人生最後のピンフォール負け
ゴングが鳴ると、猪木はジャージにTシャツ姿ながら実際のプロレスと変わらぬ殺気でタッキーと相対する。マウントポジションからナックルの体勢に入り、女性ファンからは悲鳴が上がる。
慌ててレフェリー藤原が割って入りタッキーに加勢。藤原が猪木を羽交い締めにすると、タッキーがTシャツを破ったため、猪木はここから上半身裸となり、ますます現役さながらの雰囲気に。
しかし、最後は藤原のサポートを受けたタッキーが、抜群の運動能力でジャンピングエルボードロップを決めると、藤原が超高速でマットを3回叩いた。結果は3分57秒、体固めでタッキーが勝利。
猪木がレスラー人生最後にピンフォールを奪われた相手は、なんとタッキーだったのだ。
「好きにやれ」…試合は全てアドリブだった
藤原――俺が猪木さんとジャニーズのアイドルとやる試合のレフェリーをやるなんて、事前には決まってなかったんだよ。
あの日、俺は第6試合に初代タイガーマスクとのシングルマッチが組まれていて(結果は藤原のレフェリーストップ勝ち)、自分の試合が終わって着替えてた時に猪木さんに呼ばれてさ、「おい、レフェリーやってくれ」って言われたんだ。それも猪木さんの試合が始まる5~6分前だよ。「どういうふうにやるんですか?」って聞いたら、「まあ、好きにやってくれ」って言うだけ(笑)。事前の打ち合わせなんかいっさいなしだよ。
全部アドリブで対応しなきゃいけなかったんだけど、考えてみたら当たり前なんだよ。闘いは闘いだからな。侍が斬り合いをする時に「◯時◯分から斬り合いをします。こういう手順でやりましょう」なんて言わねえだろ。いきなり始まるわけだ。そういうことだよ。
だから俺は「好きにやれ」って言われたから好きにやったんだよ。ただ、猪木さんがどういう考えでやっているかはちゃんと考え、その場でもしっかりと感じ取るようにした。