蛇寮の獅子   作:捨独楽

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トレローニとかいう『自分を本当は凡人だと思ってるけど気付いてないだけでガチの天才』。

予知能力を凡人どもに愚弄される謂れはないんだけど教師としてはまぁうん……


シビル·トレローニ

 

「ハリー、疲れてるか?」

 

 決闘クラブでの一通りの練習を終えたハリーは、壁際に寄りかかって紅茶を口に含んでいた。そんなハリーを心配してか、ロンがハリーに話しかける。ハリーはティーカップを壁際の机に置いてロンに向き直った。

 

「いや全然?クィディッチが出来ない分体力が余ってるくらいだよ」

 

「でも紅茶は欠かせない?」

 

 一服したハリーを茶化しておどけるロンにハリーは頷いた。

 

「まぁね。ロンの方こそどう?疲れてるなら一杯。……生憎砂糖は切らしてるけど」

 

「いや、かなり調子がいいんだ。パトロナスがうまくいったからかもしれない」

 

 その日の決闘クラブは、一つ素晴らしい出来事があった。ロンとザビニがエクスペクト·パトローナム(パトロナス召喚)に一瞬だけ成功したのだ。ハリーはロンの杖から銀色のテリアが、ザビニの杖から銀色の馬が放出されるのを確認した。パトロナスは一瞬で消えてしまったとはいえ、実体を持つパトロナスを見れたことで部員たちは歓声をあげて二人を称賛した。コリンがカシャカシャとカメラのシャッターを切る音も気にならないほど、ロンとザビニの二人は喜びに満ち溢れていた。

 

 ロンもザビニも実践形式、つまりディメンターのそれに近いような恐怖を体感した状態でパトロナスを出したわけではない。しかし大勢の部員たちが見守るなかでパトロナスの召喚に成功したことで、ロンの顔はこれまでになく喜びに満ち溢れていた。ハリーはそんなロンやザビニを見ていると、胸の中に暖かなものが広がっていった。

 

「本当に凄かったよ。ちょっと小さめだったけど毛並みの良い、立派なテリアだった」

 

 ハリーが褒めると、ロンは耳を赤くした。ハリーはロンの耳と髪の毛のどちらがより赤くなるだろうかと思った。

 

「ライオンとかの方が良かったなぁ。グリフィンドールっぼいしさぁ」

 

「それはルナと被るよ」

 

 ハリーが杖で差した先には、ライオンの帽子を被ったルナがファルカスの放出した紫色の布に絡め取られていた。帽子が布によってルナの顔に覆い被さりルナの視界を塞いでいる。ロンはうげえと呻き声をあげて、それもそうだと呟いた。

 

「ライオンじゃなくて良かった。……まぁ冗談はこれくらいにしていいか?……実は、ハリーに相談したいことがあって来たんだ」

 

 ロンは喜びに満ち溢れた表情を少し納めて、ハリーにそう持ちかけた。

 

「もしよかったら聞いてくれねぇかな……いや、ハリーが嫌だったり、忙しいなら……」

 

「まずは話を聞いてみないと判断できないよ。どうしたの?」

 

 ハリーはロンの頼みを断るつもりはなかったが、ロンがハリーにこうやって相談することは珍しかった。ハリーはわざわざ自分に相談してくれたことを嬉しく思いながらも、真面目な表情でロンに続きを促した。

 

「……実は、ハーマイオニーのことなんだけど」

 

「……ハーマイオニーがどうかしたの?」

 

 ハリーはそう言いながら、最近のハーマイオニーの様子を思い返していた。アストリアのことがあってからダフネにかかりきりになっていたが、ハリーは12科目全てでハーマイオニーと同じ授業を受けてきた。

 

(……いや……そう言えば最近は口数が少なくなっていたかな……いつもよりも元気がなかった……)

 

「あいつさ、ちょっと疲れてるんだよ。ほら、ハリーも受けてるようにハーマイオニーも12科目を受けているわけだけど、なんだか滅茶苦茶なスケジュールみたいだし……」

 

 

「ああ。まぁそれ自体は普通のことだよ。でもそんなに心配するほど疲れるって訳じゃないだろう?何かあったの?」

 

 幾らなんでも忙しいだけで相談しに来るとは思えず聞くと、ロンは占い学がハーマイオニーに合わないんだと言った。

 

(そう言えばアズラエルもそんなことを言ってたな……)

 

「……ああ。ほら、占い学のトレローニーってインチキ婆さんで有名だろ?君とか、ハッフルパフのディゴリーに死の預言をしたって噂もあるくらいにデリカシーにも欠けてる。だからハーマイオニーはずっと苛々してたんだけどさ」

 

「ハーマイオニーは真面目だからねぇ」

 

 ハリーから見ても、ハーマイオニーの勉学への向上心の高さは異常だった。だからこそ許せないこともあるのだろうが。

 

 

 

「……そのトレローニの占いが原因で、ハーマイオニーはラベンダー·ブラウン……ほら、知ってるだろ?うちのクラスの女子だよ。あの子と喧嘩しちまってさ。ペットが死んだことを占い婆さんの予知が当たったんだっていうラベンダーと、そんなわけねえだろって言うハーマイオニーとで口論になっちまって」

 

「あー、うん。ハーマイオニーは正しいかもしれないけど人の心はないね」

 

 ハリーは自分がラベンダーの立場にたったときのことを想像してそう言った。まだずっと先の話になるだろうしできればそんな日は来てほしくはないが、アスクレピオスの死を悼んでいる時に横から茶々を入れられて、怒らずにいられるとは思えなかった。ラベンダー·ブラウンという少女が客観的に見て迷信深く、『愚か』な人間であったとしても、自分の手の及ばないことを何か別の超常的なもののせいにして逃避したくなる気持ちはわかるつもりだった。

 

「うん。ハーマイオニーもそれでちょっと参っててさ。勉強のことを忘れられるようないい体験が必要だと思うんだ」

 

「……なるほど……疲れと先生との相性の問題か。休日にリフレッシュするのもいいとは思うけど、ちゃんと手を抜けるところで手を抜いてる?薬草学とか占い学とか、期末テストでもないレポートなら未提出さえなければ成績には反映されないよ?」

 

 宿題のレポートが成績に反映される割合は科目によって異なる。念のためにハリーが尋ねると、ロンは渋い顔をした。

 

「いやぁ、それはあんまり……占い学のレポートも、羊皮紙一枚丸々書いてたしなぁ」

 

「……内容は?」

 

 ハリーは嫌な予感を感じながらロンに続きを促した。

 

「確か、亀の甲羅の占いだったかな。アジア圏で大昔に流行った占いだって言ってた気がする」

 

(……ええ……)

 

「……授業でも習ってないところじゃないか。流石にアドバイスなんて出来ないね、それは」

 

 ハーマイオニーがハリーより疲れているのには理由がある。ロンによれば、

 

「ハーマイオニーは勉強に取り憑かれているんだ」

 

 とのことだが、話を聞いてみてハリーはハーマイオニーの問題点を理解した。

 

(彼女は完璧主義なんだ)

 

 

 例えば占い学の課題であれば、ハリーは天文学の知識を応用した星占いのレポートを書いた後、友達のなかでも天文学に詳しいファルカスから内容について一言確認してもらってから提出する。その代わりにファルカスの薬草学のレポートを見たりもする。スリザリンらしい相互扶助的なあり方だ。この関係が成立するのは、ハリーとファルカスとの間で得意科目がばらけているためだ。これによって、ハリーは自分の勉強の負担をある程度減らしている。実際の作業時間は変わらなくても、心理的な負担はぐっと減るのだ。

 

 しかしこれがハーマイオニーの場合、善意でロンやネビルのレポートを見た後、専門書を読み込んで既存の知識にない甲骨占いについてのレポートを書き上げる。レポートそのものは学年トップレベルの高評価を得るのだろうが、専門書を読む時間に加えてネビルやロンといった友人のレポートを読み込んだあと、自分の勉強は全て自分で確認してから出している。自分の勉強に友人が介在しないのである。

 

 

 勉強は自分のためのものである以上ハーマイオニーのやり方の方が正しい。ハリーの中でハーマイオニーに対する敬意は否が応でも高まったが、しかし、ハーマイオニーの処理能力をもってしてもそれを12科目で続けるという作業は負担となるだろう。手を抜けるところで手を抜き、自分自身の精神を健康に保つという部分での妥協を彼女はよしとしない。それが、ストレスとなってハーマイオニーを蝕んでいる。

 

「……ハーマイオニー、占い学のことあまり好きじゃないだろう。そこまで本気になってやらなくてもいいと思うな」

 

「ハリーもそう思うだろ?一緒に説得してくれねぇ?」

 

 

 占い学にも一定の魔術的な法則は存在する。しかし、それが意味を成すのはほんの一握りの天才だけなのだ。東洋の島国の古代女王のように、占いに対して才能を持った人間であれば占いは正解を示す。

 適当に言った筈の無駄な情報が、当たっていた。あるいは当たった、ということが起こり得る。天才であればの話だ。

 

 つまりは才能のない学生とって、占い学は無意味な授業なのだ。だからこそ、ハーマイオニーは苛立っているのだろう。ギフテッドではなくとも、学問と習熟によって魔法を習得してきたハーマイオニーには許しがたいということは想像できる。

 

 

 ハリーにも勿論占い学の才能はない。しかし、ハリーは自分にその分野の才能がないことを悲観していなかった。占いという才能がなくても、蛇語という才能によってハリーは満たされていたし、自分にない才能が沢山あるということは張り合いがあって案外楽しいものだった。

 

「……作戦を練ろう。ハーマイオニーの気分が安定した時に提案した方が、ハーマイオニーも話を聞いてくれる筈だ」

 

「うん、それだ!俺もそれがいいと思う!」

 

 ロンはぱあっと顔を明るくしたが、すぐにその表情は陰った。

 

「でもどうやって?」

 

 ハリーはホグズミードで遊んで気分転換した後でならどうかとロンに提案した。

 

「今度、スリザリンの友達と美術館に行くつもりなんだけどさ。アズラエルたちが来れなくなってチケットが余ってるんだ。ハーマイオニーと一緒にどうかな?」

 

「いいのか?……ありがとう!ハーマイオニーってこういうの好きそうだし、ナイスアイディアだぜハリー!」

 

「頑張ってね、ロン」

 

 ハリーは以前購入したチケットをロンに渡した。アストリアが入院したことでお流れになったものの、ホグズミード美術館は融通が効くようで、入館さえしていなければ別の日であっても訪れることは可能なようだった。

 

 これはホグズミードを盛り上げようという取り組みの一つで、ホグワーツ生だけが許される特権だった。

 

 ロンの表情に喜びが戻ったことに一安心して、ハリーは決闘クラブの闘技場に足を運んだ。上級生たちに挑んだハリーは調子が良く、その日はじめてバナナージ·ビストに魔法を当て、勝利することができた。それだけではなく、ザビニやロンの晴れ晴れとした姿を思い浮かべたことで、エクスペクト パトローナムに紛れ込んでいた禍々しい気配はすっかりなくなっていた。

 

 

***

 

「ダフネ。今度の日曜の美術館だけど、アズラエルたちは来れなくなったよ。代わりにロンとハーマイオニーが来ることになった」

 

「……ミリセントがオペラに行くと言っていたのは知っているわ、ハリー。けれどグレンジャー?ハリー!私の立場も考えてくれる?」

 

 ダフネ·グリーングラスは木曜日の放課後、ハリーから聞いた言葉に烈火の如く怒りを見せた。道行く通行人が好奇の視線を向けるのも気にしないほどに。そもそもダフネはハリーの友人ではあってもロンやハーマイオニーとは会話したことすらない。ハーマイオニーに至っては、パンジーの取り巻きの一人として悪印象を抱かれて敵視されている恐れがあった。ハリーはダフネの言葉に対して、呑気にもこう言った。

 

「心配は無用だよ、ダフネ。合流するのは美術館の中でだし。たまたま美術館で出くわしたってことにすればいい。ザビニたちも来るんだし」

 

「それは……そうかもしれないけれど」

 

「どうかこの通り。今回だけでいいんだ、ダフネ」

 

 ダフネはハリーの態度に語気を弱めた。ダフネは純血主義を強く信仰しているわけではない。ただ、スリザリン内部で立場を無くすことは避けたいという打算はあった。パンジーなど、ハリーに関する話をダフネから聞くたびに『ハリーに純血主義を教えてあげるのよ』等とダフネにせっついてくるのだから。

 

 が、その場にザビニとトレイシーが来てくれるのならば話は変わる。トレイシーは口喧しく三秒も黙っていられないほどのゴシップ好きだが、スリザリン内部での交遊関係は広く女子たちにもそれなりに人気があるからだ。口下手なダフネの立場も、トレイシーならば守ってくれるだろうという打算があった。

 

 無論、ダフネ自身も親の用意してくれた人脈を便りにして、トレイシーに便宜を図ることができる。だからダフネは、ハリーに対して『お洒落』をしてくることを条件にして頷いた。

 

「……どうしてもと言うのなら、あなたが前あげた目薬を使ってくれるならいいわ」

 

「……あー、あの目薬か。……うーん、まぁそうだね。了解」

 

 

 ハリーは歯切れ悪くダフネの言葉を了承した。その姿を見て、ダフネは少し訝しんだ。

 

「あら、あの目薬は気に入らなかった?」

 

「そういう訳じゃないよ。ただ、眼鏡がないと落ち着かないんだ」

 

「無い方が動きやすくて便利でしょう?」

 

 ダフネの言葉に、ハリーは肩をすくめた。

 

「まぁそうだね。決闘の時とかに使えたら便利だろうと思うよ。クィディッチの時も外したりするし。……でも、眼鏡をかけている人間にとって眼鏡は身体の一部みたいなものなんだ。ないとどうもね」

 

「……そんなものかしら」

 

 ハリーの言葉にダフネは納得して引き下がったが、そう言えば、とふと思った。

 

 

(……ハリーが要求を断ったのは珍しいわね。もしかしたらこれがはじめてかしら……?)

 

「その瓶の蓋のような眼鏡を買い換えたりはしないの?随分と古そうな眼鏡だけれど」

 

 年頃の少女らしい好奇心を発揮して何の気なしにダフネがそう聞くと、ハリーは顔をしかめて言った。

 

「僕にとっては身体の一部だから、これでいいんだよ。新しい眼鏡は慣れるまでに時間がかかるしね」

 

「……ふうん、そうなの」

 

 ダフネはハリーの返答に何か違和感を感じながら、その日は引き下がった。

 

***

 

 その日一晩、ダフネはハリーの眼鏡について考えてみて、ふと思った。あの眼鏡をハリーはいつからかけていたのただろうかと。

 

 

(……そう言えば、入学式の日からずっとあの眼鏡だったような……)

 

 ダフネの記憶は朧気だが、ハリーはとにかく目立っていた。ドラコに対して啖呵を切っていた日も、クィディッチの選抜試験の日もあの眼鏡だったとダフネは思い出した。

 

(……あの眼鏡、マグルからもらったものなのかしら。けれどポッターはマグルが嫌いだって)

 

 記憶の中の印象深い出来事を思い返すと、ハリーがマグル嫌いであることをダフネは思い出す。

 

(日曜日に聞いてみようかな……けれど、そんなことをしたら嫌われるかしら……?)

 

 いくら友人であっても、聞かれたくないことというのはあるだろう。ダフネは自分の交遊関係をこわすリスクを恐れた。代わりに、ダフネの脳裏にあるアイディアが閃いた。

 

(……そうだわ、グレンジャー!グレンジャーが居るじゃない!あの子を唆してみよう。あの子は私よりもハリーと仲がいいもの。何気ない会話の流れで聞き出してくれるはずだわ!)

 

 ダフネは眠気で疲労した頭で、名案に違いないという思いを胸に眠りについた。そもそもダフネはハーマイオニーとは友人でもなんでもない上にハーマイオニーから嫌われている可能性すらあるというのにどうやってハーマイオニーと親しくなるつもりなのか、それを突っ込む人間は夢の中のダフネの脳裏には存在しなかった。

 

***

 

 金曜日の放課後、ハーマイオニー·グレンジャーは、ルナ·ラブグッドに導かれてレイブンクローの塔を訪れていた。ハーマイオニーの顔色はお世辞にもよくはなかったが、ルナはハーマイオニーの頼みを断らなかった。

 

『本当に行くの?』

 

『ええ。私は勉強で妥協はしたくないの。私は、色んな人に会って……ハリーやロンやザビニたちやマクギリス先輩と会ってわかったの。しっかりと話して、その本質を理解しようとしなければならないんだって。占い学というものを理解しようとしなければならないの。お願いルナ、案内してくれる?』

 

『ハーマイオニーの頼みなら。ホグズミードの叫びの屋敷にナーグルがいるかどうか、今度見てきてね!』

 

『ええ。約束するわ、ルナ』

 

 ハーマイオニーとルナはこうして、トレローニ教授の研究室を訪れたのだった。

 

「ここだよ、ハーマイオニー。トレローニ先生!いらっしゃいますか?」

 

 ルナは杖で教授の研究室の扉に文字を描く。それが稲妻形のルーンであることにハーマイオニーは気がついた。

 

「……どなた?」

 

「ハーマイオニー·グレンジャーです。先生にお伺いしたいことがあって来ました」

 

「……お入りなさいな」

 

 そしてハーマイオニーは、己にとって不倶戴天の敵とも言える教授の研究室に足を踏み入れた。

 

***

 

 シビル·トレローニは不快感を感じつつも、研究室を訪れた栗色の髪をした出っ歯なグリフィンドール生の少女を招き入れた。同行していたブロンドのレイブンクロー生は研究室に置かれた色とりどりの札に興味を示すのに対して、ハーマイオニーは強い意思を携えた目でシビルに古代アジアの呪術と占い、そして魔法についての相関性を質問してきた。

 

「その質問は、隔ての無いものを細分化して区切ろうとする盲目な人間の性によるものですわ」

 

 

 トレローニは占い学の教授として、占い学らしい曖昧な返答で答えた。ハーマイオニーは納得できないというように質問を飛ばし、トレローニーがのらりくらりとかわす。そんな時間が続いた。

 

(本当に小賢しいだけの小娘が……)

 

 トレローニにとって、あるいは占い学を楽しむ人間にとってもっとも愚かな人間がいる。

 

 目の前のハーマイオニー·グレンジャーや、あるいは校長のアルバス·ダンブルドアのように、占いという学問の曖昧さに含まれる解釈の余地を理解せず、なんでもかんでも白黒をつけたがった挙げ句、しまいには占いを楽しむ人間すら愚弄する無知蒙昧を極めたような人間である。

 

「ではマグルの占いと、占い学の占いとでは区別がないんですか?」

 

「そうとも言えますしそうではないとも言えますわね」

 

 占いは、白黒をつけてはならないという原則がある。本当に優れた預言者は、その解釈に幅を持たせ、預言によって人が左右されるのではなく、人が歩む道を少しだけ照らすのだという祖父の教えを、トレローニは基本的に守り、そしてあるときは外した。

 

 トレローニの態度にハーマイオニーは苛立ちを隠せなくなってきたものの、ハーマイオニーはトレローニの研究室を離れようとはしなかった。ブロンドのレイブンクロー生、ルナはふわあとあくびをした。時計の針はゆうに一時間以上も経過している。

 

(……そろそろ頃合いですわね)

 

「ミス·グレンジャー。勉強熱心なのはとてもいいことですわ。……ですが、私のように真眼を持つ人間には、一つだけ言えることがありますの」

 

「それはなんですか?……トレローニ教授」

 

 敬意を欠いてはいけないと、ハーマイオニーは渋々言葉を付け足す。そんな彼女に、トレローニは一つの預言を下した。

 

「……わたくし、言うも憚られるほどに恐ろしい未来が見えましたの。その未来では、魔女がこう嘆いていましたわ」

 

 

「『勉強勉強、勉強ばかりしてきた』『今は一人』『あの日いた友達はみんなどこへ行ったのか』と……」

 

 トレローニの言葉に、ハーマイオニーとルナは心臓を鷲掴みにされたような顔をした。

 

「わたくし、未来は一つではないとも考えていますの。真眼を持たない人間には分からないでしょうが、そういった凡俗には凡俗としての道もありますのよ」

 

 トレローニの言葉に何を思ったのか、ハーマイオニーはすっかり意気消沈し、ルナに支えられながらトレローニの研究室を去った。トレローニは一息ついてから、日課の瞑想にふけるのだった。

 

***

 金曜日の晩、ハーマイオニーはラベンダー·ブラウンに対して彼女の気持ちを踏みにじったことを謝罪した。少し晴れやかな顔のハーマイオニーとラベンダーを見守った後、ロンがハーマイオニーを美術館に誘うと、ハーマイオニーは満面の笑みで美術館に行くことを約束した。

 

  





 ハリーが完全にパトロナスを使いこなすためには精神的な成長が必要です。

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