「ていうか、プイ先輩休みよく取れましたね」
「無理矢理ぶんどったプイ。このくらい当然の権利プイ」

プンスコプイ、なんて頬っぺた膨らませて
最近本当にワガママ通すようになってきて、他の人たちは気が気じゃないんじゃないだろうか
まあ、今までが本当に過剰な多忙だったのもあって本人の意思も分かってしまうんだけど。それがあるから、そして本気で反抗されたくないから何も言えないのもあるんだろうし

「つーわけで、今日の目的はチョコレートの材料確保ッス。大荷物になるんで、サポートよろしくッス」
「おっまかせプーイ。あ、帰りにたい焼き買っていいプイ？」
「ほんと好きッスね、商店街のたい焼き………」

時は２月。まだ肌を刺す寒さの中、商店街を歩く
今年も、バレンタインデーの準備の時期がやってきたのだ

●

「実際問題、毎年のように必要個数増えてますからねうちのチーム」

商店街のとある店舗で買い物スタート
調理用チョコレートをカゴに入れながらメモと照らし合わせていく。後で足りなくなってもいけないしね
プイ先輩の方にはチョコレート以外の材料が山のように。計算して用意してるとはいえ、もはやここまでくると業者の仕入れと変わらない気がしてきた

「ソングラインちゃんやエールちゃんの人気もどんどん高まってますし、それに応じてファン数も増えてますからねぇ。結果、お返しのチョコも多くなるって事ッス」
「みんな大変プイ」
「んな事言ったら、先輩だって毎年大変じゃないッスか。数が数ですし」

URAに一度集荷されてチェックされて、その後オッケーなもんだけ、というスタイルだから風情も何もないだろうけど
プイ先輩はんー、と唇に指をあてて

「でも、こっちからのお返しはしたことないからその辺は楽かもしれないプイ」
「ああ、そっか基本一方通行ですもんね」

確かに、この人にお返しを求めてたら負担が尋常じゃない事になる
なるほど、確かにそう考えればそうかもしれない。あれ、でも待てよ、と

「あれ、マジで一方通行でしたっけ。なんかお返しがあった気も………」
「URAで用意した粗品みたいなのがお返しされるプイ。去年は確か、限定デザインの刺繍入りのハンカチとかだったプイ」
「あ、そういう………」

お返しはファンアイテムで、ということか
確かにそれなら……いやそれにしたって尋常じゃない数になるな？やっぱ規格外だこの人の人気

「さて、チョコレートはこれだけ買えば十分ッスかね」
「あれ、少なくないプイ？」
「最低でも必要になるだろう数は事前に姐御たちと確保してあるんスよ。再計算の結果必要になった分買いに来たんで」
「それでもこの量プイ？作り切れるプイ？」

ま、そこはなんとかするしかない。毎年の事だし、みんなで頑張るしかないだろう
姉貴にも何とか手伝わせねば。あと、姐御のカワイイアレンジを阻止して………ああほんと、この時期はやることがいっぱいだ
少し作り始めるのを早めるか。そんな事を考えながら会計に並んで清算

「さ、荷物エコバッグに詰めていくッスよ」
「これだけでも重労働プイ」

袋詰めスペースで、最大サイズのエコバッグにどんどん食材を詰めていく
もうはちきれんばかりに袋がパンパンになってるけど、多少無理にでも詰めていかないと入りきらない
そろそろ年季入ってきてるし買い替えかな………でもまだ使えるか

「さ、帰りましょ」
「夜逃げみたいな格好になっちゃってるプイ」
「せめてサンタって言ってほしいッスね。時季外れッスけど」

そりゃもう、破裂寸前なくらいパンッパンに膨れた荷物をいくつも抱えて歩くのは大変だ
ていうか、単純に目立つし。またプイ先輩の素性割れて騒ぎにならんとも限らんし、早めに帰路につかねば

「さ、さっきの約束通りたい焼きでも買って帰るッスよー」
「今日は白玉餡の気分プーイ」

ウッキウキだなこの人
この人との付き合いもそれなりになるが、未だに英雄モードとの落差に脳がバグりそうになるし
ハギノモーリスちゃんなんか未だに慣れてないからなぁ………ぽかーんとしちゃって、理解が追いついてない感じだった

「そういえば、あの子ってまたあの後来たプイ？」
「あの子？」
「ほら、ハギモちゃんのお友達プイ」
「ああ、ブリッツファングちゃんですか」

そういえばそうだった。プイ先輩、あの後忙しくなってなかなかこれてなかったからなぁ

「あの子、時々遠くから見てるのは確認されてるんスけどね」
「え、近づいてこないプイ？」
「なんか警戒されてるのか、なかなか近くに来てくれないんスよ。まるで往時のハギノモーリスちゃんッス」

ハギノモーリスちゃんよりも自己主張しっかりしてるし、大丈夫だと思ったんだけど………いやマジで、うちのチーム変な噂また流れてるんじゃないだろうな
以前より全然マシになったとはいえ、また変な風聞流れてないとも限らん。これは、少し調べる必要があるか
」

「変な顔してどうしたプイ？」
「なんでも………って、ごぁ！？」

返事しようとした、次の瞬間だった。絹を裂くような音と共に、荷物が一気に軽くなったのは

「ぷぎゅら！？」
「や、やっちまったッス………」

見れば、チョコレートを大量に詰め込んでいたエコバッグが無残に引き裂かれていた
予想以上に限界が来ていたのか、今回キャパを越え過ぎたのか。それはわからないが、生地は綺麗に裂けてしまって
これは……ちょっと面倒な事になった

「プイ先輩、そっちのバッグ、余裕ってあったり………」
「無いプイ無いプイ。限界ギリギリどころか限界から足出てるプイ」
「ですよねぇ」

今からどこかに行ってバッグを買うか？ビニール袋では多分耐えきれないし……
しかし周囲にそんなものを売っていそうな店はない。商店街の中にはあるにはあるけど、ここからは少し離れている
プイ先輩に荷物番頼んで買いに行くか？しかし、この人一人にしてまた騒ぎになったら対応できない。逆に行ってもらうのも……あぁ。もう、どうしたもんか

「マジでどうしたもんッスかねぇ………」
「あのー」

頭を抱えてしまっていたところに、背後から掛けられる声
後ろを振り向くと、そこには一人のウマ娘が立っていた
セミロングの綺麗な鹿毛。どこか眠そうな目。そして、手に持った大量の肉まん
見ればその格好は何よりも見慣れたトレセン学園の制服で。でも、顔は見たこと……あれ？ちょっと待て。なんか、この子どこかで……

「だいじょーぶ、ですか？」

そう言いながら、彼女は……肉まんを一個、頬張った

●

「なるほど、バレンタインのチョコでしたか」

商店街を少し進んだ先にある、プイ先輩お気に入りのたい焼き屋。その目の前のベンチで、三人並んでたい焼きを堪能していた。

「それにしても、本当にご馳走になっちゃっていいんですか？」
「バッグ貸してくれただけでもありがたいのに、持ってくれてるんスから。これじゃ足りんくらいッスよ」

あの後。適当にふらふら買い物でもしようか、と商店街に来ていたらしい彼女が、持っていたエコバッグを貸してくれて
それどころか学園まで持ってくれるとまで言い出したのだ。なんというかもう、頭が上がらない
なのでせめて、ということで今こうしてたい焼きをご馳走させてもらっている。うん、この店のは安定して美味しい

「えっと、それで………」
「プラダリア、と申します」
「そうそう。思い出したプイ。この間のレースで勝った子プイ」

プラダリア。そう名乗った彼女の名前と顔に、こちらは覚えがあった。
ついこの間の事だ。京都記念を勝利したウマ娘。しかも昨年の京都大賞典も勝っていたはずだ
記録映像を何度も部室で見た覚えがある。まさか、街中で偶然そんな子と出会うとは

「プラナリア、ではありませんので。お間違えの無いようお願いします」
「は、はぁ」

キリッとして、そんな注意事項を
………結構弄られたんだな、これは

「にしても、本当にいいんスか？せっかく買い物にきてたのに、こんな形で帰っちゃって」
「特にやることも無くふらふらしていただけでしたので。お役に立てるのであれば」
「すっごいいい子プイ」

いやマジでいい子だな。後で改めてお礼しないと
すると、三人揃ってほぼ同時にたい焼きを完食したあたりで。ふと、彼女がこっちとプイ先輩を見比べるようにして

「……やはり、三冠バともなると、チョコレートのお返しの量も凄いことになるんですねぇ」

ほにゃ、とでもいえばいいのか。独特の柔和な笑いを浮かべた彼女だが……どことなくマイペースだなこの子

「ああ、いや。これはウチのチーム全員の分ッス」
「こっちは別口プーイ」
「ああ、なるほど。てっきり、お二人の分だけなのかと」

いや、流石にそれは……と思ったが、そうだプイ先輩入れたらこんな量じゃとても収まらないレベルだった

「チーム、ですか」
「そういえば、プラダリアちゃんはどこかのチームに所属してるプイ？」
「いえ。私はまだどこのチームにも………」
「それでG２勝ってるんスか。凄いッスね」

いや、お世辞抜きに凄い逸材じゃないか
専属トレーナーも無しにG2勝利ともなると、今後が大いに期待されるどころじゃない
うずっと、心の中の欲求が鎌首をもたげそうになるが………我慢だ。出会っていきなり、それはよくない

「興味はあるのですが……そうこうしているうちに、何処にも所属することも無いままここまで来てしまいまして」

その言葉に再び「じゃあ是非うちに………」という言葉が漏れそうになるが、我慢我慢
ただそれは、この子の今後を見てみたい、という意味でもあった。専属トレーナー無しでここまできている、ということは………専属トレーナーを付ければ、一体どれほどまで伸びるのか
見てみたい。その可能性を。もしかしたら、G１にも届くのではないかと言う、その未来を

「いつか、御縁があるのでしょうか」
「……あるッスよ。きっと」
「うんうん。きっと、そのうちあるプイ」

プイ先輩のそのなんというか、分かってる分かってるとでも言わんばかりの視線が若干むかついたのでこっそり尻尾でべしっと叩いておいた。ぷきゅんっとか変な悲鳴
そりゃそうでしょうよ。こんな有望株、勧誘したくなって当然でしょうがと

「さて、そろそろ行くッスか」
「たい焼き、ご馳走になりました」
「ごちそうさまプーイ」

三人揃って立ち上がり、また大量の食材を詰め込んだバッグを抱える
せめて帰り道まではまた破裂することが無いように願いながら、帰り道を行く。奇妙な縁で出会った彼女を横に
後で連絡先だけ聞いておこう。せめてお礼させてもらわないと、たい焼きだけじゃとても釣り合わない
重い荷物を持ちながらもほにゃっとした独特の空気を纏う彼女を横目に、心の中で思う

（この子がもし、うちのチームに来てくれたら）

それは、凄く楽しそうな未来だと
考えるだけならタダだと思うから

●

「つーことがありましてね」
「な、なんか独特な子ですね………」

ソングラインちゃんと並んで生地をゴムベラでかき回しながら、そんな思い出話
今日この日、プレハブはチョコ制作で大忙しだった。いつものメンバーに加えてプイ先輩まで参加しての製菓大会。プイ先輩がノリで持ってきた『監督』なんて腕章つけられて、作業の真っただ中

「ねえねえ、これアレンジしていいかな？カワイイと思うんだけど………」
「はいそこ、勝手なアレンジ禁止ッス。レシピ遵守ッス」
「ぶー」

全くこの姐御は。スペック的には問題ないはずなのに、気を抜くとすぐに勝手なアレンジ加えて台無しにしようとするんだから
すると、エプロンに三角巾姿のプイ先輩とエールちゃんがこっちにやってくる
その手には、美味しそうに膨らんだチョコレートシフォンケーキ。焼き上がったのか

「できましたよ！！！！！！！！！！！！！第三便完了です！！！！！！！！！！」
「次持って行っていいプイ？」
「生地できてるんだったらどんどん持ってってくださいッス。時間マジでねーッスから」
「おう愚妹、湯煎したチョコまたできたぞ。ちょっとくれー味見させろ」

駄目に決まってるでしょうが、と
………今回、地元のお年寄りにも配るつもりらしい姉貴が自主的に参加してくれたのはいいが
まったく、隙あらばつまみ食いしようとするんだから

「さーどんどん焼いていくッスよ。トリュフ班、そっちはどうッスか」

視線を聖剣先輩率いるチョコトリュフ製造班に
必死こいて並べていてくれてるし、問題はなさそうだが

「問題ない。今のところ順調だ」
「忙しいったらないわよ！！あとで取り分寄こしなさいよ！！」
「こ、これでいいんでしょうか。形がちょっと………」
「よほど崩れて無ければそれでいいッスよ。細かく気にする必要はないッス」

今年はハギノモーリスちゃんも参加してくれて、本当にありがたい話だ
こっちもどんどん作っていかなければ。とはいえ生地は繊細なので、しっかり様子を見ながらね

「あ、チョコシフォン冷めたやつ、一個カットしておいてくださいッス。あとでトリュフと一緒に詰めてデリバリーしてくるんで」
「え？どこ行くプイ？」
「今回、真っ先にお礼しないといけない子がいるでしょう」

出来上がった生地をプイ先輩に渡す。先輩もそれで思い当たったのか、あーっと納得した顔

「プラダリアちゃん、だっけ？その子に持っていくんだね」
「そうッス。今回世話になっちゃったんで」
「連絡先は聞いてあるんですか？」
「ええ。しっかり聞いといたッス」

あの子が助けてくれなかったらえらいことになってた。なので、このフライングくらいは当然だろう
ついでにお礼のカードもつけて、と。……別にチームの宣伝とかカンガエテマセンヨ？

「面白そうな後輩じゃねえの。いっそそのまま練習に引っ張ってきちまえばいいのに」
「それは強引過ぎるだろう。拉致のようになってしまっては元も子もない」
「興味持ってきてくれるといいんですけどねぇ」

それは、確かに期待してしまうけど
まあ、とにかく今は今やれることをやってしまおう。デリバリーもその後だ

「ああ、それと。ちゃんとトレーナーへの分は残しておくようにお願いするッスよ？後でめっちゃ拗ねられても面倒なんで」
「あ、あはは………」

……フライングと言えば

「プイ先輩、デリバリーの時一緒に来てもらっていいッスか？」
「ん？オッケープイ。せっかくだし一緒に行くプイ」

昨日の夜、こっそり作っておいた『それ』は、カバンの中にしっかり入ってる。ダークブルーの包み紙にシルバーのリボンの『特別』
もう毎年恒例になってるけど、このくらいの『特別』、許してもらおうじゃないか
URAなんか通したらそれこそ不機嫌になりそうだし、ね

「………楽しみにしてるプイ」

ぼそっと囁かれるその言葉
そりゃ、毎年やってればバレもするか。そしてきっと、考えていることは同じだったのだろうから
あとはどのタイミングで隙を見て渡すかって話だったわけで。プラダリアちゃんには悪いけど、ちょっと口実に使わせてもらおう
きっと、姐御あたりにもバレてるんだろうけど。勘がいいしね、そういうところ

「さ、残りの生地もどんどん作るッスよ。ソングラインちゃん、小麦粉振るっておいてくださいッス」
「あ、はい！！！」
「私やりましょうか！！！！！！！！！！！！！！」
「お前のパワーでやったら飛び散るだろうがメイケイエール！！！！」

バレンタイン。それは女の子たちが色めき立つ、一年に一度の特別な日
そんな時期にできた奇妙な縁と、いつもと変わらない縁
そのどちらも大切にしていけばきっと、今年も笑顔で終われるだろう

「どんどんいくッスっよー。はい、生地完成」
「こっちも焼き上がりプーイ」

今年のバレンタインは、少し不思議な出会いも含めて……
ちょっとだけ、いつもと違う風が入ってきたような。そんな日になったのだった

以上。バレンタインだけど特に何もなかったので酒飲んで舎弟した

プラナリアちゃん…

チームikzeもどんどん増えていくのか

プレハブもずいぶん長く続いてるな

オルプイ感謝

プラダリアちゃんいいですね

>1707916715562.png
お手描きありがとうございます！！
プラダリアちゃんカワイイ！！

>プラダリアちゃんいいですね
あらかわいい

もう実装内定済みだから舎弟のこのキャラも泡沫の夢だよな…
まあはじけて消えるまでは楽しむさ

プラダリアは安定して強くなってきたからあとはG1をどうにかして…