光次郎の場合
OGクロニクル『渡る世界は鬼ばかり』より、光次郎編。出演は光次郎、ギリアム、名前だけ秋月家のかたがた。これにてギリアムの部下3人コンプリート。
「信行のこと、何かわかったか」
「いや、今のところ何の情報もないんだ。すまない」
「ほんの小さなことでもいいんだ。何かわかったら必ず教えてくれよ」
「わかっている」
光次郎とギリアムの会話は恒例となっていた。ギリアムが知っている惑星エルピスの光太郎とほぼ同じ境遇の光次郎ではあるが、まったく同じというわけではなかった。
最初に光次郎と出会ったとき、ギリアムが気にかけたことはやはり、光次郎の肉体が人知を超えたものに改造されてしまっているのか否か、ということであった。まさか本人に聞くわけにはいかないので様々な情報をつき合わせていったところ、どうやらこの世界の光次郎は普通の人間、生身のままであるようだ。
光次郎は高校を卒業してすぐ地球連邦軍に入っていた。あちらの光太郎のほうは大学生だったから、その境遇からして異なっている。光太郎に比べると光次郎はずっと硬質な性格だ。秋月の家は裕福であり光次郎一人くらい大学へ通わせるのは簡単だったし、実際あちらの光太郎のほうはその好意に甘えていた。しかし、この世界の光次郎はがんとしてそれを受け入れず、秋月の家を離れること、給料をもらって自活すること、上級の学校へ通う機会もあること、それらすべての条件を満たせる軍隊へと身を置いたのだった。
そしてその性格が光次郎を秋月家の事件から遠ざけることになる。秋月の父と、兄弟同然に育った信行が突然行方不明になった事件。もしまだ光次郎が秋月家に住んでいたなら巻き込まれていたに違いない。何らかのきな臭い組織が介入していることは間違いないが、どのような組織かはこの世界においては今のところはっきりしていない。唯一の情報といえば、近隣の住人が巨大な人型ロボットの姿を見たというものだけだ。
入隊後の訓練でパイロット候補として優秀な成績をあげていた光次郎がPTのパイロットとなることはほぼ間違いないと思われていた。しかし本人が希望した部署はまるで畑違いの情報部。光次郎の才能を惜しんだPT教官たちの説得にも拘らず、どうしても秋月家の事件を追うのだと言って譲らなかった。
何しろ上官命令は絶対である軍隊のこと、そこは何らかの強制力をもってとにかくPT部隊に入れてしまって正規のパイロットに仕立て上げてしまおうということになってもおかしくはなかったのだが、かの情報部にはもっと変わった男がすでにいたのである。PT部隊の教官としての誘いがひきもきらず、情報部内にいる時間よりもゲシュペンストで戦場を駆けている日のほうが多いという前代未聞の情報部員、ギリアム=イェーガーだ。
プロトタイプゲシュペンストは当初の目的である初期データの蓄積の役目はすでに終え、解体もやむなしの境遇にあった。しかしそこはプロトタイプに愛着とこだわりのある、しかもひと癖もふた癖もある連中があれこれと根回しに励んだ結果、ギリアムが情報部員として、通常のPT隊での運用では対処が難しい案件についてこの機体を使っていくということでどうにか上を納得させた。
それについて上から出された命令は、最低二名のパイロットを確保すべしというものだった。実のところギリアムは常人ではないので、その気になれば一週間や一ヶ月ぶっ通しで戦うこともできなくはない。しかしそこは一応、普通の地球人として地球連邦軍に籍を置いている関係上、あまり極端なこともできない。通常はPTでの戦闘はせいぜい一回につき一時間や二時間戦うのが限度だ。人間には体調の良し悪しもある。一つの機体に二人以上のパイロットを用意しておかねば効率の良い機体運用は見込めない。というわけでギリアムはゲシュペンストの副パイロット候補を探していたのだが、ギリアムと旧知のパイロットたちは皆それなりに自分の職務に忙しく、これといった人物を見つけられずにいた。
そこへ降って沸いたようなパイロット候補が現れた。いわずと知れた南光次郎である。そもそも特殊戦技教導隊出身者で教官職に着いたのがたった1名というほぼありえない状況で、どうにか新人教育に彼らの能力を活かさせたい意向は強い。光次郎は入隊二年目にして、パイロットとしての指導をギリアムに丸投げされることになったのだった。これが偶然なのか運命なのかは神のみぞ知ると言ったところか。ちなみに、ここぞとばかりに計五名の新人パイロットをついでに押し付けられそうになったギリアムは、新人教育は経験がないからという理由で光次郎のほかは丁重にお断りしている。というか、光次郎だけは断りようがなかったというほうが正確だが。
同じ黒いボディと真っ赤な目を持つ戦士ではあっても、改造された肉体が武器の光太郎とは違って、生身の身体しか持たない光次郎の力はPTゲシュペンストということになる。してみると秋月信行も、この世界では特機乗りとなっているのかも知れない。
秋月家の者たちに関わる悪の組織に関しては、今のところ有力な情報はほとんどない。だから光次郎に何度聞かれてもギリアムの返す答えはほぼ決まっていて、がっくりと肩を落とす光次郎を見るたびにギリアムも気落ちすることが続いていた。だから有力情報があれば教えてやりたいと思う気持ちはあるのだが、実のところギリアムは、何か秋月に関する情報が出ても決して光次郎には知らせないで欲しいと周囲に頼んである。
ギリアムは光次郎の暴走を恐れていた。光次郎のパイロットとしての才能は群を抜いていた。ギリアムが教えたこと、教えないことまでも飲み込み、活かし、ゲシュペンストを乗りこなす。この力を自覚していれば、光次郎は悪の化身となった信行と戦うことに躊躇はしないだろう。
そしてまたここでも、親友殺しの悲劇が繰り返されることになるというのか。光次郎と信行のどちらが殺されることになっても、それは悲劇だ。それだけは避けねばならない。
秋月に関しては自分の手で決着を着けたいと強く望んでいる光次郎にどれほど恨まれるかわかっていても、ギリアムはその時が来れば光次郎には一切知らせずにこれを処理する覚悟でいる。殴られようがののしられようが、秋月信行を光次郎の手にかけさせるのにひきかえれば安いものだ。
「しかし、G班全員が今回の正月休暇を申請していないというのは何とも色気がなさすぎるな」
光次郎は秋月の家に帰ったところで誰もいないのだ。壇や怜次に訊いた、休暇は帰らないのかという質問すらも成り立たない。
「宿直室占拠しちまおうぜ。畳とコタツあるし、みかん食いながら紅白でも見ればいいじゃん」
「それは何とも正しい大晦日の過ごし方だがな」
「決まり決まり。俺、いいみかんの卸知ってるから一箱買ってくるぜ。賢マークの付いたやつ」
「それは楽しみだ」
そんな年末年始も悪くないと、ギリアムは思う。
了
勝手にG班と命名。ゲシュペンスト班の略だとギリアムは主張するが、基地内ではギリアム親衛隊の略だろと言われてるとかなんとか。で、ゲシュペンストは一時期ダブルパイロットだったんだけど、内心光次郎に乗ってほしくないギリアムが専用機への改修を断行した結果がRVです。私の中では。