悪事はバレなきゃ悪事じゃない、病気は自覚しなければ病気ではない、ということでバイク事故の怪我を無視して全国各地をほっつき歩いていたら左半身が爆発した。再び熱海で療養している。全然治ってなかった。なんということだろう。仕方がないので春画の本を読む。最近春画に興味がある。驚いたことに、春画を世界で一番待っている人は日本人ではなく日本に居を構えるイスラエル人のシャガンさんである。西洋文化はキリスト教の影響が強く、セックスは罪【悪いこと】とされる。春画で表現されている世界は真逆で、喜怒哀楽がオープンになっている。愛する夫を亡くした妻が、夫の墓に張形を付け自慰に耽っている春画がある。その女性は、愛しさと悲しさが混ざった顔をしている。

普通、ポルノは隠されるものだが「見せたいポルノ」になっている。あけっぴろげな表現が見る者の笑いを誘い、思わず誰かに見せたくなってしまうのだ。普通、エロビデオやエログッズなどは押し入れの隅やベッドの下に隠される。だが、春画はどんどん外に出てくる。熱海には秘宝館がある。驚いたことに、入館者には若い女性が多い。女たちがキャッキャ言いながら男性器を眺めている様は異様でもあり、自然でもある。食欲も性欲も睡眠欲も、共通することは気持ち良さだ。神は、人間が生きるために必要な行為を気持ちよく感じるように作った。それを罪や悪とするのはいかがなものか。せっかく生まれてきたのだから、生まれてきたことを楽しもうぜ、人間を楽しもうぜと言うオープンな気風を、江戸の文化からは感じることが多い。有体に言えばジメジメしていない。だから、秘宝館を出た後はさっぱりとした気持ちになる。

誤解を恐れずに言えば、俺たち人類全員露出狂みたいなものだと思う。普段は内側に溜め込んでいる欲望を、本当は外側に出したい。自分を恥ずかしく感じる部分もありながら、同じ強さで「これが俺だ」と、ありのままの姿を曝け出したくなる。だからこそ、ありのままで生きる人々に胸を打たれる。理想的な姿ではなく、ありのままの姿を出すことで、なーんだ、今の自分がすでに理想的な姿だったのではないかと、今の自分を肯定する。誰とも比べない。何とも比べない。絶対的な自分を「これが私でございます」と差し出した時、不思議なさっぱり感に包まれる。評価されようが罵倒されようが、これが自分なのだから仕方ない。どれだけ隠していても、思ってしまったことは隠せない。愛や光なんて綺麗な言葉ではカバーできない、怒りにも似た欲望が人間を突き動かす熱源になる。

誰の中にも静謐さと苛烈さがある。お茶を飲んでまったりしたい時もあれば、暴れ馬のように荒地を駆け抜けたくなることもある。自分の手首を掻き切って、噴き出す血を突きつけながら「これが生きているってことだよ」と言うような、血飛沫みたいなメッセージを放ちたい。そんな激情に襲われることもある。家が燃えている人間に「焦らずゆっくり楽しんで」などと言ったら、その人は焼死をしてしまうだろう。明日には腐る団子を大量に渡された時、腐らせるくらいなら誰かに配りたいと思う。だが、配る相手が身近にいない。そんな時、焦りを感じるのは普通だ。かと言って、自分が食べたら腹を壊して不幸になる。捨てても罪悪感で不幸になる。せっかく自分の手元にあるものを、生かし切ることができないことはストレスになる。導火線に火をつけてしまった爆弾は、何処かに投げなければ自分を爆発させてしまう。だが、投げた場所によっては最高の効果を発揮する。壁を壊し、閉塞した世界に自由の風を吹かせる。

そんな爆弾を、誰もが持っているのだと思う。気持ちが塞いだりあがらない時は月のせい、季節のせい、ホルモンバランスのせいにしてしまえ。必ず這い上がる時が来ることを、俺たちの体は知っている。鬱でぶっ倒れていた時、ゆっくりしろと言われることが一番辛かった。だから、私は沈んでいる人間に「ゆっくりしなよ」とか言わない。ゆっくりできないのが普通だ。浮き沈みがあるのが普通だと言ってやる。当たり前なんだ。それでいい。自分を殺したくなるほどの激しさを持っている人は、好きだ。色々な気持ちになるけれど、その奥には宝がある。喜怒哀楽の喜と楽にだけ宝があるのではなく、怒りの中にも哀しみの中にも宝はある。俺たちは、それを掴みに行くトレジャーハンターみたいなものだ。三ヶ月間で十五キロ減らした時、食事を減らして運動を増やすこと意外に痩せる方法はないことを悟った。食事もセックスも睡眠もやり過ぎは危険だ。ほどほどに。だが、やり過ぎて死ぬのもまた一興。この世の中は行動するアホが人生を謳歌する。身も蓋もない結論だが、なんでもありということだ。大量のビールを貰ったのだが、私はビールを飲むことができない。誰か、ビールを掴みに来てください。