■ Ki-oon社とたきざきまみや、筒井哲也の出会い三朝町で日本人と触れ合うことにより、日本語の能力を磨くと同時に日本人との仕事の仕方も学んだアニュは、残念ながらフランスに帰国すると、日本語を生かせる仕事を見つけることができなかった。このため、日本のゲームの翻訳をしながら、マンガ出版を起こすことを目指す。アニュにとって、それまでフランスで翻訳されている日本のマンガは限られた人気タイトルだけであり、かつ、翻訳の質も、印刷される紙の質も満足ができるものではなかったという。同じ志を持つ大学時代の白人の女性の友人のセシル・プルナンが親戚より3万ユーロを相続し、これを元手に二人はマンガ出版社を興すことにする。2003年のことであった。住所はアニュが家族と住む自宅であった。最初の難関は、翻訳できるマンガのタイトルを探すことだった。二人は日本の出版社を巡ったが、経験がないということで断られる。二人にとってこれは悩ましいことであった。出版社を興した彼らには当然経験はない。そのまま交渉していっても、永遠に経験を積むことができない。このため、二人は、日本で既に商業出版されている作品の翻訳権を獲得することをあきらめ、素人の作品に目をつける。最初に目を付けたのは、コミケの作品である。フランスで人気のあるファンタジー作品で、二次創作ではないものを探し、二人はコミケを回った。そうして見つけたのが、たきざきまみやの「Element Line」という作品だ。たきざきまみや(*22)は商業雑誌に作品を発表したことはあったものの、単行本を出したことはない。普段はマンガ家のアシスタントをしている。たきざきはアニュに翻訳について相談されびっくりしたものの、あまりお金にはならないかもしれないということを含め誠実に説明されたことに納得し、アニュに原稿を渡した。フランスのマンガ出版社は通常、日本人作家のオリジナルの原画をうけとることはなかなかできないが、たきざきがアニュを信頼し、原画を渡したことから、非常に質の高い印刷を実現することができた。こうしてElement Lineは原作が日本語であるにもかかわらず、日本で商業出版されずにフランスで商業出版されたというマンガとなった。
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