古龍が去った後日談   作:貝細工

14 / 18
神助と供養

 

「クシャルダオラ、聴こえるか?」

 

「シャガルマガラは強い。このまま放置すれば、狂竜症が世に広まって世界が壊されてしまう」

 

「俺達人間はシャガルマガラに勝てない。だからお前に頼みたいことがある」

 

「そんな顔しないでくれ。俺だって怖いんだ。

だけど――」

 

「――これが俺の選んだ事なんだ」

 

古龍と竜人は、共通の祖先を持つとされている。

今ではすっかり関係は失われて竜人は人と共に暮らす道を選んだ。

人の言葉は古龍にはわからない。

しかし鋼龍には他の道は残されていなかった。

背に腹は変えられない。

微かな希望を掴む為に行われた悍ましい儀式。

それは信仰する龍に願いを捧げる純粋な想いだった。やがて後世で踏み躙られることになっても、彼は世界を愛していたのだ。

 

風の時代。切なく悲しい歴史があった。

時は流れ現代。

偉大な女傑は敗戦を選んだ。

狩人の誇りが傷つけられても、彼女には守りたい大切な人物がいたからだ。

その狩りは神に捧げる舞踊。

百戦錬磨の戦士となっても、あの日の幼い少女は心のどこかに祈りを持っていた。

来る筈のない神を待ち続けていた。

モンスターの狩猟は時に残酷だ。

 

ココットの村長はかつて、とある古龍との戦いで婚約者を亡くした。

輝かしい戦績を残すハンターがいる一方で、人知れず命を落とすハンターも少なくない。

竜機兵の先に待っていたのは竜大戦。

そして黒龍。全ての物語は一つになる。

 

伝説の復活に先んじて非常事態が発生した。

古龍渡りの活性化だ。

古龍渡りとは、古龍が現大陸から海を越えて新大陸に大移動する奇妙な習性のことだ。

自然災害の化身といわれる古龍達の大移動の被害規模は天災に等しいため、ギルドは原因究明に向けて調査を続けている。

遥か昔から知られていた古龍渡りは百年に一度行われるという珍しい習性だった。

しかし、年々その間隔は狭くなり、今では十年に一度の頻度で古龍渡りが発生している。

大勢の古龍が大移動を開始すれば、その被害は百竜夜行の比ではない。

 

世界全体が動いている。

大陸を支配する王者達が篩にかけられている。

隣接する異世界の存在に気付いたのだろうか。

東の天廻龍と怨虎竜の西征に端を発して、雷狼竜や泥翁竜といった東現大陸の強豪が動き始めた。

迎え撃つのは火竜を筆頭とする西の大型モンスター達だ。

 

モンスター東西戦争を察知したギルドは東西のモンスターを追い立てる元凶を調査した。

長期に渡る調査の結果、東西で2頭のモンスターの影が浮かび上がった。

東の軍勢を率いるのは天廻龍シャガルマガラだ。狂竜ウィルスが世界を恐怖に包み込んだシャガルマガラ事件も記憶に新しい。

かつてギルドの精鋭部隊「筆頭ハンター」とキャラバンの協力によって天廻龍は討伐された。

しかし、天廻龍亡き後も狂竜ウィルスの発生は報告された。

狂竜の力を克服した極限個体と呼ばれるモンスター達が新たな感染源となっていたのだ。

同時に鋼龍クシャルダオラが脱皮の時期を迎えて凶暴化。ドンドルマでは錆鋼龍の迎撃戦が展開される。

筆頭ハンターも動員された迎撃戦の裏ではキャラバン「我らの団」に所属するハンターが極限状態セルレギオスの対処に当たり、見事討伐に成功した。

 

極限個体と錆鋼龍。

並の古龍を凌駕する危険性を持つ二つの脅威の中で、天廻龍は人知れず力をつけていた。

しかし、その被害が世界に拡散しないことにはとある理由があった。

東現大陸の覇者である怨虎竜の存在だ。

縄張り意識の強い怨虎竜は狂竜ウィルスを保有するモンスターを殺し続けた。

その結果、狂竜ウィルスの影響は東の一部地域で抑えられたのである。

廻龍亜目の繁殖は怨虎竜の活躍により阻止されていたのだった。

 

しかし、天廻龍と怨虎竜の直接対決に天廻龍が勝利したことで怨虎竜の抑止が崩壊。

繁栄を求めて標高の高い地域を征西する天廻龍とそのエネルギーを追う大量のモンスターによって移動するホットゾーンが出来上がった。

そして天廻龍に敗れた怨虎竜も獲物を求めて西を目指している。

 

西の勢力の中心には、現地の人々に女王と呼ばれている謎の存在が居ることが分かっている。

かつて超大型古龍に匹敵する災害として伝説に残っている女王は近年になり活動を再開。

複数の集落を襲撃して力を集めている最中、鋼龍との戦いに敗れて森林地帯に逃げ込んだという。

しかし女王に住処を追われた大型モンスター達は西に帰らず、東のモンスター達を迎え撃つつもりだ。

 

ギルドは超大型古龍と同等の影響力を持つ女王を秘密裏に重要な討伐対象に指定。

鋼龍との戦闘によって力を失った女王の討伐は、古龍に挑む者にとって避けて通れないクエストとなった。

 

「自分の立場を知る良い機会だ」

 

そういって、ハンターはおもむろに森の中に足を踏み入れた。

その地には、縄張り争いに敗れた大罪の女王が潜んでいる。

ハンターズギルドは女王の危険性を恐れている。

そして鋼の神に女王が敗れた今こそ、女王に攻撃を仕掛ける時期と睨んだのだ。

彼が古龍である天廻龍に挑むためには、女王を狩って実力を示さなければいけない。

彼女とは大きな差をつけられていた彼だが、心優しい性格のせいでモンスターへの攻撃に全力を発揮できていなかった。

しかし彼の心に信念が宿った今、その実力には多くの期待が寄せられている。

 

しかしこれは彼にとってもギルドにとってもハイリスクな賭けだ。

もし女王を倒すことが出来ても、ハンター業を続行できない大怪我を負ってしまえば天廻龍の狩猟に繋げることが出来ない。

もし天廻龍の狩猟まで辿り着くことが出来ても、女王との戦いで負傷したことによってやられてしまうこともあるだろう。

それでも、これまで二人三脚で狩猟をおこなってきたハンターにいきなり古龍の単独狩猟は任せられないというのがギルド上層部の判断だった。

それは、生前の彼女が誰よりも愛した狩人を古龍の牙から遠ざけるためのせめてもの罪滅ぼしなのかもしれない。

だがそれでも、彼が天廻龍の狩猟を諦めることはなかった。

ギルドの書庫で女王にまつわる記録を徹底的に調べ上げ、トラブルが発生しても安全に狩猟を成功させられるように作戦を立てていた。

そして練習の為にアルセルタスやその亜種など、独特の攻撃を扱うモンスターと戦いを続けた。

時にはギルドナイトと剣術で渡り合い、女王に対抗する為の技術を磨いた。

 

月日が経つ。

怪我のない鍛錬による技術の習得。

相手に対応した作戦の調整。

天廻龍は少しずつ西へと近づいてくる。

そしてようやく、真剣を手に取る日が来た。

 

ハンターは、黒狼鳥の装備を身につけている。

イャンガルルガの素材を使って作られる防具は東洋の武将を思わせる独特な形状の鎧だ。

格調高い紫と鮮やかな緑が目を引く毒々しいカラーリングが特徴的だ。

黒狼鳥の甲殻は怒りによって圧縮されて強度を増す。強度の増した部分をふんだんに使った防具は頑健で、好戦的な黒狼鳥の鼓動を感じさせる。

かつて心優しい彼を奮い立たせる為に、優秀な女狩人が贈ったものだ。

 

溶岩の塊のような分厚い大剣は火砕剣という。

ヴォルガノスの素材から作られた大剣で、見た目に違わぬ重量を持つ火属性の大剣だ。

見かけによらず標準的な切れ味の剣だが、叩き斬るように振り下ろせば火山弾のような威力を誇る豪快な一振りである。

飛竜の攻撃にも余裕で耐えるといわれる溶岩竜の素材を使っているため、刀身を用いた防御の安定性も他の大剣とは桁違いだ。

火砕剣を振り回す狩人は戦士だ。

攻撃と防御を一振りの大剣に任せた戦い方は地の利を活かしにくい。

しかし相手に振り回されず力を発揮出来る安定性は他の武器には無い魅力だ。

火砕剣は、荒々しくも慎重で無骨なハンターに愛用される武器である。

 

森は静まり返っている。

ギルドはこの森に潜伏している女王は覇竜や崩竜に劣らない脅威だという。

種の頂点に君臨するモンスターは、どんな種であっても侮れないものだ。

大型モンスターの中では比較的狩猟し易いといわれている牙獣でさえ、その王座にはかの金獅子が君臨している。

特に近年では、各地で生態系の頂点に君臨する強力なモンスター達が名を上げている。

鎧兜の禍威を筆頭に、十年前は鳴りを潜めていた泥翁竜や雪鬼獣などの強大な大型モンスターの目撃例が増えているのだ。

しかしギルド関係者は、女王はその中でも押しも押されぬ最大の脅威だと語る。

 

姿を見つけるまで長い時間はかからなかった。

何故なら、この森全体がモンスターそのものと言っても過言ではないからだ。

枯れ葉の割れる音に気がついて、ハンターは火砕剣を構えた。熱波を放つ火砕剣は、獰猛な溶岩竜のように正面を威嚇する。

 

―汝、妾の姿を拝みたければ力を見せろ。

 

苔の蒸した岩石をつなぐ細い木の根。

竜のような形をした岩と植物の混合物がパキパキと音を立てながら動き出した。

森が意思を持っているかのように周囲の植物が岩に引っ張られて引き抜かれている。

異常にして、異形。地中から這い出る。

四足歩行のレックス系飛竜を思わせる形に纏まったかと思いきや、地中に埋まっていた脚を引き抜くと鋼龍に近い体型に変形した。

ドラゴンのような姿をしているが、翼はない。

全身が土を被っていて、岩と植物で出来ている。

生物とは思えない異形の怪物がハンターの方を睨んでいる。

睨んでいるといっても、その頭は竜の頭部に近い形状の岩で出来ている。

目や鼻、耳といった感覚器官はどこにも見当たらない。物を食べる為の口らしき部位も無い。

植物と岩が細かな糸によって竜のような形の塊になっているだけだ。

 

猛禽のような甲高い鳴き声が反響して耳に響き、ハンターは思わず耳を塞いで立ち竦んだ。

蛇とも竜ともつかない森の怪物はハンターに向かって蛇行しながら突進。

岩石の頭がハンターを押しつぶす勢いで向かってくる。しかしハンターはサイドステップでかわしながら横薙ぎの火砕剣を振り抜いて迎え撃つ。

 

冷え固まった溶岩の塊のような火砕剣が内から赤い光を漏らしたと思うと、刃に触れた岩石の頭は赤く融解して断ち切られた。

頭蓋どころか脳まで刃が通ったかのように見えたが、岩石の怪物は平気な様子だ。

明らかに切断された筈の頭部は細かな糸によってまとめられてすぐに元通りになった。

怪物が再生している隙にハンターは周囲に気を配って利用出来そうな物を探したが、全ての自然物が女王に支配されているようだ。

 

「環境を利用して戦うのはハンターだけではないとはよくいったものだな」

 

ハンターはそういって煙玉を使って姿を眩ませながら、足音を立てずに森の中を動き回った。

森の全てが女王の空間なら、女王の支配を受けない自分の空間を作ればいい。

静寂、緊張が走る。

―急襲、首を刎ねる。

刹那の沈黙ごと灼き斬る斬撃は溶岩に匹敵する熱を持ち、防御の態勢を取る隙も与えず怪物の体に接合された植物を発火させた。

頭部を叩き斬った時のように、刃に触れた岩石がバターのように融けて切り裂かれる。

 

人間は巨大な怪物の力に対抗するために技術を発達させたが、未だにモンスターと比べて肉体は弱いままだ。

怪物は首を斬られながら、防御を諦めて力任せに体当たりを繰り出した。

ハンターは火砕剣の刀身を横に傾けて衝撃を受け止めたが、荒れ狂う怪物の膂力は受け止めきれなかった。頭部を失った怪物の胴に弾き飛ばされ、燃え盛る怪物を目の前に体を強く打って倒れた。

 

焼けて崩れていく怪物を睨みながら、ハンターはすぐに起き上がってボトルの回復薬を飲み干す。

怪物は炎に包まれて暴れ回り、破壊した周囲の木々や土を取り込みながら大きくなっていく。

しかし、怪物の成長は突然止まった。

体表の木々や岩の隙間から紫の煙が立ち上る。

取り込んだ自然物同士を縛り付ける糸が緩み、外側からボロボロと崩れて紫色のガスを排出した。

 

煙玉で身を隠して歩き回っていたハンターは、そこら中に毒けむり玉を配置していたのだ。

木の枝や岩の隙間にそっと置かれていた毒けむり玉は自然物に混ざって怪物に取り込まれた。

そして怪物が暴れる事で毒を噴射して、内部に猛毒を充満させたのだ。

 

巨大な怪物が崩れ去ると、その内側から光り輝くカマキリのような昆虫が出現した。

全長15メートル。数値では平均的な個体の土砂竜を上回る大きさだが、その体躯は華奢。

尾から頭部まで反り返ったその姿は数値よりかなり小さく見える。紫の模様が入った黄金色の甲殻は煌びやかで美しい。

明るい紫色の複眼を輝かせ、鎌のように発達した両腕を振り上げて特徴的な鳴き声を響かせた。

それはギルドが特に危険視する特級の危険生物。

大罪の女王の正体だった。

 

閣蟷螂 アトラル・カ

 

甲虫種でありながら、超大型古龍に匹敵する危険性を持つ規格外のモンスター。

その正体は金色の絲によって、アトラル・ネセトと呼ばれる巨大な巣を操る驚異的な生態を持つモンスターである。

巨大龍のような形のネセトを絲を用いて駆動させることで、長距離を安全に移動する生態から、蠢く墟城の別名を持つ。

ネセトは普段は木や岩などの自然物を使って作られるが、閣蟷螂は人工物の強さを理解している。

砦に使われる撃龍槍や防護壁の耐久力は自然物の比ではないため、閣蟷螂にとってはネセトの最高の素材になる。

一度人工物を知ってしまった閣蟷螂は積極的に砦を襲ってネセトに取り込み、歩く要塞と化してしまう危険性を持っている。

 

美しい花には棘がある。その言葉の通り、閣蟷螂は目が眩むほどの華やかと危険性を併せ持つ。

豪華絢爛な黄金の甲殻と宝石のような棘。

地母神にも負けず劣らずの美しさを持つ虫だ。

体内には強い腐食性のあるフェロモンを持っており、被弾した相手の守りを溶かす。

絲による巨大な物体の投擲を交えた遠距離戦は見た目に似合わない苛烈な攻撃力が特徴だ。

 

閣蟷螂に近寄ることの出来る生物は稀だが、閣蟷螂は近距離でもその剛力を遺憾なく発揮する。

両腕の先にある鋭く尖った鎌状の部位は極上の切れ味を誇り、素早い斬撃で外敵を両断する。

腕の内側に付いた刃のような器官も一撃でハンターを防具ごと切り裂く殺傷能力を持つ。

 

ハンターは閣蟷螂の甲殻が高い断熱性を持つことを見抜いていた。ネセトが燃え盛っても暴れるのみでネセトから降りようとはしなかったからだ。

そして閣蟷螂はハンターの武器が熱を利用した大剣ということに気付いている。

不意をつかなければ、厳しい戦いになるだろう。

 

熱を通さない甲殻を持つ閣蟷螂でも、重く鋭い火砕剣の一撃を受ければ甲殻を損傷してしまう。

永きに渡り女王の身を守ってきた黄金の鎧は驚くほどの強度を誇るが、迂闊に攻撃を受けるわけにはいかない。

向こう傷を恐れない金獅子や恐暴竜とは異なり、その戦いは消極的だ。

常に相手と正面から向き合って距離をキープ。

絲を使って相手の行動を制限しつつ、攻撃の軌道を読んで回避しながらカウンターを狙う。

上体を直立させた姿勢は体を大きく見せる威嚇と頭部の防御を兼ねている。

 

閣蟷螂の方を見たまま、閣蟷螂を中心に円を描くように歩いて横を取ろうとするハンター。

四本の脚を絶え間なく動かしてハンターを正面に捉え続ける閣蟷螂。よく見るとハンターを正面に捉えるだけではなく、横に向かって歩いている。

両者の間で行われていたのは外側の取り合いだ。

 

ハンターは右脚を大きく前に突き出して、股下までグリップを下ろすことで、両腕で大剣を掴みながら剣を相手の方に向けている。

前足の方向は利き手によって異なるが、右足を出す構えは大剣のスタンダードな構えだ。

前脚の踏み込む力を利用して剣を振るうため、相手に前脚の外側に出られると力を発揮できない。

そのため、大剣使いは戦いながら相手の外側を取るようにして回り込むのだ。

図体の大きな大型モンスターと戦う時には外側を取るように意識しなくても、力を込めて剣を振り下ろせば巨大な体のどこかに攻撃が命中する。

しかし、閣蟷螂のような華奢で小柄なモンスターと戦う時は相手と自分の位置に気を配らなければならない。

徹甲虫やギルドナイトを相手に練習を重ねたのは全てこの瞬間のためだ。

 

常に正面に突き出されている火砕剣。一見して何の変哲もない抜刀状態の大剣の構えだ。

しかしハンターは鋒を閣蟷螂の頭部に向け続けているため、迂闊に頭部を下げて距離を詰めれば閣蟷螂の眉間を突き刺すことになる。

大型モンスターの中では小柄な閣蟷螂も人間と比べると3倍以上の身長差がある。

頭部を下げなければ鎌による斬撃に肩を入れることが出来ないため、閣蟷螂の攻撃力が減少する。

鋒を向けたまま飛び込めば、火砕剣が弱点の頭部に直撃する間合いだ。

しかし、閣蟷螂は鎌で剣を払いながら斜めに回り込んですぐに向き直った。

ハンターは剣を払われると同時に前方に受身を取って閣蟷螂の懐に潜り、刀身を水平に倒して回転斬りを繰り出す。

 

狙いは前脚だ。閣蟷螂の足が流れてバランスを崩したところに返す刀が基節を打ち抜いた。

慌てた閣蟷螂は鎌を振り回して反撃したが、ハンターは脚の内側に潜り込んで回避。

傾斜のついた縦の斬撃を中肢に打ち込む。

閣蟷螂の甲殻は想像以上の強度だった。

脚を二本切断するつもりで放った斬撃が、二発とも決定打には至らなかったのだ。

 

両者は再び距離を取って向き直り、外側の取り合いが始まった。

閣蟷螂の金殻が木漏れ日に照らされて、モンスターとは思えないほど神秘的な輝きを放つ。

ハンターは閣蟷螂の甲殻の強度を甘く見てはいないが、ネセトの使えない閣蟷螂が相手ならば単騎でも勝機はあると信じ込んでいる。

事実、二発の斬撃は脚の切断には至らなかったが駆け引きで出し抜かれた閣蟷螂は動きが消極的になっていた。

 

一方でハンターの方には呼吸の乱れも無く、ただ淡々とフェイントを織り交ぜて隙を狙っている。

相手に届かせる攻撃と全く届かないフェイントの間で微妙なモーションの違いをつけることで敢えて閣蟷螂にハンターの攻撃パターンを刷り込む。

 

そして、フェイントのモーションを学習してスタミナ節約のために防御行動を怠ったその瞬間。

フェイントのモーションから攻撃に繋げて鋭い一撃を差し込んだ。

閣蟷螂の高い学習能力を逆手に取り、わざと動きを予測させてその裏を狙う。

チクチクと攻撃を重ねるハンターに嫌気が差したのか、閣蟷螂は強引に前進して両鎌を振った。

当然前方に突き出した大剣が閣蟷螂の頭頂部を捉えて強烈なカウンターが突き刺さる。

しかし、仕留めることは出来なかった。ハンターはがむしゃらに振り回した鎌を防ぐため、剣を引いて盾にしなければならなかったのだ。

 

溶岩竜の甲殻をふんだんに使った頑強な火砕剣に鎌が突き刺さり、驚愕するハンター。

しかし驚いて竦んでいる暇はない。

鎌を引き抜いた閣蟷螂の頭部に穴あきの火砕剣を振り上げ、熱波と衝撃によって後退させた。

頭部を低くもたげて両腕を前に突き出した攻撃態勢で前進する閣蟷螂。

ハンターは叫び声をあげて自分を奮い立たせることで恐怖を打ち消し、掲げた剣を今度は振り下ろして閣蟷螂に手痛い反撃を加えた。

 

火砕剣の刃が欠ける。

 

仄暗い森を照らす火の粉。閣蟷螂の甲殻中でも、紫藍色に染まった部分は一際優れた強度を誇る。

閣蟷螂は僅かに胴体を逸らして頭を守るように発達した紫藍殻で斬撃を弾いたのだ。

仰反る力を利用してバックステップで距離を取ろうとするハンターに追い討ちをかけるように鎌の斬撃が入る。黒狼鳥の甲殻で作られた鎧に斜めの切り傷が入って、隙間から血が滲んだ。

 

ここから回復に転じるか、回避に転じるか。

どちらにしろ攻撃に出ることはないと読んだ閣蟷螂は腹部の先端から絲を射出して火砕剣を絡め取り、ハンターの手元から奪い取った。

 

「――しまった!」

 

閣蟷螂の鎌を回避すると、一気に攻勢に打って出た閣蟷螂は強酸性のフェロモンを飛ばして防具ごとハンターを溶かそうとしてきた。

しかし、突然森の中から突き出された獣の剛腕が閣蟷螂の後脚を掴み、投げ飛ばしたことによってその攻撃は中断された。

 

「お前は...ラージャン!」

 

強さを求めて閣蟷螂に引き寄せられたか。

牙獣の王、金獅子ラージャンの君臨である。

超大型古龍にも引けを取らない危険度を持つ閣蟷螂だが、小柄な体躯が災いして大型モンスターに戦いを仕掛けられることがある。

そのため、閣蟷螂の討伐が行われる時は乱入するモンスターを食い止める為のハンターが派遣されるのが定石である。

しかし今回は鋼龍の活躍により、閣蟷螂は人工物で造った巨大なネセトを失っている。

度重なる古龍災害の復旧作業に手を焼いているギルドは、モンスターの乱入を阻止する為に人員を回せなかったのだ。

 

閣蟷螂を一目見た途端、体内の電気エネルギーを活性化させて闘気化状態へ移行。

筒状の体毛の内部を電気エネルギーが満たすことによって、その鬣は金色の翼と名高い勇壮な形状へと変化する。

 

最強の牙獣種と最強の甲虫種の邂逅。

前代未聞の組み合わせだ。

重い火砕剣を奪った閣蟷螂を、火砕剣ごと振り回す腕力は流石金獅子である。

力が押し切れる人間が相手では雑な攻撃が目立った閣蟷螂だが、金獅子と対峙した途端に動きが洗練されている。

 

「悔しいが、まだ本気じゃなかったということか」

 

鎌を振り上げて鷹のような声で鳴く閣蟷螂に対して、金獅子は槌のような右の拳で殴打した。

まるで手品のような高速の体重移動。

飛び込みながら体重を乗せて叩き込むパンチは、もはやパンチというより体当たりだ。

気がついた時には殴られた閣蟷螂が土の上を転がっていた。

 

――速い!

 

金獅子は右腕の上腕部に切り傷がつけられていることに気付いた。

パンチを受けた閣蟷螂が釜で付けた傷だろう。

 

憤怒を宿した真紅の瞳が閣蟷螂を睨む。

鼻息を荒げながら両拳で地面を叩き、目の前の強敵に存在をアピールしている。

砕竜や雷竜など、殴る事に特化したモンスターは金獅子以外にも存在する。

特に金獅子の属する牙獣種にはババコンガやドドブランゴなど、金獅子と体型が似たモンスターも存在している。

数多くのライバルがいる中でも、特に金獅子は腕力に物を言わせた戦い方を好む。

 

金獅子の後脚の骨格は速く走ることに適した爪先立ちの形となっている。

強靭な筋肉によって二足歩行を行うことが可能だが、全力疾走の際は前脚を地面につけて走る。

捕食動物である金獅子の走り方は、体をバネのように使ったストライド走法だ。

この走り方では、前脚と後脚のどちらかで地面を打ち付けて体を浮かせる必要がある。

多くの捕食動物は獲物に追いついた後、相手を拘束する必要がある。

そのため捕食動物は後脚で地面を蹴って跳び、前脚から着地するのが主流だ。

前脚を使って獲物を抑えつけるためだ。

獲物を追う時の金獅子を観察すると、後脚で跳んで前脚から着地する走り方をしていることが分かる。そのため、金獅子の後脚は跳躍に適した形に進化したのだ。

 

金獅子の食性といえば、幻獣キリンの角を折って食べるという生態だ。

後脚を跳躍に特化させた金獅子は飛びかかりながら掴みかかることが出来る。動きの速い幻獣の角を折って食べる時にこの特性は大いに役に立ったことだろう。獲物を抑えつけるための前脚の機能を活用して、幻獣を抑えつけて角を折るという荒業を繰り返した。

 

こうして強靭な腕を獲得した金獅子は、相手を掴んで投げ飛ばす力が発達した。

現在でも飛竜の尾を掴み、勢いよく投げ飛ばす怪力をみることができる。

 

しかし、大型モンスターの中では比較的小柄な部類の金獅子は大きな課題に直面した。

それは筋肉量である。

全モンスター屈指のパワーとスピードを併せ持つ金獅子だが、その骨格に付けられる筋肉の量には限界があった。

怪力自慢のモンスターの中でも滅尽龍や恐暴竜といった体の大きなモンスターは金獅子よりも多くの筋肉をつけることができる。

体格と筋肉量で上回るモンスターが相手では組み付いて捩じ伏せることは難しく、逆に組み伏せられてしまう。

スピードで相手に勝っていても、組み付いた後にはパワーだけがものを言う。

掴みと投げに特化した戦い方では、体格に勝るライバルと対等に渡り合うことは難しい。

 

そこで金獅子の新たな武器となったのが、剛腕によるパンチだった。

跳躍力に優れた後脚は、抜群のフットワークによって相手との距離を支配する。

相手の攻撃を避けて自分の攻撃を叩き込み続ける金獅子の戦いは、体格差を速度で埋めるのだ。

見境なく突撃しているようにみえるが、金獅子は相手の動きに細かく反応しながら戦っている。

ライオンが獲物を狩るフォームが美しいように、金獅子の闘いもまた美しいのだ。

かつてとある地域の動植物を根刮ぎ破壊し尽くした暴風雨は、黄金だった。

 

突然殴られた閣蟷螂は、金獅子の技巧に気付いていなかった。

金獅子が巨大なモンスターと戦う為に身につけた体重移動の技術は一朝一夕で身につけられる簡単なものではない。唐突に受けた大きなダメージに動揺した様子で後退りした。

大きく頑健な肉体を持つ怪物との戦いで研ぎ澄まされた拳は重い。

閣蟷螂は絲を巻き付けた火砕剣を投げて反撃したが、金獅子は刃を直接鷲掴みにして防いだ。

驚異的な握力で火砕剣に亀裂が入り、内側から熱が溢れ出て火を噴いた。しかし金獅子は火炎の高熱をものともしない。

うすら笑みを浮かべたラージャンは絲を引きちぎりながら火砕剣を捨てて、中空を穿つ高出力の気光ブレスを放射した。

予想外の攻撃に閣蟷螂は回避が間に合わず、光沢のある美しい甲殻が照りつける闘気で強い輝きを放ちながら黄金の烈風に巻き込まれていく。

 

烈日の咆哮。凶猛な輝きが視界を覆う。

狩人は絶望した。

捨てられたばかりの武器を拾いながら立ち尽くす狩人の姿はあまりにもちっぽけだ。

超災害級生物の世界はあまりにも遠い。

いくら知恵を絞ったところで、人の手に負える生き物ではない。

 

消耗した閣蟷螂が鎌で光を裂いて反撃を繰り出した途端、金獅子は鎌の付け根を掴みとり、捻じ曲げようと力を加えた。

重い金属を擦るような低い音で軋む。

符節に向かって金獅子が口を開き、口内から黄金の閃光が漏れ出したその時だった。

感じたことのある冷たい風がそっと耳の裏を撫でて、生きた心地のしない戦場でどこか懐かしい空気が肺に広がった。

その瞳はコランダム、福音の不協和音。

超低音のマイナスエネルギーが草の間を抜ける。

神々しい金属光沢を霞ませる龍風圧の鎧は、最大の特徴である絶対的な防御力を対峙した全ての生物に突きつける。

 

鋼龍、再臨。

 

血湧き肉躍る。

握っていた鎌を放して、アトラル・カそっちのけでドラミングするラージャン。

新たな好敵手に存在をアピールするように勇ましく吠える。

撤退の態勢に入る閣蟷螂。

鋼龍に背を向けて離れていく。

狩人は腕で目を覆った。鋼龍から全身から風が強く直視が出来ない。

小規模の竜巻が大量に乱立して、木々と土を巻き上げながら移動している。

 

空中で車輪のように回転するラージャンと金属質の体を犇かせながら咆哮する鋼龍。

金獅子は空中から糸で引っ張られたように一直線に飛んで鋼龍に突撃した。

圧倒的な筋力と精密な体重移動が生み出すラージャンの得意技だ。

稲妻を走らせながら突き進み、被弾した鋼龍は空中から叩き落とされながら金獅子を蹴り飛ばす。

金獅子の攻撃を受けながら咄嗟に反撃を返して体制を立て直す鋼龍の胆力あっての荒業だ。

攻撃した金獅子が逆に吹き飛ばされ、鋼龍は四足で頭を低くして威嚇している。

 

蹴り飛ばされた金獅子は上半身の筋肉を電気刺激で強化して闘気硬化状態へと移行。

空中で衝撃波を放ちながら体勢を整えると黄金の鬣を振り乱しながら前脚で地面を掴み、着地と同時に気光ブレスを放って反撃した。

闘気に満ちた黄金の烈風は閃光の如き速度で鋼龍の元へと到達したが、鋼龍は機敏な動きでサイドステップを行って回避。

気光ブレスの照準を合わせる為に手間取っている金獅子の側面から風ブレスを放って攻撃した。

たかが風。しかし、大型古龍のブレスだ。

その威力は炎王龍の火炎放射にも引けを取らない。着弾と同時に大砲のような破壊力の爆風が巻き起こり、全長8メートルを超す金獅子の体が宙に浮かび上がった。

 

口から複数の雷球を放ち牽制しながら着地した金獅子を、鋼龍は得意の突進で追い立てる。

鋼龍は胴体の太さに比べて四肢が逞しい。

頑丈な金属の体は自然災害に巻き込まれても平然としていられるほど重い。

四本の脚で体を支えるだけでも一苦労だ。

優れた飛行能力で知られている鋼龍だが、地上においても驚異的な運動能力を誇る。

重い体を支える為に胴体と比べて逞しく発達した四肢は並外れた筋力を発揮する。

特に発達した後脚は地面に触れる面積が広く、鋭い爪がスパイクの役割を果たすため、力強い踏み込みができる。

長大な尾と強靭な前足で体重を支えることで、安定感と瞬発力に優れた突進を可能としている。

 

助走をほとんど必要としない加速力に優れた突進攻撃は、並の大型モンスターならば一撃で肉片にしてしまう程の破壊力を秘めている。

しかし相手はモンスター屈指の怪力自慢であるラージャンだ。気に障るものはたとえ古龍であっても容赦しない。

鋼龍以上に逞しい前脚から繰り出される全ての攻撃が古龍の命すら脅かす破壊力を秘めている。

特に電気刺激により硬質化した拳は鋼より硬く、打撃戦では金獅子の右に出るものはいない。

罠を避ける程の高い知能を持つ鋼龍は、重いパンチを恐れていた。

 

衝突の直前に金獅子が拳を構えた事が分かった鋼龍は、前身しつつ重心を上半身を持ち上げて後脚に重心を乗せた二足歩行の体勢へと移行した。

鋼龍が前脚を浮かせて、頭を高く擡げたことでラージャンのフックパンチが空を切る。

鋼龍はその隙に、前脚で金獅子の肩を掴みながら倒れ掛かる形で金獅子に乗りかかった。

体重差を生かしたのしかかりだ。

隕石のように降り注ぐ重量で大地が揺れる。

鋼龍は後脚で地面を掴み、前脚で金獅子を掴みながら絶大なパワーで前進を続ける。

 

金獅子は仰向けに倒されないようにバックステップの要領で後脚を引きながら鋼龍を受け止めた。

超低温の鋼龍の爪が、氷属性を苦手とする金獅子を悩ませる。氷属性を遮断する分厚い毛皮に鋭い爪が食い込み、体温を奪う。

そのまま鋼龍が押し潰すかと思いきや、今度は金獅子が異常な筋力で横にスイング。

体勢を崩した鋼龍を抑え込む形で覆い被さり、赤黒く硬化した腕で殴りつけた。

大銅鑼のような音が響く。

鋼龍は体から強力な風圧を発しながら金獅子を押し退けると、そのまま空高く飛び上がった。

そして、体を捻りながら空中に身を飛ばす勢いで巨大な竜巻を発生させて金獅子を周囲の自然物諸共吹き飛ばした。

 

まさに神話の怪物。自然災害同士のぶつかりあいである。圧巻のスケールに呆気に取られていると、今度は空気が煌めき出した。

縄張りを荒らされた女王が遂に怒ったのだ。

複眼から赤い光を放ちながら鎌を振り上げて威嚇している。

巨大な竜巻が絲を巻き込んで、華やかで壮絶な渦巻き模様が空に浮かぶ。

風に紛れて空を穿つ大竜巻の主。

鋼龍に肉と骨の区別はない。体の内側から体表を覆う甲殻に至るまで全てが鋼である。

そして風と一体化した鋼龍には肉体と世界の区別すら無い。空を舞う鋼龍は風の化身。

風の吹く空間全てに鋼龍は宿るのだ。

狩人の目には、金獅子と閣蟷螂が竜巻と戦っているように見えていた。

 

これまで細くて見えていなかった黄金の絲が漁網のように鋼龍の体を絡め取り、嵐の中を飛行している鋼龍が物凄い力で閣蟷螂の方へと引き込まれてた。90メートル強のネセトを動かす閣蟷螂の怪力にかかれば、古龍すら捕らえられるのだ。

鋼龍は引き込む力を逆手にとって閣蟷螂に突進、龍風圧を放つ鋼の弾丸と化して急降下した。

平伏す女王を見下す無傷のクシャルダオラ。

どこか物憂げな佇まいには、超越者の寂しさが見えた気がした。

金属室の甲殻が擦れる音、風が耳元を過ぎる音。

龍は、静かに悲鳴をあげている。

凍てつくマイナスエネルギーに包まれながら風を放つ鋼鉄の神は、冷え切った青い瞳の最奥に悲しみを抱えているように見えた。

 

鋼龍は女王から狩人に視線を移して見つめた。

 

「お前、あの時...俺を助けたのか?」

 

古龍は高い知能を持つという。

森の中に捨てられた孤児が、幻獣キリンに育てられたという報告もある。

古龍の目的は分からない。

鋼龍の眼を見た時、本来の目的を思い出した。

装備の紫が引き締まる。

剣を拾う為に走る。

 

風の鎧を突き破り、荒ぶる金獅子が乱入する。

拳の届く至近距離は牙獣の間合いだ。

迎え撃つ鋼龍はステップを踏みながら龍の力を纏った鉤爪を振り下ろす。

金獅子は体を反らして紙一重で躱し、大きく振りかぶった拳を鋼龍の顎に打ち込んだ。

大銅鑼が割れるような音がした。

眩暈を起こした鋼龍は後退りしたが、金獅子は容赦なく距離を詰めて殴り続ける。

光り輝く金獅子は絶望を感じさせるほど強い。

神速のサイドステップで常に正面に陣取り、無慈悲な暴力を揮い続ける姿はまさに修羅だ。

神の威圧に負けない覇気。鋼龍の鉄壁な防御力を正面から叩き壊す鬼神の猛攻。

次から次へと繰り出される多彩な攻撃の数々には継ぎ目が無い。

 

「そいつは殺させない!」

 

狩人は全身全霊をかけて金獅子に攻撃した。

全身の力を遺憾なく発揮して振り下ろす火砕剣の一撃。剣の中に眠っていた溶岩竜の魂が共鳴したのか、返り血を蒸発させる程の熱量を放った。

闘気硬化状態の金獅子は、上半身をバンプアップする代わりに下半身の耐久力を失う。

金獅子の弱点である尾は膨大な力を抑制する重要な器官だ。尾を傷つけることによって、闘気硬化状態は解除される。

全モンスター屈指のスピードを誇る金獅子の背後を取り、尾を傷つけるのは至難の業だ。

しかし鋼龍という強敵と対峙して夢中で攻撃している金獅子なら尾を狙える。

ハンターの身体能力があれば、神々の戦いに人の身で割って入ることが出来る。

 

斬撃の炸裂と同時に金獅子の黄金の体毛が黒色に色褪せる。金獅子は危うく倒れかけたが、爪を地面に突き立てて耐えた。

体毛から発散された電気エネルギーが眩い稲光として放出されて変化に気づいた金獅子は狩人に吠える。

 

狩人に飛びかかる金獅子を鋼龍が体当たりで突き飛ばして風のブレスで追撃した。

すると今度は起き上がった閣蟷螂が背後から鋼龍に斬りかかったので火砕剣でガードすると、鋼龍は尻尾で閣蟷螂を殴り飛ばした。

飛龍を一撃で絶命させるという強靭な尾だ。

草叢から金獅子が低い声で唸る。

 

束の間の緊迫の後、金獅子は荒れた森の中に消えていった。

 

「後は...お前だけだ...」

 

狩人は閣蟷螂の方を向いた。

閣蟷螂は強酸性の体液を鋼龍に向かって射出したが、風の鎧が体液を吹き飛ばした。

圧倒する防御力が気勢を削ぐ。

優雅に歩くだけで途轍もない威圧感を放ち、閣蟷螂アトラル・カを圧倒している。

 

二頭の叫び声に耳を塞ぎ、凄まじい風圧に思わず顔を伏せた。

 

顔を上げた時、そこに二頭の姿は無かった。

 

「俺は逃したのか?」

 

閣蟷螂を追い詰めていたはずの鋼龍が、狩人から閣蟷螂を守ったかのような消え方だった。

ただ無力感だけが胸元に残った。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。