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第三章
始動

 後日圭は薫に連絡を入れた。

 内容は一言“やります”と伝えた。


「てっきりお断りになられると思っていました」


 ハンチングにメガネといういつもと違う出立ちの薫がオレンジジュースを飲む。

 覚醒者協会の人間だとバレないように変装しているのだけど意外な感じの格好だった。


「最初はそのつもりでしたけどね」


 実は断るつもりだった。

 だけど事情が変わった。


 どうしても黒月会が許せないと圭は思う。

 リスクはあるけれど蓮のような被害者をもう出してしまいたくはない。


 圭が叔父や蓮のためにしてやれることはない。

 やれるとしたらこれぐらいのことである。


 黒月会に何かのダメージを与えられるのならやってやると決意した。

 以前お願いされる時に集まったカフェに呼び出されて圭と薫、そして男性が1人同席していた。


「……来ましたね」


 男がカフェに入ってきた。

 カフェの中を見回して薫を見つけると圭たちの席にやってきた。


「遅れてしまいすいません」


「いえ、お約束まではまだ時間があります。

 こちらが早かっただけですよ」


 体つきのいい若い男性はみんなが揃っているのを見て少し困ったように笑った。


「改めて自己紹介しましょうか」


「では私から」


 先に圭たちと同席していた男性が口を開く。


「今回大海ギルドとの連絡役を務めさせていただきます、津田裕巳です。

 村雨さんのバックアップとして必要なことがありましたらなんでも言ってください」


 すごくおじさん。

 というのが圭の印象。


 どこにでもいそうな雰囲気があって目立ったところのない人である。

 連絡役として目立ってはいけないのでバレない人を選んだのだろうけどそこらへんにいても気づけないかもしれない。


 圭と津田は握手を交わす。

 むしろ津田が潜入した方が溶け込めるのではないかと思えるほどだ。


「私は嶋崎英太です。

 黒月会に潜入している警察官です」


「警察の方なんですか」


「はい。

 よろしくお願いします」


 覚醒者に関する犯罪というと今や覚醒者協会の方がメインで担当をしている。

 けれど以前は覚醒者協会なんてものはなく、覚醒者の犯罪も警察が取り締まっていた。


 今でも犯罪だと聞いて駆けつければ覚醒者が関わっていることもある。

 そのために警察内部でも覚醒者に対抗するために覚醒者を集めた部署が存在している。


 当然ながら警察の方が犯罪に関わりそうな組織に鼻が効く。

 調査するために送り込まれた潜入捜査官がいることが覚醒者協会からの問い合わせで分かり、協力を得られることになったのであった。


 嶋崎はD級覚醒者でもう2年間も黒月会に潜入していた。

 けれど中々黒月会の尻尾は掴めていない。


「そもそも拝金教ですからね。

 長く所属していても金を持ってこないことには内部まで入り込めないんですよ」


 公務員である嶋崎にそんなに金銭的な余裕はない。

 警察だって不確定なことに予算は出せないし嶋崎は所属をしながらも深いところまでは踏み込めていなかった。


 けれど2年も所属していた信頼はある。

 お金を持つ人を勧誘してくればそれだけで自分もお金を貢いだことにもなるので嶋崎としても今回の話はチャンスであった。


「改めて、私は伊丹薫です。

 覚醒者協会との橋渡しは私が担当します。


 この4人で黒月会への潜入に当たっていくことになります」


 さらに詳細に話を詰めていく。

 嶋崎が圭を拝金教に紹介し、内部でどんなことが行われているのかを調査する。


「こちら連絡用のスマホです」


 津田が圭にスマホを渡す。


「盗聴されないようにしたもので私や大海ギルド、嶋崎さん、伊丹さんの番号は入れてあります」


 盗聴防止だけでなくここのボタンを2回押すと録音、あちらのボタンを2回で録画が出来るとか情報を記録するための機能でも改造がなされている。


「決して無理はなさらないでください。

 危険を感じたらその場を離れて私や津田さんに連絡を。


 ……危険な役割を背負わせてしまって申し訳ありません」


「いえ、やると決めたのは自分ですから」


「大海ギルドでの支援は惜しむなとギルド長からおおせつかっております。

 今回のことで私はギルド長にも近い権限を与えられましたので必要なものはなんでもご用意します」


「我々警察としても黒月会を検挙したいと考えています。

 勇気あるご協力感謝します」


「そんな大層なものじゃないです」


 圭がやると決めたのは正義感なんて良いものではなく、言うなれば個人的な復讐のようなもの。

 褒められても困るだけなのである。


「村雨さんを紹介する日程ですが……」

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