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第三章
共同研究の誘い1

 モンスターの素材研究にもいくつか種類がある。

 強いモンスターの素材を研究し最大限に能力を活かした装備を作ることはもちろんなのであるが、世の中一般における他の技術への応用なんかも考えたりする。


 あるいは中等程度、低級程度のモンスターの素材だって装備の他に今では普通の道具にも使われて始めているところもある。

 夜滝が担当しているのは主に低級か中級モンスターの素材研究とその応用方法を見つけることである。


 装備品を使う覚醒者と覚醒者が相手にするモンスターの等級は大体同じ等級を想定している。

 毒棒君も低級覚醒者が同じ等級のモンスターを単体でも危険が少なく相手できるようにと開発をしていた。


 ただ毒が効いてくるのが体の大きなモンスターでは遅く、中々難しいのが今のところである。

 しかし夜滝が研究しているのは毒棒君だけではない。


 自由狩猟特別区域に出てくるモンスターの素材は安定的に取れるのでより研究を進めて日常品への応用が進んでいる。

 夜滝はそうしたものの研究もしている。


 カイによる襲撃でまだまだ弱いことを痛感した圭たちであるがもっと強くなろうと思ってもそう簡単にはいかない。

 それぞれに日常というものがある。


 夜滝はRSIに勤めている。

 ただぼんやりと研究していればいいなんてことはなく、研究の成果などをまとめて会社に提出しなければならない。


 当然助手である圭も忙しくなる。

 なかなかゲートや自由狩猟特別区域に行く時間も作れなくなってしまった。


 さらには波瑠や優斗もテスト時期に入った。

 優斗なんかは高校を卒業したらそのまま職人としての道を進むつもりでいるらしいがだからってテストを受けなくていいわけじゃない。


 みんなそれぞれ覚醒者として身を立てるには実力が足りない。

 ちゃんと日常もこなしていなかければならない。


 カレンはすでに工房の方で働いていて、みんなが集まれないこの機会に和輝に覚醒者としての装備製作を習うことになった。


「ふぅ……疲れたねぇ」


「お茶淹れたよ」


「ありがとう、圭」


 大きな山は越えた。

 いくつかのデータを見やすいようにまとめながらさらに研究、実験も進めていた。


 基本的に残業はしない夜滝だがどうしても時間が足りなくて多少の残業すら必要であった。

 もちろん圭も付き合った。


 それでもまだ夜滝は良い方だ。

 普段から研究についてはしっかり進めているしデータは分かりやすくもまとめている。


 廊下に出てみると他の研究職の人たちは死んだような目をして歩いていたり、しばらく帰っていないような人もいる。


「毒棒君については改善の余地が大きくて少し結果として不足だけど一定程度の結果は上げたから大丈夫だろう。

 メヒトルの皮も面白い性質は見つけられたから私の職は安泰だねぇ」


 タブレットでまとめたデータを眺めながら夜滝はニヤリと笑った。

 メヒトルとは爬虫類にも似たモンスターで、一部の地域でダンジョンブレイクが起きてから野生に住み着くようになってしまった。


 狩り尽くしたと思っていたのだが最近になって奥地に隠れて数を増やしていたことが判明したのである。

 討伐も検討されているのだがもし利用価値があるのなら適切な管理下に置いて資源とするつもりでRSIが研究していた。


 夜滝もその研究を任された1人で、防具などの利用価値があることが分かった。

 さらに夜滝はメヒトルの皮が特殊な薬剤に漬けることで美しい光沢を出すことを見つけたのであった。


 爬虫類に近い性質を持つので皮を利用したファッション用品やカバンなどにも使えそうであると夜滝は報告書を作り上げた。

 研究の成果としては十分な報告だろう。


「けーいー、疲れたよぅ」


 夜滝は寝転がって隣でお茶を飲む圭の足に頭を乗せた。

 膝枕というやつである。


「お疲れ様」


 あまり真剣な夜滝というものを見たことがなかったけれどここ数日は非常に集中していた。

 労って頭を撫でてやる。


 夜滝が頑張るので圭も雇ってもらえているのだ。

 助手が必要だと思われるほどには頑張ってもらわねばならない。


 一応圭も指示されたことだったり身の回りのお世話など頑張っている。


「……夜滝ねぇ?」


「無視しても良いんじゃないかなぁ」


「だめだよ」


 来客を知らせるブザーが鳴った。

 他人の研究室には他の研究者も勝手に入れない。


 入りたいなら事前に許可をもらうか、このように呼び出して開けてもらうかである。


「はーい」

 

 カードを飲み込むところにカメラが付いているので中にあるモニターから来客の顔が見られる。


「新徳だ。

 平塚博士はいるか?」


「少々お待ちください」


 モニターに映ったのは少しやつれたような顔をした中年男性。


「夜滝ねぇ、新徳さんって人が」


「新徳博士が?

 ……お通しして」


「分かった。

 今開けますね」


 圭がモニター下のボタンを操作するとドアが自動で開く。

 ヨレヨレとして着古した白衣を身につけた新徳という中年男性は夜滝の同僚に当たる研究者の1人である。


 圭は実際会ったことがなかったけれど名前だけは何回か聞いたことがあった。


「……助手を雇ったと聞いたが愛人でも囲っているのか?」


 圭のことをじろじろと見て鼻で笑う新徳。


「なんだい?

 女日照りの中年の嫉妬かい?」


「うるせぇ!

 客が来たらせめてちゃんと座れ!」


 夜滝はずっとソファーに寝転がっていた。

 それは新徳が来ても変わらず、なかなかひどい態度だと圭も思う。

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