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第三章
言いたい気持ち、言えない気持ち

『麻痺ん棒version6


 平塚夜滝が新徳成幸の研究を元に開発をした槍。

 B級モンスターモジュロの毒爪から作られた先端は魔力を込めると毒が出る。


 平塚夜滝の改良により、高い魔力の伝導率の素材を使うなどして魔力が少なくても高い毒性を発揮することに成功した。


 適性魔力等級:B

 必要魔力等級:C』


「ふぅーーーーむぅーーーー」


 夜滝は槍を片手にうなる。

 手に持っているのは非公式的に麻痺ん棒と名付けられた槍で先日新徳から作ってみないかと共同研究を持ちかけられたものであった。


 毒棒君に使われた毒牙よりも素材の入手が難しいこともあるので爪そのものを大きく加工するのではなく爪を組み込む槍の方でなんとか出来ないかと工夫を凝らしている。


「ある程度は成功だけど……」


 夜滝は麻痺ん棒に魔力を込める。

 しかし麻痺ん棒の先から毒は出てこない。


 さすがはB級モンスターの素材である。

 新徳の研究でもかなりの魔力を与えないと毒が出ないことは報告されていた。


 圭の真実の目によるとB級相当の魔力がなければ使えない。

 圭はもちろんD級の魔力を持つ夜滝でも麻痺ん棒を扱うことはできなかった。


 なんとかして工夫して必要魔力の下限を引き下げることには成功したのであるが引き下げられて等級1つ分であった。

 つまりC級相当の魔力が必要なのであり、夜滝でも魔力が足りないのである。


 魔力を引き下げて使用できる範囲を広げられたので研究としては成功であるが圭たち本人が使おうと思っても使えないままであった。

 レベル上げに使おうと思っていたのにこれではちょっと厳しい。


 仮にどうにかしてもう1つ引き下げたとしてもD級相当の魔力が必要となる。

 それでも使えるのは夜滝だけである。


 夜滝が前に出て麻痺ん棒を使ってモンスターを麻痺させるというのは難しい。

 できないことはないだろうけれどリスクが大きい。


 研究としてはよさげな結果を得られたのであとはいくつかのものを実際の実験で試験してみて最終的に報告をまとめることになる。


「それにしても、圭?」


「ん、なに?」


「最近一人で何しているんだい?」


「えっ?」


「何言わずに休みに一人でどこか行っちゃうじゃないか」


 夜滝は唇を尖らせる。

 別にプライベートを根掘り葉掘り聞きだすつもりなどないけれどあわただしく朝食と昼食の準備だけしてどこかに行ってしまっては気になってしまう。


 それにいつもならどこに行くとか言ってくれるのに教えてもくれない。


「も、もしかしてだけど、その、恋人とか……できたり?」


 夜滝は不安そうな顔をして性能を確かめるためのダミー人形を槍でぐりぐりと突く。

 当然のことながら恋人なんてできていない。


 最近一人で出かけることがあるのは黒月会に潜入する任務のためである。

 話を聞いたり打ち合わせしたりと休みのたびに出かけていたので夜滝に不審がられていた。


「それとも何か困っていることでもあるのかい?」


 夜滝の心配そうな視線に圭は罪悪感を覚える。

 

「なんでもないよ。

 ちょっとした用事があって忙しかったんだ」


「そうなのかい?」


「もちろん恋人なんじゃないし」


「それならよかった」


 恋人じゃないとほっとしたような笑顔を浮かべる。

 心配をかけたくないので本当のことは言えない。


 もしかしたら危険な目に遭わせてしまうかもしれないし曖昧にごまかすしかない。

 本当は圭自身も不安で打ち明けてしまいたいぐらいの気持ちであるが極秘の任務なので打ち明けてはいけない。


「何か困ったら何でも言っておくれよ?

 私はいつでも圭の味方だから」


「うん、ありがとう夜滝ねぇ」


「それにしても次にいつレベル上げに行くかも難しいねぇ」


「そうだね。

 波瑠も忙しいし」


 テストは終わったのであるが波瑠は受験生である。

 大学進学の問題があったのであるがなんとあまり心配しなくてもよくはなった。


 今の時代若い人でも覚醒者は増えてきている。

 中には学業と覚醒者としての仕事を両立している人もいて近年では学校の方でも覚醒者のために制度を創設しているところまで出てきていた。


 波瑠は成績優秀者であり、覚醒者でもある。

 そのために覚醒者制度のある大学に推薦を受けられることになったのである。


 推薦だからと何もしなくていいわけではない。

 そのための準備も必要なので波瑠の方も忙しいのだ。


 そこを乗り得れば進学は決まったも同然らしいので楽にはなるらしいのでしばらく辛抱である。


「大学かぁ」


 圭は家庭の事情もあったしまともに大学には行けなかった。

 キャンパスライフを楽しむ余裕はなくバイトと授業に時間は消えていった。


 波瑠はその点で成績優秀、かつ覚醒者であるので学費の免除や大学側から奨学金などが出る可能性もある。

 キャンパスライフを楽しめる波瑠がうらやましくないと言えばウソになる。


「今からでもまた行ってみたらどうだい?」


 別に大学に入り直したって別に構わないだろうと夜滝は思う。

 そうした人も存在するし海外に行けばそんなことも普通にある。


「せっかくこうして仕事も見つけられたのにやめる気はないよ」


「まあそりゃあ私のそばにいられるもんねぇ」


「ははは、そうだね」


 でも圭にそんなつもりはない。

 自分の力で強くなれるしこうして支えてくれる仲間もいる。


 今の生活に満足している。

 圭は悪魔やその力で強くなれると言われても惑わされないのである。

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