名誉声望保持権から画像生成AIについて考える
私は法律に関して素人なので、この記事は私の感想をまとめたものにすぎません。
この記事を書くにあたり、「青山学院大学 学術リポジトリ AURORA-IR」の 「著作権法第113条第6項の意義と機能 : 著作者人格権侵害とみなす行為と名誉毀損」( https://www.agulin.aoyama.ac.jp/repo/repository/1000/11008/ )という論文を引用させていただきます。
これは2007年に書かれたものなので、当時の著作権法第113条第6項は現在の著作権法第113条第11項に移動しています。
1.名誉声望保持権について
名誉声望保持権は、著作権法113条11項に定められているものです。著作者人格権の一つとみなされています。 第百十三条
(中略)
11 著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為は、その著作者人格権を侵害する行為とみなす。
著作権法30条の4等によって、機械学習のために著作権を制限できますが、それは著作者人格権には影響しません。著作権法50条に書かれています。 第五十条 この款の規定は、著作者人格権に影響を及ぼすものと解釈してはならない。
「名誉」とは、著作者に対する客観的な社会的評価であり、 「著作権者の精神的利益」などの名誉感情は、著作権法113条6項が適用される問題ではない。
名誉声望保持権の内容について見ていくと、
「声望」とは、世間でのよい評判あるいは名声と人望である。
(10~11ページ目)
(27ページ目)
というように、客観的な評価や評判が害されることを防ぐものだとされています。 本項はたまたまその法効果として著作者人格権と同一に扱われるにはなっているが、要件面からは、わが国の法体系では名誉毀損・侵害に関する一規定に過ぎないと解され、侵害者の対象者がたまたま抽象的な人ではなく、著作者であるという以外に一般の名誉毀損・侵害ケースと全く異ならないからである。
客観的な観点をふまえることから、
(34~35ページ目)
とも書かれ、ほとんどその存在意義がないとも書かれています。
これは、ベルヌ条約を受けて作られた条文であるということも背景にあるようです。
2.画像生成AIに関連しそうな事項
まず著作権法113条11項にあるように、「著作物を利用する」ことが成立要件になるため、生成AIの依拠性をどう捉えるかが一つ大きな問題となるでしょう。 著作物は全部を利用する場合だけでなく、一部の利用でもそれが著作物である限り、著作物の利用になる。
(16ページ目)
と書かれており、名誉声望保持権に関しては、AIの学習元に含まれていれば利用したとみなされるのではないかと推測します。
その他に気になった点を二つ挙げたいと思います。 仮に、小説の処女作を発表してまもなく、その小説が他人によって利用されたことによりその将来的な小説家としての名誉・声望が害されるという場合が考えられるからである。これは期待的ないしは将来的な名誉・声望である。期待的な名誉・声望の場合には、それを「害する」とは、必ずしも低下させることではなく、喪失させることであろう。このような場合にも、本項によってその著作者としての将来的な名誉・声望を保護しなくてはならないだろう。
一つ目は将来的な名誉声望についてです。
(14ページ目)
このように、将来的な名誉声望も考慮するという見解があります。 他人の著作物を利用してはいるが、その著作者名を摘示していない場合には、原則として名誉声望の主体が指示特定されていないので、名誉声望の侵害とはならない。しかし、著作者名を摘示しなくとも、一般人の判断力から、利用された著作物の内容上その著作者を推測できる場合は、その著作者の著作物の名誉声望侵害利用行為と考えることができよう。
生成された画像に著作物との類似性がなくとも、依拠性があり、著作者の販路を将来的に阻害することが容易に想定できるものには、これが適用されるかもしれません。
ただし、
(16ページ目)
とあるように、一般的な画像生成AIには適用されないのではないかと思われます。
逆に、特定の著作者を集中的に学習した場合等は、適用される可能性が高まりそうです。
著作財産権の侵害については、元の著作物の表現上の本質的な特徴が感得できることが重要になるのに対し、名誉声望保持権の侵害については、元の著作者が一般人の判断力から推測できることが重要になるということが大きな違いだと感じました。
二つ目は、AI生成物の著作権の有無に関してです。 思想あるいは感情を伴う利用行為は、それ事態が表現行為であり、憲法上の表現の自由によって高度に保証されなければばらないものである。仮に、その思想あるいは感情の表現行為が、他人、利用に供した著作者の名誉声望を害することがあっても、すべての場合に、それが名誉声望侵害利用行為として著作者人格権侵害とみなされるのは不当であって、著作者人格権侵害とはみなされないものや、著作者人格権侵害とみなされても一定の要件で免責される場合を考えなければならない。
(20ページ目)
論文内では上記の裁判例として、脱ゴーマニズム宣言事件を挙げられています。 本来、そのような論争は言論の場で行うべきであって、そのような訴訟が提訴されることによって、被告ないしは他の著作者の創作活動に重大な支障を来すおそれがあり、最終的には文化の発展に害になることはあっても寄与することはないからである。
イデオロギー等の批判のために著作物を引用する行為は著作者人格権の侵害にあたらないというような判決になりました。
(20~21ページ目)
という私見も論文内で述べられています。
AI生成物は現在、基本的に著作権を得ることはできません。
しかし、仮に著作権を得るようになった場合、表現の自由として高度な保証を得ることになり、著作者人格権が及ぶ範囲でも免責される事態が発生する可能性が考えられます。
AI生成物に著作権を与えようとする動きは、著作者人格権の相対的な抑制も付随しているように感じてしまいました。
とはいえ、「人間の思想または感情を表現していないAI生成物」と言えども、出版の自由などの観点で見ると、現在でも表現の自由で保護されるべきものではあるでしょう。
3.おわりに
元の著作物の本質的特徴を感得できない程度まで改変させると、同一性保持権は及ばないとされています。
不特定多数の著作者が加担させられている生成AIに対し、特定の著作者を保護する著作者人格権を使うのは難しいのかもしれません。
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