法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドキュランドへようこそ』「SNSが作った“世論” #ジョニー・デップ裁判」

 フランス制作のドキュメンタリ。ジョニー・デップアンバー・ハードの元夫婦がDVの有無であらそった裁判に対して、SNSが男性至上主義にむしばまれていった問題を切りとる。
www.nhk.jp
 すでに日本でも報じられているように、元夫婦の裁判はデップの勝訴で終わった。
 しかしDV事件の実態がどうであれ、裁判に同調や反発するようにSNSではびこった誹謗中傷は独立して問題視できる。たとえ有名なDV事件ひとつが虚偽だったとしても、それだけで他の多数の訴えが無効化されるべきでもない。
 くわえてデップ側の弁護士が裁判前に複数のYOUTUBERに接触していた*1。つまりSNS側の一方的な熱狂というわけでもないし、それが判決を誘導した可能性も示唆されている。
 その傍証として、SNSの影響が少なかっただろうザ・サンの記事をデップが訴えた英国での裁判は先に敗訴に終わっていた。


 日本における裁判とSNSの動きとして、オープンレター「女性差別的な文化を脱するために」をめぐる裁判などを連想した。
オープンレター「女性差別的な文化を脱するために」をめぐる裁判で、オープンレターを発表した側の勝利で和解したという発表 - 法華狼の日記
 こちらはオープンレター側の勝訴和解で終わったが、その結果に不満をもらす男性研究者も複数いる。
訴訟をとりさげた呉座勇一氏の反省部分に対して、関西学院大教授の千野帽子氏は「どっちが上品か」で考えてしまうとのこと - 法華狼の日記
 裁判の結果を軽視するようにオープンレターの署名者を嘲笑するような表現も今だに見かける。
 一定の事実が認定されても、かたむいたSNSの流れはやすやすと変わらない。
 それは英国の裁判でデップが負けた後も男性至上主義者が応援していた事実でも示されている。


 また、デップとハードの裁判映像が公開されたことで、一方の一挙手一投足が事実から切りはなされて嘲笑するための素材につかわれた。
 大量のワインを飲んで罵声をあびせるデップの姿が映像として提示されたが、その量をしめす「メガパイント」という表現が冗談のようにあつかわれたり。
 これは情報流出させてしまったNHKが被害者へ謝罪した写真が、なぜか被害者が非難されるべき根拠のようにあつかわれた事件を思い出す。
NHKのColaboへの謝罪が公開されたことと、面談が非公開であることを混同した陰謀論が生まれている - 法華狼の日記


 そして裁判においてハード側の弁護士がパフォーマンスで示した化粧品が当時は販売されていなかったという事実があった。
 あくまで例示にすぎなかったものを致命的な虚偽ととらえてしまう危険は、そうした細部に拘泥しがちなひとりとして他人事とは思えなかった。
 しかし同時に、その事実を提示する映像をわざわざ化粧品会社が公開したことには唖然とした。
 もちろん日本でも炎上に便乗するように宣伝したと思われる事例は多々あるし、直近でもいくつか思いあたるところはあるが……


 いずれにしても、今回のドキュメンタリで映された出来事は遠い日本の片隅にいても既視感がつきまとった。誤解をおそれずにいえば、女性差別にかぎらない問題と受けとるべきだろう。
 それゆえ本題のDV事件そのものには興味関心がうすくてもインターネットにふれているなら視聴する意味があると思えたし、自分自身がどちらの側にも立ちうる危険があるということも思った。

*1:そのひとりが流したカウンセリング時の夫婦の音声は、たがいに暴力をふるっていたことを認めていた音源を、あたかもハードが一方的に暴力をふるっていたかのように編集されていた。長い音声を編集抜粋することは一般的に悪いことではないし、注目させたい部分を強調することも言論の自由だとは思うが、せめて中略したことは明示するべきだろう。

  • 細長の野望

    暇空茜が引き起こした例の事件も、メディアにドキュメンタリを作ってほしいと思いますが、それはまだ先のことになりそうだなと思いました。
    しかし、仮にドキュメンタリが作られたとしても、暇空茜を支持する人々を変えることは難しそうだなと思いました。彼らのような人たちを変えるにはケアが必要かもしれません。男性が寄り添ってケアをする必要がありますが、そういうことをしてくれる男性がいるかは不明です。

  • s3731127306973

    わたしがみるところ、器の小さい連中同士で「つるんでいる」だけですよね。そういう欲望が技術によって大々的に実現できてしまった、そしてそれを罰するにはものすごいエネルギーがいる。それは実際のところ、人の命すら奪える権力といっていい。

    ほんの少し前にこういう記事(上)が出まして、私は自分の言葉で正面から批判しました(下)。なぜかといえば、この記事は実質的に、命にかかわる問題を投げ出す、そのかわり権力を手放す気はない、という宣言になっているからです。あるなら、はっきり書くはずです。信じがたいですが、もう認めるしかないとわたしは覚悟しています。
    ttps://orangestar2.hatenadiary.com/entry/2024/02/13/174845
    ttps://s3731127306973.hatenablog.com/entry/2024/02/16/061531

  • hokke-ookami

    読み返すと、書き出しと注記が説明不足だったり読みづらかったりしたので、少し変更しました。


    細長の野望さんへ
    >暇空茜が引き起こした例の事件も、メディアにドキュメンタリを作ってほしいと思いますが、それはまだ先のことになりそうだなと思いました。

    前例になりそうな余命三年時事日記の懲戒請求扇動事件は、2017年にはじまった事件が2018年から弁護士に反撃され、バラエティですが『世界仰天ニュース』で題材となったのが同年。
    くらべると、暇な空白氏の生みだした問題がきちんとメディアで問題視される速度が遅い気はします。一応、行政監査や裁判をマネタイズにもちいる問題でもあるので、専門的なWEBメディアの弁護士JPニュースは2023年のワースト2位に選んでいますが、マイナーですね。
    https://www.ben54.jp/news/790

    >男性が寄り添ってケアをする必要がありますが、そういうことをしてくれる男性がいるかは不明です。

    ただ、そもそも集団でよりあつまった結果として誹謗中傷がさまざまな相手に殺到しているわけですからね……


    s3731127306973さんへ
    >なぜかといえば、この記事は実質的に、命にかかわる問題を投げ出す、そのかわり権力を手放す気はない、という宣言になっているからです。

    その記事については、インターネット文化を専門知あつかいしているのではなく、むしろインターネット文化に問題がある時にそれを批判したような専門家がインターネットから離れていっている問題を指摘していると読みとりました。
    実際、過去に熱心にSNSでツイートしていたフェミニズムの専門家の発信がとだえているところを見かけたりしています。
    インターネットが情報インフラになってしまっている現状がある以上、なんらかのかたちで専門家がとどまってほしいし、その際に無用な攻撃が専門家に集中するべきではない、というのが現状の私の考えです。

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