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お知らせ

未来共⽣イノベーター博⼠課程プログラムにおいて生じた
一連のハラスメント事案についての謝罪及び今後の改善案
― 関係教職員、コーディネーター、責任者より ―

2024年1月25日

ハラスメントを再び繰り返さないために
プログラム教職員一同より

1.はじめに

 2023年1月、未来共生イノベーター博士課程プログラムの履修生から、大阪大学全学ハラスメント相談室に相談があり、プログラム内の上下関係、セクハラ、パワハラなどの問題について調査してほしいという要望がありました。その後相談者の意見を聞きながら関係者への聞き取り調査がなされ、その報告書の内容が、8月末に澤村信英教授(人間科学研究科、プログラムコーディネーター)と志水宏吉教授(人間科学研究科、前プログラムコーディネーター)の2名に対して告知されました。

 その報告書は、当プログラムの内部で、複数の加害者と複数の被害者がかかわる多くのハラスメント事象が生起したという事実を示すものでした。より具体的には、ほとんどが男性助教と女性大学院生の間で生じたセクハラ・アカハラ・ストーキング等に関するものであり、名前が挙げられた助教の数は4名にのぼります。その他、プログラム教員のマタハラに関する事象も取り上げられていましたが、その人物の性別・氏名等は不明とされていました。

 私たちは、まずこの事実を受け止めると同時に、ハラスメントを受けた相談者がどのような思いで相談窓口にたどりついたかを考えました。長期間にわたりハラスメントの経験に苦しめられ、追いつめられてきた相談者が勇気を持って声をあげてくださった現実に対し、本当に申し訳なく感じ、この間なにもできなかったことを心からお詫び申し上げます。さらに、今回の一件は、加害者たちの個人的な問題というよりは、組織の構造的な問題という側面が強く、プログラムに関わるすべての者が受け止めていくべきことと受け取りました。

 私たちは、各種のハラスメントを、研究・教育を受ける権利や、良好な環境の中で安心して大学院生活を送る権利を侵す人権侵害行為であり、決して許されるものではないものと考えます。大阪大学「未来共生イノベーター博士課程プログラム」において、多くのハラスメント事象が起き、それに対応しきれなかったことを深く謝罪いたします。

2.申し立てを受け、何をしたか

 まず、運営統括会議において、現在プログラムにかかわっているすべての教職員に報告書の内容を周知し、意見交換を行いました。独自の調査を行うべきであるという声もありましたが、名前のあがった助教(すでに全員が退職している)については、2023年9月の時点で、プログラムが現在位置づいている人間科学研究科長と間で面談が行われ、それぞれ謝罪文が提出された旨報告を受けたので、それをもって事実認定は済んだものと判断しました。

 そのうえで、今回の事柄を真摯に受け止め、自らの行動を振り返るため、プログラム運営に関係してきた教職員および2018年以降未来共生プログラムに設置された「ハラスメント相談窓口」の第三者委員に呼びかけ、組織として内省する場を10月、11月に持ちました。そこに参加し、意見を述べた関係者は、トータルで二十数名にのぼります。その場で共有されたことについてお伝えします。

 当時プログラムの運営に関わっていた者からは、「ショックを受けた」「知らなかった」「驚いた」「自分は鈍感だったのかもしれないが正直驚いている」といった声があげられました。また、特任教員として関わっていた者からは、「気づくべきだったのに気づかなかった」「なぜ早く止められなかったのか」「防げることもあったのではないか」などの声が聞かれました。特に女性教員からは、「嫌な気持ちになった、嫌悪感を覚える、これを学生が受けたと思うと言葉にならない」「自分がほとんど知っていることだということもあった」「個人的には驚かなかった。ある程度知っていることもあり予測できた」「最初の年からこのようなことはあった」といった声があがり、「ハラスメントについて、あえて男女で分けて言えば男性がこのようなことをどう認識しているのか」という、受け止めを問う発言もありました。

 そのような中、大学で起きたハラスメントは男女間や個人間の問題に矮小化しないという前提を共有したうえで、組織として履修生を守ることができなかった、取り返しのつかないことが起きたという事実の重さについての認識が確認されました。

 外部のハラスメント相談窓口の第三者委員4名からは、特に厳しい指摘がありました。

 弁護士である第三者委員からは、土壌の問題と体制の問題を明確にして分析をすすめるべきという指摘がありました。土壌の問題とは、体質的な問題とも重なります。指摘された、プログラム全体のヒエラルキー、モノが言えないムード、意思決定の不透明さ、なにかを隠されているような雰囲気、男性優位で女性差別的な振る舞い、そうした組織文化があったことは否めません。また、体制の問題というのは、ハラスメント事象に対する大学組織やその中でのプログラム組織がいかに対応するのかという問題です。委員からは、そのことが適切に行われなかった原因をきちんと検討する必要があるのではないかという指摘がありました。

 高校教員である第三者委員からは、ハラスメントが当該学生にとって取り返しのつかない一生の傷であることへの大学関係者の自覚のなさや、繰り返さないための加害者への取り組み、大学関係者に権力を持っていることを自覚してもらうことの重要性が指摘されました。とくに性加害については、組織がもっと当事者的に捉えないと、ただの反省会になってしまうという意見が、他の参加者から付け加えられました。

 元小学校教員である第三者委員からは、被害を受けた人が安心できるために組織が変わること、自分が訴えたことでこう動いたと感じられることが重要ではないかと指摘がありました。誰もが傍観者とならないよう、変えていかなくてはならないと感じたと話されました。

 精神科医である第三者委員からは、企業等で行われている入職時のハラスメント研修などだけではほぼ意味はない。すでに組織内部にはヒエラルキーや上下関係があり、その中でどのような行動が問題であるか、現場で気づく力をつけていく必要があるとの指摘がなされました。同様に、大学では学生たちが今の社会構造の中で何を変えていくことができるのか考えるような場(授業やプログラム等)の必要性が述べられました。昨今の状況を鑑みても、内部調査の意味は薄く、ハラスメント委員会は外部者で構成されるべきであることが強調されました。

 前プログラムコーディネーターからは、2回にわたる会の中で、女性教員からあげられた、「このような問題の種となるような違和感は当初からあり、それにつながるような学生からの声を拾っていた」といった発言に対して、「わかっていたならなぜ言ってくれなかったのか」という気持ちも生じたが、そもそもそれを自らが感じ取れなかったこと、それ以前に自分の顔色を窺わせてしまうような土壌のもとで問題が顕在化せず、致命的な見過ごしにつながってしまったという反省が述べられました。

 また、ひと昔前には当たり前とされていたような大学の古い体質を変えていくためにも、今、大学を牽引している男性中心の世代の、できることから変えていくという姿勢こそが、次世代での変化につながるので、そのような趣旨のステートメントを出してほしいという声もあげられました。

 これらのプロセスを経て、わたしたちは次のような課題認識を行い、その善後策について考えました。

3.課題は何か、どのように対応するか

1)リーディング大学院としての組織の問題点
 当プログラムは、大阪大学の教員が兼任で組織をつくり、多額の予算を執行することや、多くの部局にわたる調整を必要とすること、さらには特任というステータスで雇用された多くの教職員を管理運営しなければならなかったことから、実質的な運営方法としてトップダウン的な手法を取らざるを得ない側面がありました。

 そのなかで、前プログラムコーディネーターをはじめ組織運営の中心となるメンバーはほぼすべて男性教授で固められ、ヒエラルキーや上意下達を旨とする組織構造が立ち上げ当初から顕著となりました。そのことが各種のハラスメントを生む土壌となり、それが年月を経るなかでも温存されていきました。

 プログラムは学際性を特徴とし、専門性が異なる多様なバックグラウンドをもつ学生や教員が集まり、そこにはそもそもの優劣はないはずでした。しかしながら、教員や学生の所属部局の数的な偏りやそれに伴う情報量の違いによって、「格差」が生まれ、そのことに違和感を持ったマイノリティの立場におかれた学生が、結果としてプログラムを離脱したり、継続を諦めなくてはならない状況も生じました。

 共生を理念として謳う組織の中で、顕在的・潜在的な力関係が生起していたにもかかわらず、それが当たり前、そのやり方を仕方ないと是認する関係教職員がほとんどであり、主として女子学生に対するパワハラやセクハラを未然に防止し、より民主的で透明な組織運営に変えていこうという動きは残念ながらほぼありませんでした。

 さらに、正規教職員、特任教職員、その最下位に学生が置かれるといった大学という組織が持つ階層構造やそこで生じる差別や抑圧についても、あまり注意が払われていませんでした。学生が傷つく状況が起きていたにも関わらず、未来共生プログラムとしてのさまざまな授業や研修やイベントなどの場において、そうしたことについての対話がされることはほぼなく、かりにそうした事柄について聞いたり知ったりしても、モノが言えない雰囲気があったり、まともに受け止めてくれる人もいなかったりで、結果として組織内からは問題提起がされることはありませんでした。

2)今後の組織・教育体制づくりのために
 私たちは、今後の組織・教育体制づくりには次のような視点が重要であり、それらの実現に向けて努力していきたいと考えています。

  1. ① 大学の教育プログラムでは、履修生の教育を受ける権利を保障する必要があります。私たちプログラムの運営にかかわる者は、一人一人の人権が守られ尊重され、ハラスメントによる人権侵害の防止や、万一ハラスメントが起きた場合には関係者全員が行動をとることができるような環境づくりに努めます。また、ハラスメント窓口には組織関係者が入らないようにします。
  2. ② 組織を構成するメンバーについて、ジェンダーをはじめとする多様性がそもそも確保されなくてはなりません。また、組織の人事、授業運営やカリキュラムにもそうした視点が反映されるべきですし、そのことを明確に掲げ、構成員一人ひとりが自覚を深めていかなければなりません。
  3. ③ 意志決定のプロセスにおいて、特定の人物や部局の意向のみが反映しない組織づくりが求められます。実質的に男性優位社会である大阪大学において、組織を運営する側の中心に位置づく人たちは、自分たちの存在がすでに一定の権力を持っていること、その一挙一動が組織の体質に大きく影響を与えることに常に自覚的であるべきです。また、そのような立場に置かれた者は、ハラスメントが起きないための行動を積極的にとらなければなりません。
  4. ④ 今回主に取り上げられているのは、助教と学生たちの間に生じたハラスメント事象です。当プログラムでは、出発当初はさまざまなキャリアやバックグラウンドを持つ助教を雇用しましたが、その人たちが代替わりしていくなかで新たに雇用された人たちは、元履修生に偏っていました。事情がよくわかり、履修生たちのよき先輩になれるだろうという判断からでしたが、そのことが今回の問題の原因のひとつとなりました。助教の採用にあたっては、採用基準を明確にし、採用のプロセスの透明性を大事にします。また、採用時研修等において、教員と学生との間には明確な線引きが必要であり、教員として学生と適切な距離感を保つことを周知徹底します。
  5. ⑤ 組織のすべての構成員(教員・学生・外部者等)が、オープンでフラットな人間関係を構築できるために、どのような仕組みや工夫がありうるかを常に意識します。世代、ジェンダー、外国人、性的指向、障害の有無など、特にマイノリティの立場に置かれやすい人びとを意識し、あらゆる機会において十分な参加が確保されるよう配慮します。同時に、授業やイベント・研修等を通じて、ハラスメントを起こさないための実践的な学びを構築していく必要があります。教育の現場において、おかしいことはおかしいと言える風土をつくらなければなりません。さらに、学生が主体となって組織を変革することが可能となるさまざまな機会が設けられるべきです。思っていても言えない、言っても取り上げられないだろうといった諦めの状況がうまれないように努めていきます。

3)未来共生プログラムハラスメント対応相談窓口の問題点とその改善
 2018年をきっかけに、大阪大学ハラスメント相談室と連携したハラスメント相談窓口がつくられました。以降、毎年第三者委員への依頼の確認も含め、決して形式的なものではないことが説明されましたが、実質的に機能しなかったのは、組織そのものの体質を変えるものではないという認識が形成されていたからでしょう。「訴えても結局もみ消されるだけだという印象をもっていた」という学生の言葉は、まさにそのことを象徴しています。ハラスメント相談窓口の機能に関しては、大学の相談窓口との連携はあったものの、プログラム組織としての振り返りや再検討の機会はありませんでした。今回第三者委員の皆さんから改めて貴重なご指摘を得ることができました。相談窓口を担当する者の人選も含めて、学生たちが安心して相談できる窓口の設置に向けての努力がなされていなかったという事実を肝に銘じなければなりません。

  1. ① 学生たちが、その匿名性も守られ安心して相談できる、客観性や独立性を重視する窓口の設置の努力が求められます。大阪大学ハラスメント相談室との連携のあり方や、相談窓口と組織との関係性(窓口の外部化など)の見直しが必要です。特にハラスメント委員会は、第三者で構成されていることが強く求められます。
  2. ② 相談窓口に関する組織の認識を強化し、相談体制や窓口を定期的に見直し、ハラスメントが起こった場合にすべての関係者が適切に対応できるように、組織としてのガイドラインを共有する必要があります。また、大学内外を問わず教育・研究活動のいかなる場においても、ハラスメントについてタブー視せずに誰もが声をあげられるような、実践的な学びが推奨されるとともに、問題解決に向けて相談窓口との有機的連携を構築していく必要があります。
 

4.おわりに

 今回の調査報告書のなかには、「プログラムが謳っている共生という理念とプログラムの内実の落差に失望する声が度々聞かれた」という指摘がありました。また、今回わたしたちが振り返りをするなかで、共生を謳っているプログラムでこのようなことが起きた責任を問う発言が内部からも出てきました。共生は決して理想としてのみ存在するのではなく、現実のこうした問題にしっかり丁寧に向き合うことからしか始まりません。

 未来共生プログラムは来年で実質的に終了します。しかし、大阪大学において、さまざまな部局が連携して実施するプログラムや各種の現場に赴きながら実践的な学びを積み重ねていくプログラムは、今後も続々と生み出されていくことでしょう。今回未来共生プログラムで起こったこと、そしてそうしたことを二度と起こさないために何が必要かを本文書に書き記しました。二度とハラスメントが起きないよう、私たち一人ひとりが自分自身の場で新たな実践をはじめていくことをお約束します。

2023年12月26日
未来共生イノベーター博士課程プログラム 教職員一同

 

前コーディネーターとして
受講生およびすべての関係者のみなさまへ

 未来共生プログラムとしての見解は「ハラスメントを再び繰り返さないために」という文書にまとめましたが、それとは別に、当時責任者的な役割を果たしていた私個人の考えを申し述べさせていただきます。

 まずは、未来共生プログラムを履修するなかでハラスメントの被害を受けた方々に、当時の責任者として深くお詫び申し上げます。共生を掲げる教育プログラムのなかでこうしたことを起こしてしまい、慙愧に堪えません。謝ってすむことではありませんが、本当に申し訳ありませんでした。

 次に、勇気をもって本件を全学ハラスメント相談室に持ち込んでくださった相談者の方、そして調査委員会の聞き取りに参加してくださった方々に心から感謝します。皆さんの率直な声を聴かせていただくことで、私をはじめとする関係教職員は、自分たちが行ってきたことに対して心から反省する機会を得ることができました。その結果として、まとめたものが前出の文書です。

 複数の被害者と加害者を生むという事態を生じせしめたのは、組織の構造なり、体質に問題があったからに他なりません。その構造・体質をつくる中心を担ったのが、当時のコーディネーターとしての私自身であった、と今回改めて自覚しました。自分がもつ大きな権力を当然視し、自己中心的な視野から物事を眺め、周囲の人々を無反省に動かそうとしたことが、今回の事態を招いた真の原因だと深く反省しています。

 前出文書のなかには、組織を変えていくためのポイントをいくつか掲げています。ただ、それらを十分に実行するための時間は、もはや未来共生プログラムには残されておらず、私自身も今年度をもって大阪大学を退職することになっています。今回のことを未来共生内部のみで対処するだけでは不十分です。未来共生で何が起こったのか、それを私たちがどのように反省し、対処しようとしているのかを、私が在職中に大学の上層部にお伝えし、今後の大阪大学の大学院教育への参考・教訓としていただければと考えています。

 私は、今回皆さまのおかげで自分の至らなさを自覚し、自分を作り変えていく契機を得ることできたと感じています。皆さまからいただいたご指摘やご意見を心に刻みながら、身を正して、今後の自分自身の生活を組み立てていきたいと思います。

2023年12月26日
未来共生イノベーター博士課程プログラム元コーディネーター
大阪大学大学院人間科学研究科 教授
志 水 宏 吉

 

未来共生イノベーター博士課程プログラムの責任者として
受講生およびすべての関係者のみなさまへ

 まずは未来共生プログラムの責任者としまして、同プログラムを通してハラスメントを受けた皆様に対し、心よりお詫び申し上げます。未来共生イノベーター博士課程プログラム(以下、未来共生プログラム)は、その時々の人間科学研究科長を責任者として運営されてきました。

 大阪大学全学ハラスメント相談室に相談がなされますと、その概要が人間科学研究科長である私に伝えられます。本件も2023年1月に報告を受け、事態の深刻さを認識しました。相談者からの要望にもとづき2023年2月から3月にかけて、調査委員会を設置し、関係者への聞き取り調査を実施しました。その結果に基づいて、次のような対応を行いました。

 まず、私自身が、今も科目を担当するなど未来共生プログラムに教員として関わっておりますので、この問題が主として生じていた当時のプログラム責任者である栗本英世名誉教授に、問題の対応について指導していただくよう依頼しました。2023年4月から7月にかけて、対応について相談員、相談者を含めて関係者の間で種々協議を行い、8月以降以下のような対応を実施しました。まず、ハラスメントに関係する人物が特定されるケースについては、現プログラム責任者として、相談室相談員立ち会いのもと、本人と直接面談し、指摘された言動の有無を確認し、その加害性を十分に認識してもらえるように努め、それぞれに文書にて謝罪と今後の姿勢を明示してもらいました。文書は研究科長として預かり、研究科において保管されています。

 また、栗本名誉教授より、未来共生プログラムという組織への問題の説明と対応について要請が行われました。具体的には、現プログラムコーディネーターの澤村教授および前プログラムコーディネーターの志水教授に対し、調査結果についてプログラムとして文書による対応が求められました。その結果、プログラム教職員一同による文書と、長期にわたりコーディネーターを務められ実質的な現場責任者であった志水教授による文書が提出されました。前者は、対面およびオンラインの会議の結果を集約し、プログラム教職員全員に内容の吟味を重ねてもらい、合意にいたったものです。その過程については、現在のプログラム責任者として私も常時モニターし、各教職員が真摯に対応していたことをここに申し添えたいと思います。

 私は、未来共生プログラム責任者としまして、また人間科学研究科長としまして、これら2つの文書に書かれたことを、深く理解し、反省をともにして、人間科学研究科で二度とこのようなことを繰り返さないように積極的な対策を講じていきたいと考えております。未来共生プログラムは終了していきますし、私自身の研究科長としての任期もあと2ヶ月で切れますが、次期研究科長には内容、経緯、私どもの決意を確実に引き継ぎ、部局としての対応を展開して参ります。どうか厳しく見守って頂ければ幸いです。

 最後になりますが、未来共生プログラムに教員として関わってきた者の一人として、個人的に謝罪をさせてください。ハラスメントで傷つき、苦しみ、相談せざるを得ないところまで追い込んでしまったこと、受講生の中には、傷つき苦しみつつも相談できずに苦しんでいる方々がまだいらっしゃるに違いないことなど、どれ1つとして謝罪してすむ問題ではないと自覚しています。これからも共生を考え、活動していく立場にある者としまして、常に自分自身の言動に潜む様々な要因-意識的・無意識的なバイアスとそれに対応する際に生じる意識的・無意識的なバイアスという構造-に徹底的な注意を払って、自己の至らなさを自覚し、修正していきたいと想います。一緒に過ごした履修生の皆さんお一人お一人を思い浮かべながら、心からのお詫びを申し上げます。

2024年1月17日
大阪大学大学院人間科学研究科長
渥 美 公 秀

 

未来共生イノベーター博士課程プログラムの元責任者として
受講生およびすべての関係者のみなさまへ

 私は、2016年4月に人間科学研究科長に任命されました。それに伴い、未来共生イノベーター博士課程プログラム(以下、未来共生プログラム)の責任者(プログラム全体の代表者)を務めることになり、2018年3月まで継続しました。それ以来、人間科学研究科長がプログラム責任者を務めることになっています。責任者になる以前、私はプログラム担当者として未来共生プログラムに係わっていました。

 2023年1月に、未来共生プログラムの元履修生が、大阪大学ハラスメント相談室に相談したことに端を発して明らかになった、プログラム内部における複数の加害者と複数の被害者の実態については、同年3月に私の知るところとなりました。私は2022年3月末に大阪大学を定年退職していましたが、申し立てられた事案の多くは、私が責任者であった時期に発生していたため、連絡を受けたのです。ハラスメントの実態を知った私は、二つの意味で衝撃を受けました。第一に、問題の深刻さ、第二にプログラム責任者としての責任という二つの意味です。事案が複数のものから構成されていることは、単発の偶発的な出来事ではなく、未来共生プログラムの運営方法に係わる構造的な問題であることを示していました。次に、プログラム全体の責任者であるべき当時の私が、これらの問題が生じていることを、まったく認識していなかったという事実があります。責任者としての責任を果たしていなかったと言わざるを得ません。自らの不明を恥じる次第です。

 まず、当時のプログラム責任者として、深い精神的傷を負った被害者の皆様に、心からお詫びいたします。また、今回申し立てを行った被害者の皆様の他にも、未来共生プログラムについて不快な思いをし、不信感を募らせた履修生の方々がいたことと思います。こうした皆様にもお詫びいたします。そもそも未来共生プログラムは、多文化共生社会を実現することを目的としており、そこにおいては社会のマジョリティが、自らの立場を批判的に自省する能力と、そして様々なマイノリティの立場を理解し寄り添う姿勢を涵養することが決定的に重要であるとされていたはずです。それにもかかわらず、複数の男性教員が、複数の女性履修生に対して不適切なかたちで権力を行使するという、典型的なハラスメントが生じてしまったことは、痛恨の極みです。

 元プログラム責任者として、私は、当時と現在のプログラム・コーディネーター、そして現在のプログラム責任者に、この問題と正面から真摯に向き合い、なぜこうした事案が発生してしまったのかを、関係者全員で検討するとともに、被害者の方々への謝罪の方法を考えてほしいとお願いしました。その結果は、プログラム教職員一同による文書「ハラスメントを再び繰り返さないために」と、前コーディネーターと現責任者による文書にまとめられています。

 私は、これらの文書を公開することにより、被害者の皆様の心の傷が少しでも癒されること、そしてこうした事案の再発防止に貢献することを、心から願っています。

2024年1月15日
元人間科学研究科長、元プログラム責任者、大阪大学名誉教授
栗 本 英 世


 

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