アーンドバリュー(出来高)を用いたプロジェクト状況の把握と分析について、もう少し続けよう。 従来の予実管理手法では、PV(予定出費)とAC(実績出費)を単純に比べるだけだった。これは、定常業務に関する予算ならば、十分有効だろう。部門のコピー経費などをおいかける目的には、この手法でも問題はない。 しかしプロジェクトの場合、そうはいかないのだ。プロジェクトという業務の特徴は、「終りがある仕事」である点だからだ。そのため、プロジェクトでは『進捗』という概念が必要になる。部門のコピー経費に、「進捗」を問う人なんていない。だが、プロジェクトは終わるために努力する仕事のため、つねに進捗が問われる。 そして、PVとACを単純に比較するだけでは、コストによる変動と、進捗による変動の、両方の要素が入ってきてしまうため、正しく現状認識ができない問題点があった。コストをうまくコントロールできている状況であれ、進捗が遅れている問題状況であれ、どちらも PV > AC という結果が出てしまう。だから、良いかまずいかの判断ができないのである。 EVMS(Earned Value Management System)のポイントは、EV(出来高)を基準にして、 「EVとPV」の比較、 「EVとAC」の比較、 という形にする点にある。これによって進捗の差異と、コストの差異を区別できるようにするのである。 少し分かりにくいかもしれないので、次の表を見てほしい。 従来の予実管理手法で使ってきたKPIは、予定出費(PV = Planned Value)と、実績出費(AC = Actual Cost)だった。 ところで予定出費PVというのは、予算で想定した金額を用い、その出費のタイミングも、スケジュール計画で予定したタイミングで計算する。その一方、実績出費ACは、現実に出ていった金額を計上し、かつ、その計上時点も、実際のタイミングに従う。 だから、予定出費PVと実績出費ACを直接比較しても、その差が金額による差なのか、タイミングの違いによる差なのかが、判別できないのである。そこでEVMSでは、あえて『出来高』EVという、人工的なKPIを導入する。このKPIは、金額は予定していた金額を用いるが、計上するタイミングは現実のタイミングに従う、というものだ。 したがって、予定出費PVと出来高EVを比較すれば、金額は同じだから、その差はタイミングの違いを示すことがわかる(図の右側の「進捗比較」の矢印)。同様に実績出費ACと、出来高EVを比較すると、両者のタイミングは同じだから、その差は金額の差を示すわけである(図の右側の「費用比較」の矢印)。 ちなみにEVMSでは、「EVとPV」の差を、 「スケジュール差違」SV (Schedule Variance)と呼ぶ。これも重要な導出指標KPIである。具体的には、
が、その定義である。この値がプラスならOK、マイナスは遅れを示す。 また「EVとAC」の差を、「コスト差違」CV (Cost Variance)という。これも重要な導出指標KPIの一つだ。
CV (Cost Variance)がプラスならOK、マイナスだったら赤字状態にあることを意味する。 どちらも、EVを基準にして、他の値を引くのだと覚えておいてほしい。プラスだと良い状態、マイナスだとまずい状態を示す。 ところで「EVとPV」「EVとAC」の差分ではなく、両者の比を取る指標というのも、時々用いる。前者をSPI(Schedule performance index)、後者をCPI(Cost performance index)と呼ぶ。
これらの指標は1より大きければGood、小さければPoorという事になる。 差を取ろうが、比を取ろうが、違いがわかれば充分じゃないか。なぜ2種類もあるのだ? と思われたかもしれない。だが、もちろん用途が違うのである。 比を用いるKPIは、どんな時に使うかと言うと、プロジェクト・コントロールの大事な目的である、Cost EACの推測、つまり着地点予測に使うのである。これについては、稿を改めて、また書こう。(→この項続く) <関連エントリ> 「モダンPMへの誘い ~ 『出来高』(EV)をマネジメントに導入する」 https://brevis.exblog.jp/30759325/ (2024-01-22)
by Tomoichi_Sato
| 2024-02-19 11:01
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