投稿頻度を落としてじっくりストーリーを考えるつもりだったのですが、書き終わってしまったので、投稿します。
頭を空っぽにして読んでいただければなと思います。
死ぬということについて、リーダーはよく考えたことがなかった。
なんとかなるだろうと思っていた。
ラギアクルスの時も、イビルジョーの時も。
命を奪うことについてはずっと考えていた。
自分が今狩ろうとしているコイツは、最後に親に挨拶が言えたのかなと。最後くらい美味しい飯を食ったのかなと。
単細胞と言われるリーダーだが、部下の命は自分の命よりも大切だった。部下のことも信頼していた。
だからこそ、その信頼を破壊してくるモンスター達、とりわけ古龍やそれに匹敵すると呼ばれるモンスター達が嫌いだった。
(もし、モンスターが居ない世界に産まれてたらあいつらと幸せにやれてたのかな)
などと思いを巡らせつつ、今は自分の死についても考えなきゃならないと己を奮起した。
「なぁ〜...俺、生きてぇよぉ...」
ベッドに横たわりながら泣き言を漏らした。
腹から絞り出したようなうめき声だ。
ドンドルマの兵士が来れば心強いとはいえ、この先の作戦で生きて帰れるとは限らない。
それはイビルジョーの強さを目の当たりにしてきた彼にはよく分かっていることだ。
最悪の場合、あの鎧と槍を身につける気でいた。
それでも、大の大人でも、やはり死ぬのは怖い。
死の恐ろしさに、暫く啜り泣いていた。
それから、ドアをノックする音が聞こえた。
ドンドルマの兵士が挨拶にでも来たのだろうか。
目を擦り、涙を拭いた。
そしてドアを開けた。
出てみると、子供が立っていた。
十歳ほどだろうか。
目をうるうるさせ、血が出るほど唇を強く噛みながら、リーダーのことをじっと見ていた。
「お兄さん、とうばつチーム、のリーダー?」
どうやら子供は、何か紙のようなものをくしゃくしゃになるほど強く握りしめているようだ。
しゃがんで目線を合わせて、要件を尋ねた。
「あぁ、そうだが...どうかしたのか?」
「目の周り、赤いよ?」
「あ、あぁ〜、この時期、痒くてな。それで、どうしたんだ?」
その場凌ぎの嘘で誤魔化したが、上手く行ったようだ。というより、目の周りの赤さはさほど気にしていない様子だった。
「あの、ね。あのね。僕のね、お姉ちゃんも、とうばつチームだったの。それ、でね?
イビルジョーをやっつけるぞって言って。
ぜったい帰ってくるって約束したのに、焼かれて、死んじゃったの」
嗚咽に喉を詰まらせながら、必死に覚えてきたであろう言葉を一生懸命訴えかけてきた。
紙きれを固く握る手に力が入っている。
全て、自分の力不足だ。自分がもっと念入りに指揮をしていれば、こんな小さな子が辛い思いを抱かずに済んだだろうに。
「あの、ね。お姉ちゃん、は、リーダーのひとのことを、すっごく信頼してたんだよ。
リーダー達の、ことが大好きだって、言ってた。
それ、でね。もし私が、いなく、なっても、死んじゃっても、リーダーが必ず、モンスターをやっつけてくれるって、いってたの」
ボロボロと、大粒の涙が子供の頬を伝っていた。
リーダーは、何も言えないでいた。
子供は、リーダーの家の前で長いこと泣きじゃくり、自分をなんとか抑えて拳を開いた。
強い子だ。
くしゃくしゃになっている紙切れは、もう使えないほどに形が崩れているが、紙幣だった。
「お兄さん、ハンターなんでしょ?
ラギアクルスだって倒した、伝説のハンターなんでしょ?
どんなモンスターにも絶対に負けない、モンスターハンターなんでしょ?なら...」
これ以上不安で居させる訳にはいかない。
泣く子の手を強く握り、目を見て応えた。
「絶対に!...お姉さんの仇を取る。
約束だ。約束する。
...よく俺のところまで来てくれたね。
もう大丈夫だよ」
ぶわっと表情が崩れ、子供は号泣しながらリーダーに抱きついた。
リーダーは背中をぽんぽんと叩きながら、無言で、それでいて強く抱きしめた。
上や下の物差しで測る問題じゃない。
ただ、想いがある以上は、為さねばならない。
竜に悪意は無いかもしれない。
だがそれでも、狩らねばならない。
力を持つべきは、人間なのだから。
〜数時間後
ドンドルマからの救援が来たと聞いて、その人数に驚かされた。
レザー装備の工作兵、ガーディアン装備の戦闘兵、皆が皆死線を掻い潜ってきた強者だ。
人、人、人。鍛え上げられた猛者達がきっちりと並ぶ中、1番身なりのいい男が出てきた。
普段は街の守護兵長をやっている者らしい。
ガーディアンの中でもとりわけ腕利きと目される男は、リーダーに挨拶をした。
「お初にお目にかかる。貴殿がイビルジョー討伐チームのリーダー殿であるな?
我々は大長老殿の名を受け、助太刀に参ったドンドルマの兵士だ。宜しく頼む」
巨大な盾に巨大な矛。
随分と物々しい重装備だ。
流石、古龍の侵攻が多い街を護るだけあり、古龍の猛攻に耐え忍ぶといわれても説得力がある。
体格こそリーダーの方が優っているが、そんな体格差を感じさせないほどに堂々とした立ち姿だ。
「あぁ、宜しく頼む」
重く苦しい日々に、光明が差してきた。
〜針葉樹の森
リオレウスとイビルジョーの戦闘の傷跡が未だに残る針葉樹の森で、
イビルジョーは休息をとっていた。
過去の因縁に囚われたのは人間だけではない。
新たに森の王となっていたライゼクスを焼き殺し、新たな古龍が出現した。
炎王龍 テオ・テスカトルだ。
火山でイビルジョーに食い殺されたナナ・テスカトリのつがいとなる個体だったのか、かなり怒っているようで、誰彼構わず焼き払いながら森を進んでいる。
その体は龍炎と呼ばれる炎を纏っており、これは近づくだけで木が燃え、人間であれば焼け死んでしまうような超高熱の鎧だ。
しかしイビルジョーは動かない。
平べったい石の上に呑気に座り、気持ちよさそうに日差しを浴びている。
時折、テオ・テスカトルから逃げて走ってくるモスを一匹ずつ口に放り込んでは、満足げに咀嚼するのみだ。
当然、二頭の距離は縮まっていくばかりだ。
森の中心に鎮座するイビルジョーに対して、自らの通った後を火の海に変えながら接近するテオ・テスカトル。
ちょうど、森の色が緑と赤の二つに分かれた時、
出逢ってはならない二つの王が、衝突した。
怒りに燃えるテオ・テスカトルは、イビルジョーを見るなり我を忘れて突進した。
対峙したイビルジョーは満更でも無いようで、全身の筋肉を膨張させて受け止めた。
やはりというべきか、膂力ではイビルジョーの方が完全に上回っている。
正面からの力比べではネルギガンテに捩じ伏せられるテオ・テスカトルに対して、同じように正面から衝突すれば逆にネルギガンテを捩じ伏せられるイビルジョーとでは、地に足をつけた対決におけるフィジカルに大きな差がある。
古龍というだけで、その肉体までもが別格というイメージを抱く者は少なくない。実際のところ、一般的な生態系の枠組みで見るならばその考え方は間違っていないだろう。だが、イビルジョーやラージャンのような古龍級生物であれば、そのパワーは古龍にも届き得る。
例えばラージャンなら、クシャルダオラやテオ・テスカトルの突進を受け止め、その上で押し倒すだけのパワーがある。
筋肉量で勝るイビルジョーに対して地上で戦いを行うようであれば、ネルギガンテのような肉体派の古龍でも無い限り、パワーにおける劣勢は避けられないのである。
炎王龍の首に齧り付くと、炎王龍は至近距離から高熱のブレスを吐き出して攻撃した。岩石をも蒸発させかねないといわれる超高温のブレスだ。
直撃もしていないのに周辺の樹木が炭化していく。
しかしイビルジョーはそれをものともせず、まるでディアブロスにやってのけたような形で持ち上げると、首がへし折れるかと心配になるような勢いで地面に叩きつけた。大地が抉れ、土や木の根が焼け焦げる。
更に、横たわるテオ・テスカトルの首に咬みついたまま胴体を踏みつけ、頸椎ごと首を引き抜こうと頭を振り抜いた。
これにはテオ・テスカトルも声にならない声で叫び、甲殻と骨が軋む音が鳴る。
後一歩で古龍の生首が出来あがろうかというところで、テオ・テスカトルは牙を噛み合わせた。
カチッという音と共に、周囲に撒かれた粉塵が爆破し、イビルジョーは大きく怯みながら転倒。
...しつつも濃縮された龍属性エネルギーを撃ち込むことで龍炎纏い状態を強制的に解除した。
龍属性には龍封力と呼ばれる力があり、純粋なエネルギー量の多さとはまた別に、古龍に対する特攻性という側面での質が存在する。
ネルギガンテの素材から作られた武具などには、強い龍封力が宿るとされている。
一方で、イビルジョーの龍封力はというと、その評価は最大値の『大』とされている。
この事実が示すのはズバリ、古龍種という種族のイビルジョーに対する相性の悪さだ。
古龍の中でも、イビルジョーに対してフィジカルで対等に渡り合えるモンスターはそう多くない。
そうなれば、古龍のアドバンテージは卓越した飛行能力か、あるいは属性による戦闘能力となる。
勿論、オオナズチやヴァルハザクのように絡め手を用いることで勝負の展開を眩ませることが出来るモンスターは点在している。
しかしテスカト種やキリンのような正統派の能力を扱う古龍の場合、どうしても属性面に頼らなければならない場面というのは出てくるものだ。
そんな状況下でもイビルジョーは、高い龍封力を宿す龍属性を惜しげもなく使って属性攻撃を封じてくる。
痺れを切らして肉弾戦に乗ってしまおうものなら、怪力無双の筋力で噛み殺されてしまう。要は絶望的に相性が悪いのだ。
テオ・テスカトルはナナ・テスカトリ同様奥の手を隠して持っており、尚且つその奥の手の破壊力はナナ・テスカトリのものを大きく上回る。
しかし、必殺技ともいえる奥の手のスーパーノヴァは短いながらもチャージ時間が必要だ。
休む間も与えずに食らい付いてくるイビルジョーはファイトスタイルの点でも相性が悪い。
ブラキディオスやディノバルドのような、様子を伺ってくるアウトボクサーには有効な攻撃でも、猛るイビルジョーに対しては撃つ暇がないのだ。
だが何もせずにやられる訳でもない。
火炎ブレスを放射してイビルジョーの動きを止め、その隙に青白い粉塵を吹きかけた。
青の粉塵は通常以上の高温を帯びる。
その上爆発の威力も上がっている。砕けた鱗片を散らしながら、イビルジョーを吹っ飛ばした。
肉の焼ける匂いが鼻につく。どうやら、温度ではナナ・テスカトリに軍配があがるとはいえ、純粋な攻撃力ではテオ・テスカトルの方が優れているようだ。
さらに追い討ちをかけるように高熱のブレスをも吹きかけ、熱量で立っている土が融解を始めた。
だが、お返しのドラゴンブレスが腹を穿ち、今度はテオ・テスカトルが転倒してしまう。
すかさずイビルジョーが喉笛に齧り付き、再び頭を振り上げ、伸び切った骨と甲殻がミリミリと音を立てる。
時間をかければ出来ないこともないようだが、なかなか首はもぎれない。
そうと気づいたイビルジョーは首に噛みついたまま、捻じ切るように回し始めた。
鱗と甲殻が擦れて嫌な音が鳴っている。
すんでのところで、今度はテオ・テスカトルが力づくで拘束を振り解いた。
イビルジョーには筋力が若干劣るとはいえ、テオ・テスカトルもラージャンを後退させたり蹴り飛ばしたりするだけのパワーはある。
噛みつかれたまま長期間好き放題させるほど甘くはないということだ。
テオ・テスカトルが炎の王たる由縁、それは類を見ないその制圧力にある。
瞬く間に爆炎が包み込み、逃げ場も炎王龍に挑むまでの道も塞ぎ込む。
神たる古龍であるがため、自らに炎の王たる強さを授けた。抗い難き神授王権を前に、火山に住む人々は無駄な祈りを捧ぐ。
噛みつきを避けるように滞空し、地上のイビルジョーを火炎放射で焼き払うと、粘膜が焼けつくにおいがする。
炎王龍は滑空の要領で突進してイビルジョーを突き飛ばし、粉塵爆発で立ち上がるのを妨害すると、続け様にスーパーノヴァのチャージを始めた。
どうやら炎妃龍同様、強引に勝負を決めようとしている。
黄金の火の粉が大量に放出され、
森が黄金色に輝いている。
既に燃え切った森なので、燃え移るようなことはない。にも関わらず、まるで土地が火達磨になっているかのような有様だ。
水流のような勢いで火の粉が降りかかったため、イビルジョーは拡散龍ブレスで対抗した。
ナナ・テスカトリの時と同様の流れならば、これでダメージをほぼゼロに抑えることが出来る。
そんな儚い期待があったのかもしれない。
草木も巻き込み、土も巻き込む。
白、黄色、赤、絵の具をこぼしたかのように暖色に染まる空。
激龍槍さえも上回る超絶的破壊力。
その威力、災害級古龍最強級。
スーパーノヴァの猛威の本質はその爆発にある。
いくつかのクレーターを形成したリオレウスの火球に対して、流石は古龍の大技というべきか。
テオ・テスカトルのスーパーノヴァは、
焼けた森そのものをクレーターに変えた。
ヘルフレアのように、半径3キロメートル範囲内の生物を焼き殺すとまではいかないが、爆風を含む総合的な破壊力はヘルフレアを上回る。
一点集中型にして大規模、不可避の大爆烈だ。
火属性の熱であれば龍属性で防げたかもしれないが、流石に物理的衝撃までは防ぎようがない。
あのイビルジョーが完全に宙に浮く形で吹き飛ばされ、頭から地面に落下した。
爆発の陣太鼓が鳴り響き、王が進撃する。
身に纏っていた龍炎は綺麗さっぱり消え失せた。
食い破られた甲殻は通常ならば敗者のそれであったが、撤退することなど王たるプライドが許さなかった。寧ろ、自身をここまで追い詰めたことに対する怒りが、龍の凶暴性を刺激する。
揺ら揺らと空間を歪ませる陽炎に揺らぐ視界。
どうにか立ち上がろうとするイビルジョーを前にして、王はただ、ゆっくりと歩み寄った。
余裕綽々、威風堂々。
それは自らの逆鱗に触れた仇への態度とは思えないほどに静かだ。
それは全身火傷の上、涎を垂らして肩で息をしているイビルジョーに執行猶予を与えるが如く。
傷ついて尚食い下がるイビルジョーに、容赦のない粉塵爆発が襲いかかる。
ようやく立ち上がりかけていた脚が再び崩れ、黒みがかった血が砂のようにサラサラと流れている。
一発逆転、とでも言おうか。
バンプアップ状態のイビルジョーが、モンスターとの戦いでここまで劣勢に陥ることは初めてだった。悪くて互角、金獅子や滅尽龍の時のような。
たった一匹の竜を殺すために、悠久を生きるその命さえ捨てても良いと覚悟を決めた古龍の力は想像を絶する。
怒りの熱量でメルトダウンしてしまいそうな程、目が燃えている。
爆炎を口に纏いながらイビルジョーの頸に咬みつき、その犬歯を深々と突き刺した。
前脚をイビルジョーに乗せて姿勢をキープし、このまま仕留める気でいる。
再び龍炎を纏い、噛みつかれた時に付着した強酸性の唾液を蒸発させた。
イビルジョーは棒立ちのまま俯き、沈黙。
もがくことすらしていない。
そうしている間にも牙は食い込み、熱を宿した牙により傷口から火が通り、焼け焦げていく。
それでもイビルジョーは動かない。
目、胸、背中だけが赤々と警告するかのように生体発光している。
普段なら異彩を放つその赤さえも、燃え盛る炎に赤く照らされて混ざった。
テオ・テスカトルは、イビルジョーに齧りついたままの体勢で金色に煌めく粉塵を放出し、周囲を爆撃した。ダメ押しのつもりか。
とここで遂にイビルジョーに動きが見られた。
喉奥から微量の龍属性エネルギーを地面に向けて放射したのだ。
暗黒の稲妻が薄く地面を覆って広がり、滞留した龍属性の内部でバチバチと音を立ててスパークしている。
足元の炎は龍属性に触れて速やかに消火され、明るかった地面が暗く染まる。
それでも炎王龍は力強く咬み続け、次第に硬化した筋肉を貫く。傷は深まるばかりだ。
すると、赤く染まった恐暴竜の目の輝きが一層増し、龍属性エネルギーの濃度が一気に増した。
墨が吐かれたかのような濃い黒、ときおり内部で輝く赫が辛うじて窺える程度で、濃密すぎて地表が見えない。
このままでは足元が龍属性エネルギーに侵食されてしまう。そう考えたテオ・テスカトルは翼をはためかせ、イビルジョーに咬みついたまま滞空した。
だが、捕食者はその隙を見逃さなかった。
炎王龍の体が宙に浮いた瞬間、後脚に齧りついたのも束の間。踏ん張りの効かない空中、イビルジョーの剛力に耐え得るはずもなく、そのまま地上に引き摺り下ろされた。
王の高熱の肉体が地べたに横たわる。
当然、地表は龍属性エネルギーが充満している。
古龍にとっては蛞蝓に塩。最悪のシチュエーションだ。
すぐに立ち上がろうとするも、ここは既に捕食者の手中。逃がすまいと言わんばかりに腿を踏みつけられ、覆っていた甲殻を踏み砕かれた。
次に恐暴竜は、間髪いれずに炎王龍の翼に齧り付くと、翼膜を食い破り、そのまま引き裂いた。
これでもう粉塵のコントロールも上手くいかず、空中に逃げられることはない。
追い詰められた炎王龍は倒れた状態でも火炎放射を繰り出そうとしたが、時すでに遅し。
喉笛に齧りつかれては、火炎放射もあたらない。
脚で押さえつけられたまま、頭を振り上げられ、苦しくもがくも、ここにきて逃げる術はない。
限界以上に引き伸ばされた頸椎が千切れ、イビルジョーが首を傾けると同時に完全に頸が折れた。
テスカト、戦闘不能。王者陥落の瞬間だった。
イビルジョーは火竜のブレスをも上回る高熱の肉体をむしゃむしゃと貪り、雄叫びをあげた。
滅鱗に宿る怨念が、また一つ加算された。
怨。それは被害への不満、不快の情。
怒り、嫉み、憎しみ、復讐心。
お前は何に嘆く?
一帯に暗い紫のガスが充満した。
縄張りを追い出された火竜に、リベンジマッチの場など設けられよう筈もなく。
火竜を易々と下し、挑戦権を勝ち取ったその竜の名は怨虎竜マガイマガド。
満を辞して出陣だ。
血を飲み肉を食らう恐暴竜の暴飲暴食。
割を食っているのは人類だけではない。
その戦闘能力を維持するために大量の生き物をかっくらわなければならないマガイマガドもまた、イビルジョーに対して鬱憤を募らせていた。
吹き荒れる炎王龍の熱波も物ともせず、虎視眈々と仕留めるチャンスを窺っていたのだ。
悪逆無道。
かの気高き非道とも相容れぬ暴虐の牙竜。
近年ではあの砕竜を抑え、第四の古龍級生物との呼び声も高まってきている。
華々しく散らされた炎王龍の亡骸、これを無視。
かつて自らを退けた灼熱の王すらも、敵に敗れたのならば興味無し。
貪食の恐王の眼前、お前がやらねば俺がやっていたと言わんばかりの悪態をつく。
食らい続ける限り無限の生命力を保有するとされる怨虎竜にとって、死などもはや他人事。
古龍から逃げ惑う竜の群れでさえも、怨虎竜からしてみれば手頃なビュッフェに過ぎない。
だがこの恐ろしい竜はどうだろう。
果たして一筋縄で行くだろうか。牙と背中、腕甲、尾、順にガスを点火。
この牙竜は紫色の鬼火を纏う。
飢餓を満たさんとする二頭の竜が、偶然鉢合わせたとするならば、そこに争いを避ける理由はない。
修羅の妄執、鬼火となりて
紫炎、妖しく舞いを奏でる
強敵、見出したるは、鬼気の餓竜
睨み合う異種族の捕食者。
マガイマガドの武器は鬼火による加速にある。
そもそも鬼火とは、マガイマガドが扱う紫色の光を放つガスのことである。
衝撃に対して炸裂という反応を見せるこのガスを応用することで、爆風を利用した加速、燃える鬼火を射出することによる遠距離攻撃など、状況に応じて、バラエティに富んだ活用が可能。
牙竜種といえば地上での運動能力が高いことで知られており、特にジンオウガ、オドガロンという二匹のスピーディーなモンスターが有名だ。
このマガイマガドも例に漏れず、高い運動能力を持ち合わせている。
起伏の激しい地形を軽快に駆け抜けるスピードと、アオアシラやトビカガチといった中量級のモンスターであれば顎の力だけで持ち運べるという牙竜種の中でも最強の咬合力を併せ持つ。
また、槍刃尾と呼ばれる槍状の尾は、名前の通り槍としても刃としても扱える強力な武器である。
鬼火を纏うことが出来、この尾を振るった時の遠心力を利用して敵を攻撃できるほか、
マガイマガドの動きに合わせて十文字槍のように展開し、怨虎竜の持つパワーとスピードの両方を一切無駄にしない多彩な活用法を見せる。
この身体能力に鬼火による加速が加わることで、その機動力はかの金獅子をも上回り、古龍級生物の中でもトップに位置する。
さらに、鬼火の爆風を利用して空中で加速、方向転換などをすることで、リオレウスやバゼルギウスといった強力な飛竜から、果てはクシャルダオラやテオ・テスカトルといった古龍までもを空中から叩き落とす脅威の空戦能力をも持ち合わせている。
威嚇後、滑り込むようにタックルを仕掛けた。
これをイビルジョーは正面から受けて押し返す。
押し飛ばされたマガイマガドは後退すると同時に、体と入れ替える形で槍のような尾を突き出し、イビルジョーの肩にグサリと刺した。
まるで達人の演武のように動きと動きが連結して見える。
すると今度はイビルジョーが尾に咬みつき、マガイマガドを空中に放り投げた。
勢いよく投げ飛ばされたマガイマガドだが、空中で鬼火を炸裂させて方向転換し、逆にイビルジョーに突撃。対するイビルジョーは正面から迎え撃ち、尾の殴打で弾き飛ばした。
だが、修羅の妄執とは良く言ったもの。
怨虎竜は再度空中で鬼火を炸裂させ、執拗にも再び突撃した。
衝突の衝撃に際し、鬼火が炸裂。爆発と衝突のダブルパンチでイビルジョーの巨体が押され、後方に下がっていく。
まるで角竜の突撃を受けたかのような反応だったが、この突撃もすぐに勢いを殺された。
腕に噛みついて突進を受け止めたイビルジョーに力づくで捩じ伏せられ、今度は地面に叩きつけられる。マガイマガドの体重とイビルジョーのパワーで地盤が隆起した。
自然界ではかなり上位の筋力を持つマガイマガドにとって、フィジカルでここまで差が出るのははじめてのことだった。
地面に叩きつけられながらも、反動を利用して空中に浮かび上がり、体を空中で横方向に回転させることで槍刃尾を振るい、大振りの軌道でイビルジョーを斬りつけた。刃の入りは浅いが、激痛と出血には繋がる。
空中で鬼火を炸裂させ、傷口目掛けて3度目の突撃を行使した。しかし、それでもイビルジョーの命までは届かない。頭突きで勢いを殺し、タックルで押し飛ばした。
古龍を2度に渡り葬っただけのことはある。
まさに剛の者と畏れるに値する膂力だ。
跳ね飛ばされたマガイマガドは倒れたフリのフェイントで攻撃を誘い、追撃に来たイビルジョーの噛みつきを見切った。イビルジョーからみて横方向に飛び出すと同時にイビルジョーを中心に大きく円を描くようにして回り込み、かつその間に尾から鬼火を射出して細かく攻め立てる。
鬼火の熱を感知したイビルジョーが背後に振り返った頃には、もうそこにマガイマガドは居らず、正面からイビルジョーの胸に齧りついた。
アオアシラとは大違いの硬い肉だ。だがそれでも頬の甲殻に収納されていた牙が垂直に立って突き刺さる。更に、ここにきて怨虎竜は全身から放つ鬼火を明るい赤紫色に染めた。
鬼火臨界状態だ。
下から押し上げられる体勢はイビルジョーが不利だ。そのまま四肢の筋力と鬼火の推進力をフルに使い、力任せに押し込めば幾らイビルジョーと言えど平気では居られまい。
実際、イビルジョーは正面衝突では珍しく後退していた。バランスを取れず、うまく脚に力が込められない。結果として勢いを止められず、電車道の形でマガイマガドが押している。
テオ・テスカトルとの激戦の傷が癒えていないが、こうなれば仕方がない。イビルジョーも全身の筋肉を硬化、膨張させ、マガイマガドの推進力を食い止めた。
一方で、紋章のように赤い光の浮かび上がった胸の肉質は軟化し、マガイマガドの牙がより深く刺さった。推進力を食い止めたはいいものの、ダメージは更に深刻化したことで悲痛な声をあげ、怯んだ隙に押し倒された。
ここまでしてもマガイマガドに気の緩みはなく、腕刃で胴体を斬りつける。相手が相手だ。そこまでしなければ勝てない。
窮地に立たされたイビルジョーは、ネルギガンテ相手にやってのけたように体を回転させて引きこむと、甲殻がなく柔らかい腹を踏みつけて引き剥がした。
イビルジョーほどの膂力であれば、倒れている自分に組みつく相手に対して逆にマウントをとって有利な形勢に持ち込むこともそう難しくない。
剥がされた隙を見逃さずドラゴンブレスで追い打ちをかけたが、独自の進化を遂げたマガイマガドに対して、一切の効果は見られなかった。
一時的に距離をとったマガイマガドは、鬼火の炸裂を利用して四方八方に飛び交うことでイビルジョーを撹乱した。
牙竜種最大級の体躯が恐暴竜の動体視力でも容易には追いつけない速度で飛び回り、さらに追うのを諦めたタイミングで突撃。
腕刃や槍刃尾による斬撃も織り交ぜながら反撃も受けない速度でこれを繰り返す。
これぞ、悪逆無道とされる由縁。
桃色の輝きを放つ無呼吸連打、無慈悲の猛攻だ。
終いには突撃しながら身に纏った鬼火を一気に炸裂させ、イビルジョーを爆発の渦の中に閉じ込めた。
...そこまではよかったのだが、イマイチ手応えがない。
恐る恐る顔をあげると、悪い予感は的中した。
確かにこれまでの攻撃は、古龍級生物と呼ぶに相応しいパワーとスピード、そしてテクニックを併せ持った見事な連続攻撃だった。
しかし、優れている程度では足りなかった。
イビルジョーのような現実の破壊者を相手取るには、現実そのものを象るような、或いは現実を破壊する別の力のような、強力無比な存在でなければならない。
その点で、怨虎竜マガイマガドの実力は見事に現実の破壊者として成り立った上に、同時に現実の守護者としても成立していることは間違いようも無い。
だが、食物連鎖の波を真っ向から喰らいあげる怪物を仕留めるには、それでも破壊力が足りていなかったのである。
現に悪い予感は的中し、土煙を顎先で突っ切ったイビルジョーが咆哮をあげ、最強の牙と咬合力を以って喰らいにきた。
頭突きで防ごうとしたのが裏目に出たか、背面に牙を突き立てられ、刀殻が噛み砕かれてしまった。
それでも戦いを続けられるだけの余力はある。
しかし、このまま戦いを続けるにはあまりにもリスクが大きい。
無論、マガイマガドの実力が古龍やそれに匹敵する生物達に通用しないというわけではないのは、これまでの戦績が物語っている。
猛攻を凌ぐことが苦手で相性の良いバゼルギウスが相手ならば既に勝っていたのかもしれない。
だが生憎今対峙しているのは、古龍級生物屈指のフィジカルを誇る暴君イビルジョー。
彼がマガイマガドを仕留められるだけの咬合力を有していることは、砕けた刀殻が物語っている。そして、これまで数多の敵を屠りさってきた猛攻を耐え凌いだ脅威的なタフネス。
これらの事実がマガイマガドの戦闘意欲、つまるところの怨みを更に上回るだけの不安にまで膨れ上がり、古龍すら恐れない怨虎竜の戦意を大きく削いだ。
目の前で涎を垂らし、尚も食らい付いてくる怪物を相手に未練を残していながら、それでも戦意を削がれてしまったマガイマガドにとって、最も合理的な一手は、ただ一つ。撤退だった。
逃げようものなら間違いなく追ってくるだろうが、スピードで上回るマガイマガドなら、逃げ切ることは容易い。
一先ずは退いて、力をつけてから再度挑むことが、マガイマガドにとっての最善の一手だった。
場面は移って新大陸。
まだ人に知られぬ地啼の龍が人知れず唄うのは、この世の全てを戴く者への讃歌だ。
広大な大地を一瞬の元に粒子化させ、
入滅蓮華劫珠砲の祝砲をあげた。
入滅。
滅度 又は寂滅 又はनिर्वाण
又の名を、涅槃。
この世の全てを戴く者。
転じて、この世の全ての頂に立つ者が、劫の時を経て循環する世界に涅槃をもたらす。
天上迄、魂の帰還。
それは生命の究極目的たり得るか。
〜ギルド
「あんた、古龍との実戦経験があるんだってな」
リーダーは黒龍たちのことが不思議だった。
はやる気持ちを抑えきれず、作戦決行の前日、守護兵長のもとを訪れた。
ドンドルマの守護兵長から何か聞き出せれば良いと、そう思ったのだった。
「そうだな。1度目は鋼龍、2度目は炎王龍との戦いを経験した。
...貴殿、炎妃龍に復讐をするつもりか?」
守護兵長は、茶化すように冗談を言った。
「いや、炎妃龍ナナ・テスカトリは死んだ。
別個体にあたってもしょうがないだろ。
それより俺が気になるのは、あんたが守るドンドルマのことだ」
「...う、うむ邪推だったな。失礼した。ドンドルマが気になるということだな。いや、すまない」
街の守護兵長は、気まずそうに頬を赤らめた。
だがリーダーはそれを茶化すことなく、至って真剣な眼差しで言い放った。
「単刀直入に聞く。なぜドンドルマはそんなに古龍の襲撃を受ける?
古龍の個体数の少なさは知っているだろ。ドンドルマには一体何が隠されているんだ?答えてくれ」
束の間の沈黙。その間、守護兵長は目を丸くしてリーダーの顔を見つめていた。
何かに驚いた様子で、付き添いの兵士にアイコンタクトを送った。
兵士は回答を促すように、静かに頷いた。
「どうやら古龍骨のこと、知らされておらぬようだな。貴殿のように進んで気にかけなければ知らんでも不思議ではない」
「古龍骨?それはどういうことだ?」
「古龍骨はその名の通り古龍の骨。
そして古龍とは自然を超越したモンスターたちだ。そんな古龍の骨があると、気配を感じてか、匂いを感じてか、モンスターが近寄って来なくなるのだ」
「それがどう繋がるんだ?」
「それで、私たちの住むドンドルマは街の至る所に古龍骨を配置した。するとどうだ。街を脅かすモンスター達が、古龍骨を恐れて近寄って来なくなったではないか。
だが、この古龍骨には困った特性があった。
それが、古龍に狙われるというものだ。何故だか分からぬが、古龍達は仲間の亡骸を奪還しようとするようでな。それ故、ドンドルマは古龍に狙われるようになったのだ」
「亡骸を持ち帰る?」
「私にも理由はさっぱり分からないが、明らかに奴らは古龍の亡骸を持ち帰ろうとする。
弔いなのか、それとも何か別のことに使っているか、古龍観測所の研究でもさっぱりだが...
そういえば、貴殿らのギルドに古龍観測所上がりの天才が居たではないか。彼に話を聞いてみればどうだ?」
「あぁ、あいつは...もう死んだんだ」
「う...ふむ...それは良くないことを聞いた。すまない」
「いや、いいんだ。あいつの分も勝とう」
「そ...そうだな」
守護兵長は気まずそうにそそくさとその場を後にした。鈍感なリーダーには、何故そんなに気まずそうにしているのかよく分からなかったが、嫌には思わなかった。
それより、思わぬ情報を聞いた。
古龍には、仲間の亡骸を持ち帰る習性があると。
であればやはり妙だ。黒龍の武具には黒龍の素材があしらわれているということは、あれもまた古龍に狙われる代物だろう。
海底遺跡の不朽体もそうだ。ナバルデウスのような水棲の古龍に持ち去られても可笑しくない筈なのに、巨大龍の死ぬ以前からずっと変わらず置いてあったようで何か変だ。
にも関わらず、どうしてギルドの地下に対する古龍の攻撃記録が存在していないのか。
そもそも、どうして古龍は仲間の亡骸を持ち去る習性があるのだろうか。
ますます謎は難解になってきた。
かつて煩わしいだけだったナイトも、今となっては戻ってきてくれないものかと切に思う。
ぶつくさと独り言を言いながら部屋に戻った。
「黒龍伝説...巨大龍の絶命により、伝説は甦る...待てよ、これはつまり...」
モンスターなどいるはずもない室内で、何か、強い力が襲いかかってくるのを感じた。そしてそれと同時に、何か別の力が作用して襲い来る精神的実体を跳ね除けるのを感じた。
そしてリーダーの意識は、脳の中に囚われた。
「そうだ。この夢だ。俺はこの夢を今、見たかったんだ。」
前と同じだ。白昼夢か幻のような感覚。
あの時も、この中で『お告げ』を聞いた。
「本当に、イビルジョーを倒しても良いのでしょうか?」
「あれは捧げ物です」
「亡骸を持ち帰る?」
「君には、どう見える?」
全て違う声だ。
一つ目と二つ目はナイト、三つ目は自分。
三つ目も...自分...?
捧げ物とは恐らくイビルジョーのことだ。
だが、もしそうだとするならば一体何に捧げようというのか。
何かが、舌なめずりしている。
「今ある自然の全てはイビルジョーに集約され、そしてその全てが持ち主である古龍達に還元されます。人の手が介入する必要はありません。
全て龍達が教えてくれるのです。シュレイドの失敗は...」
「あぁ、そうか...そうだったのか...!
お前は間違えていたんだ!シュレイドは失敗なんかしていない!成功した末に滅び去った!」
夢の中のナイトはニヤリと笑った。
「そう、私は間違えた。そして私もまた...成功したんだ。そうだろう?」
それは、紛れもない狂気だった。
背筋が凍てつく。そこには一片たりとも人間性を感じられない。
食べたものは、血となり肉となり、捕食者の体を構成する。
「だがお前はナナ・テスカトリに食われてなどいない!ただ焼かれ!殺されただけだ!」
絶望させてやりたかった。
薄気味悪いニヤケ面を悲しみに歪ませてやりたかった。だが、その感情はぬるり、ぐにゃりと曲がりくねり、掴み所がない。
「まだ分からないか愚か者。貴殿はあの物語の作者が君たちに伝えたかったことを考える必要があるようだな!」
そういって高笑いした。
黒龍伝説は実話の筈、もしそれを物語というのであれば、何か思惑があって起きた事件なのか。
「これは運命だ!黒龍が定めたこの世界の運命!
強さ故に傲慢の限りを尽くした人類は、黒龍の力の犠牲者になる!だが悲観することはない!そうすることで人類は、循環するこの世界から解脱することが出来るのだ!」
劫火 世界の終末に、全世界を焼き尽くすといわれている大火。
異端な魂は素晴らしき成長を遂げる。
「お前は自然という名の試練を前にして、その受難を克服出来ず言い訳しているだけだ!
俺は恐暴竜にも、古龍にも、ましてや黒龍にも屈さず!必ずや少年との約束を果たす!」
「そうかそうか。死力を尽くしてくれたまえよ。
...そうだ。冥土の土産に教えてやろう。私を殺したのは炎妃龍ではない」
ナイトは笑いを堪えられず、宇宙を見ながら吹き出した。
「何が言いたい」
リーダーの口角は全く上がらない。
そんなリーダーを嘲るように、ナイトはついにその名を口にした。
「それは出来事そのもの。つまり...現象」
喉あらば叫べ。
心あらば祈れ。
心あらば祈れ。
天と地とを覆い尽くす
「その現象の名は」
水を煮立たす者 風を起こす者
気を薙ぐ者 炎を生み出す者
地は揺れ 木々は焼け 小鳥と竜は消え
日は消え 古の災いは消え
伝説は甦る。
巨大な黒龍の幻影が、ナイトの頭蓋骨にするりと舌を入れ、脳を抜きとって飲み込んだ。
もぬけの殻になったナイトは笑うのをやめ、無表情のままぼうっとした顔でこちらを見つめた。
黒龍は、邪眼でリーダーを鋭く睨みつけ、舌なめずりをした。
その時。
熱気、龍気、冷気、電気。
あらゆる属性の光が幻を穿つ。
全身が逆鱗、天を貫く角を引っ提げて煌めく黒い龍が、黒龍の幻影に激突した。
「おのれアルバトリオン!また私たちの邪魔をするつもりか!!」
ナイトはそう叫ぶと、黒龍の胸殻に同化する形で取り込まれた。
機械のような金切声で鳴くその龍は、角度によって、何色にも見える。
煌めく龍はこちらをみると、僅かに角を下げて一礼し、再び幻影と向き直って衝突した。
発生した凄まじい衝撃波が精神空間を粉砕して、夢が覚めた。
視線の先にあったのは、虹色の光を放つ不朽体。
きっと、あの逆鱗の龍こそがこの翼の持ち主だったのだろう。
「ありがとう、神様」
ベッドから起きると、工作兵がものすごい勢いで走ってきて部屋のドアを開けた。
「報告します!怨虎竜マガイマガド、力及ばず!
イビルジョーに敗れて逃走しました!
...しかし!マガイマガドのお陰で長時間イビルジョーを指定区域に滞留させ、疲弊させることにも成功しています!叩くなら予定通り、今日です!」
降りかかる絶望が運命なら、垂らされる蜘蛛の糸もまた運命か。
世界を滅亡から救うため、いや、果たすべき約束を果たすため。
無限の勇気が湧き上がった。
「そうだな。それじゃあ、行こうか。
一部、設定とモンスター紹介
テオ・テスカトル
炎王龍とも呼ばれるテスカトの雄。
爆発と炎を扱う古龍の一角。
短いチャージの後大爆発を起こすスーパーノヴァは本種の持つ最大最強の必殺技で、古龍の切り札の中でもトップクラスの威力を誇る。