793 クマさん、街の話を聞く
今日の部屋の片付けが終わり、残りは明日以降になった。
最低限、寝ることはできると思う。
わたしとカガリさんと魔法は大いに役にたった。
初めはクマの格好したわたしと、幼女のカガリさんが魔法を使うの見て驚いていた。
本来なら、カガリさんの見た目の年齢では魔法を使うことはできない。実際は誰よりも長く生きている人だ。
でも、そんなことは言えないので、カガリさんは「妾が特別だから、マネをするのではない」とみんなに言っていた。
そして、日が落ち始めたころ、ボラードさんが帰ってきた。
わたしとカガリさんを含めた、リーゼさん家族が部屋に集まる。
「それで街はどうだったの?」
「凍っていた人たちは無事だったよ」
「よかった」
ボラードさんの話を聞いて、リーゼさんはホッとした表情をする。
でも、氷竜が降り立った場所では、少なからず被害がでていたそうだ。
それから、ボラードさんは把握するために街の中を回ったそうだ。
どこも氷は溶け始め、住民は氷漬けになっていた家の片づけをしていたそうだ。
「誰も、3年間、凍っていたことに気付いていないのね」
「ああ、おまえたちと同じだ。氷竜が現れ、寒くなったところまでは覚えているが、それ以上は覚えていない」
「わたしたちも昨日のように感じますから」
「だが説明は必要だろう。3年間氷漬けになっていた事実は変わらない。他の街との交流はなくなり、おかしく思う人も出てくる」
他の街から船が来なければ、おかしく思うはずだ。
黙っているわけにはいかない。
「ベンデやバランたちにも会ってきて今後の話をしてきた。それで街の重職たちを集めて話し合うことにした。そのときにはリーゼにも来てもらう」
「わたしもですか?」
「ベンデたちにも来てもらうが、わたしたちだけの言葉だけでは、どこまで信じてもらえるか分からない。わたしたちを見ても、3年前とどう変わっているか分からない。でも、リーゼは違う。この3年間で変わった」
ボラードさんたちを見ても、3年間の時間が経ったことは微妙に分からないと思う。
でも、リーゼさんを知っている人なら、この3年間で成長していることが分かる。
「おまえを見世物にするようで悪いが」
「ううん、気にしないで。わたしも役に立てるなら手伝うよ」
「すまない」
こればかりは、リーゼさんしかできないことだ。
ボラードさんは街の現状やこれからのことを話す。
もう、ボラードさんたちは自分たちがするべき道を進み始めている。わたしたちは不要だ。
「ボラードさん、明日にはわたしたちも帰るよ」
わたしの言葉にボラードさんがわたしとカガリさんのほうへ、目を向ける。
「お二人には氷竜を討伐したことで、参加してほしいのですが」
「誰もわたしたちが氷竜と戦ったことは信じないと思うよ。それに、わざわざ言う必要もないよ。別に街を救ったと言うつもりもないし」
見た目がクマの着ぐるみと幼女が氷竜と戦ったと言っても、誰も信じない。
説得力がない。
「そうじゃな。妾たちが一緒になって話したところで、誰も信じはしないじゃろう。3年間経ったこと氷竜が立ち去ったことだけを伝えればいい」
「それでは、せめてお礼を受け取ってください」
「お礼はいらないよ」
「妾も不要じゃ」
「これから、街の復興で大変でしょう。だから、気にしないで」
クマハウスを建てる場所か、小さい家が欲しいとも考えたけど、今回は目立たない場所にクマの転移門を置くつもりだ。
「氷竜と戦っただけでなく、氷竜の角や鱗をいただいて、わたしたちはなにもお礼をしてません」
「そうです。ユナさんとカガリちゃんにはちゃんとお礼ができてません。わたしたちが、お二人に会えて、どれほど救われたのか」
「別にお礼がほしくて、したわけじゃないから」
わたしも氷竜の素材を手に入れたから、個人的には満足だ。
わたしたちの言葉にボラードさんは「分かりました」と言ってくれる。
「でも、この街で困ったことがありましたら、言ってください」
そこが妥協案だね。
「そのときはお願いね」
話も纏まったところで、カガリさんがリーゼさんに話しかける。
「リーゼ」
カガリさんは真面目な表情をしている。
「お主は、これから大変だと思う。お主はボラードたちと違って、3年前と見た目が変わっておる」
「……」
「周りから奇異な目で見られるかもしれぬ」
「……」
「もしかすると、お主のことを避ける者や、陰でなにかを言う者がいるかもしれぬ。人とは自分たちと違うと避けることがある」
「カガリちゃん……」
カガリさんの言うとおりだ。中学生だった子が一人だけ高校生になったようなものだ。同い年の友達は誰もいない。
自分が友達と思っても、相手が同じように接してくれるとはかぎらない。
子供時代の3年の差は大きい。
「お主は誰も経験ができぬ3年間を過ごした。それは無駄ではない。きっと、お主の糧となっておる」
「……うん」
「だから、決して負けるんじゃないぞ」
まだ、知り合いに会っていない。
どのような目で見られるか分からない。
カガリさんは可能性の一つとして、話している。
もちろん、そんなことがないことが一番だけど、友人が一晩で3年も成長してしまったら、どう接したらいいのか分からない。
わたしだって、もし目が覚めたらフィナが3年も成長していたら、今までと同じように接することができるか分からない。
こればかりはお互いに会ってみないと分からないことだ。
「カガリちゃん、心配してくれてありがとう。大丈夫とは言えないけど。絶対に負けないよ。前を見て進むって約束する」
「わたしがいるから大丈夫よ。なにがあってもリーゼは、わたしが守るから」
話を聞いていたルーアが答える。
「そうじゃのう。家族が守ってやればいい。お主は一人ではないことを忘れてはいけない。それだけは覚えておくといい」
「うん」
カガリさんはリーゼさんとルーアの言葉を信じ、それ以上は口を開かなかった。
その日の夜。
わたしとカガリさんは客室を与えられ、泊まることになった。
リーゼさんは母親リンセさんとお姉さんのルーアと一緒に眠ることにしたようだった。
わたしはベッドの上に倒れる。
結局のところ「クマの道しるべ」はなにを指していたんだろう。
わたしは「クマの道しるべ」をクマボックスから出す。
光っていない。なにも示さない。
振っても、軽く叩いても、反応は起きない。
「それは、この街に向けて光っていた玉か?」
「うん、なにか理由があると思うんだけど、なんだったんだろうと思って」
この街に来て、起きた出来事は。
1、リーゼさんたちに会った。
2、氷竜と出会った。
3、氷竜と話した。
4、氷竜の素材を手に入れた。
5、街を救った。
もしかして、人が困っているところを指す魔道具じゃないよね?
「そんなことか」
「カガリさん、分かる?」
「そんなこと、分からんよ。ただ、この街を示していただけじゃろう」
「そうだよね」
「光が、なにを指していたか分からんことには、答えは出ぬ。分かることは適当に決めつけ、沼ることじゃ。お主が、それを持っているつもりなら、振り回されないことじゃ。今後も光れば、分かっていくじゃろう」
カガリさんの言うとおりに、現象一つで決められるものじゃない。
今後も光ることがあれば、目的も分かるはずだ。
だから、今は気にせずに「クマの道しるべ」は次に光るまでクマボックスに仕舞う。
光るかもしれないし、光らないかもしれない。
こればかりは、わたしには分からない。
翌朝、わたしとカガリさんは起きると、出発の準備をする。
「それじゃ、帰るかのう」
「ちょっと、長めのお出かけになっちゃったね」
一度だけ、フィナには少しばかりカガリさんとおでかけする連絡をいれて、なにかあったら、クマフォンに連絡を入れてと伝えておいたから、心配はしていない。
カガリさんのことはサクラにでも伝えようかと言ったけど、カガリさんが不要だと言ったので、誰にも伝えていない。
「スズランのやつが来ていなければよいが」
カガリさんの体が震えていた。
スズランさんって、怒らせると怖いのかな。
無断でいなくなっていたら、心配はするかと思う。
わたしとカガリさんが1階のフロアにやってくると、リーゼさんたちが集まっていた。
ボラードさん、バランさん夫婦、ベンデさんお爺ちゃんたち、鉱山にいた6人。
「みんなどうしたの?」
「嬢ちゃんたちが帰ると聞いてな」
「最後に礼と思ってな」
「お礼なら、何度ももらっているよ」
何度も帰ろうとして、その度にお礼の言葉はもらっている。
「そうだが、今回は本当に帰るんだろう」
「うん」
「見送りぐらいはさせてくれ」
「大変だと思うけど、頑張ってね」
「6人で暮らしてきた3年間に比べたら、大変なことはない」
「そうだな。待っているのは楽しい苦労だけじゃ」
「ああ、家族とできる苦労なら、感謝じゃ」
「それと、これを2人にお渡ししておきます」
ボラードさんからカードを渡される。
「領主が発行している特別のカードです。これがあれば、街にも入れます。家の門で見せれば、わたしやリーゼに取り次いでくれます」
つまり、また来てほしいってことだろう。
断る理由はないので、わたしとカガリさんはカードを受け取る。
「ユナさん、カガリちゃん、また来てくださいね」
リーゼさんはわたしのクマさんパペットとカガリさんの手を握る。
「うん、来るよ」
「お主の様子も気になるからのう」
「約束ですよ」
わたしたちは別れの挨拶を済ませ、お屋敷を出る。
※今後の予定ですが、氷竜編が終わりましたら、しばらくお休みをいただければと思います。
いろいろとあるのですが、21巻の書き下ろし作業や次の話の展開を考えたりする時間をいただければと思います。
※コミカライズ外伝 2巻2023年3月1日発売予定です。本屋さんで見かけましたら、よろしくお願いします。
【発売予定表】
【フィギュア】
KDcolle くまクマ熊ベアーぱーんち! ユナ 1/7スケール 2024年3月31日
【書籍】
書籍20巻 2023年8月4日に発売しました。(次巻、20.5巻予定、作業中)
コミカライズ11巻 2023年12月1日に発売しました。
コミカライズ外伝 1巻 2023年6月2日発売しました。(2巻2023年3月1日発売予定)
文庫版9巻 2023年12月1日に発売しました。(表紙のユナとルイミンのBIGアクリルスタンドプレゼントキャンペーン応募締め切り2024年3月20日、抽選で20名様)(10巻、作業中)
※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。
一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。
《アニメ公式サイト》http://shieldhero-anime.jp/ ※WEB版と書籍版、アニメ版では内容に差異があります。 盾の勇者として異世界に召還さ//
薬草を取りに出かけたら、後宮の女官狩りに遭いました。 花街で薬師をやっていた猫猫は、そんなわけで雅なる場所で下女などやっている。現状に不満を抱きつつも、奉公が//
東北の田舎町に住んでいた佐伯玲二は夏休み中に事故によりその命を散らす。……だが、気が付くと白い世界に存在しており、目の前には得体の知れない光球が。その光球は異世//
VRRPG『ソード・アンド・ソーサリス』をプレイしていた大迫聡は、そのゲーム内に封印されていた邪神を倒してしまい、呪詛を受けて死亡する。 そんな彼が目覚めた//
【web版と書籍版は途中からストーリーが分岐します】 2023年10月4日アニメ2期放送開始! 3DアニメーションRPG『陰の実力者になりたくて!マスタ//
放課後の学校に残っていた人がまとめて異世界に転移することになった。 呼び出されたのは王宮で、魔王を倒してほしいと言われる。転移の際に1人1つギフトを貰い勇者//
●TVアニメ、シーズン1、2ともに配信中です! ●シリーズ累計410万部突破! ●書籍1~13巻、ホビージャパン様のHJノベルスより発売中です。 ●コミカライズ//
あらゆる魔法を極め、幾度も人類を災禍から救い、世界中から『賢者』と呼ばれる老人に拾われた、前世の記憶を持つ少年シン。 世俗を離れ隠居生活を送っていた賢者に孫//
勇者と魔王が争い続ける世界。勇者と魔王の壮絶な魔法は、世界を超えてとある高校の教室で爆発してしまう。その爆発で死んでしまった生徒たちは、異世界で転生することにな//
アスカム子爵家長女、アデル・フォン・アスカムは、10歳になったある日、強烈な頭痛と共に全てを思い出した。 自分が以前、栗原海里(くりはらみさと)という名の18//
平凡な若手商社員である一宮信吾二十五歳は、明日も仕事だと思いながらベッドに入る。だが、目が覚めるとそこは自宅マンションの寝室ではなくて……。僻地に領地を持つ貧乏//
気付いたら異世界でした。そして剣になっていました……って、なんでだよ! 目覚めた場所は、魔獣ひしめく大平原。装備してくれる相手(できれば女性。イケメン勇者はお断//
34歳職歴無し住所不定無職童貞のニートは、ある日家を追い出され、人生を後悔している間にトラックに轢かれて死んでしまう。目覚めた時、彼は赤ん坊になっていた。どうや//
2020.3.8 web版完結しました! ◆カドカワBOOKSより、書籍版29巻+EX2巻+特装巻、コミカライズ版16巻+EX巻+デスマ幸腹曲2巻+アンソロジー//
地球の運命神と異世界ガルダルディアの主神が、ある日、賭け事をした。 運命神は賭けに負け、十の凡庸な魂を見繕い、異世界ガルダルディアの主神へ渡した。 その凡庸な魂//
働き過ぎて気付けばトラックにひかれてしまう主人公、伊中雄二。 「あー、こんなに働くんじゃなかった。次はのんびり田舎で暮らすんだ……」そんな雄二の願いが通じたのか//
事故で家族を失った18歳の少女、山野光波(やまのみつは)は、ある日崖から転落し中世~近世ヨーロッパ程度の文明レベルである異世界へと転移した。 そして狼との死//
★アニメ化決定★ 2023年春放映予定 詳しくは公式をご確認ください。 ◆◇ノベルス6巻 & コミック、外伝、アンソロジー 発売中です◇◆ 通り魔から幼馴染//
本条楓は、友人である白峯理沙に誘われてVRMMOをプレイすることになる。 ゲームは嫌いでは無いけれど痛いのはちょっと…いや、かなり、かなーり大嫌い。 えっ…防御//
二十代のOL、小鳥遊 聖は【聖女召喚の儀】により異世界に召喚された。 だがしかし、彼女は【聖女】とは認識されなかった。 召喚された部屋に現れた第一王子は、聖と一//
本が好きで、司書資格を取り、大学図書館への就職が決まっていたのに、大学卒業直後に死んでしまった麗乃。転生したのは、識字率が低くて本が少ない世界の兵士の娘。いく//
突然路上で通り魔に刺されて死んでしまった、37歳のナイスガイ。意識が戻って自分の身体を確かめたら、スライムになっていた! え?…え?何でスライムなんだよ!!!な//
●KADOKAWA/エンターブレイン様より書籍化されました。 異世界のんびり農家【書籍十六巻 2023/10/30 発売予定!】 ●コミックウォーカー様、ド//
長瀬香(ながせかおる)は、会社からの帰りに謎の現象に巻き込まれて死亡した。その原因となった高次生命体がデグレードモードであるのをいいことにうまく言いくるめ、『思//
クラスごと異世界に召喚され、他のクラスメイトがチートなスペックと“天職”を有する中、一人平凡を地で行く主人公南雲ハジメ。彼の“天職”は“錬成師”、言い換えればた//
仮想空間に構築された世界の一つ。鑑(かがみ)は、その世界で九賢者という術士の最高位に座していた。 ある日、徹夜の疲れから仮想空間の中で眠ってしまう。そして目を覚//
★㊗アニメ2期決定!★ ❖❖❖オーバーラップノベルス様より書籍14巻まで発売中! 本編コミックは9巻まで、外伝コミック「スイの大冒険」は7巻まで発売中です!❖❖//
山田健一は35歳のサラリーマンだ。やり込み好きで普段からゲームに熱中していたが、昨今のヌルゲー仕様の時代の流れに嘆いた。 そんな中、『やり込み好きのあなたへ』と//