つよいぬいぐるみを君に
誕生日は重要イベントですよねリリーナ様。出演はヒイロ、デュオ、アムロ、ギリアム、クマのぬいぐるみの少女。
「ヒイロ=ユイ!」
呼び止められてヒイロは振り向く。
「ここにいたのか。会えて良かった。誕生日おめでとう。これを君に。」
大股で近づいてきたギリアムはクマのぬいぐるみをヒイロに差し出す。その勢いで受け取ってしまったが、よく考えるとこんなものをもらう謂れはない。ヒイロは断って返そうとしたのだが。
「ギリアム!もうシャトルが出る!」
遠くのほうからギリアム同様スーツを着た男が呼んできた。連邦軍の装備ではないので、何か特殊な任務に向かうところなのだろう。
「今行く!ではな。」
返す隙もなかった。ギリアムは足早に去り、残されたのはヒイロと、クマのぬいぐるみ。
じっと、見つめる。誕生日のプレゼント、という概念については既に学習していた。クマの腹のところに「HAPPY BIRTHDAY HEERO」と書かれたカードが添えられている。自分あてのプレゼントであることは理解した。しかし。
はっきり言って、どうしていいかわからない。途方にくれたヒイロはしばしその場で固まってしまった。
「ぶはっ!似合わねーもん持ってんなヒイロ!」
げらげらと笑うデュオに、表情だけは固まったままのヒイロが尋ねる。
「これは、何に使うものなんだ。」
「お前、知らねーの?それ持ってるとな、攻撃された時に自分の身代わりになって攻撃されてくれるんだよ。狙撃されても刺されても先にそいつに当たるから、お前のほうは無事ってわけだ。いいもんもらったなあ。」
「……ボン太くんと同じメーカー製なのか?」
それを聞いたデュオは、ますますおかしいといった様子で床を転げまわらんばかりに笑っている。
「そうそう、そうなんだよ、よくわかったな!でな、これは裏技だけど、攻撃受けてちょっとボロになっちまったときは、エスカルゴ運送を呼んで預けるんだ。エスカルゴ運送は丁寧だから、ちょっとくらいのボロは直してから届けてくれるんだぜえ!すげえよな!」
「こら。あまりヒイロをからかうな。」
アムロにバインダーで軽く頭を叩かれて、デュオは少しだけ笑いの勢いを収める。
「だって、おっかしくてよ。」
アムロはデュオが何をそんなにおかしがっているのかさっぱりわかっていないだろうヒイロに向き直る。
「それは、何かに使う、ってものじゃないんだ。」
「?」
「うーん、そうだなあ。愛着を持つ、ってことかな。」
「愛着?」
「柔らかくてあったかくて、そこにあると何となく嬉しかったり、安心したり、優しい気持ちになるんだ。戦いや殺し合いをしようなんて気分にはならない。」
リリーナ。と、ヒイロは思う。
「あいちゃく。」
「うん。」
リリーナに会ったときはいつも、任務遂行に成功した試しがない。リリーナを目の前にするとヒイロは何故か、戦意も殺意も失ってしまうのだ。だから口に出して任務の内容を確認せずにはいられなくなる。「お前を殺す。」と。
誕生日会の招待状を破り捨てたときのリリーナの表情が頭に浮かんでくる。ヒイロはアムロに尋ねる。
「確認したい。誕生日という日は大切だと、一般的には思われている。」
「うん。」
「誕生日のプレゼントも大切だと考えられている。」
「うん。」
「プレゼントは、実用性がなく、愛着を持てるものを贈る。」
「実用的なものでも構わないけど、大人に贈るんじゃないなら、ぬいぐるみは悪くない選択だな。」
「プレゼントにはカードを添える。」
「その人がこの世に生を受けてくれたこと、出会えたことがとても嬉しいって気持ちを伝える言葉を書いておけばより喜ばれると思うけど、難しかったらハッピーバースデーだけでもいいよ。」
「……了解した。」
「ギリアムがクマのぬいぐるみを作ってくれないかってリィナに頼んでたけど、もうできたんだ。リィナだって忙しいのに、君の誕生日に間に合わせてくれたんだな。」
誕生日といっても、ヒイロのそれは便宜上その日に設定してあるに過ぎない。潜入する場所が変わるたびに変えているものだし、事実として自分の誕生日がいつかということにヒイロ自身は興味もないのだが、時々それを知りたがったり重要視する人間もいることは知っていた。いまひとつ理解はできていないが。
「これはリィナが作った?」
「うん。」
ヒイロは物も言わずにすたすたと歩き始める。
「おーいヒイロ、どこ行くんだよ。」
「リィナにこれの作り方を教えてもらう。」
「……は?作るって?お前が?クマのぬいぐるみを?ブッ……」
ぶはははは。デュオはもうたまらない、とばかりに爆笑している。
「に、に、似合わねーから、それだけは、は、腹いてえ!」
デュオは再びアムロにこづかれた。
「笑いすぎだ。罰として、デュオ、リィナがクマのぬいぐるみを作るのを手伝うこと。」
「へ?」
「ギリアムが、ここの子たち全員にぬいぐるみを贈りたいと言ってたんだ。だけど全員分となるとリィナ一人じゃ大変だしな。ギリアムもあの通り忙しい奴だし、リリーナ嬢のほうが落ち着くまでは戻って来られないだろう。その間にぬいぐるみは準備しておきたい。わかったな。」
「そりゃないぜ。死神がぬいぐるみ作るなんて、切り裂くんならともかく。ていうか、俺も一応コドモだし、どっちかてえと貰うほうの立場なんだけど。」
「それを言うなら、リィナこそ本来は貰うほうだよ。リィナのぶんは君が作ってあげるといい。ほら、さっさと行った。」
「へいへい。ま、ヒイロのぬいぐるみ製作過程観察リポートは面白そうだからいいけどな!」
デュオは走ってヒイロに追いつき並んで歩く。
「待てって。お前、足速いよ。」
「さっき言っていた、身代わりになるぬいぐるみだが、本当にあるのか。」
「ああ、ないない。本当にあったらボン太くんなんかメじゃないくらいの大ヒット商品になってるって。」
ヒイロは残念に思う。アムロは、プレゼントは実用品でも構わないと言っていた。そんなぬいぐるみがあれば、リリーナに肌身離さず持っていてもらいたいと思ったのだ。自分からは決して攻撃を仕掛けない、身を守るためだけのぬいぐるみなら、完全平和主義の信条に反することもない。
「あ、お前、そういうぬいぐるみあったらリリーナお嬢さんにあげたいとか思ったんだろー。このこの、色男が!でもなあ、残念ながら実在しないんだよなー。」
「リリーナは俺が殺す。」
「あ?ああ、つまり誰にも殺されないようにお前が守ってやるから、ぬいぐるみに守ってもらう必要ないって言いたいわけね。はいはい、見せつけてくれちゃって。」
「……」
ヒイロは、こういう時どんな顔をすればいいかわからない。
「ちわーす。エスカルゴ運送です。」
「ごくろうさま。何かしら?」
少女が開けたプレゼントの箱から出てきたものは、クマのぬいぐるみとカード。
「G.J.?誰だったかな?」
ヒューイにお友達ができたのは嬉しかったが、送り主には思い当たらない。
「ヒューイ、誰だったかな?デューイ、あなたを贈ってくれたのは誰?」
ヒューイもデューイも答えてはくれない。けれども、ぬいぐるみたちがそこにいるだけで、少女の心は温かく、優しく、安心に包まれるのだ。
了
少女よ、世の中には地雷にお人形をくっつけといて誘い出す輩もいるので差出人不明の箱をやたらに開けてはいけないよ。そういう時は受取状をビリビリ破いて「直接渡しにいらっしゃい!」くらいのことは言うべし。
『F完』と『ヒロ戦』の合わせ技つーか他のも合わさってるけど。『F完』本編でこれやるつもりだったんじゃないかと今でも思う。自分なりのけじめとしていつかは書かねばと書いた。私はバンプレストオリジナル派だけどロボものはあらかた見てるのでクロスオーバーも重要事項。ていうか言うまでもないような事は省略して書かないだけ。本当の感想が聞きたいんなら、本人にそう頼んで完全オフレコで個人的に聞くしかないよ。当人にしか話す気はないし公開の文章にはあえて書かない事ってやっぱりあるんだぜ。ついでに言えばこっちから聞きたい事はない。だからミクシィとかグリーとかもちと違う。そもそもあれは公開だ。最初からそう言ってますが。外野に的外れな質問されても役に立たない答えしか返せんし、無辜の私人に対してその程度のオフレコもできないってどんな監視社会?直接いらっしゃい。