【2024/2/29非公開予定】「宇宙世紀……じゃない? スパロボだ、コレ!?」 作:永島ひろあき
「断空剣・牙突! からのVの字斬り! んでもってこいつは断空剣・大地斬だ!」
野生と機械と人の融合たる超獣機神ダンクーガの振るう断空剣が何度も振るわれて、その度にデスガイヤーのザンガイオーは赤い装甲と有機的なボディを断たれ、穿たれ、破壊される。
「ちい、これでもまだ再生しやがるか!」
「どうした、もう息切れか、獣戦機隊!」
「しつこい奴だね。忍、こりゃあ再生のタネか再生能力そのものをどうにかしないと、いつまでやっても倒せないよ」
沙羅の分析を耳にしながら、忍は好戦的な表情を浮かべたまま唇を舌で舐めた。ふてぶてしいまでの態度は忍の闘志が微塵も衰えていない表れだ。
「再生か。そういやDCのシミュレーターにそういう連中相手のデータがあったなあ?」
DCのシミュレーターにはヘイデスが思い出せる限りのロボアニメの特殊能力持ちのロボやキャラクターが登録されており、ザンガイオーのようにシンプルに再生能力が高い敵のデータもいくつかある。
忍はその時の訓練を思い出しながら、目の前のモヒカンマスクムゲ野郎をどう片付けようかと、闘争本能を全開にする。
「くたばるがいい、ダンクーガ!」
ザンガイオーの断面と断面がぐちゃぐちゃと水音を立てながら再接合し、不死身を思わせる再生能力を見せつける。さらに肩を始めとした装甲各所が開き、断空剣の間合いに居たダンクーガへとミサイルを乱射する。
噴煙を噴いて乱れ舞うミサイルの爆発の範囲にはザンガイオーも含まれているが、機体の再生力を知悉するデスガイヤーは機体へのダメージを無視していた。
「まずいよ、忍! 流石にあれだけ食らったら!」
沙羅の警告はダンクーガの操縦を預かる忍にとっては、言われるまでもない事だ。他のスーパーロボットに比べて複雑な変形・合体機構を有し、特殊な防御機構を持たないダンクーガは比較的耐久力に欠ける。
「全部は避けられないよ!」
「ならば、前に出ろ、飛び込め!」
雅人の言う通りにこの至近距離ではミサイルの雨を全弾回避するのは不可能で、亮がこの場の最適解を口にするのと同時に忍は断空剣でミサイルを斬り払いながら、ダンクーガを突進させた。
「上等だ。やってやるぜ!」
「そうくるか、ダンクーガ!」
自身もミサイルのダメージを受けながら、ザンガイオーの背中から何本もの触手が飛び出して、ミサイルの爆炎と爆発に包まれる中で命の削り合いを再開する。ムゲ帝国屈指の大戦士とダンクーガ――すなわち断空我との戦いは天井知らずに過熱していった。
ギルドロームが戦死し、デスガイヤーが宿敵との戦いに熱を上げている状況に於いて、ムゲ軍を支えているのはヘルマットと言っても過言ではなかった。
彼の麾下にある軍団だけではなく壊滅しつつあるギルドローム軍にも指示を飛ばして、何とか戦線を保っている。
そうしてヘルマットに負担がかかればかかるほど、ムゲ軍全体の動きは鈍り地球側はその隙を当然のように突く。OZを中心とした本隊とラー・カイラムを旗艦とするDC艦隊は、機動兵器の補給・修理と並行して艦砲射撃も積極的に行っている。
「メガ粒子砲、敵艦α-1へ向けて三斉射! ダンクーガの状況はどうか?」
ラー・カイラムやアルビオン、ネェル・アーガマの周囲にはムゲ艦隊からのビームやミサイルが乱舞し、近距離での爆発も生じている。
ブライトは立て続けの振動に揺らされ、爆発の光に照らされながら、ようやく馴染んできた艦長席のシートからトーレスに問いかけた。
「獣戦機隊は依然として敵指揮官機と交戦中。敵機の再生能力に攻めきれずにいるようです!」
「再生能力? MSでなければそういうのもあるか」
なお、そう遠くない未来にMSでも多少の再生能力を有するようになるが、この時点でブライトにそんな未来が予想できるわけもない。出来るとしてもスーパーロボットの話だろうと、ブライトでなくてもまともな軍人なら誰だってそう考える。
機動兵器同士の戦いにおいては戦闘区域が離れているとはいえ、コロニーのガンダム五機とOZのビルゴやトーラスが同じ戦場で同じ陣営として戦っているという奇妙な光景が見られているが、少なくない被害を出しつつもムゲ軍の戦線を押し込んでいる。
なによりその原動力となっているのはトップクラスのパイロット達の乗る高性能MS部隊と、超規格外のゾイド二体を含むゼファー部隊の活躍が大きい。
本当に味方? 本当? と何度も確認したくなる外見と性能を誇るデスザウラーとデススティンガーは、サンクキングダム首都近郊とあって先のミケーネ帝国戦同様に主砲の最大火力を封じているが、それがなんの慰めになるのかと嘆きたくなる火力と大質量による格闘戦で進む先に残骸の山を築き上げている。
ミケーネの戦闘獣と違いムゲ軍の兵器はほぼ無人機で構成されている為、あちらとは違って一切の恐怖もなく指示に従ってデスの文字を冠する災厄の化身に襲い掛かるが、撃ったビームもミサイルも重力場やEフィールドによって阻まれて、装甲に届きすらしない。
出力を絞った荷電粒子や圧縮ゲッター線、重力弾が機関銃宜しく毎分一千発超の速度で反撃に撃たれれば、ムゲ機は原形を留めぬ金属のミンチめいたものになるばかり。
一応、その巨体ゆえに小回りが利かないという弱点がある事はあるのだが、この場においてはデススティンガーとデスザウラーに対してほぼ完璧な連携が可能な僚機が存在していた。
オリジナルのゼファーファントムシステムを搭載したギルベイダー、そしてトレーズ・クシュリナーダの下でノーブルとしての品性と作法を身に付けて、独自の成長を遂げたゼファータイプMDである。
テレンス博士とエリシアが随時モニタリングしている中、ゼファーを指揮官機としたDC無人機部隊は無人の荒野を進むが如くムゲ軍の抵抗を屁とも思わない戦いぶりだ。
今も地上からジャンプしたデスザウラーに飛びつかれたムゲ戦艦の一隻が、荷電粒子機関砲とでも言うべき乱射を食らいながら強制的に墜落させられ、轟沈している。
いったん空中に飛び上がってから降下したデススティンガーに乗りかかられたムゲ戦闘空母は、荷電粒子の針を形成した尻尾でめった刺しにされた挙句、重力の刃を展開した鋏でジョキンジョキンと恐ろしい音が一つ鳴る度にバラバラに斬り刻まれている。
ムゲ宇宙統一の為に数多の戦いを経験したムゲ・ゾルバドス帝国とはいえ、ここまで頭のおかしくなるようなやられ方を経験したことがあっただろうか?
デスザウラーとデススティンガーに比べれば、ゼファーギルベイダーはまだ兵器らしい代物だった。
ゼファーが一時期の肉体としたギルベイダーは重力兵器からなにから搭載した武器のほぼすべてが必殺級の威力だが、飛びかかったり鋏で解体したりはしなかったからである。
とはいえノーマルサイズのゾイドでは最強の一角に数えられる機体を、一年戦争から戦い続けたトップパイロット並みの経験値とトップニュータイプ並みの技量を持つゼファーが、無人機ならではのパイロットへの負担を無視した動きで操縦するのだから手が付けられない。
いまだMDには夢の話の有人機と変わりのない柔軟性は、ゼファーのシステムとしての優秀さとそれだけでは説明できないナニカがあるとテレンスやエリシアをはじめ、ゼファーと付き合いの長い面々に思わせている。
そしてゼファーが気にかけているのは敵ばかりではなかった。先行している高速部隊の中に混じり、ZやZZと同格以上のスペックを持つSガンダムに搭載されているシステムがその対象だった。
「くたばれ、××××!」
DCに多い未成年者には聞かせられない言葉を恐怖と共に吐きだし、リョウ・ルーツはMS形態に合体し直したSガンダムのビームスマートガンを立ちはだかるゼイ・ファーに何度も撃った。
地球上に侵攻したムゲ軍のほぼ全軍が集結している戦場で、あまりの敵の数の多さにしり込みしていたものの、戦闘が続く中で脳内物質の分泌が進み、リョウは気性の激しさを剥き出しにして、生の感情を四方に発する荒々しい獣のようだった。
「まるで獣戦機隊だな。忍さんと同じ……いや、だからこそ獣戦機隊に選ばれたんだから、ルーツ少尉もSガンダムのパイロットに選ばれた理由があるのか?」
無鉄砲に近いSガンダムの動きを、カミーユはMS形態のZガンダムを巧みに操縦しながらフォローしていた。カミーユとてプチモビの操縦経験こそあれ素人だったが、ガンダムMk-Ⅱ強奪事件に関わってからの実戦経験はリョウを大きく上回る。
その分、彼はこうしてリョウとSガンダムという組み合わせに付きまとう違和感を戦場で推測するだけの余裕があった。
カミーユがSガンダムをフォローしている頃、ジュドーはクワトロのサザビーと横並びになり、ZZガンダムの額のハイメガキャノン、サザビーの腹部ハイメガキャノンを同時に発射して、敵防衛線に大きな穴を開ける事に成功する。
「やったね、大当たり! このまま女王様を助けに行こうじゃないの!」
「ジュドー、油断はするな。連中にとってもこのサンクキングダムを奪還されるかどうかは、今後の地球侵略の戦略に大きく影響する分水嶺だ。伏兵の一つも警戒しておいて損はない」
「分かってるってば。それじゃあって……」
二機のハイメガキャノンが開いた突破口をウイングゼロが颯爽と駆け抜けていった。ギルドロームの洗脳とゼロシステムによる強制解除により、ヒイロに襲い掛かった負担は相当なものだったはずだが、今の彼は消耗を感じさせない。
「待っていろ、リリーナ」
サンクキングダム王城へのルートが開けてしまったことに気付き、戦闘空母で指揮を執るヘルマットは焦りを隠せなかった。
ギルドロームの精神波による同士討ちを誘発させ、地球人側に消耗を強いる戦略は破綻し、こちらの最強の個であるデスガイヤーは獣戦機隊にかかりきりだ。
そもDCはパリ奪還戦で消耗し、こちらの戦闘には参加しないと踏んでいたが宇宙から降下してきた一部の部隊と、報告のあった巨大兵器までも姿を見せた事で前提が大きく覆されている。
「いかん、そのMSを止めろ! 各艦、各機、攻撃を集中……!? なんだ!」
突如として空母を揺らした衝撃と僚艦を包み込む爆発に気付き、ヘルマットがブリッジクルーに問えば返ってきたのは絶望的な内容だった。
「敵増援です! す、既に本艦隊の内側に潜り込まれています。こ、高度なステルスによるものかと!」
「いかん!」
それはギリアム率いるシャドウセイバーズ、そして彼らと合流したアラン・イゴールのブラックウイングによる奇襲攻撃だった。
「青龍鱗、でぇえい!」
「ターゲットロック、シャドウランサー!」
「目標敵艦に固定。フォールディングソリッドカノン、ファイア」
シャドウセイバーズの誇るスーパーロボット、ソウルゲインとアンジュルグの放った攻撃がムゲの戦闘メカを次々と爆発の中に飲み込み、その間隙を縫うようにしてエキドナの乗る人型戦車めいたラーズアングリフの砲撃がムゲ戦艦の一隻を貫いた。
ステルスを解除したトライロバイト級万能ステルス母艦ギャンランドが姿を見せ、平べったいギャンランドの上にはヴィンデルのヴァイサーガ、レモンのアシュセイヴァー、それにギリアムのゲシュペンストMk-Ⅲの姿がある。
「DCか。あれで部隊の一部とは凄まじいものだな」
ギャンランドの上でマントをたなびかせるヴァイサーガのコックピットの中で、ヴィンデルは同じ陣営ではあるが半民半官の部隊であるDCを決して愉快とは思っていない様子だ。
別世界の因縁もあるかもしれないが、民間人の影響が強すぎるDCを良く思えないことそのものは無理のない話である。一方で技術者としてヘパイストスラボの所長と良好な関係にあるレモンは、そんなヴィンデルの腹の底を読み取り、小さく笑う。
「うちの部隊の戦力増強にも貢献してくれている相手よ。それにムゲ相手に頼もしい戦力じゃない。そんなに不愉快そうな声色を出さなくってもいいでしょうに」
「ふん」
「変なところで子供っぽいんだから。それでギリアム、私達もこのまま戦闘に入っていいのよね?」
「ああ。ムゲの本国は異次元に存在する以上、こちらに来ている部隊を叩いても根絶は出来ないが、今、ムゲを叩いておけば地上における敵勢力の勢いは大きく衰える。シロッコ、お前の小隊は好きに動け。機体の性能を確かめたいのだろう?」
ギリアムらの上空では疑似太陽炉を搭載した三機のMSが展開していた。GNボリノーク・サマーン、GNパラス・アテネ、そしてシロッコが直々に乗り込んでいるGNメッサーラだ。
高出力の核融合炉の他に疑似太陽炉六基を搭載したメッサーラは重力下の大気圏内での運用も可能になった改造機であり、複数積みの恩恵で機動性や運動性、火力の向上には目を見張るものがある。
そしてシロッコからの返事がある前にギリアムもまたゲシュペンストMk-Ⅲに宙を舞わせ、ムゲ軍団へと挑みかかる。
地球連邦軍の次期主力量産機を目指して開発されたこの機体は、SRG計画で開発されたアルトアイゼンとヴァイスリッターを筆頭に各種データを投入して開発されたものだ。
黒を基本色とした機体でデザインラインはゲシュペンストMk-IIの順当な発展機といったものだが、頭部にブレードアンテナを有し、肩には箱状のパーツを備えている。補給と継戦能力を問題視され、ベアリング弾からビームに置き換えられたビームクレイモアユニットだ。
主動力は縮退炉一基に補助として疑似太陽炉一基を装備し、GNフィールドの展開とGN粒子によるガンダニュウム合金の装甲強化や推進系の強化を担っている。
今は当たり前のミノフスキークラフトの他、ダイレクト・バイオリンク・センサー、ダンクーガの野獣回路をベースとしたサイ・コンバーター、超電磁エネルギーとマグネットコーティングの融合発展技術である超電磁コーティングといった次世代のスタンダードとなる装備を搭載してパイロットを万全にサポートしている。
武装に関しては手首内側のビームガン兼用ビームサーベル二基は続投、プラズマステークはデッドウェイトとなる点を考慮して取り除かれ、その代わりに超電磁エネルギー発生器が搭載されている。
これにより超電磁フィールドを腕部に纏わせることで超電磁ステークや超電磁ブレードを形成可能と応用性を増した上に、ビルトファルケン同様、グレートマジンガーのサンダーブレーク発射機構を内蔵し、威力は劣るがプラズマブレークとして使用可能ときている。
先にも触れた両肩のビームクレイモアは同時により長射程のビームシャワーとしても使用可能で、腹部にはメガ・ブラスターキャノン、背部のウイング付きバックパックにはツイン・ビームキャノン二門、スプリットミサイルを標準装備。
メインウェポンはF2Wキャノンをダウンサイジングした上で改修を施し、実体弾の発射も可能とした
量産機としてはややコストが高めではあるが、ガンダニュウム合金製のビルゴが大量生産されている昨今、コストを上回る圧倒的な性能を考えれば十分に生産する価値のある機体と言えるだろう。
初代ゲシュペンストのゲシュペンストショック以来、シリーズ機が発表されるたびに業界をざわつかせてきたゲシュペンストシリーズだが、このゲシュペンストMk-Ⅲもまたアナハイムを筆頭とした機動兵器業界を驚愕させる機体として完成した。
逆に言えばこれくらいの性能がなければ地球外侵略者の更なる出現が危惧される昨今では、地球を守護する剣足りえないと判断されたわけである。
「行くぞ、ゲシュペンスト!」
ギリアムからするとある世界で遭遇した量産型ゲシュペンストMk-II改を連想させる機体だが、搭載した武装の豊富さと威力、エンジン出力のバカみたいな数値、搭載した各種スーパーロボットに由来する多種多様な装備はギリアムをして唸らせる。
ギリアム用に調整されたゲシュペンストMk-Ⅲは機動性と運動性を強化されており、通常仕様機の三十パーセント以上の上昇がみられている。GN粒子を用いる事で搭載する推進剤の量を減らせた恩恵で、継戦能力もそれほど低下していない。
「ふふふ、ならばその通りにさせて貰おう。サラ、シドレ、私に続け。私の言う通りにすればよい。なに、お前達を死なせはしない」
「はい、パプテマス様!」
自らに強い忠誠と敬意を向ける二人の言葉を背に受けて、シロッコは出来たばかりの新しい玩具で遊ぶべく、瓦解の兆しが見え始めたムゲ軍に襲い掛かる。同時に彼はこの戦場に着く前から感じていたプレッシャーの持ち主達に意識を向けた。
「この私にプレッシャーを感じさせるセンスの主。やはりDCに多いか。ふふふ、地球の重力に魂を縛られた者達と笑うところだが、あるいは地球の重力が魂を鍛えたか? やはり木星を離れた価値はあったな」
さらに強化された大推力で大気を切り裂いて飛ぶGNメッサーラに翻弄されるムゲ機動兵器部隊に、後続のサラとシドレがメガ粒子砲やビームライフルを放つ戦い方で、シロッコは口にした通り経験の浅い二人をフォローしていた。
この時、シロッコの参戦を敏感に感じ取っていたのは、やはりというべきかカミーユが筆頭であり、更にジュドー、シーブック、クワトロらも名を連ねる。
「なんだ、この息苦しさ。誰かが戦場にやってきたのか?」
不気味さすら感じるプレッシャーにカミーユが思わず気を取られている隙に、フォローが疎かになったSガンダムがゼイ・ファー部隊から集中砲火を浴びて、ビームの乱射が殺到し始める。
「いけない、ルーツ少尉!」
「うおおあああ、こなくそがああ!!」
リョウは必死に機体を操り、一発二発三発とビームを回避し、ビームスマートガンで応射するが一旦冷静さを失った状態のリョウでは正確な狙いを定められずに命中弾はほとんどでない。
咄嗟にカミーユがフォローに回るよりも早く、Sガンダムの中に眠るALICEが目覚めた。
――私の方が上手く操縦できる!
その瞬間、Sガンダムは目まぐるしい細かなスラスター噴射とAMBAC機動を駆使し、殺到するビームを紙一重で回避して行く。
「うああああ? ああ?」
機体に一発の被弾もない事にリョウが気付いた時、彼はそれが自分の操縦によるものとは疑うも信じるもなかった。
フォローに戻ったカミーユや続いたレコアやファのメタス改の射撃が降り注いで、ゼイ・ファーの半数近くを爆散させたからだ。
自分を脅かした敵が撃たれる姿をみれば、がぜん闘志の湧くのがリョウ・ルーツという人間である。
「ビビらせやがって、クソッタレどもがよ!」
そこから敵部隊へと向けて吶喊しながらビームスマートガンを撃ち、間合いを詰める端からビームサーベルで斬りかかってゆく。洗練さなど欠片もない乱暴な動きは、実戦経験の少ない新兵らしいものだ。
リョウにとって幸いしたのはAI仲間とでも思ったのか、ゼファーギルベイダーを筆頭としたゼファー部隊が駆け付けて、周囲を包囲しつつあったムゲ軍団に大火力を叩きつけてくれた事である。
「なんだ、あれがゾイドって奴か? マジで地球じゃあんなの使ってんのかよ」
モビルゾイドシリーズは基本的に地上での運用が前提である為、宇宙での配備数は少ない。付け加えて言えばこの時にリョウが目撃したのはデスザウラーとデススティンガーなのだから、彼が正気を疑うのも当然と言えば当然だった。
瞬く間に周囲をゼファータイプに囲まれて、味方とは言え尋常ではない威圧感にリョウが苛まれる中、ゼファーとALICEがお互いをどう意識したのかは、彼/彼女らにしか分からなかったろう。
「な、なんだよ? 襲ってこねえよな?」
なおゼファーギルベイダーやデススティンガー、デスザウラー達から視線を向けられて、コックピットの中のリョウは生きた心地がしなかったという。
戦闘開始から続く振動や轟音はサンクキングダム王城にも届いており、リリーナとドロシーはムゲ兵による拘束もなく、一室で事態の推移を待っていた。彼女らを人質に使う可能性もムゲ帝国側にはあったが、少なくとも室内に彼女ら以外の人影はない。
今の時代にそぐわぬ完全平和主義を掲げるリリーナを救出するべく、連邦軍側も手を打っていた。
DCに同行していたエコーズ、サリィ・ポォや黒騎士隊といった現地部隊、シャドウセイバーズが行動を起こし、王城内部に残っていたムゲ兵を排除しながら動いていたのである。
シャドウセイバーズからは以前回収したガミアQのデータを活かされた量産型Wシリーズが多数投入され、人的消耗を抑えながらリリーナ達の部屋を目指す。
ダグザ・マックールを隊長とするエコーズは小型MSロトを用いて王城に突入し、順調に敵を排除して行ったが、他の黒騎士隊や量産型Wらと合流して目的の場所に辿り着いた時、彼らは遅きに失した事を悟った。
なぜなら幽閉されていた部屋の扉を開いたその先では――
「来てくれたのですね、ヒイロ」
バルコニーに立つリリーナと向かい合うようにして降り立ったウイングゼロの姿があったからだ。彼らの“囚われた女王を一番に救出した”という栄誉は、星の王子様にとられてしまったのである。
*
「そうですか、オペレーション・レコンキスタの完遂、まずはおめでとうございます。これで肩の荷が下りた気持ちですよ。まあ、まずは復興と軍需物資の補給に血道を上げないといけませんね。もちろん、最大限の便宜を図らせてもらいますよ」
パリ並びにサンクキングダムの奪還、リリーナ女王の救出成功の報せを受けて、ヘイデスは大きな安堵の息を吐いてから通信端末を切った。
彼の居場所は変わらずアレスコーポレーション極東支部執務室。
エリュシオンベースとそこに務める社員達にパンドラボックス、愛妻の安否諸々の確認も済み、今回の戦闘でミケーネ帝国とムゲ・ゾルバドス帝国の地上戦力はほぼ壊滅し、作戦中に攻撃を仕掛けてきた各勢力もことごとく返り討ちにし、確認できている基地を潰したお陰でしばらくは軍事行動をとれまい。
(まあ、それは人員と物資を根こそぎ動員した地球側も同じなんだけれど。それになによりデスザウラーとデススティンガー! デビルガンダムみたいに暴走したかと心配したけれど、安心安全のゼファー印!
ゼファーやエリシアの言うことをよく聞いてくれたみたいだな。どう考えても敵になる設定と元ネタだったけれど、想定通り味方として行動してくれてほんっとうに良かった。トミイさんに何度許可を出さなければよかったかと不安になった事か!
まだ各勢力の本拠地を叩けてはいないが、この間におおよその位置は把握できている地球系の敵勢力の位置を洗い出して、順次撃破していきたいな。
どうも魔竜機連合みたいに同盟関係を結び直したみたいだし、想定外の隠し玉を使われる前に終わらせるべきだ。その下ごしらえくらいしか、俺には出来ない)
考えるべきことは多い。再合流したDCは新規加入メンバーが多く、てんでバラバラな機動兵器間での連携精度を高め、親睦を深める時間と休息が必要だろう。
その間にヘパイストスラボに所属しているミナーゴ・ロッシーノ・トミノやシッロ・イホウノ・トミノ、トミイ・タカラダ、マサミ・O・バリといった優秀なスタッフには、開発中の機体をどうにかロールアウトにまで漕ぎつけてもらいたい。
(リモネシア沖以来、動きを見せないガイゾック。実は中間管理職な女帝ジャネラのキャンベルは原作通りに和平派が実権を握ってくれればともかく、好戦派が実権を握ったままならジャネラを退けても戦いは続く可能性が高い。
その点、バームやベガは指導者を仕留める機会に恵まれるだろうし、現地指揮官のハイネルが皇帝に睨まれているせいで一枚岩じゃないボアザンは、ザンバジルがこれといった特殊能力を持っているわけでもないし、まだ戦いやすい方か。
未知数なところのある闇の帝王とバラオは厄介だし、洸のお母さんのレムリア王女だったかな? 彼女と協力関係を結べなければバラオの打倒はかなり難しくなりそうだし)
最悪の場合、人類の種を存続させる為に色々と便宜を図っている木星圏とのやり取りや一応、こちらの敵ではないらしいアインストとの関係、そして未知の要素が多いバサ帝国への対処とヘイデスの悩みはまったく減らない。
(目下の問題はアラドやゼオラに対して、なんの思い入れも見せない対応を取っているクォヴレー・ゴードンか)
裏はとっている。一年戦争時のコロニー潰しで故郷を失った戦災孤児であり、軍に入隊する前後の経歴もきちんと記録されている。その穴の無い経歴がヘイデスからすればうさん臭いことこの上ない。
ヘイデスは、必ず反応がある筈のゼオラへの対応から、この世界のクォヴレーの正体についていくつかパターンを推測していた。
1:第三次スーパーロボット大戦α後の正真正銘のクォヴレー。ただし使命に精神が擦切れて感情が死んでいる。
2:正真正銘のクォヴレーだが私情を露にしない為、並行世界の同位体であるゼオラらに必要以上のコミュニケーションを取らないようにしている。
3:バサ帝国産の人造人間『バルシェム』などであり、原作でも地球に潜入しようとしていたアイン・バルシェムである。つまりバサ帝国の回し者。
4:ただの偶然で本当にこの世界出身の純地球人クォヴレー・ゴードン。
(考えられるのは三番、あれはイングラム・プリスケンと融合する事の無かったアイン・バルシェムであり、潜入工作の任務を受けてこちらに潜り込んできたってパターン。
狙いはDCの内情調査、より正確には至高神ソルだったシュメシ達とフェブルウスの強奪あたりか?)
第三次αでもアイン・バルシェムがクォヴレー・ゴードンとして潜入しようとしていたし、連邦軍・連邦政府にバサ帝国の息のかかった人間が居るか、あるいは成り代わられている可能性も考慮しなければならない。
せめて人類側だけでも一致団結したいのだが、クロスボーン・バンガードとホワイトファング、バスク派のティターンズは本当に余計な事をしてくれたものである。
ヘイデスはこれら三つの勢力に対して、本気の殺意を覚えていた。
<続>
■パリを奪還しました。
■サンクキングダムを奪還しました。
■ロトが開発されました。
■共通ルート 第三十六話 戦火のサンクキングダム クリア後
〇ヘイデスショップ
・ガンタンクR44
・ゲシュペンスト
・ゲシュペンストタイプS
・ゲシュペンストMk-II
・ゲシュペンストMk-IIタイプM
・ゲシュペンストMk-Ⅲ
・ランドグリーズ
・量産型アシュセイヴァー
■第三十六話 クリア後 ヘパイストスラボ※資金を投入する事で次話クリア後に入手。
◇ガンダムXより
〇ガンダムエアマスター 8,000
〇ガンダムレオパルド 8,000
〇グランディーネ 15,000
◇ガンダムSEEDより
〇ストライクガンダム 8,000
〇デュエルガンダム 8,000
〇バスターガンダム 8,000
〇ブリッツガンダム 8,000
〇イージスガンダム 8,000
〇シグー 7,000
◇ザブングルより
〇ダッガー 3,500
〇カプリコ 3,500
〇ギャロップ 3,500
ちょっと駆け足気味ですが、あまり詳細な戦闘は必要とされないかなと思って飛ばしました。元々はヘイデスの裏方仕事がメインだったわけですしね。
ご指摘のあった過去の話のバナージの年齢を修正しました。