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第三章
三つ巴の混乱1

 何事も外側から見ていると動き出す時は急に見える。

 通算6回目の潜入の日となったのだが今回は少し緊張度が違う。


 なぜなら覚醒者協会と大海ギルドによる強制捜査が今日なされることになったからだった。

 圭がいない間にも儀式があってそこでヴェルターが儀式の場に向かっていることを記録して証拠として掴んでいた。


 圭が名前を上げた人たちについても調査を終えて悪魔教との関わりや不自然な金の動きなどを逮捕できるレベルまで持っていった。

 体調が悪いなどと言って儀式に出るのはやめようと思ったのだけど中の様子を伝えてほしいと頼まれてしまって出ることになった。


 圏外でも通じる無線機のようなものをこっそりと身につけていた。

 どこかのドラマみたいだとは思うが実際自分が潜入するとなると心臓はバクバクである。


 いつものように鈴木の車で送ってもらう。


「あれ……なんだか人多くありませんか?」


 スモークが貼られた窓から外を見ると門の前や屋敷の前にいつもはいない人がいた。

 もしかして突入することがバレているのかと圭は緊張を隠しながら鈴木に尋ねる。


「以前お伝えした悪魔教……活動が活発化してきているらしく警戒を強めているのです」


 突入を少し前倒しにしたのもその悪魔教が原因だった。

 黒月会との戦争の雰囲気が漂っていて戦いが起こる前に止めようとしていた。


 当然外から見て分かるのなら当事者もそうした雰囲気が高まっていることは理解している。

 その警戒のために人を増やしていたのであった。


 突入する側として人が増えると面倒であるが一度に逮捕してしまえるということを考えるとそれはそれで楽になるかもしれない。

 一応人が多くいることは伝えなきゃなと思っていると屋敷の前に車が止まる。


 例によって仮面をかぶって車を降りる。


「ちょっとトイレに」


「分かりました。

 先に儀式の間に向かいますので」


 圭はトイレに入ると素早く鍵をかける。


「聞こえますか?」


 ポケットから無線機を取り出す。

 手のひらに収まるぐらいの小さなもので声を抑えて通信を試みる。


「こちらオーシャン。

 ジェイ、聞こえてるわよ」


「やめてください……」


 無線による通信と言ったらコードネームだろうとかなみは言うけれどスパイでもあるまいし別にコードネームなどいらない。

 あなたはジェイ、私はオーシャンね、などと言っていたけど本気だったようだ。


「オーシャンでも何でもいいですが今はやめてください。

 村雨さん、何かありましたか?」


「実は……」


 圭は悪魔教の都合から警備に当たっている人が多いことを薫に伝えた。


「なるほど……情報ありがとうございます。

 こちらとしても十分な人員を確保していますので問題はないと思います。


 もし何か相手に動きがありましたらまた報告お願いします」


「分かりました。

 気をつけてくださいね」


「ええ、村雨さんも」


 圭は無線機をポケットにしまってトイレを出る。

 貢献度によって真っ黒な仮面に白い線が入っていて一般的な黒い仮面の人よりも圭は一応格上扱いになる。


 警備に当たっている黒い仮面の人は圭に頭を下げる。

 やっぱり多いなと思った。


 いつもの儀式を行う部屋に行くと壁際に黒い仮面の人が立っている。

 いつもはこんなに人がいないのだけど警戒のために覚醒者を立たせている。


 真実の目で見てみるとみんな特殊な括弧で弱いステータスが表示された。

 つまりどの人もヴェルターによって力を与えられているということだ。


「今我々は危機に瀕しています。

 欲深き怠惰の悪魔が我々を狙っているのです」


 ヴェルターが現れて儀式が始まった。

 魔法陣の真ん中に立つヴェルターは両手をゆっくりと上げて危機を煽って結束を強めるための言葉を口にする。


「今こそ主への深い忠誠を持ってこの危機を乗り越え、我々を狙う怠惰の悪魔に力を見せつけてあげましょう!」


 この他の悪魔教の存在はある意味運が良かったとも言える。

 黒月会は悪魔教を警戒し、覚醒者協会と大海ギルドはその陰に隠れるようにして調査を進めることができた。


「それでは……」


 今日力を受け取る人が前に出て儀式が始まろうとしていた。

 その瞬間席に座っていた人が懐からナイフを取り出してヴェルターの方に走り出した。


 警備につく覚醒者が動く暇もなくヴェルターの背中に向けてナイフを突き出された。


「あなた、何者ですか?

 我が主の力ではありませんね」


 ヴェルターは後ろを見ることもなくナイフを掴んで防いだ。

 生身の手でナイフを掴んでいるのにヴェルターの手は切れることもなく、ナイフを突き出した男が動かそうとしてもナイフはピクリとも動かない。


 逆の手で首を掴んで仮面の奥に見える目を覗き込む。


「な、なんだ!」


 揺れと轟音。

 耳をつんざくような音がして、大きな揺れに壁際に立っていた覚醒者たちがよろめく。


「全員落ち着きなさい」


 ヴェルターは手をひねって男の首をへし折った。


「敵襲です。

 戦う用意を」


 かなみたちが来たのか、と思ったがまさかこんな派手な襲撃はしない。


「デルベサロです!」


 デルベサロ。

 先ほどヴェルターが口にした黒月会を狙う他の悪魔教の名前であった。

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