イビルジョー 頂点捕食者   作:貝細工

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どうも貝細工です。
誤字報告かなり助かります。感謝しております。
今回は前回と対照的に、人間を少し前面に出した内容となっています。
少しストーリー性が生まれましたが、引き続き頭を空っぽにして読んでいただければと思います。


4話 僕のヘラクレス

漆黒の体毛を靡かせ、飛翔するは、孤高の獣。

人々が想いを馳せてきた古の巨大龍の牙を折り、

腕に抱えたまま地を翔ぶ。岩石を蹴る。

獣が両腕を使って投擲すれば、龍の牙は弾丸よりも速く飛ぶ。

敵は桃色の火花を散らして天駆ける飛翔体だ。

二匹の行方は誰も知らない。

二匹の後には何も残らない。

 

ギルドから発されたイビルジョー対策チームは、神出鬼没のかの竜がどこに現れても対応可能にするため、出来る限り広範囲に分布。

定期的な情報交換を繰り返し、癖や行動パターンの分析を続けながら解決策を求めた。

が、戦う度強くなっているかのようなイビルジョーの活動報告により難航。

 

爆破属性による攻撃が効果的と判断が降りた直後にはブラキディオスの敗戦が記録された。

人間の手で調達可能な爆破属性など、せいぜいニトロダケやドドガマルのものが関の山だ。

ブラキディオスの扱うあの粘菌と比べれば遥かに質が劣る。その爆発にすら耐えたイビルジョーとなってしまうと効果は絶望的だ。

ならばブラキディオスの粘菌を採取と言えどそうはいかない。

あの粘菌は、ブラキディオスの体を離れようものなら即座に大爆発を起こす危険な代物だ。

完全に生きた個体のブラキディオスに依存しきっており、砕竜なくしての運用は不可能。

ブラキディオス自体が各地の主を超える程の強力なモンスターであり、生きた個体を従えるどころか、捕獲することすら現状の技術では不可能だ。

粘菌の研究も進まず、これだけ長い期間研究しても実態はイマイチ掴めていない。期待もできない。人類による制御は諦めた方が早い。

 

巨大な刃物による斬撃の有効性はディノバルドとショウグンギザミが捕食されたことで再度議論のやり直しまで後退している。

クエストは細胞の破壊ではなく、殺傷だ。

少しでもより現実的な殺害可能な手段に近づくため、各地方から意見が交わされた。

命のやり取りとは、本来難しくあるものだ。

このような無理難題に対しても皆が希望を持ち、誰一人諦めることはなかった。

 

現対策チームリーダー、もとい旧討伐隊体長は人類が霊長たる世界を実現する為に必要なことだと力説する。

曰く、遍く自然を統べる王達を次々と調伏して回るイビルジョーこそが、人の手に余る生物(モンスター)を象徴する存在であると。

そしてイビルジョーを制することこそ、現生人類ひいては未来を生きる子孫が、やがては古龍災害をも克服した霊長として君臨するという野望を成し遂げる上での不可欠の足掛かりとなると。

遭遇次第即撤退などと宣っている限り、人は人の意思で生きることすらままならない。

彼は古龍達を超越者と信仰する者が嫌いだった。

自然との共存を謳う人々が嫌いだった。

結局は、自然という名の試練を前にして、その受難を克服できない人類が災害という名の言い訳を借りて諦めているだけだと信じて疑わなかった。

イビルジョーという新たな脅威に直面した今だからこそ、鬱結した欺瞞の化けの皮を剥ぎ、覇道と正対すべきだというのが彼の言い分だ。

要するに彼は、負けたくなかったのだ。人であることに誇りを持っていたから。

 

無論、反対する者も居た。奇妙にも、彼と同じく竜人族の者たちに多かった。だがそんな逆風をどこ吹く風と、男は分析を繰り返した。

 

〜とある熱帯の森

 

「ドスヘラクレスは高く売れるんだ。貴族の間で蠱毒が流行っているからな」

 

「こんな無毒で小さな生き物が勝ったところで、いったい、誰を殺せるというんだ」

 

「素手で掴んでもなんともないじゃないか」

 

「あぁ!」

 

口では強がっても、内心怖がっていたのだろう。

翅を広げたことに驚き、情けない声をあげた。

その動きを目で追うことも出来ないまま眉間を一突き、即死だった。

なんともマヌケな男だ。

異邦、それも都会の環境で育ってきた若者は、どうやらドスヘラクレスの恐ろしさを知らなかったようだ。

 

この世界の森の歩き方を知らない者は多い。

先程の熱心な啓蒙家の話は一度忘れるべきだ。

さっと木々を掻き分ければ、そこは樹液を啜るカブトムシの一匹が、人一人を殺めてしまう世界。

濡れた岩に止まったブナハブラも、大人の男をたちまち動けなくする強力な麻痺毒を持っている。

幾ら知能が高いとはいっても、人間は弱い。

近隣に住む河沿いの村の住民達は、主を恐れて河にほとんど足を踏み入れなかった。

 

ジャングルガビアル。

それは、ルドロスやドスフロギィを上回る長大な体躯のワニだ。

大型竜の咬合力でも噛み砕けないキングロブスタすら捕食対象とする上位捕食者で、その王者然とした振る舞いに森の人々は畏敬の念すら抱いている。

 

だがある日を境に、このジャングルガビアルは個体数と存在感を失っていた。

水竜ガノトトス。

今では水辺を代表する捕食者だ。

舟で逃げてもまず助からない。

 

カエルが大の好物で突然の衝撃に弱く、一般人でも釣り上げてしまうことがあるという厄介な性質を持つ。

また、目は悪いが音に敏感というのもタチが悪い。ガノトトスの背鰭が少しでも見えたら会話は中断。口頭での注意喚起すら厳禁だ。

ジャングルガビアルと違い、地上での運動能力も高い。フロギィの群れ程度なら親玉のドスフロギィが居ても容易く蹴散らしてしまう程だ。

ガノトトスが河に現れてから、村人たちの生活は一変してしまった。

 

ジャングルガビアルの被害に頭を抱えた村人達が流れる河に祈りを捧げると、ジャングルガビアルともつれあうガノトトスが水飛沫をあげて水面から飛び上がった。

 

ガノトトスの背鰭が八の字を描いて水を切る様を、村人達は、手のひらを合わせて強く握りながら熱心に見つめた。

泥で濁った緑色の河に赤のアクセントが足され、

それでも尚静かに遊泳を続ける巨大な背鰭が意味していたこと...それを理解するにも、長い時間が掛かった。増してや、これから起ころうとしていることなど、想像を絶してしまっていたのだ。

 

岸に打ち上がったのは、腹を食い破られて空にされたジャングルガビアルの遺体だった。

今更何を言おうと遅い。

抱き合って歓喜した村人たちは、巨大な背鰭に感謝の言葉を大声で送り、それが誤ちだと気づいた頃にはもう何もかもが後の祭りだった。

水面が波立ち、一筋の白い線が斜めに伸びたかと思うと、村長の家が倒壊した。巨大な木造建築だった。

 

呆気に取られていた人々に齧り付いたその薄い歯は、刀よりも簡単に肉を裂き、ガノトトスの顎の下にはどくどくと流れる血液がしたたって血溜まりが出来た。

 

ヒレのついた巨大な脚が女子供も構わずに踏みつぶし、口から吐く水流ブレスは家屋をスパスパ切断する威力だった。直撃を受けた村人がどうなったかはいうまでもない。

ヒステリックになって泣き喚く者、神の怒りだといって祈り出す者、槍を投げて刃向かう者。

皆等しく体をズタズタに斬り裂かれた。

鱗が乾くのを嫌がって河に帰っていくまで、数え切れないほどの人が犠牲になった。

 

付近の集落が集まって出来た大規模な村だったが、半分以上の者が命を落とした。

大切な家族を失った者、脚や腕を失った者、形は違えど、その被害を受けなかった者は誰一人として居なかった。

 

その後もガノトトスによる被害は続いた。

河をくだる大型船がガノトトスの襲撃に遭い、乗組員、乗客含め全滅。

周辺地域は看過できない経済的な打撃を受け、追い打ちをかけられたかのように困窮。

人口が減った上怪我人の対応に追われた村に、他の集落を気にかけて行動を起こす余裕などなかった。当然、被害の報告などは行き渡らず。

他国との取引とは無縁だった七つの原始的な集落がガノトトスの襲撃によって完全に滅ぼされ、尊い命とかけがえのない文化が途絶えた。

ギルドに掛け合う余裕もなかった彼らは、騒ぐことも遊ぶことも出来ないまま、ひたすら『音』と『水辺』を恐れながら生活を続けていた。

何年も、希望を持つことすら出来ずに。

 

そんな背景も知らずに派遣された対策チームの人員達は、その凄惨な有様に触れて絶句した。

この付近にイビルジョーが近づいていることなど、とても伝えられるはずもなく。

まだ何も知らない子供までが親を失い、足取りもおぼつかない老人に引き取られている現状を見過ごせなかった一人が、ガノトトスのことをギルドに連絡しに単身村を発った。

 

文明的に特に発達が遅れている村での暮らしは、チームの人々にとって不便だった。

村の人たちは嫌な顔一つせず歓迎してくれたが、厄介なモンスター達は欲望まみれだ。特に食欲。

ただ未開というだけで、モンスター達の脅威は2倍にも3倍にも膨れ上がる。

火を焚かなければフロギィやルドロスが寄ってくるし、火を焚けばブナハブラが寄ってくる。

丁度いい塩梅を村の人に教わっても、どうも上手くいかない。

とはいえ、習得できなければ命を落とす可能性もあるので早く覚えなければならない。

ジメジメとした蒸し暑い気候で、今にも水に飛び込みたくなるが、迂闊に着水しようものならガノトトスやガライーバ、ロアルドロスの餌食だ。

 

「おじさん、獣の焼き方も知らないのかい?」

 

「おじさんって...俺はまだ19だぞ」

 

それでも、現地の少年にモスの焼き方を教わったお礼に、元気ドリンコをあげてと、助け合いながら共存する温かい時間が流れた。言葉は通じなくとも、状況をジェスチャーでしっかりと説明すれば、それなりに意味は通じるものだ。彼らの中でイビルジョーもガノトトスも忘れる時間があったことは、さぞ幸せなことだっただろう。

だが、チームは村人の世話になる為に来た訳でもなければ、村人を支援するために来た訳でもない。その本分は誰一人として忘れていない。

万が一に備え、村人が寝静まった頃には欠かさず大型モンスター対策がのマニュアルを読み漁り、剣術のトレーニングを繰り返していた。

 

8日目夜、激しい雷雨の日。

川の氾濫を恐れて河岸を離れる人々の前に、

再びガノトトスが姿をあらわした。

雷の光に照らされ、濡れた鱗が艶めく。

雨が止む気配はない。鱗はいつまでも乾かない。

...夜は明けない。

 

この一帯の集落を一通り貪り尽くしたガノトトスは人の味を覚え、また人を食べる為にこの村に戻ってきてしまったらしい。

村人たちは、いつ壊されるか分からない建物の中に籠って身を隠している。

幼児を引き取った例の老人は、息を殺して子供を抱きしめていた。

ガノトトスは僅かな息の音を頼りにゆっくりと近寄ってくる。このまま家にこもっていても、そう長く持たないだろう。誰もがそう思っていた。

そんな時、対策チームの男は立ち上がり、同じ家に隠れていた村人に礼をいった。

子供心ながらに意味を察した少年は、袖を掴んで引き留めようとする。

声は出せなかったもので、瓶に詰められていた貴重品の塩を惜しげもなく床に撒いて、指で文字を書いた。ガノトトスの襲撃で父も母も失っていた少年を、誰も勿体無いと咎めはしなかった。

 

『いかないで』

 

チームの男は軽く現地のことについて勉強していたが、言語圏が違う上に形の汚い文字の意味を読み取れるはずもなかった。

少年の涙で溶けた塩を見た男は、しゃがみこんで少年と目線を合わせると、笑顔で言った。

 

ジボイギール(ありがとう)

 

贈られた言葉の意味が分からない少年は、涙を貯めたまま、高くなっていく男の顔を見上げた。

それから男は裾を握る小さな手に触れて、優しくゆっくりと開いた。

まだ雨は激しい。だが、夜の闇もあったことで、視界が悪かった。静かに戸を開け、忍足でガノトトスの背後まで回り込むことが出来た。

 

泥に塗れた石を拾い上げ、深呼吸をする。

ガノトトスが家屋に到達するまで、もう三分も掛からないだろう。

ならばそれまでに覚悟を決めて、自分にやれることをやるまで。

 

男は、雄叫びをあげ、拾った石をガノトトスに投げつけた。風を切って飛んだ石ころがガノトトスのウロコにあたり、カコンと大きな音がした。

突然の衝撃を嫌うガノトトスの反応は見るまでもなくわかる。

 

長い首をぐにゃりと曲げて、大きな白い目がこちらを見つめている。軽く開いた口から、細かく薄い歯が顔を覗かせた。

ガノトトスはすぐに向き直り、首を低く落として咆哮を上げた。

噛み付くガノトトスに盾を突き出す。シールドバッシュだ。攻撃を防ぐのみにとどまらず、あわよくば歯を折ってやろうという気持ちまで篭った渾身の一撃だが、ガノトトスには効いていない。

ライトクリスタルさえあしらわれた特注の盾を牙が貫通し、そのままガノトトスに盾を奪われたと思うと、水流ブレスで粉微塵に粉砕された。

 

それもその筈。相手はれっきとした大型竜。

人間風情がとても敵う相手ではない。

首を高くもたげ、腹を見せてペタペタと走ってくるガノトトスを前転で回避すると、服に泥水がこびりついて気持ちが悪い。

一度でもあの鋭い牙で噛みつかれれば失血死でゲームオーバーだ。ならば側面に回り込むまで。

 

不意に、ガノトトスの水流ブレスが森をざっと薙ぎ、太い木々が枝を絡ませながら倒れていった。

止まる場所をなくしたブナハブラがフラフラと漂った。もしあれが家屋に、中の村人に当たってしまえば真っ二つだ。側面に回り込もうにも角度には限界がある。真横に回り込んでいると考えればほぼ直角。二度同じ方向に繰り返し回り込めば、家屋を危険に晒してしまうだろう。

しかし、一度側面に回った以上引き返そうものならブナハブラに見つかり、刺されて麻痺してそのまま殺される可能性が高い。そして敵の質量は一度の斬撃で仕留められるレベルではない。

つまりチャンスは一度、そして一度のチャンスでは仕留めきれない。

もうどうしようもないのか...過去の日々を思い返す。これではどうにもやりきれない。そう思っていたとき、好機が訪れた。

倒壊した木の樹液を啜っていたキラーカブトやドスヘラクレスが怒ってガノトトスに体当たりし、これに目眩し程度の効果があったのだ。

そのため、ごく僅かな時間隙が出来た。

そして振り返った過去の日々は、この一瞬の余裕の中で男にヒントを与えたのだった。

ブナハブラと紐付けられた記憶は、松明の火加減に手を焼いた日々。

少年から火の付け方を教わった記憶。

生憎の豪雨だ、そう長い間まともに火などつけられない。だが、少しで良いのなら、可能だ。

チームでかつて研究していたニトロダケがある。

これに松明の火加減を調整するための油を塗り、一心不乱にガノトトスに投げつけた。

 

一か八かの賭けに息を呑む。

成功すれば次のチャンス、失敗すれば状況は絶望的。だがこれに賭ける他道はなかった。

 

...成功だ。

 

ニトロダケが発した爆発的な高熱が油を発火させ、その光に寄せられた数匹のブナハブラがガノトトスに麻痺針を突き刺したのだ。

ガノトトスは麻痺毒が回るまでの間にブナハブラを丸齧りして捕食したが、流石に毒が効いたようで、痙攣し始めた。

 

徐々に動きが鈍っていくガノトトスに駆け寄り、脚を何度も斬りつける。

今だ。今しかない。今決めなければ皆、殺されてしまう。少しでも傷を深くするため、力を込めた斬撃が鱗を、皮を、幾度となく切りつける。

悲しいかな。それもガノトトスからすれば薄皮一枚削がれるような微々たるダメージでしかなかった。

 

痺れから次第に回復してきたガノトトスは、何やら横によろけるようなおかしな動きをした。

男には、それが足に張り付くように攻撃されたのが気に食わなかったように見えた。

実際のところ、それはガノトトスにとって、最大の攻撃の予備動作だった。

男は踏み潰されないようにと尻尾の下側へ回避したが、ガノトトスは躊躇なく『技』を使った。

 

軽く膝を曲げ、目にも止まらぬ早技で体を打ちつけるその動きはタックルや鉄山靠と呼ばれる攻撃と概ねが一致していた。

しかし、一つだけ異なるところがあった。

 

それは、規模。攻撃範囲だ。

ガノトトスのタックルはカカト付近まで強力な打撃として機能していた。胴をかすめるだけで、見た目以上のダメージを与える。

それはまるで衝撃波のように男を突き飛ばし、すぐには起き上がれないほどの衝撃を与えた。

 

男は仰向けに倒れたが、すぐに手をついてガノトトスから離れようともがく。

しかし、ダメージを負った体ではガノトトスの歩行から逃れることすら出来ない。

どうやら、骨が何本も折れているようだ。

幾人もの肉を斬り、血管を引き裂いてきた凶悪な牙が徐々にその全貌をあらわす。

男が己の弱さを憎み、遂に逃げることすら諦めたその刹那、声が響いた。

 

「もうやめろ!食べるなら僕を食べろ!」

 

戸を開けて少年が駆けてきて、ガノトトスの注意を引いた。止めたくても、声にならない。言葉は通じない。ジェスチャーをしようにも、体が動かない。

 

ガノトトスは首を傾げながら少年の方を向き、

咆哮をあげてペタペタと走り寄った。

悔しさで視界が滲む。

結局、自分は何も守ることは出来ないのか。

泥だらけの水溜りに映る男の顔を、雨が掻き乱して歪ませる。

そんな絶望に打ちひしがれ、遂に心が折れそうになったその時だった。

 

ガノトトスと少年の間に発煙筒が投げ込まれた。

仲間が、帰ってきたのだ。

それも、超ビッグサイズの怪物を連れて。

 

稲妻のような赤い一筋の光がガノトトスに直撃し、滾るエネルギーが弾けてガノトトスを転倒させた。

吠えて威嚇しながらなんとか立ち上がったガノトトスは、『最恐のモンスター』を目撃した。

 

鬱蒼とした森の木々を薙ぎ倒し、暴食の王が幕を打って出る。二本の強靭な脚で大地を踏み締め、上体を大きく起こし、天に轟く咆哮をあげた。

雨に濡れてヌラヌラと黒光りする莫大な筋肉の内側から、警告するように赤い光が溢れ出している。

 

あまりの爆音に、大きな音を苦手とするガノトトスがバランスを崩して再度転んだ。

すぐさま起き上がって水流ブレスを放ったが、ブレスは膨張したイビルジョーの筋肉に当たった瞬間にパシャッと音を立てて四散し、全く効果が見られない。

水流ブレスの直撃を受けながら全く止まらずに歩み寄るイビルジョーに対して、後がないガノトトスはタックルを繰り出したが、頭突きで押し返され、泥だらけになりながらゴロゴロと転がる。

頭突きの衝撃でヒレが木っ端微塵に砕け散ったガノトトスは片翼の飛竜のような姿で魚のようにピチピチと跳ねた。

 

イビルジョーは横倒しになったまま跳ねるガノトトスの側まで歩み寄り、腰を踏みつけて跳ねられなくすると、弱々しく呼吸するガノトトスの頭を覗き込んで涎を垂らした。

イビルジョーの脚から加わった力が余程凄まじかったのか、はたまたイビルジョーに捕食されるのが余程恐ろしかったのか、ガノトトスは死を悟ったようにグッタリとして呼吸の音だけを発している。

 

次の瞬間、イビルジョーはガノトトスの頭に齧り付いて頭蓋骨を噛み潰すと、首を引きちぎって投げ捨てた。

イビルジョーの涎で溶けかけたガノトトスの頭が、水溜りに落ち、千切れた首から河まで血が流れている。

 

更にイビルジョーは雷が鳴ると同時にガノトトスの腰付近に更に強く体重をかけ、完全に踏み潰して雄叫びをあげた。

夜の闇と豪雨、充満する血の匂いに雨が土を打つ音、雷の音。

イビルジョーは村人や対策チームの人々を見つけることは出来なかった。

ジャングルガビアルの時を思い出して恐怖に震える村人たちを背に、イビルジョーはガノトトスの亡骸を咥えて森の中へと姿を消した。

しばらくして、足音が聞こえなくなると、チームの仲間が男の元へ駆け寄って、肩を貸した。

 

「結局、アイツの弱点が何なのか、何も分かりませんでしたね」

 

「分かったのは、正義の味方ってことぐらい?」

 

「いいや、食べたいものを食べただけでしょ」

 

男は、チームの仲間と軽い談笑をかわした。

やがて雨は上がり、薄紫色に染まる空の下、

村人たちが外に出てきた。

対策チームの仲間は、森の中においてきたというたくさんの食料とタオルなどの生活用品が乗せられた貨車を引っ張ってきて、村人たちに贈った。

静寂の村に、活気が戻った。

仲間に傷の手当てをしてもらっている男の元に、少年が駆け寄ってきて言った。

 

「おじさん、任務は失敗しちゃったの?」

 

言語は違っていたし、男はその言葉の意味を知らなかったので答えられなかった。

ただ、傷だらけの手で頬を優しく撫でた。

 

「もしそうでも、格好良かったよ。ありがとう、僕たちを救ってくれて」

 

少年の言語は通じない。

男は黙って微笑み、これで良かったと心の中で何度も唱えていた。

そんな男にも、次の少年の言葉は何故だか不思議と伝わった。前もって言っておくが、少年の言葉にはジェスチャーの一つも伴わなかったし、男が学んだ現地の知識に、その言葉は含まれていなかった。

 

「おじさんまるで、『モンスターハンター』みたいだったよ」




一部、設定とモンスター紹介

ドスフロギィ

猛毒を扱う中型の鳥竜種。
高温多湿を好む傾向にあり、物理的に火山と近い今回の熱帯雨林はフロギィにとって至上の環境であったと思われる。
高温の環境に生息し、毒を扱う鳥竜種という面ではドスイーオスやイーオスと共通しているが、こちらは毒霧、あちらは毒液と細かい戦闘スタイルに違いが見られる。
また、流石に総合的な戦闘能力ではイーオス種に軍配が上がると推測されている。

ガノトトス

水中を代表するモンスター。
ヒレからは獲物を眠らせる毒を分泌し、その水流ブレスは鎧の上からハンターを真っ二つにする威力を誇る。長らく密林の生態系の頂点とされていたジャングルガビアルを圧倒する実力を示し、「人の手に負える生き物では無い」とされていた強力なモンスターである。

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