【アークナイツ考察】キリスト教から読み解くラテラーノとサンクタ、堕天使モスティマのモチーフ
サムネイルは「喧噪の掟 アニメPV」より。
【注意】この考察は非公式であり、ネタバレや個人の見解、推測を含んでいます。2020年5月時点の情報を元に執筆しているため、今後の実装次第で公式設定とはかけ離れた考察となる可能性がある点を予めご了承ください。
ペンギン急便とシラクーザマフィア、龍門のスラム街を中心に展開するイベント『喧騒の掟』。そろそろ、繁華街のシナリオを全て読み切ったドクターの方も多いのではないでしょうか。
状況に翻弄されるバイソンの裏で様々な活躍を見せるモスティマは、影の主人公とも言える役割を演じていました。
また、シナリオの終盤で、モスティマからはラテラーノを取り巻く事情の一端を垣間見ることができました。今回はそんなラテラーノとモスティマについて、考察していきます。
ラテラーノのモデル
ローマ市内にある世界最小の国家、バチカン市国にはかつてローマ教皇が住んでいたラテラノ宮殿という建物があります。隣接するサン・ジョバンニ・イン・ラテラノ大聖堂がある場所はローマ帝国時代、プラウティ・ラテラーニ(Plautii Laterani)家の管轄下にありました。彼らの祖先ルシウス・セクスティウス・ラテラーヌス(Lucius Sextius Lateranus)は紀元前366年に領事の地位に就いた最初の平民であったと言われています。
ラテラノ宮殿はイタリアのローマ市内にあり、世界最小の国であるバチカン市国の東部に位置しています。
※Google Mapより
1929年、このラテラノ宮殿ではローマ教皇庁とムッソリーニ政権下のイタリア王国においてラテラノ条約が交わされ、この条約に基づきバチカン市国が建国されました。
2020年5月時点で日本版に実装されているラテラーノ出身のオペレーターは、エクシア・モスティマ・イグゼキュター・プリュム・アドナキエルの5人です。
種族未公開のモスティマ、鳥をモチーフとした種族リーベリのプリュムを除く3人の種族は、光輪や翼といった天使に似た特徴を持ち、銃の扱いに長けているサンクタです。
サンクタであるエクシアは「主」という単語を口にすることがあります。
……主よ、この人にも救済が必要なのでしょうか?(エクシア放置時)
アブラハムの宗教(ユダヤ教、キリスト教、イスラム教)において、「主」は神を意味します。キリスト教においては、三位一体(父:神、子:キリスト、霊:精霊が一体である※)であるという考えから、キリストや精霊を指すこともあります。キリスト教は大きく、カトリック・プロテスタント・正教会の3つに分類されます。
※三位一体の解釈だけで宗派間で激しい論争が巻き起こるため、そのように捉えられることもある、程度にご認識ください。
カトリックはキリスト教の中でも最も信者数の多い宗派となります(ブリタニカ国際年鑑2017年版によると、世界のキリスト教人口の50.7%にあたる12億4,000万人)。ローマ・カトリック教会と呼ばれることもあり、バチカン市国の元首でもあるローマ教皇を最高位の指導者としています。
プロテスタントは歴史の教科書でもおなじみ、マルティン・ルターが中心となった宗教改革によって誕生した宗派です。プロテスタントという名前はローマ・カトリック教会に抗議(ラテン語:ラテン語: prōtestārī)したことに由来する、と言われています。プロテスタントの教職者は牧師(Pastor)と呼ばれ、原則的に結婚を禁じられているカトリックの神父(Father)と異なり、妻帯が許されています。
正教会はギリシャ正教とも呼ばれ、古代ギリシャの文化に影響を受けています。イコン(ギリシャ語でイメージ、像)と呼ばれる画像を前に信仰を捧げる特徴があります。(参考リンク)
少し横道に逸れてしましましたが、ラテラーノがバチカン市国をモデルとしており、キリスト教の要素が多く盛り込まれていることは想像に難くありません。(ちなみに、イェラグも宗教国家です。詳しくはこちらで考察しています。)
サンクタのモチーフ、天使の階級
サンクタ(英語:Sankta、ラテン語:Sanctus)は「神聖な」「聖なる」という意味を持ちますが、他にも語源の候補となる単語があります。
Sectator:a usually devoted follower (as of a teacher or leader) :DISCIPLE
merriam-webster.comより
ラテン語で指導者に従う熱心な追随者、一言で表すと「信徒」でしょうか。同義語「Disciple」の複数系「Disciples」は"十二使徒"(キリストに従った12人の弟子たち)と翻訳されることもあります。
Sāketa(Saket):Saket can be alternatively used for Heaven or Vaikuntha in Hindu mythology, where liberated souls dwell.
Tulasīdāsa (1989). Gosvāmī Tulasīdāsakr̥ta Śrīrāmacaritamānasa. Motilal Banarsidass.
サンスクリットのSāketa(綴り違いのSaketも同義)は、インド神話において解放された魂が宿る場所、言い換えるならば天国を意味する言葉として使われます。
いずれの意味にせよ、サンクタが天上の理想世界に棲まう天使がモチーフとなっている点について、特に疑義は生じないかと思います。
ちなみに、天使の特徴としての光輪は、言葉を覚えた瞬間から頭上に現れることがイベントのシナリオで明かされています。
このリングは脳と関係のある器官であることが、鉱石病に感染しているアドナキエルのセリフからも伺えます。
【源石融合率】9%
光の輪の位置に異常あり。
体表に鉱石病の症状は見られない。(アドナキエル健康診断)
この天使の輪?……なぜズレてるのかオレもよくわからないんです。ケルシー先生は脳の海馬の異常がどうとかって言ってましたけど。(アドナキエル信頼度上昇後会話2)
西洋には、天使学(Christian angelology)という名の研究が存在します。その研究の土台となっている「天上位階論(De Coelesti Hierarchia)」では、それぞれの天使に序列が付けられています。
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上位三隊「父」の階層
・熾天使(セラフィム, Seraphim):イザヤ書6:1-7にて、最高の天使の階級であることが言及されている、6つの翼を持つ天使。
・智天使(ケルビム, Cherubim):男、牛、ライオン、ワシの4つの顔を持つ天使。この4つはキリスト教を広めた4人の伝道者のシンボルとしても採用されている。言及があるのは創世記3:24など。
・座天使(王座, Thrones):エゼキエル1:15-21にて戦車の車輪という、異様な見た目で登場。神の正義と権威を象徴。
※なお、ヨハネ黙示録ではセラフィムとケルビムの特徴が入り混じった天使が登場するなど、見た目は出典によって大きく変わります。
上位三隊「子」の階層
・主天使(主権, Dominions or Lordships):ドミニオンやキュリオスとも呼ばれる、下位の天使を監督する立場にある天使。上位三隊と異なり、見た目が一般的にイメージされる天使。ヨハネ黙示録において、最後の審判で裁かれた人類を滅しに訪れる天使、と解釈されることもあります。
・力天使(力, Virtues or Strongholds):デュナミスとも呼ばれる、奇跡を司る天使。
・能天使(能力, 英語:Powers or Authorities, ギリシャ語:Εξουσία; Exousia):特徴を一言で表すと"戦士"。天に背いた悪魔を滅ぼす役目を持つが、悪魔と一番接する機会が多く、一番堕天しやすくもある天使。
下位三隊 「聖霊」の階層
・権天使(権勢, Principalities or Rulers):ルーラーとも呼ばれ、人々を監督する役目を持つ。
・大天使(Archangels):厳密な定義がなされていない。ガブリエル、ミカエル、ラファエル、ウリエルが属する階級とされている。
・天使(Angels):すべての人間に割り当てられる守護天使が所属する最低次の階層。
※上位の序列に属する天使は出典により、ミカエルが熾天使、ガブリエルとウリエルが智天使、ラファエルが座天使とされているなど、その定義は一定の振れ幅があります。
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ここで注目したいのが、主天使と能天使です。
4番目の階級、下位の天使を監督する立場にある「主天使」としての役割は、アークナイツ作中において公証人役場に所属するサンクタが担っているのではないでしょうか。
ラテラーノの行政機関の一つである公証人役場に所属し、「執行人」と呼ばれるイグゼキュターは必要に応じて同族に対して銃を向けることが認可されています。
ロドスにも銃を扱うサンクタ人はいるようですが、私とは違います。彼らは禁止令により同族に銃口を向けませんが、私は必要とあれば、相手が同族であっても躊躇わずに引き金を引きます。(イグゼキュター昇進後会話1)
エクシアは、大陸版で「能天使」と表記されており、上記序列の6番目の階層と同じ名前です。
アドナキエルは、16世紀ドイツのオカルティスト、ハインリヒ・コルネリウス・アグリッパによって黄道十二宮と関連づけられた12の天使にて名前が登場しており、その階級は9番目の天使とされています。
アドナキエルはラテラーノ銃型武器使用許可協定を通っていない。(アドナキエル第三資料)
アドナキエルが銃の認可を取得していないのも、上記の階級に関係しているのでしょうか。
ラテラーノ国民と公民の違い
以前、考察記事ではイグゼキュターとエクシア・アドナキエルとは適応されている規則が異なると記載しました。
とあるフォロワーさんが、大陸版では公民で統一されているが、日本版では国民と公民で分けられている、という趣旨のツイートされており、非常に興味深かったので調べてみました。
日本版ではエクシアとアドナキエルはラテラーノ国民、イグゼキュターはラテラーノ公民とされていますが、大陸版では「拉特兰公民」(グローバル版では「citizen of Laterano」)と同じ表記となっています。
エクシア
能天使,拉特兰公民,适用拉特兰一至十三项公民权益。
ラテラーノ国民であり、第一条から第十三条までのラテラーノ国民特権が適応される。
アドナキエル
安德切尔,拉特兰公民,适用拉特兰一至十三项公民权益。
アドナキエルはラテラーノの国民。ラテラーノ第一条から第十三条までの国民特権が適応される。
イグゼキュター
送葬人,拉特兰公民,拉特兰公证所法定专业执行者,适用于拉特兰一至十三项公民权益,通晓多种语言与法律框架。
ラテラーノ公民であり、ラテラーノ公証人役場法定執行人。
第一項から第十三項までの公民権が適応されており、多種類の言語と法律に精通している。
結論から言うと、エクシアとアドナキエルの「国民特権」という言葉は誤訳ではないかと考えています。下記の箇条書きは、""が中国語、「」が日本語です。
・中国語では「国民」という意味で"人民"が一般的に使われている
・中国語における"公民"は中華人民共和国憲法(※"中华人民共和国宪法")で"人民"と共に国民を表す言葉として使用されている
・日本の法律用語には「国民特権」という言葉が存在しない
・「特権」は特定の人・身分・階級に与えられていることを意味するが、中国語の"人民"や"公民"にはそのようなニュアンスが存在しない
・一方、「公民権」については日本語でも存在し、公民としての権利を指す
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「公民」について詳しく知りたい方向けに。以下は憲法用語です。
中国政法大学刑事司法学院博士過程、高橋孝治 氏
「国民」、「公民」、「人民」の日中台比較
https://www.japanese-edu.org.hk/jp/publish/gakkan/pdf/hkgk01813.pdf
・中国における「公民」の定義
まず、中国の国内法には「国民」という用語が使われておらず、「公民」とされています。邱之軸(主編)(2007)『憲法学』によると、「公民は法律概念であり、当該国の国籍を持ち、さらに当該国の法律に規程された権利を享有し併せて義務を履行しなければならない自然人であり、外国人と無国籍人とは区別される」と定義されています。
もっと簡潔に表現すると中国における公民は「中国国籍を保有し、権利を有し、義務を履行する人」と言えるでしょうか。
・日本における「国民」の定義
日本国憲法では「公民」という用語が登場しません。全て「国民」という言葉が使われている一方で、明確な定義がなされていないため、文脈に応じて解釈が異なります。大きく3つに分類することができます。
①日本国籍保有者
②主権者(年齢、性別を問わない)
③有権者(未成年などは含まれない)
・日本における「公民」の定義
『法律用語時点』452 頁では「現行法令上※は、選挙権、被選挙権、直接請求権等の参政権を通じて国又は地方公共団体の公務に参加する地位における国をいう(労基7、教基8①参照※)」と定義されています。※労働基準法第7条、教育基本法第8条第1項
上記の国民定義における③に近い意味となっています。
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まとめると、日本語においては一般的な意味で国民を表したいのであれば「ラテラーノ国民」、有権者であることを強調したいのであれば「ラテラーノ公民」、享有することのできる権利は「公民権」と翻訳するのが適切でしょうか。
法律用語は同じ単語であっても各国ごとの法律体系に応じて意味が異なるため、翻訳は言葉を辞書通りの意味にするだけでなく、ローカライズする国の文化や慣習を理解した上で臨まなければなりません。
今回、国民と公民の違い一つ調べるだけでも多大な時間がかかったため、その大変さの一端を身に染みて感じました。
堕天使モスティマとヨハネの黙示録
その名前はユダヤ教の『ヨベル書』にて語られる悪魔マスティマ(Mastema)に由来すると考えられます。マスティマは出典により、天使であったり、堕天使の頭とされることがあります。
黒を基調とした姿のモスティマ。サンクタであれば本来輝いているはずの光輪や翼の色が燻んだ彼女は、苦難陳述者より「堕天使さん」と呼ばれています。
モスティマは(恐らくは公証人役場の)隊長に対して、自身の持つ守護銃を向けたことで墜ちた、と喧騒の掟エピソードにより明かされました。
上述した天使の序列において、能天使は堕天しやすくもある、と記載しました。モスティマは元々エクシアと同じ能天使の階層だったのでしょうか?
以下、ヨハネの黙示録からモスティマのモチーフについて探っていきます。
(『ヨハネ黙示録』参考リンク)
新約聖書の中で「ヨハネの黙示録」は一番最後に位置しています。「黙示」(ギリシャ語:Ἀποκάλυψις Ἰωάννου)はアポカリプスという名前でも知られ、「覆いをはずすこと」を意味します。
ヨハネの黙示録においては頻繁に「7」という数字が登場します。7つの階級、7つの燭台、7つの鉢、7つの目、7つの角、7人の天使、7つの幻、7つの封印…など。肯定的な意味でも、否定的な意味でも使用されるため、7という数字は「全体性」を象徴しています。
モスティマの図鑑番号は「LT77」、初期HPは「777」となっており、7という数字が多用されており、何かしらの意図を感じます。
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※削除と訂正 モスティマの誕生日が「7月7日」となっていましたが正しくは「12月12日」、イグゼキュターの誕生日が「7月7日」でした。
わたしはまた、天にもう一つの大きな驚くべきしるしを見た。七人の天使が最後の七つの災いを携えていた。これらの災いで、神の怒りがその極みに達するのである。
日本聖書協会『新共同訳 新約聖書詩編つき』 ヨハネの黙示録15章1節
主天使は下位の天使を監督する他、人間に神の威光を示す役割を持ちます。ここからも、イグゼキュターのモチーフは主天使であると推測することができます。
都には、高い大きな城壁と十二の門があり、それらの門には十二人の天使がいて、名が刻みつけてあった。イスラエルの子らの十二部族の名であった。
日本聖書協会『新共同訳 新約聖書詩編つき』 ヨハネの黙示録21章12節
この都は聖なる都エルサレムを指しています。鍵を武器に持つモスティマがこの門の番人といったところでしょうか?これだけでは断定できないため、他の要素を探っていきます。
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キリスト教において、悪魔は堕落した天使である(※)とされており、ヨハネの黙示録にはサタンの堕落を示唆する記述があります。
見よ、火のように赤い大きな竜である。これには七つの頭と十本の角があって、その頭に七つの冠をかぶっていた。
日本聖書協会『新共同訳 新約聖書詩編つき』 ヨハネの黙示録12章1節
さて、天で戦いが起こった。ミカエルとその使いたちが、竜に戦いを挑んだのである。竜とその使いたちも応戦したが、勝てなかった。そして、もはや天には彼らの居場所がなくなった。この巨大な竜、年を経た蛇、悪魔とかサタンとか呼ばれるもの、全人類を惑わすものは、投げ落とされた。地上に投げ落とされたのである。その使いたちも、もろともに投げ落とされた。
日本聖書協会『新共同訳 新約聖書詩編つき』 ヨハネの黙示録12章7-9節
※聖書において明確に"堕天使"という言葉が使われているわけではなく、後世の解釈によってそのような意味づけがなされています。天使の堕落の伝説は偽典「エノク書」によって描写されています。
ここで登場する竜について。
モスティマの昇進2絵の背後には巨大な怪物が描かれており、モスティマにより召喚されることが彼女の昇進記録から分かります。
過去の経歴以外、モスティマについて注目すべきことはもう一つある。彼女の能力だ。
(中略)
しかしさらに重要なのは、あの時、モスティマの手にある二つの力が重なった瞬間、彼女の背後に現れたもの――あの恐ろしい怪物は一体何物なのだ?
(モスティマ昇進記録)
竜はあらゆる形の「敵」を象徴し、「過誤」「異端」「邪教」「嫉妬」を表します。ヨハネの黙示録において、上記の引用から7つの頭を持つ竜はサタンと同一視されています。
わたしはまた、一人の天使が、底なしの淵の鍵と大きな鎖とを手にして、天から降って来るのを見た。この天使は、悪魔でもサタンでもある、年を経たあの蛇、つまり竜を取り押さえ、千年の間縛っておき、底なしの淵に投げ入れ、鍵をかけ、その上に封印を施して、千年が終わるまで、もうそれ以上、諸国の民を惑わさないようにした。そのあとで、竜はしばらくの間、解放されるはずである。
日本聖書協会『新共同訳 新約聖書詩編つき』 ヨハネの黙示録20章1-3節
モスティマの背後に描かれた怪物を見てみると、鎖がかけられていることが分かります。
また、モスティマは「時荒びの黒き錠」「時闢きの白き鍵」というスキルを有していることから、千年という途方もない時間の中に封印された竜を解き放つことができるのでしょうか。
以上より、背後に描かれた怪物の正体は、ヨハネの黙示録に登場する竜ではないかという推測を立てることができます。
検討課題
大陸版でのモスティマ考察記事では、喧騒の掟で登場したイースと共に、クトゥルフ神話との関係性が指摘されています。
ヨグ=ソトースやイースの大いなる種族、コメント欄ではモスティマの昇進2絵背後に描かれているのはティンダロスの猟犬ではないか、と検討されています。
興味のある方はクトゥルフ観点で考察してみると、また違った発見があるかもしれません。
銀の鍵の門を越えて
※6/17追記
ラブクラフトの「銀の鍵の門を越えて」を読み終えたので、モスティマのスキルについてクトゥルフ観点でも記載します。
「銀の鍵の門を越えて」は、ラブクラフト自身の分身ともいえる「ランドルフ・カーター」が現実世界から失踪し、時空を超えた旅を経験している様を、チャンドラプトゥラと名乗る人物が生々しく説明する形で物語が綴られています。
物語の冒頭、カーターは巨大な塔門に形造られているような黒ぐろとした岩窟で、銀の鍵の儀式を行います。儀式によって<第一の門>を開け放ったカーターは、地球の地理学者には明言できない場所、歴史上特定時代に辿りつき、<導くもの>にして<門を護るもの>ウムル・アト=タウィルと出会いました。この存在はヨグ=ソトースの化身とも解釈され、<第一の門>の先にある<窮極の門>へ導く存在です。
上記でも記載した通り、モスティマには「時荒びの黒き錠」「時闢きの白き鍵」という2つのスキルがあり、素質にも「時間認知鈍化」という時間に関わる言葉が使われています。
黒き錠は鍵を使う必要のあった門、つまり黒ぐろとした岩窟を指し、白き鍵は銀の鍵を意味するとも言えるのでしょうか。(銀色を示す単語に、白銀という表現があり、白と銀は似た色とされることがあります。)
カーターが<窮極の門>を越えた後、次のような記述でヨグ=ソトースという名前が現れます。
それこそ果のない存在と自己の<一にして全>、<全にして一>の状態にほかならなかった。単に一つの時空連続体に属するものではなく、存在の全的な無限の領域ー制限を持たず空想も数学もともに凌駕する最果の絶対領域ーその窮極的な生気汪溢する本質に結びつくものだった。おそらく地球のある種の秘密教団がヨグ=ソトースと囁いていたものがそれだろう。
『ラヴクラフト全集6』(東京創元社)「銀の鍵の門を越えて」
著:H・P・ラヴクラフト、訳:大瀧 啓裕
この<一して全>、<全にして一>という表現に着目してみます。
ラブクラフトの作品には、汎神論 ー 神と存在全体(宇宙、世界、自然)とを同一視する思想体系が見られる、と指摘する論文があり、この表現からもその要素を感じ取ることができます。
参考:Miller, T. S. (2011). “From Bodily Fear to Cosmic Horror (and Back Again): The Tentacle Monster from Primordial Chaos to Hello Cthulhu”. Lovecraft Annual 5: 121-154.
<一にして全>、<全にして一>は、日本の漫画『鋼の錬金術師』などでも似たフレーズが登場するため耳馴染みのある表現ですが、古くは紀元前6世紀のギリシア宗教詩人クセノファネスによる神学説「すべては一であり,一は神である」に見られます。
キリスト教においては、スピノザ哲学の汎神論論争に代表されるように、有神論としての考えが強く根付いていますが、ヨハネの黙示録には似た考え方の表現があります。
わたしはアルファであり、オメガである。最初の者にして、最後の者。初めであり、終わりである。
日本聖書協会『新共同訳 新約聖書詩編つき』 ヨハネの黙示録22章13節
神の永続性を示す表現、と解釈できるでしょうか。
モスティマのモチーフにクトゥルフとしての要素を見出すにせよ、ヨハネの黙示録に繋がってくるのは非常に興味深い点であったので追記として残しておきます。
参考リンク
【アークナイツ】「世界観考察!vol. 1」エクシアの背景設定にせまる。(サンクタ・ラテラーノ)【明日方舟 / ARKNIGHTS】
https://www.youtube.com/watch?v=Fs8JZ9Njdl4
アークナイツ動画作成者、実況者のoyukiさんの動画です。
2020年2月の投稿なので、イグゼキュターやモスティマ実装前の考察となりますが、非常に分かりやすくラテラーノについてまとめられています。
アークナイツの考察記事は週一ペースで更新しています。興味がある方は下記のリンクからマガジンページへアクセスくださいませ。
最後までご閲読ありがとうございました。
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