【2024/2/29非公開予定】「宇宙世紀……じゃない? スパロボだ、コレ!?」   作:永島ひろあき

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もう少しだけ本編開始前の外伝的なお話を挟みます。
本編開始前に主人公の行った仕込みについて、ダイジェスト風味でつらつらと。


第五話 予約特典についてくる前日譚のお話

 新代歴179年12月31日、ジオン公国の宇宙要塞ア・バオア・クーが陥落し、ア・バオア・クーにて指揮を執っていたジオン公国総帥ギレン・ザビ、さらにその妹キシリア・ザビの死亡が確認される。

 これに伴いガルマ・ザビを首相とするジオン共和国臨時政府が、地球連邦政府に終戦条約の締結を申し入れ、地球連邦政府がこれを認め、新代歴180年1月1日、グラナダにて終戦条約が締結される。

 後の世に言うこのグラナダ条約によって、一年戦争は終結を迎えたのである。

 

 ジオン共和国の存在を認められないギレン派、キシリア派、またあるいは敗戦を認められない者達は、火星と木星の間のアステロイドベルトに存在する小惑星基地アクシズへ向かい、あるいは宇宙の闇や地上のいずこかへと潜み、地球連邦への反抗の火を燃やし続けた。

 それでも表立っては地球圏全土に及んだ大戦は終わり、多くの人々はようやく訪れる平穏な日々に胸を撫で下ろしたものだ。

 

 しかし悲しいかな、ヘイデス・プルートばかりは考えれば考える程危険しかないこの世界の未来に思いを馳せて、何時まで経っても心安らかにとはいかないのであった。

 どうにか平穏な晩年を過ごして天寿を全うする為に、彼は頑張るしかなかった。

 たとえこの世界が純粋な宇宙世紀のみの世界であったとしても、これからコロニーが落ちるわ、コロニーレーザーで地球が撃たれそうになるわ、核ミサイルの雨が降りそうになるわ、アクシズが落とされそうになるわと物騒極まりないのである。

 更に地下勢力・異星人・並行世界・未来ないしは過去勢力・異次元勢力からの侵攻や、宇宙のルールによる試練があるかもしれないのだから。なんともはやとんでもない世界に生まれ変わってしまったものである。

 

■新代歴180年2月某日

 

 一年戦争の終結からおおよそ一か月半後、ヘイデスはヘパイストスラボからの緊急連絡を受けて、それまでサインしていた書類を放り出して一目散に向かった。ギフトに関する緊急事態を告げる連絡であった為だ。

 ヘパイストスラボも常の余裕を半分ほど忘れた慌ただしさに包まれており、ヘイデスを迎えた所長の顔も険しさの割合が多い。

 

「ようこそ、総帥。ゆっくりとお話をしたいところですが、今はそれどころではございません。急ぎ、地下格納庫までおいでくださいな」

 

「ああ、分かっている。案内を頼むよ」

 

 開口一番、行動を要求する所長に対して、ヘイデスは一も二もなく頷き返す。いよいよこの世界の主人公との対面かと浮足立つ気持ちと、いよいよ地獄の蓋が開くのかという恐怖が彼の心の中にあった。

 ドイツはバイエルン州からオーストリアのチロル地方にかけての民族衣装であるディアンドルの上に白衣を着た所長は、プラチナブロンドを後頭部で大きな団子状に纏めたスタイルでヘイデスを先導して行く。

 

「それでどういう事態になりそうなのか、推測は着くのかい? それとも推測も出来ないような緊急事態かな?」

 

 ヘイデスとしては後者の方が厄介だ。思わぬ良い方向に転がる可能性もあるが、それ以上に悪い可能性に転がった場合のバリエーションが豊富過ぎる世界に生きているから、どうにか予測の着く範疇に収まってほしい。

 

「ギフト内部の生命反応が活発化しています。加えてギフト自体も緩やかにエネルギー反応を高めています。次に起こる事態の想像は着いておりますので、お呼びしました。まあ、危険なことにはならないかと」

 

「所長の事は信じているからね。君が危険はないというのなら、それを信じるだけさ」

 

「あら、プルート財閥の総帥ともあろう方が、そんなに簡単に信じると口にしてよいので?」

 

「ああ、所長ならいいのさ。僕の名前はギリシャ神話の冥府の神ハデスから取られたけれど、その僕にとって君はペルセポネだ。なにをしてでも自分の傍に置きたいと願った女神のようなもの。その君を信じない理由はない」

 

 迷いなく、恥じらいもなく断言するヘイデスに対して、所長が返事をするまでには随分と間があった。

 

「…………そうですか」

 

 通りすがりに二人のやり取りを耳にした独身所員の何人かは、けっ、と吐き捨てるか羨ましそうに二人を見ていた。

 なにはともあれ所長に先導されてギフトことヘリオースもどきを保管している格納庫に着けば、地鳴りを思わせる小さな音が機体から漏れ聞こえ、機体の装甲の隙間からも太陽を思わせる黄金の光の粒子が漏れ出ている。

 事前にパワードスーツとしての機能を組み込んだ気密服に着替え、二人は格納庫へと足を踏み入れた。鎧を纏ったノーマルスーツめいた気密服だったが、パワーアシスト機構が着いている為、重量はほとんど感じられない。

 同じ気密服を着こんだ所員達が解析装置やプチモビを持ち込み、ギフトの異変を調査中だった。

 

「この金ぴかの粒子って、触っても大丈夫?」

 

 ヘルメットの中にある通信機で所長に尋ねれば、せっかくのディアンドル衣装が隠れてしまった所長は、肩をすくめて答える。

 

「解析できませんでしたので、なるべく触れないようお気を付けください。何かしらのエネルギーの放出であるのは確かですが、なにかの物体に触れると自動で消えるのです」

 

(ゲッター線は緑色の光だったよな? ガンダム00のアルヴァアロンのGN粒子が金色だったけれど、あれは色がそうなるように調整したって設定だったっけ。まさかそのGN粒子ってわけもないだろうし……)

 

 大丈夫かなあ、でも所長を信じるって言ったしなあ、と心の中でおっかなびっくりしながら、ヘイデスと所長はブーム式リフト車のバスケットに乗り込み、ヘリオースの上へと回る。

 装甲の隙間から漏れる金色の粒子は心なしか量が増しており、二人がちょうど腹部の真上に来たところで、待ち構えていたように装甲の一部が開き始めたではないか。

 

「所長、あれはコックピットハッチだったりするのかな?」

 

 いよいよ主人公の登場か、と久しぶりに純粋な興奮に襲われたヘイデスが指さす先を、所長もバスケットから身を乗り出すようにしてのぞき込んでいる。

 そうして向こうからの行動がなにかあるかと待ってみたが、五分経っても十分経ってもなにも起きず、ヘイデスがどうしたものかと首を捻っていると、痺れを切らしたのか所長が大胆な行動に出た。

 

「ふむ、ならこちらから動くとしましょう。行きますわよ、総帥」

 

「へ」

 

 ヘイデスは一言漏らす暇こそあれ、所長に首根っこを掴まれた次の瞬間には宙を飛んでいた。所長がヘイデスを捕まえたままバスケットからジャンプして、ヘリオースもどきのコックピットハッチのすぐ傍に着地したのである。

 

「!?!?!?!?!?」

 

 いくら気密服にパワードスーツとしての機能があるとはいえ、ちょっと人間離れした所長の身体能力と行動力に、ヘイデスが目を白黒とさせている間に所長はコックピットハッチの中へと潜り込んでいる。

 

(やだ、頼りになる)

 

 頼もしい事この上ない所長の行動力に、改めてヘイデスがトゥンクと音を立てて胸をときめかせていると、コックピットに潜り込んだ所長がなにかを抱えてすぐに戻ってきた。

 所長は両手になにかを抱えたまま、ヘルメットの通信機を操作する。

 

「至急、医療班をこちらへ回して。ええ、すぐに、大至急。超特急で。一分一秒を惜しむ気概でおやりなさい。総帥、こちらを」

 

 ヘイデスが口を挟めずにいると、所長は両手に抱えていたモノの片方を押し付けてきた。

反射的に受け止めると気密服越しに、軽減された重みが伝わり、ヘイデスは自分が何を抱えたのかを知ると目を丸く見開いた。

 だって、こんな、あまりにも予想外過ぎる!

 

「あ、赤ちゃん? 双子の!?」

 

「男の子と女の子ですわね。ひょっとしてこの機体はこの二人の揺り籠だったのかしら?」

 

「え、いや、ええ~~~」

 

 ヘイデスと所長の腕の中で、生後一年程と見える金髪の赤ん坊はすやすやと穏やかな寝息を立てていた。

 

(なになになに! どういうこと!? 俺と所長でこの子達を育てろってことなのか? ん、まて、待てよ、揺り籠、赤ん坊の揺り籠?

 ソーディアンか? スクランブルコマンダーに出てきた、あの二人の嬰児を抱え込んでいたソーディアンを連想させるが、でもこれロボットだよな。ソーディアン関連ならどうしてヘリオースに似ている? 単なる偶然か。

 そういえばファフナーのマークニヒトと皆城総士も、エグゾダスで似たようなことになっていたっけ。ふーむ、そうなるとこの赤ちゃん達も既存のスパロボオリキャラの生まれ変わりか、あるいはまったく新規のキャラになるのか)

 

 ヘイデスの内心の混乱や推測を他所に、彼の腕の中の赤ん坊は世界の悪意や暴力をまるで知らぬ無垢な顔で、穏やかな寝息を立てていた。

 そんな顔を見ていると、ああ、どうしてこんな戦乱塗れのクロスオーバーワールドに生まれてきてしまったのだと、憐れみが勝った。ましてや主人公であったとしたなら、なおさら苦難の道が待ち受けているに違いないのだから。

 

(でもこの子達が主人公だとしたら……え、六、七歳で戦う羽目になるのか? そりゃ見た目は成人か十代後半でも、実質一桁年齢のキャラクターはいたけど、この子達を戦わせなければならない展開が、この先に待ち構えているのか?)

 

 ああ、とヘイデスは心の中で嘆息した。自分は良い。知らない方が良かったと後悔する事も多いが、それでも世界に大きな影響を与えられるだけの地位と財力と能力を与えられて、どうにか足掻きもがけているのだから。

 でも、だからといってこんな赤ん坊に世界の命運を委ねなければならなくなるのか? そうしたら、この子達はどれだけ傷ついて苦しみ、悲しむだろうかと、そう思わずにはいられなかった。

 

 ただしヘイデスの悲嘆は、全てが当たったわけではなかった。遺伝子的には地球人類と変わらないにもかかわらず、双子の赤ん坊は数倍の速度で成長していったのである。

 これにはヘイデスも所長も目を見張ったが、だからといって放り出す事は出来ず、非人道的な実験に供するわけもなく、二人はヘイデスの養子として育てられる事となる。

 

■新代歴182年

 

 地球のとある平原にて二機のMSが入れ代わり立ち代わり、それこそ目が追いつかない程の速さで動き回り、互いに銃口を向け合っていた。

 晴れ渡った空に君臨する太陽は、せっかく自分が照らしてやっているというのに無粋な奴らめ、と腹を立てていたかもしれない。あるいは尋常ならざる動きを見せる二機の戦いぶりに、声援のひとつも送っていたものか。

 

 戦っているのは同タイプのMSであった。黄色いV字型のブレードアンテナに人間の目を思わせるツインアイ、機体は白を基調としながら胴体は青く、四肢の各所にも同色の装甲が散らされている。

 RX-78NT-1あるいはガンダムNT-1、この試験場に居る関係者達からはもっぱらコードネームのアレックスの愛称で呼ばれる機体である。

 

 本来は一年戦争期にアムロ・レイの反応速度にガンダムが追従できなくなったのをきっかけに開発された、地球連邦軍初のニュータイプ対応機だ。

 一年戦争終盤にサイド6リボーコロニーの極秘工場で組み上げられるも、ジオンの特殊部隊の奮闘により大破し、軍事要塞ルナツーへと移送されアムロの手に渡る前に終戦を迎えている。

 

 この機動兵器運用試験用の平原で戦っている内の一号機は、正真正銘、ルナツーに保管されそのまま放置されていたものをプルート財閥があの手この手で引き取ってから修理し、現在のパイロット用に再調整を施したものだ。

 実機を用いた模擬戦の相手を務めている二号機も、一号機のデータをそのままにとある部分の改修を除けば、同等の性能を誇る。

 

 いわゆる第一世代MSであるアレックスだが、ニュータイプクラスの反応速度とG耐性を持つパイロットが操縦すれば、第三世代MS――可変型MS並みの性能を発揮する怪物マシーンだ。

 もしア・バオア・クー攻略戦でアムロがこの機体に乗っていたなら、更にニュータイプ伝説を助長させる戦果を挙げたのは想像に難くない。

 

 そしてこの試験場で行われている模擬戦は、アレックスの性能を完全に引き出したものであった。

 それほどのパイロットは、現状では地球連邦とジオン双方を合わせても、果たして十指に届くかどうかだろう。

 アレックス一号機の左肩には一本角を持つ馬――ユニコーンと「A」を組み合わせた赤いエンブレムが施され、二号機には鮮やかな緑の風を思わせるエンブレムが陽光に照らし出されている。

 

 模擬戦である以上、両者の右手に構えられたビームライフルからは、本物のメガ粒子砲ではなく当たり判定の為のレーザーが照射されている。頭部のバルカンや腕部のガトリング砲、バックパックのビームサーベルにしても同じことだ。

 とはいえ模擬戦仕様なのは武装だけで、二機のアレックス達は一年戦争を戦い抜いたベテランMSパイロット達でも度肝を抜かれる反応速度と、神がかった機体制御により、網膜に残像を残すかの如きハイレベルな戦いを演じ続けている。

 

 そんじょそこらのMSとパイロットでは、一個大隊でも鉄板にバターを押し付けるようにまたたくまに蹴散らされるに違いない。

 一号機のパイロットは自分の反応速度に追いついてくるアレックスに、そして思う存分動かせる状況を楽しんでいた。

 

 命のやり取りではなく実働データを取る為の模擬戦であることと、思う存分好きなだけ遊んでいい壊れない玩具を与えられたような気になっていたのが、彼の心を軽く、踊るように弾ませていた。

 彼にとって敵の攻撃は、センサーやメインカメラの捉えた映像よりも先に敵から放たれた殺気を感知し、避けるものだ。ロックオンされてから、相手の指がトリガーを引く前に避けているという常識外れの回避動作を行っている。

 

 しかし二号機から殺気の類は一度も放たれていない。一号機にロックオンされても怯えや焦りはなく、あらゆる感情の排された無機質な感触だけがある。

 逆説的に常よりも不利な状況にもかかわらず、一号機のパイロットは生まれ持った反応速度と多くの戦場で培った経験により、人体では耐えられない動きを平然と行う二号機と互角以上に渡り合っている事を意味する。

 

 フルポテンシャルを発揮したアレックス同士の模擬戦が行われる一方、別の区画では四対四の模擬戦が行われている。

 機体を黒に染め、一部に赤い線を引いたアクシオの最上位機アクシオ・バーグラー四機で構成される組と、アクシオ・バーグラー二機と四つ足の狼めいたシルエットの新型MS二機で構成される組だ。

 

 アクシオ・バーグラーはヘパイストスラボが拡張性の限界に挑み、仕上げたピーキー極まりない仕様の機体であり、現行の技術でアクシオをこれ以上強化するのは不可能と断言する性能を誇る。

 夜盗や強盗を意味する“バーグラー”とは、正規軍に卸すMSとして不適当だが、それは原作への敬意だからとヘイデスが譲らなかった名残だ。

 

 獣めいたMSは、実機の開発に至ったガンダムSEED世界のMSバクゥもどき――アルゴスである。

 古代ギリシャを舞台とするトロイア戦争の英雄オデュッセウスの愛犬からその名を取ったのは、主人の帰りを二十年以上に渡り待ち続けた犬の愛情と忍耐にあやかったからだ。

 

 アクシオ・バーグラー四機で構成される組は、レナンジェス、ミーナ、アーウィン、グレースらプルート財閥の誇るエース四人。

 一方、アクシオ・バーグラーとアルゴスで構成される組は、とあるプロジェクトの為に地球連邦軍から出向しているユウ・カジマ、ヤザン・ゲーブル、ライラ・ミラ・ライラ、ブラン・ブルタークら四人が搭乗している。

 

 無限軌道を活かして地上を疾走するアルゴスは、バクゥそのもののシルエットであったが、頭部はツインアイが採用されてより生物的な印象を強めている。腰の上には連装ビーム砲が装備され、メインウェポンとなる。

 模擬戦である以上、実際にビームが放たれることはないが、それぞれのパイロットのコックピットにはコンピューターが合成したビームの画像が映し出されており、自分が撃たれている事、自分が撃った事の双方が視覚的にわかりやすくなるよう設定されている。

 

「こいつはずいぶんとご機嫌なマシーンじゃないか、ええ!」

 

 アルゴスのコックピットの中で、ヤザンは獣性を剥き出しにした笑みを浮かべて、ロックオンした黒いアクシオへ連装ビーム砲を発射した。左右の砲身から交互にビームを放って、連射性を優先した撃ち方だ。

 それを標的のバーグラーは、ロックオンアラートが鳴り響くよりも早く回避行動を取り、仮想射線上から軽やかに退避する。

 

「きゅぴ~んと来ましたぁ」

 

 機体は素早く、しかし言葉はのんびりと、グレースはヘルメットのバイザーに映し出されるビームを一瞥し、お返しとばかりに乗機の右手にある新型のビームライフルを連射する。

 土煙をあげて疾走するアルゴスの影ばかりを貫くビームに、グレースはあらぁ、と呟いた。残念そうな呟きもぽやんとしている。

 

「ドムとはまた違った速さですねえ」

 

「いい狙いだが、それ以上に回避が上手い。これがニュータイプという奴か」

 

 無限軌道ばかりでなく四足形態での移動も交え、縦横無尽に動くヤザンのアルゴスを追従するグレースのバーグラーだったが、アルゴスが跳び越えた岩の影から飛び出してきたユウのバーグラーの放ったビームを咄嗟に左の盾で受け止めたものの、バランスを崩してしまう。

 脚部のスラスターを吹かしてバランスを保ち転倒こそ防ぐが、その為に使用した一秒にも満たない時間で、ユウはEMダガーを抜き放っていた。

 

「……!」

 

 言葉ではないユウの殺気を感じ、グレースが少しでも損傷を抑えようと思考を巡らせた瞬間に、横合いから飛び込んできたミーナのバーグラーが振り上げたビームハルバードがユウのバーグラーに叩きつけられる。

 ユウのEMダガーは受け止めたビームハルバードの刃を滑らせ、無理に受け切ることなくそのまま機体ごと後退する。ついでに左手で抜き放ったビームマシンガンの掃射を浴びせるのも忘れない。

 

「おりょりょ、今のを避けられるとは、ううん、私の推理ではユウさんはニュータイプじゃないんだけど、流石地球連邦のエースね!」

 

 軽口を叩きながらもきっちりとビームの銃弾を避けている辺りは、ミーナもまた一年戦争を戦い抜いたプルート財閥のエースに相応しい実力者であった。

 

「アーウィンやジェス君達もライラさんとブランさん相手に、いい感じに戦っていますねえ~」

 

 あちらはライラがバーグラー、ブランがアルゴスという組み合わせだ。

 なぜプルート財閥傘下の民間軍事会社アレスコーポレーションの四人と一機、それと地球連邦軍の正規軍人達がヘパイストスラボ印の機動兵器を駆っているかというと、ヘイデスが地球連邦軍に持ち掛けたあるプロジェクトの為である。

 新時代機動兵器技術研究計画――プロメテウスプロジェクト。

 ヘイデスが来たる多作品勢力との戦いを想定し、地球連邦軍の技術とエース達の戦闘データを収集し、またこちらのデータも提供する事で地球の軍事力増強を図ったプロジェクトである。

 

 もちろんこの真意を知るのはヘイデスのみで、この計画を持ち掛けられた地球連邦の軍人達は、戦後、ジオニック社などの債権をろくに買い上げられず、アナハイムに大きく溝を開けられたプルート財閥が焦っているのだ、と嘲笑したものだ。

 地球連邦軍の十年先を行っていると言われるジオンの技術を得られなかったのは、確かに今後のMS開発に於いて大きな痛手だが、ヘイデス個人はそこまで頓着していなかった。

 所長をはじめヘパイストスラボの技術を信頼していたし、ジオンとは別のところでMSに関する技術を手に入れる目途を立てていたからである。

 

 そうとは知らぬ地球連邦の人々は、プロジェクトに掛かる費用のほぼすべてをプルート財閥が負担する事もあって、憐れみと打算を持ってこのプロジェクトに協力を決め、アレックスを始めとした一部のMSや資材、パイロットの提供を行って今日に至る。

 もっともヘイデスに警戒と興味を半々ずつ抱いているゴップや、新組織の設立を虎視眈々と狙っているジャミトフ・ハイマンなど一部の将校や政治家達は、このプロジェクトを立ち上げる隠れ蓑の為に、わざと債権を買わなかったのではないかと疑っているが。

 

『各機、模擬戦を終了してください。繰り返します、各機、模擬戦を終了してください。機体は各ハンガーへ、パイロットはメディカルルームへ』

 

 模擬戦の様子を逐一チェックしていた管制室から連絡が入り、それまでの激しい戦闘が嘘だったように、合計十機のMSが戦闘を止めて、途中でパージした武装や放り投げた盾を回収しつつ、試験基地へ戻り始める。

 そんな中、アレックス一号機のパイロットは引き抜いていたビームサーベルをバックパックに戻しながら、対戦相手だった二号機を労う。

 

「今日はここまでか。君もご苦労、ゼファー」

 

 ヘイデスがもっとも苦心して監禁生活を送る寸前に本プロジェクト参加が決定した、一年戦争の英雄アムロ・レイは、二号機のコックピットブロックに収められている、無人機の完全自立制御を可能とするシステム“ゼファー”へまるで同僚の如く声をかけるのだった。

 音声や文章による応答機能を持たないゼファーから、アムロへの返事は当然なかったが、それでもこうして模擬戦の度になにかしら声掛けをするのは、アムロに限らずプロメテウスプロジェクトに参加している人員にとっては、当たり前の習慣となっていた。

 

 模擬戦を終了した機体とパイロット達が続々と帰還してくる中で、管制室に詰めていた所長は、アレックス運用に関するアドバイザーとして出向してきた女性に声をかけた。

 元々はアレックスのシューフィッターを務め、リボーコロニーではアレックス破壊を試みるジオンの特殊部隊サイクロプス隊のMSと激闘を繰り広げた女性だ。柔和な印象を受ける美貌からは、それだけの修羅場をくぐった軍人だとは想像もつかない。

 ちなみに本日の所長は、紫のロングスカートに白のタートルネックのセーターという出で立ちだ。

 

「いかがでした、クリスチーナ。アムロさんの一号機とゼファーの二号機の稼働データは、よいものがとれまして?」

 

 地球連邦軍の軍服に身を包んだクリスチーナは、本来搭乗を予定していたパイロットの操るアレックスの戦う様を何度も目にしているが、目にする度に驚きに襲われている。

 

「はい。アムロ中尉もそうですがゼファーも模擬戦を重ねる度に、機体性能の限界に挑んでいるようなものですから、このプロジェクトが発足しなかったら到底得られなかったデータが取れています。

 ただ、分かってはいましたけれど、やはりアムロ中尉は凄いパイロットです。ニュータイプというものについて、私は理解が及んでいませんが、私ではアレックスの数分の一程度しか性能を発揮できませんでしたから」

 

 クリスチーナはパイロットとして優秀な人材だ。だからこそニュータイプ専用機として開発されたアレックスのシューフィッターを務めたのだが、その彼女をしてあの過敏すぎる反応速度のアレックスに満足している様子のアムロを見れば、上には上がいる事を痛感させられる。

 トップエースとはかくも人間離れした存在なのか、と。

 

「技術畑の私の眼から見ても、アムロ中尉とその相手を務めるゼファーはずば抜けておりますわね。ま、プロジェクトに参加してくれたメンバーは全員、地球圏でも上から数えた方が早いエース揃いですけどね。

 ところでバーナード君、あのアレックスを大破に追い込んだザクのパイロットとしては、アムロ中尉とゼファーのアレックスを相手にどうすれば勝ち目があるとお考えかしら?」

 

 所長から意地の悪いロシアンブルーの猫みたいな眼差しを向けられたのは、クリスチーナの横で模擬戦のデータ収集に務めていた金髪の青年だ。ようやく青年と呼べる年になった若者で、バーナード・ワイズマンという。

 所長が口にした通り、元はジオン所属の軍人で、リボーコロニーにて多くのトラップを用いて瀕死になりながらアレックスを大破にまで追い込んだ当人である。

 

 その後、新型ガンダム破壊の為に、ジオンがコロニーに核ミサイルを撃ち込む予定であり、それを阻止する為にバーナード――バーニィが自身と部隊の仲間達の意地も含めてアレックス破壊に奔走したことが知れ渡り、リボーコロニーの英雄などと一部では持て囃されている。

 瀕死の重傷から目を覚ました頃には終戦を迎えていたバーニィがなぜここにいるのか、と言えばプロメテウスプロジェクトに、ジオン共和国も一枚噛んでいるからの一言に尽きる。

 

 敗戦国である以上、おおっぴらには新しいMSの開発が許されないジオン共和国にとって、次世代の機動兵器の開発と研究を表向きの目的とする本プロジェクトは渡りに船であった。

 当然、地球連邦側は良い顔をしないがジオニック社の技術を得られなかったプルート財閥の悪足掻きという油断と、ヘイデスが総動員した人脈と資金、地球連邦にもプロジェクトの成果が反映されるといった諸々の事情により、ジオン共和国もプロジェクトの出資者の一つに名前を連ねている。

 

 今はアレックスの関係者としてバーニィがこの場に居るに留まるが、しばらくすればジオン本国に残った技術者やエースパイロット達も加わり、かつての敵と味方の入り乱れる愉快な職場となるに違いない。

 強敵に悩むくらいならそもそも敵にしなければいいじゃない、とヘイデスが発想を転換させた結果ともいえる。

 さてそんなわけで地球におりて、クリスチーナとお互いにアレックスとザクのパイロットだった事実に驚き合ったバーニィは、所長の意地の悪い質問に顔を引きつらせた。勝てるわけない、がバーニィの率直な感想である。

 

「い、いやあ、そうだな、準備に時間を貰えればなんとか……」

 

 それでも素直に勝てないと口にしなかったのは、気になる女性が目の前にいるからか、軍の一部からあのガンダムを破壊したザクのパイロットと持て囃されているからか。

 

「おほほほほ、我ながら意地悪な質問でしたわね。トラップを仕掛けようが仕掛けまいが、アムロ中尉とアレックスの組み合わせをどうにか出来るパイロットなんて、この地球にどれだけいるのかって話ですわ。九割九分九厘のパイロットは傷も付けられませんわよ」

 

 ふふっと笑いながら告げる所長に、バーニィはほっと安堵の息を零した。それから結構な確率でこの試験基地を訪れるヘイデスが今日はいない事に気付き、その所在を所長に尋ねた。本人としては軽い気持ちの質問である。

 

「そういえば今日はヘイデスさんはどうしているんですか? あの人、やたらアムロ中尉に肩入れしているというか、英雄視ってんじゃないですけど、気に入っているからよく模擬戦とか訓練を見学に来ますけど」

 

「ああ、それでしたら今日はコルシカ基地に行く予定でしたわね。そろそろアクシオも限界ですから、新型MSの開発を行っていますけれどその役に立つ代物が眠っているのだとか」

 

 所長の言う通り、ヘイデスは地中海を臨むコルシカ基地を訪れ、その倉庫の中に未完成の状態で保存されていた、とあるMSを前に内心で踊り出したいくらいに喜んでいた。

 この世界にロームフェラ財団が存在した事から、あるはずだと予想して探し回り、見つけた後はどうにかして引き取る為に四方八方に手を尽くした機体が、目の前に佇んでいる。

 

「ついに見つけたぞ、トールギス!」

 

 

<続>

 

 

・一年戦争が終結しました。

・ジオン共和国(ガルマ・ザビ)が建国されました。

・■■■■■が双子の赤ん坊に生まれ変わりました。

・アクシオ・バーグラーが開発されました。

・アルゴス(バクゥもどき)が開発されました。

・ガンダムNT-1アレックスを入手しました。

・トールギス(未完成品・潮風で経年劣化)を入手しました。

・アムロ・レイが出向してきました。

・ヤザン・ゲーブルが出向してきました。

・ユウ・カジマが出向してきました。

・ライラ・ミラ・ライラが出向してきました。

・ブラン・ブルタークが出向してきました。

・クリスチーナ・マッケンジーが出向してきました。

・バーナード・ワイズマンが出向してきました。

・アムロ専用トールギスの開発フラグが立ちました。

・ゼファートールギスの開発フラグが立ちました。

 

☆新機動戦記ガンダムWが参戦確定しました!




アムロをはじめ地球連邦やジオンのエース・ベテランとの戦闘データを積み重ねたゼファーが搭載された、パイロットを気にせず20Gで動き回る無人機のトールギスとか、素敵だとは思いませんか?
アムロには監視兼護衛はついていますが、プルート財閥の懐の内ということもあり、アムロは原作よりも緩やかな状況に置かれています。趣味の機械いじりもラボの所員達と談義しながら行っています。また父親のテム・レイも健在ですので、V作戦の開発と戦闘双方の立役者という事もあり、軍内の立場もちょっぴりマシ。
次回、U.C.83~86までをざっくりと。
ついにムーバブル・フレーム型のMSが搭乗予定です。

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