究極必殺技誕生!

ゲシュペンストキック誕生の経緯。出演はジェス、パット、カイ、旧特殊戦技教導隊メカニックの皆さん。


「ひっさあぁぁつ!ゲシュペンスト・パーンチ!」

「きゅうきょくっ!ゲシュペンスト・キーック!」

 それはまさしく魂の叫び。

 彼女のこぶしが光ってうなり、彼のかかとが轟き叫んだ。ベキバキと金属同士がこすれあう嫌な音がする。

「いやあ、あいつら本気でやるもんなあ。」

「それは正規の教導隊員でも同じだろう。何をいまさら。」

「ステークは駄目だな。とっかえだ。」

「指関節までイカレてますよ。」

「親指を握りこむよう指導すべきだったか。」

「いや、そもそも強度が足らんだろう。手の指関節は特に仕事が繊細なんだ。荒事に向いていない。腕部アクチュエーターもギリギリだ。」

「膝はけっこう持ちこたえてますね。」

「あれで壊れてたらジャンプもできんだろ。」

「足の底が一部抜けてるが。」

「そこは強度をあげればどうにかなる範囲じゃないですか。」

「なんだダジャレか。つまんないぞ。」

「いやダジャレのつもりは。偶然です。」

「リーチの問題もある。ということでカイ少佐。」

「うむ。キックはともかくパンチは問題が多そうだな。ステークの素材や形状を変えたらどうにかならんか。」

「やってはみますがねえ。月の連中の上のほうとも協議しなきゃならんかも知れませんな。」

「よろしく頼む。」

「今のでモーション自体は入力されてるが、いずれにせよ機体強度とのすり合わせが済むまではこの技の使用は当面禁止だ。機体がもたん。そういうことで。」

「これ、使えるとなったところで一回や二回使うのが限度じゃないですかね。」

「しかし、今日この技の入力見逃した教導隊の他の皆さん、悔しがるでしょうねえ。」

「カイ。こういう面白すぎることを我々のいぬ間にしないで欲しいのだがね。」

「言う!エルザムさん絶対それ言うよ!」

 そしてメカニック達はマオ社に送るデータをまとめはじめる。誰も技をかけた二人をとがめる者はない。まったく素晴らしい職場だと北村開少佐は思ったものである。

「レナンジェス=スターロードであります!」

「パトリシア=ハックマンであります!」

「うむ。ジェスもパットもよく来てくれた。」

 ここは特殊戦技教導隊のハンガー。メカニックたちが立ち働いている向こうにプロトタイプゲシュペンスト2体が保定されている。そして3人の目の前には武道場よろしく畳が敷き詰められている。

「カイ大尉。それで今日は一体?」

「あ、あのう。」

「どうしたパット、きょろきょろして。」

「教導隊の他の皆さんは?あ、あたしサインをいただこうと思って色紙を」

「あっ、そういう事はあらかじめ俺にも言ってくれよ!くっそー、俺も色紙持ってくるんだった!」

「残念ながら、俺を除く教導隊員全員、本日より一週間の休暇中だ。」

「ええー!」

「うっそー!あたし皆さんにお会いするの楽しみにしてたのにー!」

「しかも一週間って、長くないですか。」

 カイが渋い顔をする。

「福利厚生部から苦情が出たんだ。うちの連中はとにかくワーカホリックだからな。俺は娘の参観日や学芸会には必ず出ることにしているからそれなりに有給休暇を消化しているのだが、カーウァイ隊長ですら、土曜だろうが日曜だろうが部下がさっぱり休まないので立場上無休の状態だ。今は情勢も落ち着いていることだし、ここで何が何でも休暇を取れと厳命が下った次第だ。」

「福利厚生部って、もしかしてミス・ミナト?」

「あ、あの、法務の鬼っていう?」

「そうだ。彼女直々、このむさくるしい場所へお出ましになっての厳命だ。逆らえる者とてないというものだ。」

 それじゃ仕方ないな、という雰囲気が3人の間に流れる。

「てことは、俺たちの出向期間中には教導隊メンバーには会えないって訳ですか。」

「馬鹿者。何のためにお前たちを呼んだと思っている。いいか、このゲシュペンストはとにかく金食い虫だ。こうして置いてあるだけでも管理システムにメンテナンス、人件費その他もろもろ諸経費がかかっている。このモノになるかどうかもわからん赤ん坊同然のOSに手取り足取りモーションを教え、可及的速やかに戦場へ出せるように育てあげねばならん。一週間もの長きにわたって機体を遊ばせておけるようないいご身分ではないのだ。」

「では、あたしたち、ゲシュペンストを育てるために呼ばれたって事ですか。」

「俺から特に推薦した。訓練中にお前たちを貸してもらうのは気が引けたのだが、逆にこんなチャンスは2度とないと無理を言ってしまったのだ。」

 ジェスとパットは顔を見合わせる。

「でも、どうしてあたしたちが?」

「他にもっと経験豊富なパイロットがいますよね。」

 もっとも、ここで言うパイロットは戦車や戦闘機のそれだ。ゲシュペンストはまだ実験機であり、これから地球連邦軍に投入されるべく調整されている段階なのだから、人型ロボットのパイロットという意味ならば、パットやジェスのようなシミュレーター訓練中の新人を除いては今のところ教導隊員しかいないのである。

「俺だけ有給をこなしていたと言っただろう。俺は特に武器を持たない徒手空拳の格闘、体技のモーションを担当している。俺だけが休んでいた分、その部分の仕上がりが遅れ気味なのだ。また、もちろん教導隊員は全員この道のエキスパートであるから俺の組み手の相手としては遜色はない。しかしやはりそれぞれに得意分野というものがあって、ゲシュペンストに格闘として最高の状態でモーションを入力できているかというと、やはりもう一声が足らん。そこでお前たちには、格闘モーションの入力を手伝ってもらいたい。」

「あ、それなら理由がわかります!すげえ、あのゲシュペンストに乗れるんだ俺!」

「す、すごい名誉です!あたし、がんばります!」

 カイとジェスとパットは部署も違うし、いくら同じ基地内に勤務しているとは言え普通なら接点はない。ただし3人には共通点があった。すなわち、無類の格闘技好き、しかも見て楽しむのでなく自分で実践する派だということだ。ひとくちに軍人と言っても体力馬鹿から事務方まで様々である。その中でも、勤務時間中の体術訓練だけでは物足りない格闘技馬鹿たちは、空き時間を利用して基地内の道場で自主練習を行っている。3人はよく一緒になり、組み手などしているうちにすっかり意気投合してしまったのだった。この基地では基本的には柔道の訓練が行われているが、この3人が組み手をするともはや柔道の域を超え、いかにオリジナルの技を出し合うかを競い合っているうち、本人たちにも思いもよらないような型を生み出すことも多い。勤務時間中の教練ではないから型破りについて文句を言う者とてなく、彼らの名もなきオリジナル武術はいまや知る人ぞ知る存在となっている。

「モーションデータ作成の手順を述べる。まずは機体に乗らない生身の状態で、お前たち二人に組み手をしてもらう。一度に覚えさせる技は基本的に一つ。最終的にはそれらを連携させて運用することにはなるが、基礎となる動きがしっかりしてこそ、その先があるというもの。この畳の上で十分に練習し、きれいに型が出るようになれば、実際にプロトタイプゲシュペンストに搭乗した状態で手合わせをしてその型をとる。余程の失敗でない限り一度入力したモーションデータを消すことはない。心してかかってもらいたい。」

「はい!」

「わかりました!」

 それからの一週間というものは、後にメカニックたちの間で「旧教導隊奇跡の一週間」と呼ばれ、休暇だった隊員たちがやっぱり休むんじゃなかったとくやしがるほどの質と量で格闘モーションが蓄積されていったのだった。

「そこで止めろ!パット、振りほどいてみろ。」

「あ、ほどけます。」

「あれ。極めたと思ったんだけどなあ。」

「もう一度やってみろ。そこだ。関節の曲がる方向は決まっている。無理に曲げれば当然曲がらん。」

「でも、逆関節取らないと極まらないっす。」

「最終的にはそうだ。そこへ至る途中経過に無理があるからいかんのだ。最初は行きたいほうへ行かせる。こうだ、この角度。」

「はい。」

「行かせておいて、その流れで逆を取る。どうだパット。」

「うーん。ほどけないです。」

「今の角度とタイミングをよく覚えておけ。よし、もう一度!」

「オス!」

「いきまっす!」

「りゃああっ!」

「たああっ!」

「どおだっ!?」

「腰の位置が悪い!そこだと横にズレられたら逃げられるぞ!足はそっちじゃない、相手に近く、ここへ向けて踏み込む!」

「っしゃあ、もういっちょ!」

「だあああっ!」

 パットとジェスの動きをカイが評価し修正する。そのやり方自体は単純な繰り返しだが、たった1日やっただけでもゲシュペンストの動きは目に見えて良くなった。結果が出れば欲も出る。2人の出す技は日に日に高度になっていったのだった。

「あたし、やります!あれを!」

「!やるのか!」

「ここで出さなきゃ、出すところがないわ!」

「よし!いくぞ!」

「ひっさあぁぁつ!ゲシュペンスト・パーンチ!」

「きゅうきょくっ!ゲシュペンスト・キーック!」

ドゴォォォン。

ドカアァァン。

「うわ、すっげー。なんか前より威力増してねえ?」

「いまので完全に戦闘の流れが変わっちまったな。まじパネェ。」

「お咎めナシってわけにはいかんだろうが、思わず出しちまったもんは仕方がないってあたりで済ませたいねえ。でもあれ」

「即修理だな。部品の在庫あったけ。」

「あれはメーカー修理だろ。」

「あ、やっぱし?」

「でも、技的にはすげ-よな。」

「そりゃもう目に焼きつきました。」

「二度と見られるかどうかわからんしな。」

「おまえら、自分で修理するんじゃないと思ったとたんに傍観者すぎるぞ。」

「だって俺らの手に負えませんよ。」

「ま、そりゃそーだ。」

 マオ社の社員が聞いたら殴られそうな会話である。

 その後プラズマステークは衝撃を分散するため1本から3本へと設計変更されたほか、ゲシュペンストにはいくつかの仕様変更がなされた。しかし強度試験の結果、ゲシュペンストパンチとゲシュペンストキックはその開発者たちのみに、しかも1戦闘につき2回までの使用を許可されたにとどまった。後にカイによって改良されたゲシュペンストキックが格闘戦闘に特化された量産型ゲシュペンストMK-Ⅱ・タイプSでのみ運用を許可されるまで、それらは長く幻の必殺技として語り草となることとなる。

イルムとリンもいいんだけどね。ていうか4次とは別キャラて主張してる意味がいまだにわかりません。最初から名前ごと別人にしとけば設定矛盾もなかったんでは。SRWの脚本は色々大変だね(ひとごと)。*訂正。カイは大尉と思い込んでたんだけど少佐て書いてある資料を発見したんで直しました。機体名もMK-Ⅱ付けました。まだなんか間違ってそーだな。ヌルオタですまんせん。

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