カメラや半導体露光装置などの事業を展開する大手メーカー、ニコン。同社でCFO(最高財務責任者)を務め、週末作家でもある徳成旨亮(とくなり・むねあき)さんに、若手社員らに薦めたい本を聞きました。読むべき名著を知るためのブックガイドとして最適な2冊や、デジタル社会を生きる上で必須の半導体の歴史や基礎が楽しく学べる本などを挙げてもらいました。
前編 「ニコンCFOが著書『CFO思考』で説く『日本に欠けているもの』」
イノベーターが読んできた本を知る
前回は私の著作をご紹介しましたが、今回は当社の若手社員らに薦めている本についてお話ししたいと思います。
人に本を薦めることって難しいですよね。相手が今置かれている環境や読書歴、人生観などによって合うものが違ってくるので、その人にぴったりの1冊を挙げるのは簡単ではありません。
そんなとき、私がまず紹介するのは『 天才読書 世界一の富を築いたマスク、ベゾス、ゲイツが選ぶ100冊 』(山崎良兵著/日経BP)です。この本には、イノベーターであるイーロン・マスク、ジェフ・ベゾス、ビル・ゲイツが実際に読んできた100冊の名著が紹介されています。3人の中で自分が好きだと思う人の読書歴を見るだけでも、勉強になりますよ。
イーロン・マスクがSF好きなのも面白いですね。「日本人に画期的なアイデアが生まれないのはSFを読まないからだ」という説もありますが、イーロン・マスクの読書歴を見ると納得させられます。その点、ジェフ・ベゾスは「王道」とも言えるビジネス書を読んでいて、それも腑(ふ)に落ちます。
また、同じ理由で、『 読書大全 世界のビジネスリーダーが読んでいる経済・哲学・歴史・科学200冊 』(堀内勉著/日経BP)もお薦めです。こちらは著者の堀内勉さんが新型コロナウイルス禍の中で執筆した大作。前半では人類の知の進化を「宗教と神話」「哲学と思想」「経済と資本主義」という3つの軸から振り返り、後半では経済、哲学、歴史、科学などの分野に分けて人類の歴史に残る200冊を紹介しています。巻末の書籍リストは圧巻です。
今はとにかく「タイパ」(タイムパフォーマンス=時間対効果)「コスパ」(コストパフォーマンス=費用対効果)が重視されますが、長く読み継がれてきた名著と言われる本をじっくり読むことには価値があります。
万有引力を発見したニュートンは、「私がかなたを見渡せたのだとしたら、それはひとえに巨人の肩の上に立っていたからだ」と言いましたが、何千年もかけて築かれてきた人類の英知を活用しない手はありません。若手社員も中間管理職になると仕事に悩み、「自分はどこへ行くのか」「何のために生きているのか」と迷うときが来るでしょう。そんなときに、ぜひ名著から学んでほしいと思います。
ニコン取締役専務執行役員CFO
次にご紹介するのは、ビジネス書をよく読んでいるジェフ・ベゾスも挙げている「ビジネス書の古典」とも言える『ビジョナリー・カンパニー』シリーズです。綿密な企業分析によって、成功する企業、衰退する企業の法則やリーダーのあるべき姿などを解説しています。
私は1作目である『 ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則 』(ジム・コリンズ、ジェリー・ポラス著/山岡洋一訳/日経BP)が1995年に発売された当初から読んでいますが、特に、企業が成長していく姿が描かれている2作目の『 ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則 』(ジム・コリンズ著/山岡洋一訳/日経BP)が好きです。シリーズのどの本も面白いので読んでみてください。
デジタルネイティブに読んでほしい1冊
次にお薦めするのが、『 半導体戦争 世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防 』(クリス・ミラー著/千葉敏生訳/ダイヤモンド社)です。この本は、ニコンのような半導体関連企業の皆さんだけでなく、デジタルネイティブと呼ばれる若い世代にも手に取ってほしい1冊です。なぜなら、我々はデジタル化社会を生き、半導体と切っても切り離せない生活を送っているからです。
本書には半導体を巡る偉人たちの歴史や覇権争いの状況が詳しく書かれており、なぜ今、アメリカと中国の対立が激化しているのか、その中で半導体メーカーの工場が集中している台湾の立ち位置とは──といったことが見えてきます。日本でも半導体事業を復興すべく、熊本にTSMC(台湾積体電路製造)、北海道にラピダスの工場が建設されていますが、そのために日本政府から多額の税金が投入されています。税金が使われるということは皆さんの生活にもかかわることですから、何が起きているか知っておくべきです。
本書の著者、クリス・ミラー氏はジャーナリストで、文章がうまく、読み物としても秀逸です。半導体の技術のことが分からなくても読み進められます。
初心者にお勧めの投資法を説く本
最後は、私がペンネームの北村慶名義で書いた『 金融のプロが実はやっている 最もシンプルで賢い投資の結論 』(朝日新聞出版)です。
私はCFOとして新人研修も担当するのですが、社員としての心がまえだとか経営論の話をすると、みんな寝ちゃうんですよね(笑)。そこで寝させないために、「経済的に自立することが、社会人になることだ」というテーマの話をしたら、非常に反応が良かったんです。具体的には、「これからはインフレでお金の価値が下がっていく」「漫然と貯金をしていてはいけない」「日本人は投資と投機の区別がついていない人が多いが、正しい投資で資産形成をすべきだ」といったことを説明したら、大学院で真面目に技術研究ばかりしてきた新入社員などが「今までお金のことは勉強してこなかったし、考えたこともなかった」と真剣に聞いてくれました。
そんな投資初心者に読んでほしいのが、本書です。未経験・初心者にお薦めの「長期・分散・積み立て投資」の方法について紹介しています。実は本書の内容は、私自身が13年間実践してきた投資の報告書でもあります。私は2006年に『貧乏人のデイトレ 金持ちのインベストメント ノーベル賞学者とスイス人富豪に学ぶ智恵』(PHP研究所)という本も書き、金融庁などにもそのための税制優遇措置を長年主張してきました。
当時は「長期・分散・積み立て投資なんて、何でそんなまどろっこしいことをするんだ」という反応がほとんどでした。しかし、『金融のプロが実はやっている 最もシンプルで賢い投資の結論』を読んでもらえれば、その結果がどうなったかが分かります。個人が世界の経済成長を取り込み、リスクを抑えて自分の資産を成長させるためには、「長期・分散・積み立て投資」が王道です。そのことが日本社会のコンセンサスになり、2024年1月から、NISA(少額投資非課税制度)の非課税枠が拡充され、投資期限が撤廃されます。
毎月5000円でも1万円でもいいので、投資資金は給料から天引きしましょう。人はお金が手元にあるとすべて使ってしまいますが、例えば1割引いた9割で生活する習慣を身に付ければ、それでやっていけるようになる。これは、漫画にもなっている『 バビロン大富豪の教え 「お金」と「幸せ」を生み出す五つの黄金法則 』(ジョージ・S・クレイソン著/文響社)にも書いてある生活の知恵です。
今回お薦めした本が、皆さんの仕事や人生のガイドブックとなればうれしいですね。
取材・文/三浦香代子 写真/洞澤佐智子
イーロン・マスク、ジェフ・ベゾス、ビル・ゲイツ。世界一の富豪になった3人は猛烈な読書家。歴史、SF、科学、経済学……古典から最先端まで。珠玉の100冊のエッセンスを詳細に解説! “21世紀の教養”が学べる最高のブックガイド!
山崎良兵著/日経BP/2640円(税込み)