現夢(Dream to Dreams)

精神コマンド「夢」について。出演はマサキ、クロ、シロ、プレシア、ちょっぴりブライト、カロッゾ。『s.CRY.ed!』より由詫かなみがクロスオーバー。


 夢を。

 夢を見ていました。

 ここは戦場。見たこともない白銀の巨人。夢の中であたしはその巨人と、それを操る男の子そのものになっていました。

 最前線では何体かの人型ロボットが戦っていて、母艦に近いこの場所からはかなり離れています。でも、とてもたくさんの敵ロボットが襲いかかってきているので、前線のロボットたちだけでは対処しきれず、ずいぶんと討ちもらしがあるようでした。白銀の巨人は、艦に迫ろうとする敵を次々と斬りふせています。

 とっても、かっこいいの。

 男の子が、怒りもあらわに言いました。

「何でだよ!俺は戦えるぜ!」

「出撃させたのは私の判断ミスだった。今のお前は戦いに集中できる状態ではない。命令だ、今すぐ艦に戻れ」

「こんなに敵の数が多いのに、サイフラッシュなしで対処できるワケねえだろ!」

 男の子は叩きつけるように通信回路を切りました。そして言います。

「あんた。精霊か?」

 え?

「マサキ、誰と話してるのニャ」

 ええー!このネコちゃん、しゃべってるよ!?

「誰だか知らんが誰かそこにいるだろ」

「言われてみれば気配がしニャいでもニャいニャ。サイフィス、というわけでもニャさそうだけど」

 この男の子、あたしのことわかるの?カズくんだって劉鳳さんだって、「夢」のあたしに気がついたことなんてなかったよ!

「誰だか知らんがちゃんと聞こえてるぜ。カズくんと、あと誰だって?」

 え、カズくんはね、あたしのお兄さんみたいな人だよ。血はつながってないけど。劉鳳さんはカズくんのお友達、なのかな?

「……ふーん」

「ニャにか聞こえる?」

「どうやらマサキにしか聞こえないようだニャ。残念ニャ」

「ていうかあんたが誰だ」

 あ、あたしは、かなみ。由詫かなみ。精霊とかじゃなくて普通の女の子だよ。あなた、精霊やネコちゃんとお話ができるんだ、すごいのね。アルターなの?

「アルター?」

 知らないの?人が持ってる不思議な力のことだよ。

「アルターかどーかは知らんが、精霊はともかくこいつらは本物のネコじゃないってだけだ。そうやって姿も見せずに話しかけてくるヤツがふつーかどーかも知らんが、とにかく人間の女の子なんだな。日本人か」

 あたしはロストグラウンドに住んでるんだよ。

「聞いたこともない地名だな。ま、俺もわけのわからんとこに住んでるし人のことは言えねえか。俺はマサキだ。安藤正樹」

 そう言っている間にも、マサキさんは戦う手を休めません。敵は本当に数が多いのでした。

 マサキさんもカズくんと同じ、戦う人なのね。あたしね、眠ってるうちにカズくんや劉鳳さんの夢を見ることがあるの。戦ってるカズくん、すごくかっこいいんだよ。そういうとき、あたしはカズくんそのものになってて、だけど見てるだけなの、何かしてあげられるわけじゃない。だからせめて、がんばれ!がんばれ!って応援せずにはいられないんだけど、でもカズくんも劉鳳さんも、あたしがいるのにちっとも気がつかないの。「夢」のあたしに気がついたのは、マサキさんが初めてだよ。なんだかとっても不思議。

「なるほど、これは「夢」か。俺があんたがいるのに気がついたのは、俺も「夢」を見てるからだろうな、たぶん」

 じゃ、マサキさんも今、眠ってるの?

「俺の場合は起きて見る夢、白昼夢ってやつだな。俺のこのサイバスターの武器・サイフラッシュは特別なんだ。敵と味方を識別して敵にだけ攻撃する機能がついてる。てことは攻撃する前に射程範囲内を検索して敵と味方を区別しなきゃならないんだが、どうも副作用があってな。精霊レーダーが飛ばしてくる検索情報が俺にまで届いちまって、ここにいるのがそれぞれどんなヤツらだか、俺にもなんとなくわかっちまうんだよ。人の心のものすごく近くに行っちまうとでもいうのかな。そういや、いつだったかミオの「夢」見たときなんか、突然えらくくだらねえ脱力ギャグとか思いついちまって、思わず口に出しそうになって参ったの何の。もう少しで無用の突っ込みどころを与えちまうところだったぜって、あんたにミオの話してもわかんねえな」

 突然、巨人は白銀の翼持つ巨大な鳥へと姿を変え、ものすごい勢いで加速します。空を切り裂く、風よりも速いそれは、疾風。すごい!速い!それにこの鳥、とってもきれい!

「マサキ、ナビにゼロ・ポイントを示したニャ」

「よし、ここだな!サイフラッシュ!」

 白銀の鳥を中心に、まばゆい光がぐんぐん広がっていきます。それに触れた敵ロボットたちに次々とダメージが入っていきました。不思議なことに、サイフラッシュの光に触れても何も起こらないロボットもあります。きっとマサキさんの「味方」なのでしょう。

「?いつもよりサイフラッシュの射程距離が長かったようニャ」

「ほんとね。効果も強いんじゃニャい?魔力の回復速度も上がってるわ」

「ふつうサイフラッシュは一回の戦闘で二度使うのが限度だけど、これニャら三回いけるかも知れニャいぜ」

「何だか俺もいつもより「夢」がクリアなかんじだ。あんたのおかげかも知れないな」

 え、あたし?何もしてないよ。ただ、がんばれ、がんばれって応援しかできないもの。

「それだ。あんたのその激励が効いてる」

 でも、あたしいつも「夢」でカズくんを応援してるけど、カズくんが急に強くなったりなんてしたことないよ。

「俺とあんたと二人がかりで「夢」見てるんだ、いつもと同じじゃないんだろ。ところであんた、もしかして俺の妹の「夢」を見なかったか。名前はプレシアっていって、あんたと同じだ、俺と血は繋がってないんだが」

 ごめんね、どうしてだかあたしの見る夢はいつも、戦ってるかっこいい男の子ばかりで女の子の夢は見たことないの。妹さん、どうしたの?

「誘拐された。敵側に捕らわれてるのは間違いないんだが、どこにいるのかわからないんだ。もしかしたらここの敵艦にいる可能性もある。で、いつもより気合入れて「夢」見てみることにしたんだが。プレシアがこの辺りにいればわかるからな。ブライトキャプテンはああ言うが、集中ならいつもよりよっぽどしてるぜ。だが今のサイフラッシュの射程内にはプレシアの気配は感じられなかった、場所変えてもう一度だ」

 そしてまた加速!もう敵の旗艦は目の前です。たった一機でこんなに敵に近づいて大丈夫なのでしょうか。いいえ、でも、マサキさんはそうしなければならなかったのです。そしてあたしは。あたしにできることは何?

 あたしは精一杯呼びかけました。プレシアさん、あなたはそこにいますか。お兄さんが、マサキさんがとっても心配しています。あたしにもお兄さんみたいな人がいるから、わかるんです。あたしが誘拐されたりしたら、カズくんとっても心配するに違いないもの。もしあたしの、マサキさんの声が聞こえたら、どうか返事をしてください。どうか。

「いくぜ!サイフラッシュ!」

 同じ「夢」を見たあたしとマサキさんは、ここにもプレシアさんがいないことを知りました。マサキさんの深い失望が伝わってきました。あたしは強く願いました。どうか、どうか。

 そして奇跡は起きたのです。

 あたしとマサキさんの「夢」はサイフラッシュの射程をはるかに越え、その瞬間、あたしとマサキさんはこの世界にいるありとあらゆる人と一緒に存在していました。そして、見つけたのです!

「カロッゾ様、この娘、いかがいたしましょうか」

「厳重に閉じ込めておけ。後で役に立ってもらう」

「あなたなんか!あなたなんか、きっとお兄ちゃんがやっつけてくれるんだから!」

 プレシアさんは目にいっぱい涙をためて叫びます。捕らわれの身となっていても、きっとマサキさんが助けに来てくれると強く信じているのがわかりました。

「こっちだ、とっとと歩け。手間をかけさせるなよ」

『プレシア!』

 プレシアさんは不思議そうに辺りを見回します。

 ねえ、気がついて!あたしたち、ここにいるんだよ!

『プレシア!俺だ!わかるか!』

「……お兄ちゃん?」

「何を言っている。こんなところにお前の兄がいるはずがなかろう」

「ううん!あたし、わかるわ!お兄ちゃん、そこにいるのね。来てくれたのね!……サイバスターに乗って、戦っているのね。わかるよ、見える」

「気味が悪いことを言う……とうとうおかしくなったのか。無理もないが」

 何も見えていない警備兵などには構わず、プレシアさんはマサキさんの差し伸べた手を取ろうとしました。でも、ああ、でも。夢は夢なのです。いつか覚めるときが来てしまうのです。

『くそ、このままお前を連れていけたら!』

「ううん、お兄ちゃんと話せただけで、あたしとっても勇気が出たよ。待ってるから。きっと助けてくれるって信じてるもの。だから一人でもがんばれる。お兄ちゃんもがんばって……危ない、後ろ!」

 やはり敵艦に近づきすぎていたのです。プレシアさんが叫ばなかったら、サイバスターは敵のミサイルに当たっていたかも知れません。攻撃こそかわすことはできましたが、もはやマサキさんの集中は途切れ、この「夢」はもう見続けられそうにありません。

『プレシア、必ず!』

「お兄ちゃん、今は戦って!あたし、応援してるから!……」

 急速に遠ざかるプレシアさんは、それでもマサキさんを懸命に応援するのでした。がんばれ、がんばれ、って。

 「夢」から覚めたマサキさんはプレシアさんの激励を受け、まさに覚醒していました。

「ニャにこれ、サイバスターの回復速度がとんでもニャいことにニャってるわ!これニャらサイフラッシュあと二回だって撃てちゃうかも」

「一体どうなってるんニャ?」

「わからニャいわ」

「……すっぱり目が覚めた。気合も入ったぜ。こんな戦闘とっとと終わらせる。今の俺が手加減できるなんて思うなよ。シロ、ナビゲーション!」

「う、うん……そっちへ送ったニャ」

「よし、いくぜ!サイフラッシュ!もひとつおまけだ、サイフラッシュ!」

 ただでさえ速いのに、もはやそれは神速。サイフラッシュを二度も浴びて無事でいられるわけがありません。あれほどたくさんいた敵はほとんどが光の彼方へ消え去り、あとは数体を残すのみとなりました。

「俺、今のですげえレベルが上がった気がする。ちっとは手加減すべきだったか」

「マサキ、引き時だぜ」

「わかってる」

 残った敵は仲間たちに任せ、サイバスターは悠々と戦場を後にするのでした。

 プレシアさん、無事だったね、よかったね。

「ああ、何もかもあんたのおかげだ。あんたの「夢」の力がなけりゃ、俺一人じゃプレシアに会うなんて芸当、とてもできなかっただろうぜ。ありがとうな。でも」

 でも?

「その力で、あんたも戦う……戦場に出るつもりなのか。あんたは間違いなく、それができるんだからな」

 それって、あたしもカズくんや劉鳳さんやマサキさんみたいに、戦う人になるってこと?

 そんなの今まで考えたこともなかった。だってあたし、ただ応援ができるだけで、実際に戦いの役に立てるなんて思ってもみなかったもの。戦い方だって全然知らないし。

「女の子はそれでいい。戦いのことなんか知る必要はないぜ。いやそれは偏見か、リューネみたいのもいるしな。だけど、俺はプレシアを戦場へ出したいとは思わないぜ。あんたのカズくんだって、あんたを戦わせたいなんて思ってないはずだ」

 そうなのかな。そうかも知れないね。あたしが戦うなんて言い出したら、カズくんやっぱり心配するのかな?

「こんなのは男の身勝手なのかも知れないが、女の子をそんなところへ連れ出すようなヤツは男じゃないっていうか」

 カイショなしってこと?

「そうだな。そう、あんたのカズくんが止めたとしても、それでもあんたは戦うつもりなのかってことだ」

 ……ごめんなさい。やっぱりまだ、戦うなんて全然実感わかなくて、自分でもどうしたらいいかわからないよ。あ。

「どうかしたか」

 もうすぐ目が覚めるみたい。あたしたち、もう会えないのかな。

「また「夢」で会えるだろ」

 そうだね。そうだといいね。さっきの答えはまだわからないけど、この次会うときまでに考えておくね。マサキさんに会えて嬉しかった。カズくんもかっこいいけど、マサキさんもとってもかっこよかったよ。きっとまた会おうね……

「行っちまったか」

「誰かさんは帰ってしまったのかニャ」

「まあ、また会えるふあああ」

「マサキ、眠いのかニャ」

「あったり前ニャ。いくらニャんでもサイフラッシュ4回は使いすぎだろ。とりあえずは艦に戻って休むしかニャいぜ、プレシアのことはそのあとニャ」

「その前にブライトキャプテンにたっぷり絞られるんじゃニャいかしら」

「そん時ゃ反省房で寝るさ」

「ウェンディさんにも後で怒られるぜ。むしろ泣かれるかもニャ」

「う。ウェンディには内緒にしとこうぜ」

「サイフラッシュはまだ不安定で改良の余地があるからって、かなり厳密に記録を取ってるのよ。言わニャかったとしても記録を見ればバレちゃうわ」

「げ、そうなのかよ」

「サイフラッシュ禁止令が出るんじゃニャいか?マサキは前科もあるからニャあ」

「そいつは困ふああ……」

「あ、マサキ!まだ寝るニャ!戦闘は艦に帰るまでが戦闘だぜ!」

「もう牽引ビームに引っ掛けたし後はどうにかなるだろ……」

「だめよマサキ、起きニャさいって、マサキー!」

 夢を。

 夢を見ていたんです。

 そして、マサキさんが言っていたように、あたしもいつか戦う人になるのでしょうか。

 今はまだ、わかりません。

 カロッゾ様がちょっとあわれなプレシア誘拐事件にかなみが介入。

 ちなみにその後ウェンディの改良(改悪?)により、サイフラッシュで「夢」を見ることはできなくなりましたとさ。

 テーマは「精神コマンドを追求する」でお送りしました。

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