九月:九月といいます。くがつと読みます。普段はピン芸人をしています。折に触れて文章を書きます。
僕は青森県の八戸市というところの生まれなのですが、地元では大晦日から正月にかけて、お寿司を食べる風習があるんです。したがって、地元を離れた今も正月といえばお寿司が食べたいなという気分になります。
はじめて地元を出たのは大学進学のときだったのですが、年越しにお寿司を食べないということを知って、本当にびっくりしました。どうやら青森県だけの風習らしいんです。
でも同時に思うんですけど、おそばより、おせちより、お寿司のほうがよくないですか? めでたい感じがしませんか?
いや、もちろんあれですよ、僕の地元でもおそば・おせちを年末年始に食べる習慣はあるんです。存在がまるごとない、というわけではないんです。僕だって栗きんとんや黒豆を食べたこともあります。
でも、なんというんでしょう、あくまでも年末年始の食卓の、メインボーカルはお寿司なんです。おせち・おそばだは、あくまでもサイドの、あの、1本のスタンドマイクに4人くらいで歌ってるコーラス隊みたいな、ああいうポジションなんです。
どう説明したらわかりやすいかしら。例えばほら、ランチ予算2,000〜3,000円、ディナー予算4,000円〜6,000円、お酒を飲んだらもうちょっと、くらいの価格帯のお寿司屋さんに、御膳みたいなメニューってあるじゃないですか。お寿司8カンと、小鉢が3〜4つ、小さいおそば、漬物、みたいな。
正月に食べる食べ物、存在感の配分としてはあれに近いイメージです。あの御膳におけるお寿司ぐらいの存在感で真ん中にお寿司があって、あの小鉢ぐらいの存在感でおせちがあって、あの小さいおそばぐらいの存在感で年越しそばがついてくる、みたいな。
地元を離れてから、関西、関東と転々としてきましたが、年越しにお寿司を食べることは、地元以外では一度もありませんでした。そろそろお寿司で越す年もあってもいいのかな、なんて思います。
とはいえ、ここ3年ほど、毎年年越しはどこかでライブをしております。お寿司はもちろんのこと、おせちも、おそばも、お餅も、あんまりゆっくり食べられていません。そうしているうち、どんどんと「あの正月のお寿司のだんらん」にノスタルジックな補正がかかっていきます。僕の生まれた街では、今年の年の瀬もお寿司が食べられているのでしょう。