【2024/2/29非公開予定】「宇宙世紀……じゃない? スパロボだ、コレ!?」


メニュー

お気に入り

しおり
作:永島ひろあき
▼ページ最下部へ


2/145 

第二話 スパロボだけどやっていることはむしろギレンの野望


深く考えずにおおらかな気持ちで読めば楽しめると思います。

追記
独り言を心の中でのものに変更しました。


(ゲシュペンストとヒュッケバインのマオ・インダストリー、リオンシリーズのイスルギ重工、それにダニエル・インストゥルメンツ社、アシュアリー・クロイツェル社、モガミ重工……。

 ふーむ、参戦作品に宇宙世紀が含まれていないオリジナル企業は、こちらには存在しない確率が高い、か。今のところEOTI機関もないし、ショット・ウェポンも居なかったから、ダンバインシリーズの関わりもないと)

 

 スーパーロボット大戦がタイトルを重ねるごとに出てきたオリジナルロボットの開発元が、この世界にも存在するのかどうか、一カ月以上の調査で判明した限りの結果を、ヘイデスは自分に言い聞かせるように口にしていた。

 場所は財団の本社ビルの彼のオフィスだ。就業中は傍らに置いている秘書も遠ざけて、オフィスには彼一人だけが居る。

 防諜は考えられる限りのものを施してあり、あえて紙媒体にした調査資料を机の上に置いて、一つ深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

 流石に全てのオリジナル企業を記憶しているわけではなかったが、どうやら地球連邦軍の主力兵器は、一年戦争が終わった後もMSになりそうな調査結果だった。

 

 前世のスパロボ知識を思い出したヘイデスだったが、彼の知識には問題があった。スパロボ参戦作品の内、リアルタイムやレンタル、再放送を含めて未視聴の作品が多く、事細かな設定や時系列をいまいち理解していないのである。

 要するに、多くの参戦作品に対してスパロボで語られる範疇の知識しかもっていない場合が多いのだ。

 例えばサイド7がシャアの率いる部隊に襲われてアムロがガンダムに乗り込むことになるとは知っているが、ではそれが具体的に何月何日に発生したか、というとさっぱり分からない。

 

 今後、地球圏を襲うだろう大戦乱を思えばアムロには是が非でもガンダムに乗ってもらいたいが、それはそれとして民間人の被害を減らしたいくらいのことは人情として思う。

 サイド7でガンダムの開発が行われているのは把握していた為、建設途中のサイド7に建設労働者や住民向けの娯楽・飲食・医療そのほか諸々を含む巨大商業施設を建設し、ついでに住民の大部分を収容できるシェルターの建造も合わせて行う計画を、サイド7の行政機関に打診中だ。

 

(サイド7のフォローにできるのはこれくらいか)

 

 本社ビルの社長室で、ヘイデスは椅子の背もたれに体重を預けながら、天井を仰ぎ見る。天井のさらにその先に広がる宇宙へ思いを馳せているようだ。

 その向こうから嫌になるくらいの敵勢力が、地球を狙ってやってくるかと思うと、ついつい視線に怨みが籠ってしまう。

 

(ホント、スパロボの世界は修羅道も真っ青の地獄だぜ)

 

 愚痴を零しつつも、ヘイデスは記憶を取り戻して以来、戦後を見据えて医療、食糧生産、軍事の各産業に力を入れ、同時にスーパーロボットを開発する日本の研究所や博士達への積極的な資金援助も行っている。

 ヘイデスの唐突な行動に役員からは疑念の声も出たが、父の代までは甘めに評価しても中堅の重機メーカーだった会社を、世界的大財閥に成長させたヘイデスが熱弁と誠意を振るえば、強く反対する者はいなかった。

 

 ほかに力を入れている産業には、ジャンク屋稼業がある。これには一年戦争で大量に発生する宇宙艦艇やMSの残骸を回収し、自社の戦力・技術転用を目論んでのことだが、ほかにも八つ当たりめいた理由もあった。

 ブッホ・コンツェルンと聞いて、ピンと来るスパロボプレイヤーはどれほどいるだろうか。

 あのガンダムF91さらにはクロスボーンガンダムシリーズで鍵を握るクロスボーン・バンガードを組織し、コスモバビロニア主義を掲げたロナ家の母体となった会社だ。

 もともとはジャンク屋だったことに端を発するこの組織に対し、ヘイデスは手遅れとは理解しつつも自社の行動で少しでも邪魔が出来ればと、ジャンク屋業界に進出したのである。

 

 まあ想像通り手遅れだった。ヘイデスが行動した時には既にブッホ・コンツェルンは一大企業となり、その勢力は目を見張るものとなっていた。

 こうなれば裏でクロスボーン・バンガードの結成ないしは、その基盤となった組織の下準備が進められていると考えた方がいい、とヘイデスは判断している。

 

(だってここスパロボ時空だもんなあ。下手をしたらZガンダムからV2ガンダムまでが一年以内にロールアウトする世界だ。

 そうなると精々Zガンダムの時代にティターンズのマラサイやバーザムどころか、デナン・ゾンやゾンド・ゲーが出てくるのか。つくづく技術の発展速度がデタラメだな)

 

 まあ、だからこそのお祭りゲーであるし、味方もその分は強化されると考えれば、少しは救いもあるというものだ。

 

(地球連邦軍が味方勢力で居続けるとして、主力はジムⅢかジェガン、ひょっとしたらヘビーガンやGキャノンか。量産型のF91だったら万々歳だ。量産型のνガンダムもいい。個人的にはゼク・アインとかゼク・ツヴァイも使いたいなあ。

 あるいはザンスカール帝国も参戦するかどうかだな。αシリーズなら出てきたが、イエロージャケットとかギロチンとか、ザンネックとかエンジェル・ハイロゥとかは覚えているけど……

 マリア主義とガチ党とかを警戒すればいいのか? それにリガ・ミリティアとの協力関係の構築もどうにかしないと。

 MSを単独で飛ばすミノフスキークラフトの技術やビームシールドはぜひとも欲しいし、なんならウチでV2ガンダムを百機生産して、一斉に光の翼で突っ込ませてやる。V2一機でジェガンやジャベリン十機分のコストだとしても、V2の方がいいだろう。

 それに、地球クリーン作戦だったか、あれはない。バイク戦艦で街も人も引き潰すとか、人間のやることじゃないよ)

 

 それはそれとして自社製のロボットにも活躍して欲しいものだ。正直なところ、自分の考えたロボットがスパロボ時空で活躍する、というのは胸がドキドキとして興奮するし、楽しんでいる自分もいる。

 所長を相手に自分の考えた新型MSの概要やアイディア――他作品の流用だが――を語った時は、非常に楽しかった。自分の考えたロボットが現実に形になるかもしれないとなれば、そりゃあ興奮するというものだ。

 ただ、それもふと落ち着くとこれから嵐となって襲い来る版権の敵勢力やこれまでのスパロボオリジナルの敵勢力達の姿とその戦力が脳裏をよぎり、果てしなく憂鬱になるので楽しい気持ちは長続きしてくれない。

 

(ちくしょう、いったいどれだけ敵が来るんだよ。今は分かってないだけで後から後から追加されるかもしれないし、この世界が単発で終わる世界観ならいいけど三部作とかのシリーズものだったら、まだまだ悩みは尽きないってことになる。

 いや、それもそうだが問題はこの時空のラスボスは版権か? それともスパロボオリジナルか? とんでも設定のオリジナルは嫌だな。せめてバラン=シュナイルとかディカステスレベルで落ち着いてくれないかな)

 

 スーパーロボット大戦シリーズの中には、ラスボスが参戦作品のキャラクターだった例もいくつか存在している。

 その場合には、どうしたって対応する作品の主人公の力が必要になるが、それさえあれば勝利の見込みは高い。なにしろ原作で勝利しているのだから。

 スーパーロボット大戦オリジナルのラスボスとなるとヴァルシオンやバラン=シュナイル、ヴォルクルスやらツヴァイザーゲインなどなど随分と数があるが、これらの中にも対応した作品の主人公なくしては勝てない例もあるが、戦力さえ整えればゴリ押しで勝てそうな例も多い。

 

(ペルフェクティオは嫌だ、ペルフェクティオは嫌だ。トレーズを犠牲にしても結局倒せていないし、破滅そのものなんてどうすりゃいいって話だよ。

 ネオ・グランゾンもきっついな。レヱゼンカヰムに負けてちょっと格落ちした印象はあるけど、それでもそれ以上にパイロットを敵に回すのがヤバイ。

 今はいなくても何かの弾みで世界を移動してきそうなスペックだもん。ブラックホールの暴走とかなんとか言ってさ。

 ケイサル・エフェスだって、イングラムの乗ったアストラナガンを返り討ちにしているみたいだから、ヤバイ。……いや、たしかシンデレラガールズとのコラボイベントで、ゆるふわ無限力で浄化された筈。むしろ味方になってくれるかも?)

 

 版権だとアンチスパイラルなんかも本当勘弁してください案件だよ、とヘイデスはブツブツと呟き続ける。もし彼の傍らに秘書が居たら、神経と胃を心から心配されただろう。

 味方側としてもマジンガーZEROやゲッターエンペラーに繋がりかねないゲッターロボ作品も、ヘイデスにとっては頭痛の種だ。敵ばかりか味方にも地雷が埋まっているのだから、困ったものである。この世界はヘイデスの胃に優しくない。

 

(それと覇道財閥やアーカムシティが存在しないのは、ほんっとうによかった! 誰が嬉しくてクトゥルフ神話の邪神連中と関わりになりたいんだっつうの! デモンベインは好きよ、でもね、現実になるのと娯楽として楽しむのは違うでしょ!)

 

 デモンベインが存在しないという事は、かの邪神の構築した無限ループの世界に陥っていない証明になる。

 そうなれば無限ループの負の副産物として出現する、宇宙のリセット機構とでも呼ぶべきカリ・ユガと戦わずに済む。

 αシリーズのアポカリュプシスも真っ平ごめんだが、宇宙を構築するシステムの化身なんてもうお腹いっぱいだ。つくづくスパロボ時空は恐ろしい。

 

(はあ、出来れば並行世界だの異次元だの関わらない、この宇宙か出来れば地球圏の内輪で済む規模であって欲しいよ、切実に。なんならスパロボのプレイヤー部隊史上最弱でいいから、本当に)

 

 チクチクと胃の辺りが傷んでいるような気がして、ヘイデスは俺、まだ若いのに、と前世の知識を思い出した不幸の味を噛み締めるのだった。

 

 

 ついにヘイデスの待ち望んでいた情報が届いた。ブリティッシュ作戦において、地球に落下中のコロニーと激突し、木っ端みじんに粉砕したナニカの正体が分かったのである。

 南アタリア島に落下しながらも周囲へわずかなさざ波しか起こさなかったソレの名は、サンドスター。

 虹色にキラキラと輝く巨大な隕石であり、なんと動物に干渉する事で元となった動物の生物的特徴を有したアニマルガール、通称“フレンズ”へと変貌させる異常な力を持つ。

 サンドスターはスペースコロニーの中に放置されていた、毒ガスで虐殺された住人達を、老若男女を問わず強制的に女性化プラス人間のフレンズとして蘇生させ、彼女らは南アタリア島を闊歩しているという。

 条件付きではあるが、死者蘇生とでも言うべき現象は、人類社会に大きな影響を……

 

「ようこそジャパリぱ! ……夢か」

 

 思わず叫びながら、ヘイデスは横たわっていたリクライニングシートから上半身を起こした。彼は今、ヘパイストスラボへと向かう飛行機の中に居た。

 量を増した業務を連日こなす中、移動中のわずかな時間とはいえ睡眠はヘイデスにとって欠かせないものだったのだが……

 

「ふふ、本当に落ちてきたのがサンドスターだったらよかったのに」

 

 どんよりとした雰囲気を纏いながらそう呟くヘイデスは、肉体はともかく精神はだいぶ疲れているらしかった。

 

 

 新代歴179年7月某日、ヘイデスは再びヘパイストスラボを訪れていた。前回、ムーバブル・フレームやサブフライトシステム、バクゥを始めとした各種のアイディアを伝えてから、おおよそ五カ月が経過している。

 ヘイデスの迎えと案内は、再び所長が買って出た。

 所長は百八十センチオーバーの長身に真っ赤な縦セーターに白のホットパンツ、それに薄手のストッキング、黒のオーバーニーブーツの上から白衣を重ね着て、頭のてっぺんから手足の指先まで自身の手入れを怠っているところはない。

 

 ヘイデスは、とびきり美人の天才科学者とはまた我ながらよくスカウトできたものだと自分を褒めたくなる。

 いかにもロボットアニメっぽい経歴だし、スパロボのオリキャラに照らし合わせるなら、所長はOGシリーズのマリオン博士やZシリーズのトライア博士のポジションだろうか?

 

(そう考えると、俺はZシリーズのアクシオン財団と破嵐財閥を足して二で割った財力と兵力を持ちつつ、戦場に出ない万丈あるいは徹頭徹尾味方ポジションのカルロス・アクシオン・Jrってところか。

 そういやメカギルギルガンとか破嵐財閥がスパロボオリジナルの設定だって、しばらく知らなかったな)

 

 そう内心でこの世界における自分の役割めいたものを考えながら、ヘイデスは前を歩く自分よりもちょっぴり背の高い才女に声をかけた。

 目の前で揺れる彼女のプラチナブロンドの三つ編みを握ってみたい欲求は、努力して胸の奥にしまい込んだ。

 

「それにしても所長はいつ見ても身だしなみがしっかりしているねえ。このラボの所員は皆、身綺麗だけれど、所長は格別だ。職場と職員の衛生観念と美意識がしっかりしているのは、経営者として嬉しい限りだよ」

 

「誉め言葉として受け取っておきます。私の持論ですけれど、何かに熱中して成果を上げるのに、食事、睡眠、趣味嗜好、人間関係などの諸々を犠牲にする人間は、ソレに向いていないのですわ」

 

「向き不向きの問題なのかい? 天才かどうかではなくて?」

 

「ええ。“向いている人間”というのは、自分の楽しみを犠牲にしなくても結果を出せる人間を言うのです。

 あれもこれも犠牲にしてようやく成果を上げるようなのは、それがどんなに素晴らしい成果であったとしても、“向いていない人間”です。向いていないから犠牲なしには成果を上げられない、と私は考えておりましてよ」

 

「ふむ、一理ある。成果の大小ではなく犠牲の大小で適性を見るというわけだね。それじゃあ、所長やこのラボの所員達が社会人として最低限以上に身だしなみに気を使っているのも、普段からそう心掛けているからかい?」

 

「ええ。普段から他人の目を気にする余裕を失う程、切羽詰まらなければならない不向きな人間には、このラボの敷居を跨ぐ資格はありません。

 絶対にその期限までに成果を上げなければ自分や家族の生命の危機だとか、大げさに言えば人類の危機だとかそういう切羽詰まった状況なら、ま、考慮しなくもありませんけど」

 

「はははは」 

 

 きっとこれから切羽詰まった状況になるんだよ、とヘイデスは口でも心でも乾いた笑いを零した。そんなヘイデスを、所長は不思議そうに見ていたが気には留めず、ラボの地下にある機動兵器の製造場に案内した。

 広大な格納庫にはヘイデスが確保したザクⅠやC型のザクⅡ、さらにその大元となった人型の作業機械らが直立している。左右にサンプルのMSが並ぶ中、最奥にこの五カ月の成果となる新型の鉄の巨人が三機、直立してヘイデスの視線を受け止めている。

 

「いやぁ、早いね! 所長の能力には全幅の信頼を寄せていたけれども、半年かからずに成果を出すとは!」

 

 ヘパイストスラボ謹製の新型機の頭上に渡されたキャットウォークから見下ろして、ヘイデスは所長への称賛の言葉を惜しまない。所長はと言えばなんでもない澄ました顔をしているが、ほんのちょっぴり自慢げだ。

 

「とはいっても見本がありましたからね。この子達はムーバブル・フレーム採用のMSというわけでもありません。

 まずはザクに使われた技術をベースにした、既存のMSの延長線上の機体になります。ビーム兵器を携行させたかったのですが、現状では武装もザクとそう変わりもないのです。口惜しいものですわ」

 

 所長の言葉には、謙遜というよりもまだその程度の機体しか作れない自分への不満が滲み出ている。

 地球連邦のRX計画で培われた新素材や核融合炉のデータも、表には出せない取引で入手しているが、それを現実のものに反映させるにはもう少し時間が要るようだ。

 

「夏が終わるまでには更に研究を進めて、より優れた機体に仕上げてみせますわ。まずはビーム兵器の実用からです。これには関しては悠長にはして居られません。

 今頃、連邦も設計くらいは終えているでしょうし、現物の試作を進めているかもしれませんから」

 

「うんうん、向上心があるのは良い事だ。もちろん、今回の成果に対するボーナスは弾むから、所員の皆共々これからもよろしく頼むよ」

 

 しかしまあ、とヘイデスは眼下の新型機を見て、既視感と共に心の中でだけ素直な感想を漏らした。

 

(これってZシリーズのアクシオだよなあ)

 

 ブロック状の大きな肩に、ザクと比べれば直線の多い機体デザイン、オレンジ色のバイザー状のカメラアイ、機体色は灰色でそれぞれの左肩に1、2、3とナンバリングがされている。

 Zシリーズでは、ガンダム00シリーズに登場する国家AEUのコンペでMSイナクトに敗れた機体である。

 アクシオが陸戦主体であるのに対して、イナクトは単独で空が飛べるうえに軌道エレベーターからのマイクロウェーブを受信して、AEU管轄内では理論上無制限に活動できる機体だ。

 ヘイデスがコンペの主催者だったとしても、やはりイナクトを選ぶ。

 

 ただコンペに用いられたアクシオはVer.7とされるものだったのに対し、今、ヘイデスの見ている機体はVer.1になる。

 用いられている技術もZシリーズがおそらくガンダム00由来なのに対し、ラボ産のアクシオは宇宙世紀の技術だ。見た目は似通っても、中身は違いが出ていると考えるべきだろう。

 

「ちなみに動力は?」

 

「もちろん核融合炉です。装甲はチタン・セラミック複合材、武装はアサルトライフル、ロケットランチャー、リニアライフル、グレネードランチャー、それに格闘戦用にロングスピアとハルバード、ダガー、片手持ちのシールドとなります。

 武装のチョイスはパイロットの好みと状況次第になりますかしら。総帥のアイディアにあったディフェンスロッドはまだ研究中です」

 

 このアクシオもどきはつまるところ、動力は宇宙世紀MS、装甲と盾はジム、射撃兵装はザク、近接兵装は独自といったところか。

 

(確か原作というかZシリーズのアクシオの動力はプラズマバッテリーだったはず。バッテリーと核融合炉なら、核融合炉の方が出力は上だよな、たぶん。まあ、明確な数値が設定されていない以上、断言するのは難しいか)

 

 Zシリーズの主人公の一人だったクロウの乗っていたスペシャル機や、敵のファイヤバグのカスタム機の領域に達すれば、相当な高性能機になるポテンシャルがある、と前向きに考えておこう。

 

「格闘用武器はダガーを除くと長物なんだね。ザクは斧だったっけ?」

 

「間合いは長い方が有利でございますでしょ? 過去の人間同士の戦争でも、戦場で活躍したのは刀剣よりも槍ですもの。

 それにMSは極めて複雑な工業製品です。繊細なんですのよ。装甲を破壊できなくても中の電装を壊せれば、今のモノコック構造のMS相手なら十分です。ビーム仕様の格闘専用装備が出来れば、また話は変わりますけど」

 

 所長の言う通りこれからの時代、ビームが主役だ。ビームシールドの登場で通常のビーム兵器では出力不足に陥ることもあるが、それでもビームが戦場の主役を担う時期は長い。

 アクシオで人型機動兵器の技術を培い、それを用いてムーバブル・フレーム型のMSをガンダムMk-Ⅱよりも先んじて開発し、激動のクロスオーバー戦線を戦い抜く強力な兵器を作り上げなければならない。目の前のアクシオはまさにその第一歩だった。

 

「うん、所長の言う通りだ。ところで、この子たちに名前はあるのかな?」

 

「いえ、まだ正式な名前はありません。プルート財閥のMSという事でPMS一号機、二号機といった具合で仮称しています。もうお決まりで?」

 

「うん。この子達の名前は【アクシオ】だ。ヘパイストスラボで産声を上げた、プルート財団の誇る鋼鉄の巨人達さ!」

 

「ギリシャ語からの造語ですか? 異存はありませんわ。では正式に彼らをアクシオとして命名し、更なる改良と改善を目指してまいります」

 

「ああ、お願いするよ。予算、人材、資材は最優先で回す。アクシオから続く機動兵器の系譜が、この先の地球圏では重要になるから」

 

 あとは俺の平穏な生活と痛み始めた胃にとっても、とヘイデスは期待を込めて、異世界に誕生したアクシオ達を縋る思いで見下ろすのだった。

 

 

 そして約二カ月後の新代歴179年9月――宇宙世紀79年9月相当のある日、ついにヘイデスはその連絡を受けた。ジオン公国軍のサイド7襲撃と極秘裏に開発されていた地球連邦軍の新型MSがジオンのザクと交戦し、史上初の公式なMS同士の戦闘が確認されたのである。

 その日、バクゥもどきの四足MSの試作機の視察の為、ヘパイストスラボを訪れていたヘイデスは、ラボ内の所長室で直通の秘匿回線でその知らせを受け取った。傍らには所長の姿もある。

 ただし彼の想像を良くも悪くも外れる形となっていた。

 

「赤い彗星のシャアと連邦の白いMSの戦闘に、ウチのアクシオが加わったって!?」

 

「あら」

 

 と所長は素っ気ないが、自身の手掛けた作品が高名なジオンのエースと戦ったと聞いて、気にならない筈もない。ヘイデスが自分の携帯端末の向こうと続けているやり取りを興味深そうに、ヘイデスの対面に座したソファの上から眺めている。

 それから長い事、携帯端末で情報のやり取りを続けていたヘイデスがようやく回線を閉じ、ソファに深々と背を預けるのを待ってから、所長は例の紫色の栄養ドリンクの入った白磁のカップを勧めながら訊ねた。

 

「ふふふ、それで我がヘパイストスラボの申し子達は活躍出来まして? それともあの赤い彗星のシャアを相手に、痛めつけられてしまったのかしら?」

 

「うん、うん。そうだね。サイド7に大型モールを建設するのを口実に、ウチの輸送船をジャンジャン送り付けて、その影でこっそり宇宙仕様のアクシオのテストを行っていたけれど、それが功を奏して戦闘に介入したみたいだ」

 

「ザクのマシンガンくらいではそうそう撃墜されないよう装甲は厚めにしておきましたけれど、撃墜された機体はありまして? それになによりも戦死者が出てしまいましたか?」

 

「いや、戦闘に参加したのは、コロンブス級に武装を追加して改造したMS母艦サンタ・マリアと、それに搭載していた二機のアクシオだね。幸い、連邦のホワイトベースという戦艦と新型MSガンダムと協力して、無事にシャアを退けたようだ」

 

 ヘイデスは、あれ、ホワイトベースって戦艦でいいんだっけ? と首を傾げたが、今はそんな場合ではないと疑問を頭の片隅に追いやった。

 

「ふふふ、赤い彗星を退けたとなればアクシオも捨てたものではありませんわね。サイド7近宙でテストしていた機体となると、ビームランチャーを持たせていた筈」

 

「ああ、それでね、ガンダムだけれどマシンガンの直撃を受けてもびくともしない装甲と、ビームライフルで武装していたそうだ。ウチのランチャーよりも小型で、威力はほぼ同じくらい」

 

「へえ? 流石は地球連邦軍、そしてテム・レイ博士。やりますわね。私も負けてはいられません」

 

「はは、やる気になってくれたのなら幸いだ。サンタ・マリアだけど戦闘に巻き込まれた避難民を乗せて、ホワイトベースと一緒にルナツーへ向かうみたいだね。

 サンタ・マリア以外にもウチの輸送船があったから、物資は足りるだろうけれどこちらから連邦軍に根回ししておこう」

 

「人命第一は語るまでもないにせよ、貴重なMS同士の戦闘データが得られますし、間近で連邦軍のMSの威力を確かめられる機会ですものね。こちらもアクシオのデータを提供しなければならないでしょうが、アレはウチの本命ではありませんし」

 

「うん。それに今のルナツーに余分な戦力はない。ホワイトベースはジャブローへ向かうだろうから、地上に降りた場合に備えてウチも動けるようにしておくよ」

 

「あのシャアがそう易々とジャブローに降ろしてくれますかしら」

 

「鋭いね。大気圏に突入するタイミングで仕掛けて来てもおかしくないよ」

 

 思った以上に原作に関わってしまったが、おそらくホワイトベースは北米に降下するだろう。

 コロニー落としこそならなかったものの、地球の大半はジオン軍に制圧されており、北米にはジオン公国を支配するザビ家の末弟ガルマ・ザビが司令官として赴任している。

 地球の地軸を傾け異常気象を引き起こすはずのコロニー落としが失敗した分、地球市民のジオンに対する感情は原作よりも穏当だ。ガルマの占領政策も良家のお坊ちゃんとしての面が良い方向に働き、うまくいっている。

 

(ホワイトベースが北米に降下したら、テスラ・ライヒ研究所の代わりに立ち上げたバベッジ・エジソン研究所から物資か部隊を回せないか、打診しておくか)

 

 今回のサイド7での戦いが、この宇宙世紀を主軸とした世界でヘイデスという存在の影響が徐々に増してゆくその片鱗であったと気付いた者は、まだいない。

 

 

 ヘイデスが宇宙でのアクシオの介入の連絡を聞き届けるよりも前、襲撃を受けたサイド7を脱出したホワイトベースは、専用のザクⅡS型を駆る地球人類最高峰のパイロット、シャア・アズナブルの襲撃を受けていた。

 おそらく現時点の地球では最強のMSであるガンダムを操るアムロは、今はまだ偶然ガンダムに乗り込んでしまった民間人に過ぎず、通常の三倍のスピードで動くと評されるシャアのザクにいいように翻弄されている。

 恐怖のままにビームライフルを乱射するも、シャアのザクはあらかじめ射線が見えていたように回避し続け、ザクマシンガンを浴びせるだけに留まらず、懐に飛び込んで蹴りまで浴びせる圧倒的なテクニックをアムロに見せつけた。

 

「これでもまだ動くか。連邦のMS、何という性能だ」

 

 宇宙での戦闘にもかかわらず、軍服のままでザクを操るシャアは、ガンダムの堅牢さと運動性、そして圧倒的な火力を前に心底から驚嘆していた。

 パイロットこそ拙い腕前だが、仮に自分があの機体に乗っていたら、どれだけのザクを葬れるだろうか。

 

 サイド7の偵察に向かわせた部下の一人が暴走し、民間人にも被害が出てしまったのには、一個人として心が痛むが、やはりV作戦を追跡したのは間違いではなかったと、シャアは確信した。

 後からやってきた、通常のザクⅡに乗った部下のスレンダーに、ガンダムを挟み撃ちにするよう指示を出そうとした時、シャアの人並み外れた直感――ニュータイプの勘が危機を訴えた。咄嗟に機体の軌道を変化させた直後、そこを彼方から放たれた一条のビームが貫く。

 

「なんだと、他にもMSが居たのか。だがこの方向は例の戦艦とは別方向からだが」

 

 困惑したのはシャアだけではない。ガンダムを必死に操るアムロもまた、自分の知らない存在に戸惑い、メインモニターにビームの発射元を映す。

 

「な、なんだ。新しいMS? あれは、親父の部屋で見たぞ。たしかプルート財閥のアクシオだ!」

 

 プルート財閥はサイド7の住人であるアムロにはなじみのあるものだ。最近建設された大型モールは家に引きこもりがちなアムロでも興味があったし、彼好みの電化製品を安価かつ大量に扱う店舗もあって、幼馴染のフラウ・ボウと一緒に出掛けたものだ。

 ビームを発射したのは、右肩に大型のビームランチャーを担いだアクシオだ。もう一機のアクシオも同じくビームランチャーを装備している。

 

 さらに二機とも魚のエイを思わせる藍色の物体に、寝そべる形で乗っていた。アクシオと合わせてテストしていた、宇宙用のサブフライトシステム“ゾーリ”だ。

 MSの推進剤を節約し、行動範囲を広げて、移動速度を速めるだけでなく、これ自体にも単装メガ粒子砲一門とミサイルポッド二基が搭載されている。

 

「あらあ~外れちゃいました~。赤い彗星さんに避けられちゃいましたねえ」

 

 左肩にピンク色のウサギがペイントされたアクシオのパイロット――グレース・ウリジンは間延びした口調で、僚機を操るアーウィン・ドースティンに話しかけた。二人ともまだ十九歳の少年少女だが、アクシオのテストパイロットに選ばれた才ある若者達だ。

 オレンジ色の鷹がペイントされたアクシオを駆るアーウィンは、戦闘中にもかかわらず間延びした調子を崩さないグレースにペースを乱されながらも、自身もビームランチャーの照準を赤いようなピンクのようなザクへと定める。

 

「もう一機のザクは放っておけ。動きからして新兵だ」

 

「あたし達も新兵ですよ~」

 

「あっちは動きに動揺が見られる。だが、俺達はそうではない。その分だけ、こちらが上だ。それよりも連邦の戦艦とMSに連絡を入れておけ。助けに来て後ろから撃たれてはかなわん」

 

「ああ~、それなら艦長がやってくれてますう~」

 

「そうか」

 

 アーウィンは、どうして付き合っているのか自分でもよく分からない恋人へ短く言葉を返して、彗星の如き動きを見せるシャアのザクへとビームランチャーとゾーリのメガ粒子砲、ミサイルポッドを一斉に発射した。

 MSからこれだけの大火力を叩きつけられるのは、シャアをして初めての経験だ。いかに手練れのパイロットとはいえ、初めての経験となれば戸惑いが生まれる。それをどれだけ短時間で鎮められるかは、才覚と何より経験による。

 

「ちい、この機体もビームを扱うのか。スレンダー、退くぞ!」

 

 一発は当たると踏んだアーウィンの予想を凌駕して、シャアは全てのビームとミサイルを回避し、想定外の乱入に部下へ退避を命じる。だが、シャアの言葉に返事はなく、ガンダムの放ったビームライフルの直撃を受けたスレンダーの断末魔だけが、シャアへと届いた。

 

「だあー!?」

 

「ス、スレンダー。い、一撃で、一撃で撃破か。なんということだ、あのモビルスーツは戦艦並のビーム砲を持っているのか。それにあの機体、どうやら連邦とは旗色が違うようだが、あの機体までビームを使うとは。ええい、火力が違い過ぎる!」

 

 シャアは若く、自信に満ち溢れ、それに見合う以上の実力を持った傑物だが、同時に退き時を誤らない聡明さも兼ね備えていた。

 スレンダーのザクが撃墜された事で、アーウィンとグレースのアクシオも、シャアへ火力を集中させる動きを見るや、シャアは素早く母艦であるムサイ級ファルメルへと帰投するべく転身する。

 

「ついに連邦がMSを開発したか。この戦争、更に長引くか。それとも……」

 

 自ら体感したガンダムの戦闘力とまた別の所属であろうMSの存在は、シャアにこれからジオンの迎える苦境を容易に想像させた。

 これが、ヘイデスが受け取ったサイド7におけるシャアとの戦闘の顛末である。プルート財閥の開発したアクシオの初の交戦記録であり、アーウィンとグレース、そしてアムロとの初めての出会いでもあった。

 

 

・アクシオ(もどき)が開発されました。

・アクシオ(もどき)宇宙仕様が開発されました。

・ビームランチャー(大型だがガンダムのビームライフルと同程度の威力)が開発されました。

・宇宙用サブフライトシステム・ゾーリが開発されました。

・アーウィン・ドースティン(リアル系主人公・ニュータイプ)が入社しました。

・グレース・ウリジン(リアル系主人公・ニュータイプ)が入社しました。

・バベッジ・エジソン(チャールズ・バベッジとトーマス・アルバ・エジソンより命名)研究所が設立されました。

・パオロ・カシアス他、サイド7の民間人の多くが助かりました。

 




一年戦争はさくっと終わらせて、本番はグリプス戦役ごろ、αシリーズやZシリーズ第一作くらいの時系列をめどにしています。
見切り発車なので、次回がいつになるか分かりませんが、いつか投稿したら読んでくださるとうれしいです。
なお、本作の参戦作品は難易度としてはイージーを想定しています。決めていない設定も多いですが、皆さんもいろいろと想像してみてください。では、ありがとうございました。
2/145 



メニュー

お気に入り

しおり

▲ページ最上部へ
Xで読了報告
この作品に感想を書く
この作品を評価する