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第三章
酷い人たち5

「いいえ、今回は未遂だったからよかったけどもしかしたら死にたいと思うような目にすら遭う可能性だってあったのよ……」


 考えたくはないが助けられなかった時の朱里の運命は相当悲惨だろう。

 何かしらの慈悲をかけられて死ななかったとしても地獄であるし、多分普通は最後には殺されていた。


 想像される結末からすれば圭たちには感謝してもし足りない。


「アイツら新人狩り、だったの……?」


「新人狩りといえば新人狩りだけど」


 朱里の言葉にかなみはため息をついて悩ましげに首を振った。

 新人狩りとはその名の通り覚醒者の新人を狙って犯罪行為をする連中のことである。


 PKであれば新人問わず相手を殺してしまうことになるのだが新人狩りは新人に対象を絞り、もっと広義の意味を持つ。


 殺人だけでなく詐欺やカツアゲのようなものも新人を対象としていたら新人狩りと呼ばれる範囲に入る。

 経験の浅い覚醒者を狙って親切な先輩覚醒者を装って近づいてくる。


 今回も男たちは朱里の経験が浅いと見るや狩りに誘ってきた。

 結果的に怪しまれたので強行的な手段に出たと思われていたのだがことはそう単純でもなかった。


「どうやらアイツら悪魔教らしいわ」


「悪魔教?」


 カレンが首を傾げる。


「最近時々ニュースに出てくるよね」


「私もよく知らないけど聞いたことはあるねぇ」


「あまり表沙汰にはなってないけれど悪魔教は危険な連中よ」


 悪魔教は悪魔と呼ばれるモンスターを崇拝する危険な集団である。

 悪魔はゲートや塔が現れたのと同時期に姿を現した謎の多い存在であり、程度の差はあれど悪魔たちにも序列があって強い悪魔は知能も高い。


 噂によると悪魔は覚醒者に力を与えてくれるという話が広まっているらしく覚醒者を中心に密かにその勢力を拡大させている。

 何をしているのかも不明なことが多いが近年多発している殺人や誘拐事件は悪魔教が背景にあるのではないかと言われている。


「人を殺して装備品を奪ったり誘拐するのも悪魔に捧げるためだなんて言われているわ」


 覚醒者としても頭の痛い問題。

 実際今回大きくケガをさせられた2人の被害者もトドメを刺されてはいなかった。


 そのまま連れていって悪魔に捧げようとしていたのではないかと言われている。


「じゃあ私も……」


「悪魔の貢ぎ物にされていたかもね」


「ふん、世の中が落ち着いたら落ち着いたでひどいものだ……」


 和輝は深いため息をつく。

 ブレイキングゲートが多く世の中にモンスターが溢れていた時代の人類は1つだった。


 大きな脅威に対して一丸となって立ち向かい、人々はお互いに助け合っていた。

 ボスを倒してゲートを消失させ、世の中に平和が戻り始めるとモンスターという共通の敵はありながらも人は隣の人を見てしまうようになるのだ。


 より豊かに、より良い暮らしを目指し、より強くなってよりお金を稼ぐのだと争いが始まる。

 覚醒者になれると詐欺が横行したり経験の浅い覚醒者を狙ったりと浅ましい欲望に支配された人が平和が故に増えてきてしまった。


 切羽詰まった世界において人々の関係は悪くなく、こうして平和になってくると人が人を攻撃し出す。

 何とも皮肉なものである。


「そちらのお爺様の言う通りね……

 今は人が人を騙して手にかける時代。


 悲しい世の中よ」


 力がなければ食い物にされて、力があってもそれを目的にすり寄ってくる人は多い。

 強くてもそれだけでいい世界じゃないのである。


「お姉ちゃん……」


「だから私はあなたが心配なの。

 信頼が出来る血の繋がった家族だから」


「心配かけて……ごめんなさい」


「いいのよ、今回は無事だったから」


 かなみはしょんぼりとする朱里のことを抱きしめる。


「あなたたちにもいつかお礼はするわ。

 そして悪魔教にもね」


 追いかけていたリウ・カイが他の国で活動しているらしく追跡不可能で片付いたばかりだというのにまた厄介な問題が降って湧いた。

 けれど大切な妹に手を出されてそのままにしておいては5大ギルドのギルドマスターとしての沽券に関わる。


「この上杉かなみを怒らせたらどうなるか見せてあげるわ」

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