちゃったけど、僕本当に入れてないんだ」

 

セドリックはハリーの瞳を見て考え込むような素振りを一瞬見せたが、すぐに力強く頷いた。

 

「わかった。 信じるよ。 君はすごい魔法使いだ」

 

「セドリックほどじゃないよ。 でも来年のクィディッチは負けない。 あとジニーを泣かせたら、僕とロンが承知しないぞ」

 

ハリーとセドリックは和やかに笑い合った。

共通の敵を倒したことで、2人の間には確かな絆が生まれていた。

 

優勝杯の前に辿り着くと、2人は目配せし同時にそれに触れた。--途端、臍の辺りをぐいっと掴まれるような浮遊感に包まれ、全てが回った。

 

 

 

 

 

 

 

シリウスはムーディの形をしたクラウチ・ジュニアを彼の部屋まで引き摺ると、乱暴に投げ飛ばした。

 

クラウチ・ジュニアは椅子に当たり、呻き声を上げて身動ぎした。

 

シリウスの背後にはマクゴナガルとダンブルドア、セブルスが控えている。

 

「セブルス! 早く『真実薬』を持ってこい!」

 

「···今、レギュラスに持ってこさせている」

 

激昂するシリウスとは対照的に、セブルスは一見冷静に見えたがそれでも抑えきれない焦燥が窺えた。

 

「校長、本当にアラスターが偽物だとするなら観客たちをこのままにしておくのは危険では?」

 

マクゴナガルがおよそ彼女らしくない不安げな声を出した。

 

「いや、ここ以外でどこに避難させるか思いつかないほど、ホグワーツは安全な場所だよ。 それに変に大勢の観客を興奮させたら危険だ。 このまま何も知らせるな」

 

「…わかりました」

 

自分の教え子であるシリウスににべもなく言われたが、戦いに関しては彼の方が余程場数を踏んでいる。マクゴナガルは反論することなく引き下がった。

 

扉が開き、小瓶を手にしたレギュラスが入ってきた。

 

「貸せ!」

 

いつもなら弟が作った薬なんて触りたくもないシリウスだが、切羽詰まったようにそれをひったくる。そして、クラウチ・ジュニアの顎を抑えて喉に注ぎ込んだ。

彼のその余裕の無さに、レギュラスも悪態をつく暇さえなかった。

 

それと同時に、ポリジュース薬の効き目が切れたのか、ムーディの傷まみれの顔は跡形もなく消え去り、その下から30代ほどの男の顔が現れた。さらに髪の毛も白髪から茶色にすっかり変わり、瞬く間に義足がごろんと転がった。--これがバーテミウス・クラウチ・ジュニアの本当の顔ということだ。

 

「ハリーは今どこにいる!? 殺されたくなければとっとと話せ!!」

 

シリウスの瞳が剣呑に光る。

我を失うほど怒り狂ったシリウスは、唾を撒き散らしながらクラウチ・ジュニアの胸倉を掴んだ。

 

「シリウス」

 

凄まじい剣幕のシリウスを咎めるようダンブルドアは名を呼んだ。

しかし、ダンブルドアの顔にもいつもの好々爺である優しい校長はいない。恐ろしく冷たい顔をしていた。

 

真実薬を嚥下したクラウチの目は直ぐにとろんとして頬が緩んだ。

 

「自分の名は分かるか?」

 

セブルスが問う。

 

「バーティミウス・クラウチ・ジュニア…」

 

クラウチは夢に浮かされているように答えた。

 

「ハリーをどこにやった?」

 

「リトル・ハングルトンの墓地…あの方の父君が眠るところだ」

 

「シリウス!」

 

ダンブルドアが短く叫ぶ。

シリウスは部下の闇祓いに連絡を取るべく、脱兎のごとく部屋から出ていった。

 

 

 

 

 

 

「…ここは?」

 

いたた、とハリーは頭に着いた葉を振り払う。

 

「優勝杯がポートキーになっていたのか…?」

 

ハリーと同様セドリックも葉っぱまみれの頭を犬のように振り、辺りを見回した。

 

規則正しく並んだ石。やや荒れて生い茂る植物。何よりジメジメとした嫌な空気。

 

紛れもなく、そこは墓場だった。

 

「ここはどこだ?」

 

ハリーはもう一度言った。

そこには自分より年上のセドリックに、ここがどこか知っててほしいという願望もあった。

 

「わからない…。 取り敢えず杖を出しておこう」

 

セドリックが不安そうに言った。

 

助けを求めるにも辺りは人の気配がない。

しかし、墓場の奥には寂れた小さな教会と堂々とした古臭い館が見えた。

 

あそこに行ってみようか、とハリーが提案しようとしたその時。

 

草を踏みしめる足音が聞こえた。

 

「誰か来る」

 

セドリックが囁いた。

 

暗がりの中からフードを目深に被った人物が近付いてきた。その手には赤ん坊のような何かを大切そうに抱いている。

 

セドリックとハリーは訝しげに視線を一度交差させると、また近付く怪しげな人物に目を戻した。

 

人影はやがて、一段と大きな大理石の墓石の前で歩みを止めた。

 

その時、突然ハリーの額の傷が燃え盛るように疼いた。

あまりの痛みにハリーは杖を落とし蹲る。

 

セドリックが隣りで何か声を掛けたが、よく聞き取れない。それどころではなかった。

 

「余計なやつは殺せ」

 

今にも頭が割れんばかりの痛みに呻く中で、甲高い冷たい声が聞こえた。

 

 

「アバダケタブラ」

 

 

もう一つ、別の甲高い声がした。

緑の閃光がハリーの瞼の裏で迸り、そしてドサッという重たい音がした。

 

吐きそうな痛みの中、ハリーは恐る恐る瞼を開けた。

 

灰色の瞳と目が合った。

しかし、彼の瞳はもう何も写してない。空虚な死だけがその目に浮かんでいた。

 

彼の口は驚いたように半開きになり、握りしめたはずの杖は呪文を受けた際に弛緩したのか、力無く彼と同様横たわっていた。

 

セドリックは死んでしまった。

 

悲鳴すら出なかった。

感覚が麻痺していたのだろう。ハリーは一瞬が永遠にも感じられた。

 

気付けば、フードの人物にハリーは引き摺られていた。

 

『トム・リドル』

 

墓碑銘にそう書かれているのを、ハリーはぼんやりと霞がかかったのような頭で認識した。

 

やがてハリーはその墓石に縄できつく括りられた。

 

その時、フードが僅かに揺れた。冷たい月明かりが彼の顔を照らす。

 

「おまえはっ……!!」

 

「久しぶりだな、ブラック」

 

ピーター・ペティグリューは、汚い歯を剥き出してニヤッと笑った。

しかし、その顔はどこか怯えているようにも見えた。よく見たら、縄目を確認する指も小刻みに震えている。

 

「今すぐこれを解け!!」

 

「残念だが、いつも助けに来てくれるパパはここには居ないぞ」

 

ペティグリューはそう嘲ると、杖を振って石の大鍋を出した。中には並々と何かの液体が入っている。ペティグリューは火を出すと、石鍋はすぐにぐつぐつと煮立った。

 

ハリーはその間何とか縄の結び目を解こうとした。しかし、それは無駄な努力に終わった。

 

ズルズルと何かが這いずり回る音に、ハリーは唯一自由の効く首を下に向けると、大きな大蛇がハリーを睨んでいた。

 

たとえ縄が解けたとしても、こいつから逃げ切るのは無理だろう。

 

やがて準備の終わったペティグリューは恐る恐る赤ん坊のような包みを手にした。

 

そして--とうとうそれを開いた。

 

中からは、醜いのっぺりとした顔の何かが現れた。目が見えなく、動くこともままならないそれは、細い手足を僅かに震わせている。

 

ペティグリューはそのモノ(・・)を大仰に掲げると、静かに大鍋の中に入れた。

 

溺れてしまいますように…!!

ハリーは強くそう願った。

 

ペティグリューは杖を上げ、目を閉じて唱えた。

 

「父親の骨、知らぬ間に与えられん…父親は息子を蘇らせん…!」

 

しかし、やはりその声はどこか恐怖に引き攣っていた。

 

「しもべの肉……よ、喜んで差し出されん。 ……しもべは……ご主人様を……蘇らせん」

 

ペティグリューは最早泣いているように聞こえた。

そして、ペティグリューは大ぶりなナイフを左手に構え、右手を前に出した。

 

何が起こるのか察したハリーはきつく目を閉じた。しかし、夜闇を劈く悲鳴までは遮ることは出来なかった。

 

パシャンッという、何かが液体に落ちる音がした。

 

「助けて…パパ……」

 

ハリーはほぼ無意識にそう呟いていた。

途中で棄権をすればよかった。優勝杯に触れるべきじゃなかったんだ。

 

ペティグリューがナイフを手にしたまま、よろよろこちらに近付いてきた。自分も腕を切り落とされると思ったハリーは、恥も外聞もなく喚いた。

 

「敵の血……力ずくで奪われん……汝は……敵を蘇えらせん」

 

ペティグリューはハリーの右腕を切りつけた。そして、ガラス瓶に血を流し込む。

 

再びペティグリューは石鍋に向き直ると、それを液体の中に流し込んだ。

 

頼む…溺れてくれ…!!

 

しかしハリーの願いも虚しく鍋からは白い蒸気が溢れ、その中からゆらりと細長い影が起き上がった。

ハリーの額の傷が何かに反応するよう再び疼く。

 

やがて蒸気が晴れた。

 

骸骨の如く白い顔。

細長く真っ赤に光る不気味な目。

蛇のように平らな鼻。

 

ハリーが何度も夢の中で出会い、そして苦しまされた人物だった。

 

ヴォルデモート卿が復活した。




長らくお待たせしましたm(_ _)m

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