現代社会において、ある物事が「科学的か、そうでないか」は非常に重要です。
新しい健康法、ダイエット食品、美顔器、癌の特効薬、若返り化粧水、安眠枕から育毛剤、ジョギングシューズに掃除機のノズルまで、ありとあらゆる分野の新製品には、「科学的に証明された」としてお墨付きの学者さんからのメッセージが添えられています。
新興宗教(伝統宗教に対する意味で)が新しく信者を獲得する上でも、同じ様に「科学的に証明された真理です」と言わんばかりに、自らの教理の信憑性を高めんとする科学的な内容の記事を信者に学ばせる事がよくあります。
名称そのものが「◯福の科学」などと、科学を全面に押し出しているものもあります。
エホバの証人も過去にこのような何冊かの「科学的根拠」を掲載した出版物を発行しています。
この書籍が発行された当時「これで真理が科学的に証明された!」と皆大変喜んでいたのを思い出します。
このように宗教が科学の裏付けを求めようとして行なっている作業が、それ自体、本当の科学なのかどうか、どうやって確かめたら良いのでしょうか。
まず、そもそも「科学的に正しい」とはどう言う意味なのでしょう。
これから2〜3回に分けて、このシリーズの最後になりますが、まとめて行きたいと思います。
科学と偽科学
①ヒューリスティックとアルゴリズム
「科学的な考え方」には、前回の記事で書いた、「4分割」つまり、反対の立場から見たらどうか?と言う冷静な分析が含まれます。
これをアルゴリズム[正しい結論に至るシステマティックな思考]と呼びます。
その反対の思考[直感的思考]をヒューリスティックと呼びます。ヒューリスティック(知的ショートカット)は普段日常的に私たち誰もが行っている思考で、厳密な正解に辿り着けなくても、これまでの経験値に沿って素早くある程度正しい答えを出すために働いている思考の仕組みです。
例えば、この問題を解いてみて下さい。
バットとボールを合わせて¥1100です。
バットはボールより¥1000高い値段です。ではボールの値段はいくらですか?
どうでしょう?
ほとんどの人は直感で「ボールは100円」と即答してしまいます。調査では大学生であっても過半数がそう答えてしまいました。では落ち着いて計算してみますね。
ボールをXとします。
X+1000=1100
ではなくて、
X+(X+1000)=1100
(バットはボール+1000円ですものね)
2X=1100-1000
2X=100
X=50
ボールの値段は50円でした!
あー!いちいちこんな事やって買い物していますか?無理ですよね。
実は、私たちの脳は、毎回コンピュータの様に正確に働くのでは日常生活を営めません。手間を省いて簡略化、単純化した手続きで結論を出して行動している訳です。
なので、ボールは100円だ!と間違った直感が働くとしても、それでも何とか生活しているのです。
このヒューリスティックと呼ばれる直感的思考には、様々な種類のものがあります。
よくあるのは、私たちが第一印象に左右されやすいことや、現在の状況を維持する事を好み変化を嫌う現状維持バイアスがあります。
また、プロスペクト理論と呼ばれるリスク態度の非対称性(人は利益を確定したがるが損失は確定したがらない→利益と損失への感度が違う)などは投資家の方ならよくご存知でしょう。
このヒューリスティックが働くとき、人間は現実を正しく認識せず間違った結論にたどり着き、事実と錯覚して認知してしまうことがあるのです。
科学的な物事の見方とは何かを理解する上で、この人間の持つ思考の癖、弱点を知っておくことは非常に大切です。
次回、科学的な合理的な判断とは何か、を考えるために、そんな例をもう一つ見てみましょう。
次回は、「②血液型診断の科学」その他。について扱います。少しずつになりますが、よろしくお願いします。
つづく