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第三章
奇妙なステータス2

 お金を通じて鈴木も圭が本気だと思ってくれることだろう。


「なんと信心深い……その誠意は受け取っておきましょう」


 鈴木はニコリと笑うとアタッシュケースを自分の近くに引き寄せる。

 これだからやめられないと思う。


 真面目に働いているのがバカらしくなるようなお金が目の前に転がり込んでくる。


「つきまして……いつ頃強くなれますか?」


 慎重に、かつ大胆に話を進める。


「うーむ、それにつきましては……」


「やはり強くなれるというのは嘘だったのですか?」


「いえいえ!

 そんなことはございません!」


「ではなぜ渋っているのですか?」


「その……順番が。

 そう、言うなれば病院みたいなものです」


 今すぐ強くしてくれと言うに困ったような表情を浮かべる鈴木。

 強くなれるというのは嘘だったのかと疑うがそうではないみたいである。


「病院ですか?」


「ええ、そうなんです。

 村雨様の他にも強くなりたいという方は大勢いらっしゃいます。


 病院の治療のようなもので先に待っていらっしゃる方がいますのですぐにとはとても……

 それに最近監視の目が厳しくて」


 当然強くなれるというのならみんな強くなりたい。

 強くしてもらえる時を待っているのは圭だけじゃなく多くの人が列をなしている。


 ある程度割り込みさせることはできるが圭よりも黒月会に対して貢献度が高い人はいくらでもいる。

 そうした人の前にポッと出の圭を入れるのは簡単ではないのだ。


 治療を待つ病院のようなもので多少待たねばならないということである。


「お強くするのにも準備が必要でございまして、そのために色々と必要なことがあるのですが協会や警察が最近目を光らせておりましてなかなか……」


「そうなんですか」


「申し訳ございませんが少々お待ちいただくことになります。

 私の権限で出来る限り早く村雨様の順番が来るようにはいたしますので」


「そう……ですか」


「大変申し訳ございません。

 もしくはさらにお布施いただきますと順番はより早くなると思います」


「……それも検討してみます」


「ありがとうございます」


 正直なところ圭としても今すぐやると言われたら焦るところだった。


「それでは……例えば他の人が強くなるところの見学なんてことはできますか?」


「見学ですか?」


 鈴木が意外そうな顔をする。

 少し踏み込みすぎたかと思うがここで引き下がるのも不自然に映るのでこのまま行くしかない。


「どんなことをやるのかなと。

 痛いことだったら嫌ですし」


「もちろん痛いことはありませんが……そうですね」


 鈴木はスマホを取り出して操作する。


「次の集会で与力の儀があります。

 よければご出席ください。


 その時にどのように力を与えるのか見学出来ますので」


「本当ですか」


「本来は一般会員の方は実際に功績を上げたり自分の順番が来て与力の儀に参加を許可されねば参加出来ませんが、今回は私の権限でご見学を許可しましょう」


 やはり3000万円という金額は効いていた。

 金づるを逃してはならない。


 鈴木は大金を賄賂として渡してきた圭を繋ぎ止めるために一瞬で柔軟な対応を見せてきた。

 もし見学を終えてその気になればもっとお金を引き出せるかもしれないと計算した。


「強くなれること、保証いたします。

 もちろん痛くもありません。


 お気に召しましたらお布施で貢献なされればより早く順番も早く回ってきますので」


 改めて強く念を押す。


「分かりました。

 見学してみて決めたいと思います」


「他にも何か質問などはありますか?」


「いえ、親切にどうもありがとうございます」


「こちらこそ。

 村雨様の信心深さのほどはよく心得ておきます」


 あまり長居してもよくない。

 圭は笑顔を浮かべて鈴木と握手を交わして立ち去ろうとする。


「嶋崎さんは少し残ってください」


「はい」


 嶋崎が鈴木に呼び止められる。

 大丈夫だと嶋崎に視線を送られて圭はそのまま部屋を出ていく。


「なかなか良い人を連れてきましたね」


 圭に見せていた営業スマイルを消して札束を1つ手に取って鈴木がソファーに深く座り直す。

 パラパラと札束をめくって匂いを嗅ぐ。


 新品のお札の香り。

 ニタリと口の端を歪めて笑う。


「どこで知り合ったのですか?」


「大学の後輩です」


「へぇ……著名な方には見えませんが」


「彼の祖父がお金持ちだったらしくて最近遺産が入ってきたようです」


「ふーむ、なるほどなるほど。

 ふふふ、後輩を連れてくるなんてあなたも悪い人だ。


 強くなれると言ったって高が知れている。

 はぁ〜良い香りです」


「少しでも何かにすがりたいんじゃないでしょうか」


「強くなるよりもお金の方がいいのに。

 全く覚醒者は分からない。


 今回は良くやりました。

 こちらあなたにも差し上げましょう」


 鈴木は匂いを嗅いでいた札束を嶋崎に投げ渡す。


「ありがとうございます」


「今後も上手くやって彼をコントロールしてください。

 出来るだけ搾り取りましょう。


 必要無くなったら消してしまってもいい」


「そうですね……」


「こうして頑張ればあなたにも利益がありますからね。

 妹さん、お元気ですか?」

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