【2024/2/29非公開予定】「宇宙世紀……じゃない? スパロボだ、コレ!?」   作:永島ひろあき

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今更ですが参戦作品並びにスーパーロボット大戦のネタバレが山盛りです。ご注意ください。
また今回にて駆け足ではありますが一年戦争編はおしまいです。さらに下準備を挟んでから、本編プロローグとなります。


第四話 一年戦争はチュートリアル

 南米ジャブロー。一年戦争序盤にてジオン公国がコロニー落としの標的と定めた、地球連邦軍総司令部がそこに存在する。

 ジオンが血眼になってその所在を探るジャブローのとあるオフィスで、でっぷりと太った高級将校の一人が、つい先日、通信で対応した青年を思い返していた。

 

 将官の名前はゴップ。地球連邦軍においてレビル将軍の推進するV作戦を後押しし、前線の兵士達が飢えないよう物資の手配の要を握る人物だ。

 たるんだ顎や丸いお腹を見ると、そこまでの重要な役割を任される人物なのかと疑う者も多いが、少なくとも彼の権勢は紛れもなく本物である。

 地球連邦軍の制服組のトップと呼んでも差し支えのないこの老人に、戦時下であることを考えれば通信越しとはいえ連絡を取れるのは、それだけで力の証明となる。

 

「さて、あの若者は毒となるか薬となるか……」

 

 ゴップは白髪を後ろに撫でつけた頭を左手で軽くたたきながら、カエルめいた顔に思案の色を浮かべる。

 爛熟を越えて腐敗した民主主義と官僚主義と揶揄される地球連邦政府、ならびに連邦軍の中にあって現在の地位を堅持する彼の手腕は紛れもなく本物だ。

 

 そのゴップの思考を多少なりとも占有するというのは、ただ事ではない。そしてその対象とは、プルート財閥総帥ヘイデス・プルートであった。

 もとより世界的財閥を立ち上げた経済界の風雲児、規格外の麒麟児と称された青年だが、今回は彼からコンタクトを取ってきたのである。もともとプルート財閥とは多少なり縁があったが、総帥自らというのは珍しい。

 

「提案それ自体はさほど奇抜ではなかったが……」

 

 ヘイデスはこれまでの研究成果であるサブフライトシステム(SFS)とアクシオを売り込んできたのだが、既に地球連邦軍にもコルベット・ブースターというMSの上半身に装着する形のSFS相当の装備があるし、正式な量産型MSであるジムも生産が始まっている。

 これが一年戦争勃発当初に売り込まれていたら、ゴップも一考の余地があったが生産ラインがフル稼働している今とあっては、手遅れという他ない。ビジネスチャンスを逃した、と言うべきなのだろう。

 

 だがその程度のことならば、わざわざゴップはヘイデスに思考を割いたりはしない。

 北米に降下後、太平洋に進む直前までホワイトベースに同行したアクシオの戦闘データには、ゴップも目を通している。

 ゴップはMSに特別詳しいわけではないが、それでもアクシオがジムに匹敵する性能であるという報告は重要視している。

 世界的財閥とはいえ民間企業が、地球連邦軍が総力を挙げて開発したMSと同等に近い性能と量産性を備えたものを作り上げたのだ。どうしてこれを軽視できようか。

 

「それにコルベットがあるとはいえ……」

 

 プルート財閥ヘパイストスラボの開発した地上用SFSシューズは、地球連邦軍のコルベットやジオンのドダイYSと遜色のない代物だったが、それに加えて宇宙用のSFSゾーリを実用化して、運用にまで至っている。

 決して目新しいものを提示してきたわけではない。だが、地球連邦とジオンという国家が総力を挙げて開発したものと同等のものを示してくるとは……。

 

 ゴップの灰色の脳細胞がフル回転をはじめ、彼は左手に持っていたタブレット端末を起動して、内容に目を通す。

 一年戦争以降のプルート財閥の動きを調べさせたものだ。

 ゴップがプルート財閥を改めて意識したのは、ホワイトベースへの支援を行い始めたのがきっかけだ。

 そして近日では、プルート財閥傘下のサルベージ会社が南アタリア島近海で怪しい動きを見せている、という報告を受けて、それとなく調査させている。ゴップが目にしているのはそれらを含めた調査の結果だ。

 

(日本の光子力研究所、早乙女研究所、南原コネクション、ビッグファルコン、それに日本人に限らず世界中の科学者に利益を顧みない異様な支援を行っているな。

 経営者としては失格だろうが、経営者としてではなく“何者”としてなら、このような選択を選ぶ?)

 

 よもや数年後に訪れるだろう地下世界並びに宇宙からの侵略者に備える為、とはさしものゴップとて想像は付かない。付かないが、拭えぬ違和感を覚える事は出来た。

 終始、画面の向こうで虫も殺せないような笑みを浮かべ続け、あくまでこちらを敬う態度を崩さず、自社の製品を売り込む若きカリスマ経営者の仮面。その下に蠢く――実際は心の中で汚い悲鳴をあげながら七転八倒している――見通せぬ本性。

 

(戦時中にMSを売り込むつもりはあるまい。既に間に合わんタイミングだ。なによりジオンが倒れれば、MSとて今ほどの需要はなくなる。

 軍需などより民需の方が余程金になる。軍事兵器はあくまで政府と軍と交渉する為の札にすぎんのだ。

 それを分かっているうえで、自社製のMSを見せて開発能力がある事を示してきた。軍がおおっぴらに開発できぬものなら任せろと?

 戦後のジオンの残党狩り程度では、新型MSを開発したところで儲けは出まい。儲けを度外視して連邦の軍事技術を欲している? ジオン残党以外に戦う相手がいると考えているのか?)

 

 ゴップはこれまでの経験と彼なりの今後の地球情勢の展望を踏まえて、ヘイデスの狙いを探りながらタブレット端末を操作してゆく。

 プルート財閥が新規にジャンク屋家業に力を注いでいるのは、戦場跡から両軍の兵器と技術を出来るだけ回収し、自社のものとする為に違いない。

 プルート財閥に限らず、合法非合法の手段で様々な企業が行っている事だ。V作戦に大きく貢献したアナハイム・エレクトロニクスも同じ穴の狢であろう。

 

(太陽光発電用のソーラーパネルの大量生産? ……まさかとは思うが)

 

 宇宙仕様のソーラーパネルの尋常ならざる大量生産とその配備を、プルート財閥は戦時下のエネルギー不足といった緊急事態に備えたものとしているが、ゴップにはどうしてもそれが気にかかった。

 現在、来る宇宙での決戦に向けてソロモンやア・バオア・クーといったジオンの要塞攻略の為の秘密兵器を準備しているのだが、ソレと重複する部分がある。

 考え過ぎだと一笑に付すべきその閃きを、ゴップは一笑に付さなかった。だから、彼はこの地位に就き、維持できている。

 

(分からんな。危険であるとも、そうではないとも感じられる)

 

 単に企業の利益に腐心する金の亡者と断ずるには意図の読めない行動が多く、さりとてゴップだから感じ取れた微細な焦りや不安を抱いている姿は、経歴と実績とはかけ離れた平凡さを感じる。

 危険を感じるにしても、ゴップにとってなのか、連邦軍にとってなのか、連邦政府にとってなのか、それともさらに大きなスケール? その逆に小さなスケールでの危険性なのかと判別がつかない。

 

 ヘイデス・プルートとは、こちらの思考を惑わすどうにもチグハグな青年であった。それも当然と言えば当然だ。

 世界的財閥を数年で築き上げた傑物と、平凡なスパロボプレイヤーの二つの人格が融け合って生まれたバグのような青年なのだから。

 

(今見えている範囲では連邦軍との濃密な関係を持ちたいと考えて、外れではあるまい。サイド7では、宇宙に放り出されたテム・レイ博士を含め、多くの人間を救出している。その借りもある。

 それにこれまでの実績もある。ジムがまだ具体的な戦果をあげていない中で、彼らは自社製のMSである程度の戦果をあげて見せたのだ。実働データが欲しいのはあちらもこちらも同じこと……)

 

 ゴップはある程度、連邦軍にとってもプルート財閥にとっても益が出る考えをまとめ、一つの決断を下した。

 

「売り込まれてきた商品の評価はしなければなるまい?」

 

 まもなく行われる地球連邦軍の一大反攻作戦“オデッサ作戦”に、小アジア方面から進出して参加する予定のホワイトベース隊に、プルート財閥の立ち上げた民間軍事会社“アレスコーポレーション”から四機のアクシオの派遣が決定した瞬間だった。

 テム・レイ博士の生存による原作を上回る速度でのMS開発の進捗と、原作にない戦力の追加を受けたホワイトベース隊の活躍は、想像するに難くない。

 そうとは知らぬまま端末の操作を進めるゴップは、とあるページで眉を交互に動かして困ったように笑った。

 

「これは、ますます何を考えているのか分からなくなったな」

 

 端末の画面には、プルート財閥傘下のアイドルの育成を手掛けるアポロン事務所から世界デビューを果たした【AEU48】、【人類革新連盟46】、【ユニオン娘。】という地球・宇宙を問わず大人気のアイドルグループについてのページが開かれている。

 こちらのアイドル事業も急に力を入れ出した新規事業だが、ヘイデスにその真意を問えば怖い程の真顔で、万が一、ゼントラーディやプロトデビルンが出現した時の為に自前で歌姫を用意しようと必死なだけですが、なにか? と答えただろう。

 

 ちなみにマクロスフロンティアに出演したバジュラに対しては、感応するのにはフォールド細菌に感染していなければならず、どうしようもないのでは? とヘイデスに声にならない悲鳴をあげさせている。

 アニマスピリチアならなんとかなるかもしれないが、こればかりは熱気バサラ相当の人物を見つけるか、何かの拍子で彼がこちらの謎のスパロボ時空世界に来てくれるのを祈るしかないのが現状だった。

 まあ、来たら来たで、マクロスシリーズの数も技術も能力もおかしい各作品の敵勢力も大挙してやってきそうで、恐ろしい限りである。

 

 

(過剰戦力、いや、オーバーキル?)

 

 それが、ヘイデスがオデッサ作戦終了後にその内容を知った時の感想だった。

 場所は例によってギリシャにあるヘパイストスラボである。本社も同じくギリシャにある為、行き来にはそれほど時間が掛からない。

 今後の繋ぎを求めて連邦軍に連絡を入れたところ、よもやよもやでゴップと通信越しでの会談を執り行う運びとなり、それとなく自社製品の売り込みと戦後の復興事業の際にはぜひお声がけを、とヘイデスとしては当たり障りのない会話をしてから一カ月以上が経過している。

 

 その後、オリュンポスの神々になぞらえた民間軍事会社経由でアクシオやSFSシューズの評価試験を打診された時は、へあ!? と変な声を喉の奥で押し殺したものである。

 所長室のソファに腰かけたヘイデスの手には数枚の紙資料と添付された写真があり、所長はヘイデスの右隣りに腰かけて彼に寄りかかるようにして一緒にその内容を確かめている。

 

 本日の所長は古代ギリシャの衣服であるペプロスを着用している。体のラインをうっすらと浮き上がらせるサフラン色に染めた生地に緑の線条があり、その上からいつも通りの白衣に袖を通している。

 白衣は防弾・防刃性能に加えて着衣型コンピューターの機能も併せ持っているから、ファッションによらず着用は必須だからだ。

 

 プラチナブロンドは編み込んでから後頭部で巻いて、金銀を使った粒金細工の巻ききり簪で纏めている。垂らした毛先の先端は解けていて、それがヘイデスの肩に乗っていた。

 本日は古代ギリシャ風コーデでまとめたようだ。

 ヘイデスは会う度に所長が違う服装で、白衣を除けば同じ服に袖を通しているのを一度も見たことがなかった。そして会う度にこの上ない目の保養をさせてもらっていると、拝みたいくらいに感謝しているのだった。

 

「もうオデッサ作戦が終わったからとはいえ、正式なルートでこの情報を貰えるなんて、どんな手品を使われたのですか?」

 

 所長は、ヘイデスが右肩に感じる人肌のぬくもりと香りに、この地獄の底のようなスパロボ世界の癒しだぜ、ひゃっほい! と内心で裸踊りをしているとは知らず、いつも通りの落ち着き払った声で問いかけてくる。

 

「前からの縁もあってゴップ閣下とつなぎが持てたから、そのお陰かな。現在の連邦軍の装備や物資の手配だと、もっと手前の担当者に繋がってもおかしくはなかったけれど、予想をずっと上回る大物に話がつながったのさ」

 

「ゴップ閣下ですか。あの方は連邦議会への進出も狙っている政財界の大物です。よく連絡が付きましたね。

 それでその結果が、ホワイトベースへのアレスコーポレーションからの戦力派遣ですか。名目上は弊社の技術評価試験と。無理があるのでは?」

 

「今回は激戦区への突入が確実だから、現場の社員には拒否権を認めたよ。それでも行ってくれたのには感謝しかない。幸い、ホワイトベースと共闘経験のある社員が今回の件を受託してくれたし……」

 

「ふうん? ゴップ閣下に借りを作ってしまいましたね」

 

「なに、あの方は最後まで生き残るタイプだよ。清濁併せ呑むといっても、濁の割合の多い方だがやる時はやる御仁だ」

 

 『ギレンの野望』シリーズだと能力が低すぎて、“ジャブローのモグラ”の一人である無能と、ヘイデスもかつては思っていたが、漫画作品での扱いなどもあり描写の問題であり、あれだけ巨大な組織であの地位に就く者が、そもそも無能なわけがないと考えを改めている。

 そして前世の記憶を取り戻すまでのヘイデスが知るゴップの人脈や能力、権威、そして通信越しに交渉して感じた印象から、それは間違いではないと確信している。

 実際、ジャミトフやブレックス、コーウェンやコリニーが去った後も残り、地球連邦議会の議長に就任した人物なのだから。

 

「総帥の評価は分かりました。それにしてもウチの社員はホワイトベースと縁がありますこと。この前は“青い巨星”のランバ・ラル隊と戦って、今度はあの“黒い三連星”を相手にドンパチですか。

 赤い彗星のシャアから始まって、ジオンの名だたるエースと戦っておりますのね。やはりガルマ・ザビを負傷させたのがきっかけでしたかしら」

 

「加えてガンダムの性能と戦果もあって、ますますジオンが躍起になっている印象はあるね。それにオデッサでも大活躍だったようだ」

 

 オデッサ作戦への参加を命じられたホワイトベースの戦力は、以下のとおりである。

 

・ホワイトベース

・ガンダム(アムロ・レイ)

・ガンキャノン(カイ・シデン)

・ガンタンク(リュウ・ホセイ)

・ガンタンク(ハヤト・コバヤシ)

 

 リュウとハヤトのガンタンクは単座式に改造済みだ。これに加えてプルート財閥傘下の民間軍事会社アレスコーポレーションより

 

・ストーク級空中戦闘母艦“ポダルゲー”

・アクシオ(レナンジェス・スターロード)

・アクシオ(ミーナ・ライクリング)

・アクシオ(アーウィン・ドースティン)

・アクシオ(グレース・ウリジン)

 

 が加わった陣容となる。リュウが生存しガンタンクに乗っているのもそうだが、概ねジム相当の性能を誇るアクシオが四機と、スーパーロボット大戦OGに登場するストーク級一隻の追加は劇的な戦力向上と言える。

 ストーク級は、本戦争が勃発後、記憶を取り戻したヘイデスが自社のヘパイストスラボと航空機メーカーや造船メーカーに声をかけ、大急ぎで建造させた母艦群の一隻である。

 てっきりこの世界独自の艦艇が出来上がると思っていたら、どういうわけでかスーパーロボット大戦OGシリーズの艦艇が出来上がったのには、ヘイデスも首を捻ったものだ。

 

 とはいえ動力や装甲素材はこの世界に由来している為、ストーク級にバリアの一種であるEフィールドは搭載されていないし、ビーム兵器はメガ粒子砲に置き換えられている。

 今のところはペガサス級を除けば、他のこの世界の空中母艦となるとガウやミデア、ザンジバルであるから、十分に戦える性能がある。

 

 また艦名である“ポダルゲー”とは“足の速い者”を意味する、ギリシャ神話に登場する怪物の名前だ。

 ハルピュイアという人間と鳥の混ざった怪物であり、西風の神ゼピュロスとの間に二頭の不死の馬を産んだとされている。

 この二頭の馬はアキレス腱の由来となった英雄アキレウスに贈られて、もう一頭の名馬と共に彼の愛馬として神話にその名を刻んでいる。

 

「オデッサ作戦の間だけとはいえ、一度は関わった相手の顔を見られて、レナンジェス君達が安心してくれるといいのだけれどね」

 

「幸い戦死者はでなかったようですし、働きに十二分に報いれば総帥が恨まれることもありませんでしょう。オデッサの大敗でジオンの目ぼしい拠点は、精々アフリカのキリマンジャロの他はトリントンくらいのもの。

 ここから地上でジオンが逆転しようとするなら、ジャブローをどうにかして制圧するくらいしか道はありませんね」

 

「それか宇宙での決戦を想定して、ジャブローの宇宙船用ドックと打ち上げ施設の破壊を目論む可能性があるくらいだろう」

 

 とはいえヘイデスに懸念がないわけではなかった。ホワイトベースと交戦したランバ・ラル隊も黒い三連星も、ホワイトベース隊の戦力が増強されたからこそ無理な戦闘は行わずに撤退しており、いずれも存命なのだ。

 厄介なことに宇宙では生き残った彼らと戦わざるを得ない。

 これはあれか、黒い三連星はドライセンに、ランバ・ラルはドーベンウルフに乗ったりするパターンか? とヘイデスは数年後までも彼らと戦い続ける展開を危惧している。味方になってくれると心強いのだが……。

 

「それにしてもこの勢いだと本当に総帥が言った通り、年内に決着が付きそうですわね」

 

「言ったとおりになるのを祈っているよ。連邦軍が宇宙でジオンに攻め込むなら、まずはソロモンとア・バオア・クーと来てから、サイド3だろう。ジャンクの拾い甲斐があるよ」

 

「ジャンクと言えば東南アジアでなにか面白いジャンクが出たとか。随分とお金を積まれているそうですね」

 

「ジオンの作った天女が地上に落ちてきたんだよ。連邦軍に任せると乱暴な扱いをされてしまいそうだから、どうにかウチで引き取れないかと思ってね」

 

 ヘイデスの言い方のなにかが気に入らなかったようで、所長は少しばかりムッとした顔になる。ヘイデスは察しきれなかったが、“天女”という言い回しが所長はお気に召さなかったのだ。まるで他の女に現を抜かしているようで……

 

「総帥がそこまで熱心だなんて、随分と魅力的な天女様なようですわね?」

 

 にこりと笑む所長に、ヘイデスは知り合ってから初めて背筋に冷たいものを覚えた。

 

「え、うん。ええとね、大気圏外から一気にジャブローに突入して火の海に変えられるくらいの性能を持ったモビルアーマー(MA)な天女様さ」

 

「……それが本当ならデタラメな性能ですわね。それほどのモノならば、連邦軍はそう簡単に手放そうとはしないでしょう。ずいぶんと吹っ掛けられるのではありませんか?」

 

 ここでヘイデスの言う天女とは、ガンダムの外伝作品のひとつ、第08MS小隊に出てくるMAアプサラスⅢだ。

 ヘイデスとしては、後々、戦うことになる戦闘獣やメカザウルス、マグマ獣といったスーパーロボット系の敵に対して、アプサラスの火力が欲しいわけだ。

 スーパーロボット大戦脳で考えると、スーパーロボット系の敵は装甲が厚く、耐久力に富み、MSが一撃で沈む攻撃を四度か五度は当てないと落とせないと睨んでいる。

 その為、ヘイデスはアプサラスのような大火力MAの大量配備や、欲を言えばMSの平均的な火力がZZ級になってもらいたい、と痛切に願っていた。

 

「連邦軍にああいうMAは不要だけれど、対策は必要だから資料的な価値はあるだろうし、ま、なんとか交渉を重ねてみるよ」

 

「総帥が必要とお考えなら反対は致しません。そんな権利と資格はありませんので。とはいえ、一つお伺いしてもよろしいですか?」

 

「なんだい?」

 

「戦後を見越したスペースコロニーの建造ですとか、ソーラーパネルの大量生産にマイクロウェーブ変電施設と送信施設の建設はともかくとして、火星にまで手を伸ばされるのですか。

 というかここ数世紀で苔とゴキブリをセットにして送り込んだ履歴がないかなんて、どうして調べているのか理解に苦しみますね」

 

 ヘイデスとしてもいくらなんでもないだろ、とは思っていたのだが、念のために火星に人型に進化したゴキブリ――テラフォーマーが居ないか心配になったのだ。

 スパロボと関係のない漫画作品だが、スパロボに油断するわけには行かない。それに火星は火星で、ガンダム作品のみならずスパロボ参戦作品でもなにかと舞台になる惑星だ。

 

 調査の手を伸ばすのは当然だったが、いかんせん距離がある為、詳細な現状を把握するのはヘイデスをしても難しい。

 とりあえず、過去にどんな開拓計画が実行されたのかを調査した。所長の苔とゴキブリ云々も、その調査の一環である。

 

「なにかの映画か漫画でそういう計画を見た覚えがあってね。つい調べてもらっただけだよ。結果が空振りに終わってよかったよ」

 

 現在、火星は新たな居住地としての価値が低く見積もられており、衛星フォボスに宇宙港が置かれ、地表にはラッピング構造体と呼ばれる構造の都市もあるが居住者は少ない。

 ヘイデスは、詳細までは記憶していなかったが、確かF90の時代にはオールズモビルというジオン系の武装勢力が潜伏していたはずだし、それ以前にも一年戦争で敗れた親キシリア派のジオン残党が占拠して、力を蓄えていた筈。

 そこにティターンズ残党やらなんやらが加わって、だいぶごちゃごちゃとした関係が出来上がっていたような、そうでないような……

 

(ただスパロボだと、月と並ぶ異星人に侵略されて拠点を置かれる場所筆頭だ。最終話や終盤のステージになる事も少なくない。

 今の開拓具合からいってガンダムAGEや鉄血のオルフェンズはないし、ナデシコの参戦もない。あの世界ほどテラフォーミングが進んでないようではな。

 今から出資して開拓を進めても、それを異星人にいいように利用されてこっちの首を絞める結果になるだけか。……今、火星で暮らしている人達に向けて、軍事物資の生産プラントに転用できないものなら、出資する事に決めたけどさ)

 

 おそらくこのスパロボ世界のラスボスを倒したころには、ミノフスキードライブの実用化もあり得る。それを搭載した高速船を開発すれば、地球・火星間の移動にかかる時間も短くなり、開拓事業活発化の芽も開くだろう。

 ひょっとしたら、なにかしらのワープ技術も実用化されるかもしれない。それを独占し、ジオン残党を始めとした諸勢力の支配を跳ねのけられれば、火星をプルート財閥の事実上の支配下に収める事だって出来るだろう。

 

(いや、それは…………面倒くさ! 第一、今の俺は財閥の社員の生活を守るだけでも責任の重圧に押し潰されそうなのに、この上、火星の住民の面倒まで見ていられるか!

 第一、そんなのはプレイヤー部隊にボコボコにされる敵役の典型的な思考だろうが。経済的に支配する分には、プレイヤー部隊にはどうしようもないかもしれんけど! ていうか誰がするか! あほか!)

 

 スーパーロボット軍団が敵に回る映像を思い描いて、恐怖のあまりブルブルと体を震わせるヘイデスを、所長は不思議そうに見ていたがよりかかるのは止めなかった。

 

「まあ、総帥の奇抜な行動は今に始まった話ではありませんわね。それと例のギフトについてですが」

 

 ギフト……あの南アタリア島近海でサルベージされたヘリオースもどきのコードネームだ。ヘイデスとしては、あれがこの世界における主人公ないしはラスボスではないか、と予想している。

 

「ギフトの解析は進めていますが、どうにも未知の技術の塊で難航しています。まあ、遅々とはいえ進んでおりますので、その内、応用くらいはしてみせます。とりあえず、四肢の代わりの設計と修理部品の調達と併せて進めていますわ」

 

「所長が頼みの綱だよ。本当の本当に。それでギフトの中の方はどうだい? ある意味、そっちが本命なわけなのだけれども」

 

「生命反応が順調に育っています。出産と形容すればよいのか怪しいですが、遠からず中の誰かが外に出てくると思いますわよ。出てきたらどうされます?」

 

「人間、まずは話をするのが大切さ。とびっきりのVIP待遇で迎えてあげよう。破損していたとはいえ、コロニーを吹き飛ばしながら落下してくるような機動兵器のパイロットかもしれないんだ。ある意味、地球圏で一番重要な人物といっても過言ではないよ」

 

「産まれてくるのが人間だと良いのですけれど」

 

「コワイコトイワナイデ」

 

 ヘイデスは心の底からそう告げた。

 

 

 この後、オデッサ作戦の終了と共にポダルゲー隊はホワイトベース隊と別行動を取り、ホワイトベース隊はベルファスト、ジャブローへと進路を取る。

 療養が終わり、ドズルに左遷されたところをキシリアに拾われたシャア率いるマッドアングラー隊により、ジャブローの位置が把握され、ヘイデスが指摘した通りにジオンは残る地上戦力をかき集めて、ジャブローの宇宙船ドックの破壊を狙って攻撃を仕掛ける。

 テム・レイ博士が健常な状態で保護されていたこともあり、ジャブローには原作以上のジムが配備され、元より堅固な防衛力とホワイトベース隊の奮闘もあり、侵攻したジオン軍の撃退に大成功している。

 

 そうして舞台は当然ながら宇宙へと移り、今度はレビル将軍からの要請により、アレスコーポレーションは第13独立部隊に任命されたホワイトベース隊に戦力を派遣する事となる。

 これから後に起きた一年戦争の戦いにおいて、ヘイデスの果たした役割はそう多くはない。

 ソロモン攻略戦に於いて大破したRX-79EX-1ゼファーガンダムとMS-19N カタールを、そしてア・バオア・クー攻略戦に於いて、アムロが乗り捨てたコアファイターと搭載されていた教育型コンピューターを回収したのが、特筆すべき成果であったろう。

 そして彼は後に知る。一年戦争はチュートリアルだった、と。

 

〇チュートリアルクリア!

 

・ゴップと深いつながりを得ました。

・ストーク級空中母艦が開発されました。

・ライノセラス級陸上戦艦が開発されました。

・キラーホエール級攻撃潜水艦が開発されました。

・ゼファーガンダム並びにゼファーファントムシステムを手に入れました。

・カタールを手に入れました。

・アプサラスⅢが手に入るかも?

・大量のソーラーパネルを生産しました。

・マイクロウェーブ送信施設を建設しました。

 

☆現在の参戦確定作品!

・ガンダム(宇宙世紀シリーズ)

・マジンガーZ

・ゲッターロボ

・コンバトラーV

・ボルテスV

・闘将ダイモス

・勇者ライディーン

・バンプレストオリジナル

・?????

 




ガンダムばっかりのチュートリアルですが、本編が始まればようやくクロスオーバーらしくできそうです。もうちょっとお付き合い下さい。
また戦う方の主人公もそろそろ出番が回ってきます。あくまでヘイデスが本作品の主人公ですので、あまり出番はありませんがキーパーソンなのは確かです。
では、また次回にて。

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