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#9 蟻のひと噛み

 ホバーモービルで駆け込んできたスズネ。

 例によって頭上にはキャラクター名が表示され、それを見た三条院の顔がドス黒い笑いに歪んだ。

 いや既に歪んでるんだけど、せいぜいいじめっ子だったのが荒野のモヒカンにランクアップしたような。


「『スズネ』!? スズネだと!? てめぇええ! ここで会ったが百年目だ!」

「三条院!?」

「え、ちょ、知り合い!?」

「その話は後!」


 言うや、スズネは発砲!


 ZAP!


 スズネが引き金を引くと、真紅のレーザーがぶっ飛んでいく! 空気が焼ける音が聞こえてくるみたいな勢いだった。

 三千院はそれを回避するが、背後の木がひとつぶち抜かれて、幹に炭化した穴を穿たれた。

 うおう、レーザーガンぱねえ! この方舟八号棟では民間人が護身用に持ってることもある割とポピュラーな武器。しかしそのくせかなり強力で、当たりさえすれば使い手の能力に関係無くダメージを与えられる。


 初撃を躱した三条院は、大剣を背負って加速。

 その全身が怪しい黒紫のオーラに包まれる! そして、さらに加速!


「「これは……!」」


 図らずも俺とスズネがハモる。

 このエフェクト、俺も見覚えがあるぞ!?


「なら……≪エンチャントアイス≫!」


 スズネはスカート下の太ももホルスター(なんでわざわざそんな所に?)からさらにレーザーガンを抜き、二丁レーザーガンを三条院に向ける。

 スズネの左手の甲の魔晶石コンソールが光を放つと、レーザーガンの銃身が……蒼白に輝いた!


 ZAPZAP!


 レーザーの色が変わった!

 いかにもレーザーしてます、という赤色から、白いモヤのようなものを纏った蒼白に輝くものへ。

 スズネが今使ったスキル、≪エンチャントアイス≫の効果だ。


 スズネのビルドは『四色ガンナー』。スズ姉の配信を見て、俺も攻略wikiで予習しといた。

 魔術師ウィザードのサブクラスに射手シューターを取って、付与魔法エンチャントと狙撃系スキルを組み合わせてレーザーガンを使う、火力と継戦能力に優れたビルドだっけかな。

 いかにも魔法魔法した魔術師ウィザードのスキルは大概燃費が悪く、そこを付与魔法エンチャントに絞ってレーザーガンをメインの火力にすることで使いやすくしている。


 水属性の大ダメージに加え、当たれば凍結状態に追い込み動きを鈍らせるアイスレーザー。

 だが、三条院は……止まらない!

 レーザーに真っ正面から突っ込んだ。レーザーが三条院の手前で……曲がる!?

 軌道を曲げられたレーザーはどこか後ろの方へ飛んで行った。


「ひゃっはあ!」


 大剣が振り下ろされる!

 ホバーモービルのハンドルから手を離し、二丁レーザーガンだったスズネは咄嗟に対応できなかった。


 空中に正二十面体ダイスを半分に割ったみたいな光の障壁が浮かび、三条院の剣を受け止める。

 ホバーモービルのシールド機能だ。

 スパーク!


 弾くか……? と思ったのも束の間。

 シールドにビシッ! とヒビが入って……割れる!

 その瞬間、スズネは急加速して離脱!


 ホバーモービルの土手っ腹が、深々と切り裂かれてひしゃげた傷口を作っていた。

 まだ動いてるけど、傷口からスパーク散らしてるのは嫌な予感がする。


 えーと、何が起こったんだ?

 レーザーが何かの力で防がれた?


 いや待て、攻略wikiで読んだ覚えあるぞ。

 確かレーザーはお手軽で強力な反面、『携帯式電磁結界発生装置』とかいう、まさにレーザー対策のためだけに存在する強力な対策アイテムもあるんだって。

 それを使った……のかも知れない。


「くっ……≪エンチャントサンダー≫!」


 ZAP!


 レーザーの色が変わった。黄色か黄金か分からない色のレーザーが、稲妻を纏って飛翔する。

 そのレーザーはもちろん三条院に逸らされるが……何か意味があるのか?


 スズネは片方のレーザーガンを太ももホルスターにしまい、ホバーモービルを片手で操ってもう片方の手でレーザーを撃つドッグファイトスタイル。

 森の中の広場を縦横無尽に飛び回り(多分、前配信してたVRレースゲームで培ったテクニックだ)、三条院にレーザーを浴びせては屈折によって躱される。


「効くかぁ!」


 三条院がスズネに襲いかかる!

 速ぇ! ホバーモービルの速度に付いて行ってる!

 攻撃力だの速度に自己強化バフを受けてる状態なんだ。


 超振動の大剣が横薙ぎに振るわれ……スズネはギリギリで車体を傾け、ドリフト走行のような動きで回避!


「チッ!」


 だが三条院は間髪入れず、何かを擲つ!

 ダーツの矢? みたいなものが飛んで、狙い違わずスズネの肩に突き刺さった!

 あんまりダメージは無さそうだが……あれがまずいんだ。今の三条院は()()()()()()()()()()()()()()()()状態のはず。

 しかも、ダーツは命中した瞬間に紫色の煙みたいな分かりやすいエフェクトを発生させてる。どう見ても毒だアレ。


 三条院自身が追いつけなくても、ダーツは速くて命中精度も高い。このままじゃスズネは削り殺されるだけだ。おまけにどこかで動きをミスれば大剣の一撃を食らってお陀仏だ。


 要するにスズネが圧倒的不利。

 だが今の俺は、まともな装備も能力値も無い。ポーションの瓶を咥えてただ応援すること、しか……


「じゃないっ……!」


 おい待て、あるじゃねえか俺でも力になる方法が!


 緊張にこわばる手で俺はリストコムを操作、スキル習得画面を表示する。

 レベル6になった俺のスキルポイントは……今見たら11点!

 こいつを割り振ればスキルを習得できる!


 とにかく大量に並んでいるスキルを俺は必死でスライドさせて目当てのものを探した。

 くそったれ、検索機能くらい付けとけよ! まあスキルが多すぎるなんて悩みは俺ぐらいのもんなんだろうけど!


「あった!」


 三条院はスズネを狙うのに必死で俺みたいなザコの動きにまで気が回っていない。

 あとちょっとだ、あとちょっと持ちこたえてくれスズ姉!


【新たなスキルを習得しました。】


 あの慇懃無礼な合成音声臭いアナウンスが俺の頭の中に響く。


 慣れれば思考だけで狙いを付けてショートカット起動できるらしいが、初めて使う技だ。

 俺は念のためリストコムのスキルパネルを起動!

 半透明の照準画面を透かして三条院をロックオンし、そのスキル名を大声で叫んだ。


「≪マインドリーク≫!」

「……なっ!?」


=====


 ≪マインドリーク≫


 呼べど答えず、叫べど届かず。

 落ち行く地獄は無明無間。


-----


 対象が発信するナノマシン制御信号に偽装した攪乱信号を発生させ、通信容量を浪費させます。

 対象1体にリーク状態蓄積を与えます。


 属性:無


 威力:Lv5/5

 効率化:Lv1/5


 消費:20NP


=====


 ガスマスクの残骸で隠している、俺の額の魔晶石コンソールが熱を帯びる。

 鈍色の奔流が俺の手から吹きだし、三条院に炸裂した!


「て、めぇ……! 呪術師シャーマンだと!? なんで後衛が電磁ナイフで戦ってたんだよ!?」


 俺に魔法を掛けられた三条院は、血走った目でこちらを睨む。


 三条院が纏っている闇色オーラ。あれは≪ベルセルクハート≫というスキルのエフェクトだ。


 他人とアイテムからの回復をシャットアウトし、さらにNPが減り続けるという重いペナルティを負う換わりに強烈な強化バフを受ける≪ベルセルクハート≫。

 敵を攻撃した時にHPとNP(ナノマシンポイント)(要はMPだ)を回復するスキル≪鮮血の杯≫。

 いずれも上位クラス・狂戦士バーサーカーのスキルだ。こうして並べてみれば、組み合わせてくれと言わんばかり。


 敵を殴り続けて≪鮮血の杯≫でNPを回復し、NPが切れたら効果が消えるはずの≪ベルセルクハート≫を持続させるコンボ。このシナジーをベースにした、ピーキーながら強力な育成方針ビルドが『返り血ベルセ』だ。

 ちなみに『返り血』と言いつつ直接攻撃である必要は無い。

 間合いに入ってこようとしないスズネに対し、こいつは低威力・高命中の投げ物(ダーツ)でチクチクとダメージを与えてNP回復し、間を持たせているのだ。


 そんな『返り血ベルセ』に真っ正面からぶっ刺さるのが呪術師シャーマンの初級スキル≪マインドリーク≫。

 消費が重い割に効果は敵のNPがちょっとずつ減っていくだけという超地味なスキルだが、ギリギリのNP管理を破綻させる最後の一押しには充分だったりする。


 俺は確かにこのゲーム、初心者だ。だが『返り血ベルセ』だけはよく知っている!

 ()()()()()()()()()からな!

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