恐竜が「優秀な生命体」であることの解明を目指す
アラスカの恐竜を研究することで、どんな恐竜がいつ、どのようにして大陸間を渡っていったのか、という謎の解明が可能となる。これが、私が15年以上アラスカで恐竜化石調査を行っている一つ目の理由である。
二つ目の理由は、アラスカが北極圏付近に位置していることだ。現在の北極圏は、非常に厳しい環境である。特に冬になると極寒と極夜といった、生命を維持するにはこれ以上厳しいところがないというくらいの環境である。「恐竜時代は今よりも暖かっただろう」という人もいると思う。たしかにその通りだが、それでも冬は寒い。私たちの研究によると、当時のアラスカは札幌程度の気候だったと考えてよい。
北海道の夏は最高である。暑い日は限られており、北海道外から遊びに来た人にとっては、過ごしやすいと思うだろう。ただ、冬はどうだろうか。温度は下がり、雪が降る。これは、単に寒いというだけではなく、自然界では水の確保も難しくなるということを意味する。
じっさいにヒグマなどは、冬を過ごすため冬眠を強いられる。さらに冬には日も短くなるが、北極圏になるとさらに短いし、場所によっては現在と同じく昼間にも太陽が昇らない極夜を迎える。今よりも暖かいといっても、決して過ごしやすい環境ではないし、冬となると死と隣り合わせの生活を強いられるのだ。
こんな厳しい環境に恐竜たちが棲んでいたのか? 棲んでいたとしたらどんな恐竜たちだったのか? そして究極の疑問は「恐竜は冬を越せたのか?」である。
人間は、高等な技術によって、アラスカという厳しい環境でも生活できるが、恐竜にはそんなものはなく体ひとつで厳しい環境を耐え抜いていったのだ。恐竜がいかにして、北極圏という厳しい環境を生き抜いていったのかを理解することは、恐竜が生命体としていかに優れていたものであったかを証明することとなる。
絶滅のメカニズムのカギかもしれない
最後に、約6600万年前に現在のユカタン半島付近に直径10キロ程度の隕石が落ちたことによって、恐竜はこの地球から姿を消した。隕石衝突の衝撃で、地球は火で覆われ、津波に襲われ、酸性雨が降り、そして長い「衝突の冬」がやってきた。
最初の3つの災害は、局所的な被害だった可能性があるが、衝突の冬は全地球を襲った。北極圏という厳しい環境を生き延びることができた恐竜ですら、絶滅から逃れることはできなかった。この絶滅のメカニズムをより理解するためには、恐竜が極圏でどのような生活をし、どのようにして越冬をしていたのかを知ることが重要になる。アラスカ恐竜の研究は、地球生命史の大量絶滅という大きな出来事の解明にも役立つかもしれないのだ。
アラスカ調査は、大きな危険をともなうし、容易ではない。ただ、恐竜研究に非常に重要なコンテンツであり、大量絶滅のメカニズムや恐竜の渡りや多様性、そして進化の解明においても欠かせないものである。
読者の皆さんには馴染みがないかもしれないアラスカの恐竜。私はこれから少しずつこれまでの研究成果を解説し、アラスカの恐竜がいかに素晴らしいものであるかを紹介していきたい。
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次回からは、いよいよアラスカで発見された骨化石を紹介していく。白亜紀のアラスカでは、パキリノサウルス、エドモントサウルス、ドロマエオサウルスetc.、多様な恐竜たちが暮らしていた。白亜紀の北極圏がどのような環境だったのか、恐竜たちはどのように暮らしていたのかを最新の研究結果とともに探っていく――。
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