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第三章
信頼できる人

「久しぶりね、薫」


「元気そうですね、かなみ」


 覚醒者協会にある小さな会議室。

 そこには上杉かなみと伊丹薫がいた。


「五十嵐のおじさまは元気?」


「元気よ。

 たまには連絡してあげなさいよ」


「覚醒者協会だって忙しいんですよ。

 課長が対応するって言ってるのにわざわざ私を指名することないじゃないですか」


「知らないおじさんよりも知っている女の子でしょ?」


「もう私だって女の子っていう年でもないですよ」


「女の子はいつまでも女の子よ」


 軽く挨拶を交わす。

 かなみと薫は顔見知りだった。


 覚醒して覚醒者協会に入る前の薫はモデルをやっていてかなみとほぼ同期だった。

 かなみは覚醒者となって活躍を始めながらもモデルなどの仕事もしているが薫はモデルをやめて覚醒者協会に入った。


「これが今回の事件の資料よ」


 薫はかなみの前にタブレットとUSBメモリを置いた。


「前にも話した通り事件の犯人は悪魔教の人間ね。

 体にタトゥーがあったからその中でも黒月会だと思われるわ」


 タブレットに映し出されているのはリーダーの男の情報。


「特にこの男は覚醒者等級検査ではE級だったはずなのに今回調べたところD級相当の力があることが分かりました。

 再覚醒したか、もしくは悪魔の力で強くなったかのどちらかでしょう」


「黒月会ねぇ……」


「元はヨーロッパ系の組織でその日本支部が黒月会らしいです。

 向こうの組織のことはあまり分かっていませんがこちらの支部長を務めているのは元暴力団組織の組長だった山本辰巳という人です。


 信仰している悪魔は強欲のマモン。

 黒月会の中では金拝教などと言われていてお金さえ出すなら力を与えてくれるので一部のお金持ちも信仰者らしいですね」


「踏み込むための証拠とかはないの?」


「こちらも調査はしていますがなんせ手が回りきっていないもので。

 それに元々そうした組織の人がトップなので隠すのも上手いんです」


 薫は深いため息をついた。

 覚醒者協会に入ったことを後悔はしたくないが後悔したくなるような忙しさがある。

 

 近年悪魔教も含めて覚醒者犯罪が増えている。

 その分だけ覚醒者協会に求められる責任は大きくなる。


 けれど覚醒者協会ももはやいっぱいいっぱいであった。

 覚醒者協会は一種の公務員のようなもので待遇や給与については安定している。


 しかし今の世の中覚醒者としてのリスクを負ってでもゲートなどを攻略する方がお金を稼げる。

 誰が好き好んで会社働きをするのだと覚醒者協会の人員の補充は非常に速度が遅い。


 犯罪に対応するためには高い等級の覚醒者が必要なのだが高い等級になるほど稼ぎは協会よりもギルドなりに属した方がいいのである。

 増えていく犯罪に対してどうしても覚醒者協会だけでは追いつかないのである。


「中々内部の人を説得することも出来なきゃ人手不足で人を送り込むこともできなくて」


「ならうちの……」


「ダメです。

 すぐにバレてしまうと思いますよ」


 覚醒者の等級は公開されている。

 細かな情報は個人情報なのでもちろん公開されていないが詐欺などを防止する観点から覚醒者の等級や所属ギルドの経歴は覚醒者協会で調べることができる。


 大海ギルド、あるいは覚醒者協会も調べれば分かってしまう。

 それに大きなギルドに所属している人は大体周りの人もそのことを知っている。


 覚醒者協会の方で情報を隠しても本人周りを少し調べればバレてしまう可能性が高い。


「等級に比べて実力があってギルドに所属もしていない信頼できる人、なんてそうそういませんからね……」


「実力があってギルドにも所属していない人……」


「かなみ?」


「……いるとしたら?」


「えっ?」


「経歴的にも疑われず等級が低いのにそれなりに実力があって信頼出来そうな人がいるわ」


 かなみはニヤリと笑った。

 ある男を思い浮かべていた。


 なんなら金拝教に相応しいぐらいのお金だって持っているはずだ、そうも思っていた。

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