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第四章
怖い女性たち3

「……あれなに?」


 お酒も飲んでいないはずなのに、と優斗がこっそり和輝に聞く。


「場酔いというやつがしれんな」


「場酔い?」


「そうだ。お酒に似たものを飲んで楽しい雰囲気になってお酒に酔ったような気分になっているのかもしれん」


 時として場酔いなるお酒も飲んでいないのなその場の雰囲気によってお酒に酔ったような状態になることがある。

 ノンアルながらお酒に似た飲み物とめでたい出来事と祝ってくれる仲間たち。


 照れ臭くて嬉しい気持ちがキューッと胸に広がった。

 そしてふとなぜか圭の笑う顔に父親の姿が重なった。


 全く似てもいない。

 容姿としても中身としても全然違うのに不思議なことに優しく笑うその顔が父親を思わせたのだ。


 なんでこんなことをしたのか波瑠にもわからない。

 いざ膝に乗って胸に顔をうずめてみるとやっぱり圭は圭だった。


 場酔いでほんのりと赤くなった顔が一気に真っ赤になっていくのを波瑠は感じる。

 それでもぼんやりとした頭はまだ正常な働きを取り戻していない。


 頭を撫でられているとまた父親のことを思い出してきた。

 密着した圭の温かさが気持ちいい。


 自分が猫だったら喉を鳴らしているかもしれないなんて波瑠は少しだけ思った。


「圭さん……」


「ど、どうした?」


 熱っぽく潤んだ瞳で波瑠は圭を見上げた。

 少しドキリとする色気のある視線に圭は声が上ずりそうになった。


「お祝い……欲しいです」


 波瑠は潤んだ瞳にまぶたをかぶせた。

 そして首に回した手に少し力を入れて圭の唇に自分の唇を寄せた。


 ビチャッとした感触。

 なんだかやたらと濡れてるなと波瑠は思った。


 むしろ濡れてるというよりも水みたい。

 みずみずしいにもほどがある。


「それは流石にダメだよぅ?」


 パッと波瑠が目を開けるとゆらゆらと揺れる圭の顔が目の前にあった。

 圭と波瑠の間に水の薄い壁が張られていた。


 波瑠はその水の壁にキスをしていた。

 波瑠が動くたびに水が揺れて、向こうに見える困り顔の圭の顔も揺れている。


 やったのはもちろん夜滝であった。

 波瑠の心情を察して密着することまでは許すけれどそれ以上のことは許せない。


 波瑠も波瑠でみんながいることを完全に忘れていた。


「おりゃあ!」


「キャッ!?」


「膝に乗りたいならこのおねーさんにしときなさい!」


 カレンがグッと波瑠を持ち上げると自分の膝の上に乗せた。


「な、波瑠!?」


「へへっ、カレンもあったかいね〜」


 キス出来なくて少し残念だ、と波瑠は思ったけど同時に嬉しくもあった。

 気兼ねなく接することのできる人がいて、少しばかり重たい弱音を吐いた自分にもいつも通り扱ってくれて嬉しかったのだ。


 波瑠はカレンに手を回してぎゅっと抱きしめた。

 すぐに膝から飛び降りるだろうと思っていたカレンは予想外の行動に逆に顔を赤くしてしまう。


「……カレンって意外と胸あるよね」


「バッ! な、何言ってんだよ!」


 カレンの胸にすりすりと顔を擦り付けていた波瑠がジトーっとした目でカレンを見上げた。

 カレンの顔が真っ赤になる。


「お、降りろ!」


「膝に乗りたいなら乗れ! って言ったのカレンでしょ?」


「う、うるさい!」


 段々と波瑠の頭も冴えてきた。

 いつものように少しイタズラっぽく笑って波瑠はまたカレンの胸に顔をうずめる。


 密着されてしまったのでカレンも波瑠を引き剥がせない。


「ふむ……仲が良くていいな。圭が刺されることも今のうちはなさそうだ」


「女性って……分からないね。テレビでやってた怖い人たちもいるし」


「ふっふ、女心は永遠の謎だ。理解しようと努力することは必要だが全てを理解出来るなどと考えない方がよい」


 ちまちまと食事を続けながら和輝と優斗はワイワイとした様子を眺めていた。

 波瑠が良い雰囲気で唇を寄せた瞬間は優斗もドキドキとしていた。


「婆さんはな、モテたんだぞ。今の圭とは逆で俺を含めた複数の男性から言い寄られていた」


「……お爺ちゃん酔ってる?」

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