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第三章
悪魔の力2

 悪魔の権能、それに貸与という文字。

 覚醒者等級ではA級ということになるのだけどなんだか本当にA級なのか怪しく思える。


「よろしくお願いします」


 しかしどうしてそんなステータスなんですかと聞くわけにもいかない。

 少し声は上ずってしまったが相手も圭がステータスを見られることなど知らないので多少緊張している程度にしかとらえられなかった。


「ぜひとも今日の儀式をご覧になりまして、より我々のことを信じてもらえると嬉しいです」


 仮面から見える目だけは笑っているがその奥は笑っていない。

 妙な気味の悪さを感じるが圭もできるだけ笑顔を浮かべようとする。


 簡単な挨拶を終えてレミデンと名乗ったヴェルターは他の人のところに行ってしまった。

 もう少しだけ人が増えて各々挨拶をすまして席について儀式が始まった。


「本日はお集りいただきましてありがとうございます」


 ヴェルターが部屋の真ん中の魔法陣の上に立つ。


「今回は与力の儀の予定でしたがその前に1つ」


 ヴェルターが指を鳴らす。

 すると頭に袋がかぶせられた人が両腕を抱えられて連れてこられた。


 ヴェルターの前に膝をつかされて袋を取られる。

 中年の男性で逃げようと抵抗しているが2人に両腕を押さえられていては少し身じろぎする程度にしか動けない。


「我々拝金教に対する裏切り者の存在が明らかになりました。

 この者は他の組織に我々の情報を流していたのです」


『保坂利康

 レベル215

 総合ランクD

 筋力D(無才)

 体力C(一般)

 速度C(一般)

 魔力C(一般)

 幸運F(無才)

 スキル:無し

 才能:疲れを知らない健脚』


 とらえられた男は覚醒者であった。

 C級覚醒者であるが保坂を押さえているのも覚醒者である。


 能力的には筋力が高い人でその上2人もいては抜け出せない。

 保坂も見た目ではやや柄が悪く、一般の人にも見えなかった。


「我々は寛大です。

 しかし裏切る者は許すことができません」


「触るなぁ!」


 ヴェルターが手を伸ばして保坂の額の上に乗せる。

 保坂は止めろというができるのは首を動かすぐらいで手から離れることはできない。


「裏切りには制裁を。

 あなたには我々の糧になってもらいましょう」


「なにを……ぐわああああっ!」


「なっ……」


 ヴェルターの手が黒く光った。

 その瞬間に保坂が苦しみの叫び声を上げ始める。


 そして圭は見た。


 『保坂利康

 レベル55[215]

 総合ランクF[D]

 筋力F[D](無才)

 体力E[C](一般)

 速度E[C](一般)

 魔力E[C](一般)

 幸運G[F](無才)

 スキル:無し

 才能:疲れを知らない健脚』


 保坂のレベルがみるみる下がっていきステータスもそれに伴って下がっていく。

 グルンと白目をむいて保坂が気を失う。

 

 何が起きたのだと圭は困惑を隠せなかった。

 仮面をつけていなかったら危なかったかもしれない。


 ヴェルターの手のひらの上に黒い光が浮いている。

 まがまがしく感じられるその光はスッとヴェルターの胸の中に吸い込まれていった。


 保坂は引きずられて連れていかれる。


「信心深き者には寛大さと力を。

 ですが裏切りには相応の責任を取ってもらいます」


 一連の行いを見て圭は思った。

 不思議な括弧の中にあるステータスは元々の能力なのではないかと。


 悪魔教は覚醒者に力を与えてくれるという。

 もしかしたら悪魔に力を与えられると元の能力と与えられて強くなった能力のどちらも見えるのではないかと推測した。


 与えられるならその逆で奪うこともできる。

 だから保坂は悪魔の力で力を奪われたのだとひそかに冷や汗をかいていた。


「それでは今日の与力の儀を行いましょう」


 黒い仮面の男性が立ち上がって前に出る。

 圭の真実の目によるとF級覚醒者のなんてことはない覚醒者であった。


 能力も高くなくスキルや才能もない。

 才能値も一般までしかなくて成長もあまり見込めなさそう。


 ヴェルターの前に男が膝まづく。


「彼は強い信心深さを表してくれました。

 我らが主も非常にお喜びです。


 ですのでここに主のお力を授けましょう」


 ヴェルターの手の上に先ほどと同じ黒い奇妙な光の玉が浮かび上がる。


「受け入れなさい」


 ヴェルターが男の頭に手を近づけると光の玉が吸い込まれていく。


「ウソだろ……」


 男の体が黒い光に包まれた。

 すると男のステータスにも変化があった。


 レベルや能力が上がり、これまでのステータスが括弧で表示されたのである。

 F級だった男が急にD級相当の能力になった。


「どうですか?」


「体から力があふれてきます!」


 一気に2つも等級が上がれば体の変化も実感できる。

 男は手を握ったり開いたりして体にあふれてくる力を確かめている。


「これが黒月会の力です。

 強くなったかは見た目に分かりにくいかもしれませんが確かに強くなっているのですよ」


 隣に座る鈴木がこそっと話しかけてきた。

 圭には男が目に見えて強くなっている。


 D級ならばまだ対処のしようもあるので男が脅威になることはないけれど力を与える、あるいは奪うという力はとても厄介であると圭は思った。

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