報道などでよく見聞きする「国の借金」とは、そもそもどういう借金のことなのだろうか。結論から言うと、政府が通貨を借り入れるために発行した「国債残高」のことだ。
また、借りているのは日本国ではなく日本政府であって、「正確には“政府の借金”というべき」と安藤氏は解説する。
「国債保有者、つまりは政府にお金を貸している人たちの内訳を見ると、2023年9月末では日本銀行(53.9%)が最多。次いで生損保等(18.6%)、銀行等(10.8%)といった金融機関です。
まず日本銀行は日本政府の子会社のような関係性なので返済する必要はありません。また、日本銀行は円を発行することができ、最終的には『生損保等』などが保有する国債を日本銀行が円を発行して買い取り、結局は返済不要の借金にすることもできるため何も問題ありません。基本的には、すでに発行している国債の返済期限が来たら、政府が新たに国債を発行して返済していけばいい。国民から税で集めて返済する必要はないのです」
借金と聞くとネガティブなイメージがあるが、国家財政と家計では借金の意味合いが異なるため、別々のものとして考える必要がありそうだ。
そもそも「国の借金」とは誰がどこから借りた金なのか。「国の借金が過去最大1286兆円超に」という報道の正しい見方
財務省は2月9日、2023年12月末時点での政府の借金が1286兆4520億円と発表した。これを受け、大手メディアはこぞって「国の借金」という言葉で、日本政府の財政状況を報じた。そもそも国の借金とは何なのだろうか。どこから借りて、誰に返すべき金なのか、誤って理解している人はなく少ない。改めて国の借金について元自民党衆議院議員で税理士の安藤裕氏に話を聞いた。
メディアの事情と謎多き財務省
「国の借金」とは正確には「政府の借金」であり、なおかつ国民が負担する必要のない借金である。にもかかわらず、なぜメディアは「政府の借金」とはいわず、ネガティブなイメージを伝えるのか。
「おそらく、“国の借金”と表記することは財務省の指示であると推察します。実際、大手メディアはどこも国の借金と報道しています。財務省内にある記者クラブには“財政研究会”というものがあり、大手メディアの記者などはそこで財務省からいろいろ情報を提供してもらっています。
そのため、財務省の意に反した場合、記者クラブを出入禁止にされかねないため、どのメディアも財務省の顔色を気にしなければいけません。実際、産経新聞や朝日新聞は、本来右と左で正反対の立場であるにもかかわらず、どちらも国の借金という言葉を使っています」
また、安藤氏は軽減税率にも大きく影響されていると考察する。
「新聞は軽減税率の対象商品ですので消費税率は8%です。ただ、財務省に反発すれば軽減税率から新聞が外されるかもしれません。もし消費税が10%になればそれは“値上がり”になるため、買ってくれる人は減ります。軽減税率という恩恵を得るために、財務省の指示に従わざるを得ないのです」
閣議に臨む(左から)鈴木財務相、岸田首相、高市経済安保相 写真/共同通信
メディアが国の借金と言い続ける背景が見えてきた。
そもそも、なぜ財務省は国の借金という扇動的な言葉を使わせようとするのか。SNSでは「財務省は増税を促進させたら出世できるから、増税策を進めやすい空気感を作るために危機感を煽っている」という指摘も見かけるが、安藤氏はその考え方には懐疑的な見方をしている。
「良心の呵責があると思いますので、自分の出世のために国民が苦しむ増税策をバンバン打ち出しているというのは正直疑問です。私は財務省の人たちが『このままでは日本が財政破綻する』『政府の借金を放置すると危険』と本当に問題視しているのではないかと予想しています。とはいえ、日本が財政破綻する可能性が0%であることは、財務省のホームページにも記されているのですが」
関連記事
なぜ裏金問題が続出しても自民党は支持されるのか…「嫌でも野党に投票するしかない」という状況で、今ひとつ立憲に足りないものとは?
ニッポンの2024年問題とは?#1
「日本は…絶望ですね」新成人が日本の政治経済に思うこと…「たぶん選挙には行かない」「物価上昇でコンビニでお菓子を買うのも躊躇する」「適度な政権交代は起きたほうがいい」
2024ニッポンの成人#8
新着記事
ベトナム人300人が集結! ベトナム旧正月「テト」が埼玉県越谷市で祝われていた
「老害」よりもタチが悪い40代からの「ソフト老害」。放送作家・鈴木おさむが仕事を辞める理由にも「よかれと思ってやったことが、若い世代の妨害行為に…」
仕事の辞め方 #1
リリー・フランキー「懐古的な想いではなく、文化という、人々の未来の為に」家族経営の老舗映画館「昭和館」が火災を乗り越え復活する日
映画館を再生します。 小倉昭和館、火災から復活までの477日 #3
「あのネオンだけは、残したほうがいい」二度と光ることがないネオンを気遣ったリリー・フランキーと館主を救った高倉健さんの手紙〈北九州市・昭和館〉
映画館を再生します。 小倉昭和館、火災から復活までの477日 #2
「暴力団に連れてこられた」「漂流中に救助された」初の日朝首脳会談直前、拉致被害者に“隠蔽シナリオ”を強要した北朝鮮の謀略
当事者たちの証言で追う 北朝鮮・拉致問題の深層#2