ホロックス・ブラック・ボックス


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作:ゆーしゃKuro 
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鷹嶺ルイの憂慮


――『ホークアイ』。それはholoXの女幹部、鷹嶺ルイが持つ特殊な目だ。俗に言うところの、『魔眼』というものだろう。

 自身の視覚をどんなところにも飛ばし、実際にそこに居るかのように見ることが出来る力はなかなか便利なものだ。

 博衣の居場所がわかったのもこの力を使ったからなのだが、肝心の拐われた総帥は発見出来ずにいた。

 

「ルイ姉、やっぱり見つからないでござる?」

 

 風真は心配そうに鷹嶺の顔をのぞき込む。その背には先程の戦闘で強化薬を使い、副作用からだらしない顔で眠る博衣が居る。

 腕も足も力が入らないのかだらんと垂れており、気を抜くと落っこちそうになるからか風真はやや前屈みだ。

 

 鷹嶺がホークアイを使い始め、博衣を発見してから三十分以上経っているのだが、ラプラスの気配を感じず街中を手当たり次第に見ていた。

 

「ラプの力はほとんど封印されてるからなぁ。気配が弱すぎるみたいで全然掴めないよ。別の力が下から来てるっぽいから、地下が怪しいと思うんだけど」

「あー、ケータイの電波が圏外みたいなものでござるか。……そうだ、凍った人を溶かして聞いてみるでござる?」

「うーん、そうするか――――」

 

 その時、鷹嶺の目には凍ったゴロツキではなく、〝廃ビル〟が見えた。

 ちょっとばかし気になったので覗いてみようと思った程度だったのだが、ビンゴだ。

 しかし、状況が良くないのか途端に表情が強ばる鷹嶺に、風真は不安そうに指示を待つ。

 

「……溶かしてる暇、ないな」

「な、何かあったでござるか」

「うん、沙花叉見つけたんだけどちょっとヤバそう」

 

 そう言いながら紙とペンを取り出した鷹嶺は、簡単な地図を作っていく。

 

「はいこれ、沙花叉の居るとこ。いろは、私は先に行ってるから、こよりが起きたら来てくれる?」

「わ、わかったでござる! 風真達が行くまで、ドジするんじゃないでござるよ!」

「あっははは! まさかこんな真剣な場面でするわけないって!」

「いやぁあの、言っといてなんでござるが、絶対するから」

「うぐっ、ま、まぁ私がやらかす前に来てよ」

「善処するのでルイ姉も善処してほしいでござる」

「スゥゥーーー…………じゃあ行ってきまーす!」

「あっ! ちょ、ホントに気をつけるでござるよー!?」

 

 

 * * *

 

 

 鷹嶺が発見した廃ビル――数年前に爆発事故があったらしいそこは、どこか見覚えのあるマークがついた建物だ。

 そう、何度も爆破オチしたことで遂に放棄された元ホロライブ事務所である。今や中はスッカラカンだ。

 ちなみに現在のホロライブ事務所は別の場所にあるが、やはり爆発しているとかなんとか。

 そんな場所で、鷹嶺ルイは慎重に階段を上がっていく。

 ボロボロになった廃ビルは当然階段にも所々ヒビが入っており、今にも崩れてしまいそうだ。

 鷹嶺は崩れないよう慎重に、かつ音を立てないように階段を上がっていくと、上の階から男の声が聞こえてくる。

 

「――なァ……戦闘員が居るなんて聞いてねェぞ」

「も、申し訳ございません幹部長! どうやら最近入った新入りらしく……まだ情報が少ないのです!」

「芸人事務所のはずだよなァ? おかしいじゃねェかよ。これじゃあ潰せないぞ」

 

(潰す……!? いやその前にうち芸人事務所じゃないですけど?!)

 

 鷹嶺は壁越しに会話を盗み聞きながら、心の中でツッコむ。

 ホークアイで中の様子を窺ってみれば、〝幹部長〟らしきサングラスの男が一人と、その部下であろうスーツ姿の男が二人付いていた。

 そして――――

 

「まァ急ぎめで用意した計画だしな。多少のボカは許してやるよ。しっかし、この女どーすっかなァ……ボスに聞いてる暇はねェし」

 

 壁際に置かれたパイプ椅子。そこに縛り付けられていたフードの少女が一人……そう、沙花叉クロヱが囚われていた。

 口は布を噛ませられ、声も出すことができないようだ。

 

(さて、どうする鷹嶺ルイ……スーツマン二人はどうとでもなるけど、あのサングラスは手強そうだ……。それにどんな得物を持ってるかもわからない……)

 

 近接戦になったらホークアイはあまり役に立たない。かといって遠距離戦に持ち込むことも、この限られた空間では無理だろう。

 風真と博衣の二人を待っている時間もなさそうだ。

 サングラス男は内ポケットから拳銃を取り出し、沙花叉に銃口を向ける。

 

「おい、口の取れ」

「はっ!」

 

 部下に口に噛ませた布を取らせる。するりと解かれた布はかなり長時間噛ませられていたらしく、沙花叉の唾液が染み込んでいて糸が引いた。

 

「……さァて。拷問って俺得意じゃねェんだわ。だからよ、楽しくお話しようぜお嬢ちゃん」

「ふざけ――!」

 

 沙花叉が近付いてくるサングラス男に噛み付こうとした瞬間、サングラス男は銃身をその口に突っ込む。

 セーフティが外され、引き金に指がかけられると沙花叉は暴れるのをやめた。

 

「おォ、ちゃんとやめられたなァ。偉いぞ?」

「むごご……」

「脅すのも得意じゃねェ。乱暴に武器を突っ込むしか脳がねェ。それにお前のその反応……全く動じないな? こんなのよりもっとヤベェ拷問受けたことでもあんのか? くはっ! そうならそん時のこと聞かせてくれよ! これからする拷問の参考にさせてもらうからよ」

「…………っ」

「おっと、せっかく取ってやったのにこれじゃあ話せないな。悪い悪い」

「――けほっ、ホントに悪いと思ってるんですかねっ」

「思ってるぜ? 悪いことしたしひとつ教えてやるよ。俺の名前は……」

「あ、それは心底どうでもいいです」

「……あぁそう? じゃあ組織の名は……!」

「それも特には」

「あーー……お前今の状況わかってる?」

「そうですね……あなたがお喋りさんなおかげで周りの状況が見えていない。ということがわかりました」

「は? 何言って――――」

 

 サングラス男はふと振り返る。部下二人は――倒れていた。

 そして一人、女が銃を向けて立っている。部下が持っていた拳銃を奪ったのだ。

 状況把握……相手の位置、武器がどこにしまってあるかはホークアイで確認済み。

 音を立てずに敵を黙らせることなど、holoXの女幹部にとっては朝飯前だ。

 

「待ったかね?」

「ルイねえおそーい!」

「うるさいなぁ。こっちはヒヤヒヤしながら見てたってのに」

 

 鷹嶺の存在に気付いた沙花叉は既に余裕だった。

 だから、サングラス男が鷹嶺に気を取られている隙に縄を解き、後ろからナイフを突きつけるくらい容易い。

 二人の洗練された動きにより、サングラス男は一気に形勢逆転された。

 

「……ただもんじゃないなお前ら。俺の部下を音もなくやりやがった……一応そいつら、その辺の奴なら簡単に組み伏せられるくらいには強いんだぜ?」

 

 冷や汗を垂らすサングラス男だが、まだ笑っていられるくらいには肝が据わっているようだ。

 

「――さて、ロリコン野郎。あなたのボスとうちの総帥の居場所を吐けばそのサングラスをへし折るくらいで済ませてやる」

「おいおい勘弁してくれ。このサングラス高かったんだぜ? あと俺はロリコンじゃねぇ、そらァうちのボスのことだよ」

「ただの幼女誘拐の可能性が出てきてしまった……」

「いや冗談だって。まァそれはどーでもいい……早くやろうぜ。そうだなァ、ゲームをしよう!」

「ゲーム……? それはあなたが今、私に銃を向けられているうえに、すぐにでもナイフで首を掻っ切る状態なことわかっていって言ってるのか?」

 

 明らかにこちらが優勢。それなのに、サングラス男の余裕そうな表情は変わらず……鷹嶺は内心焦っていた。

 相手の手の上で踊らされているのではないかと、そんな思いが巡る。

 

「俺は暇で暇で仕方ねェ。いやな、やることはまだまだあるぜ? でもやる気がねェ。だから暇だ。何をやっても満たされない。俺が満たされるとしたらたったひとつ……殺し合いだ。アンタみたいな美人さんが相手なら尚更愉しい。お前らが俺に勝ったら知りたいこと全部教えてやるよ」

「なんだ変態か」

「ルイねぇ、もうコイツ切っていい?」

「……いや、情報は欲しい。そのゲーム乗った」

「おっ、嬉しいねェ!」

 

 サングラス男は笑うと、その場から消える。

 元々そこに居なかったかのように、忽然と。

 

「俺はゲームのルールはちゃんと守る主義だ。さぁやろうぜ愉快でおかしな芸人共! ゲームスタートだ!」

 

 次に現れた時、男は鷹嶺の背後に立っていた。

 そして二丁目の銃取り出すとそれぞれを二人に向け、声高らかにゲーム開始を宣言する。

 

「「いやだからアイドル事務所だって!」」

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