(3)NATOのタリン・マニュアル

ア.全般

 タリン・マニュアルとは、NATO のサイバー防衛センターに法律専門家が個人的資格で集まって、サイバー攻撃に関する国際法のルールを解説とともに記述したものである。

 この作業は、米国海軍大学校のマイケル・シュミット教授を中心に進められ、95の規則と解説からなる「サイバー戦に適用される国際法に関するタリン・マニュアル」としてまとめられ、2013年に刊行された。

 これは後に「タリン・マニュアル1.0 」と呼ばれるようになった。

 タリン・マニュアル1.0は、「有事・戦時」を対象にしたものである。

 その後、さらに「平時」におけるルールにつき検討がなされ、「サイバー行動に適用される国際法に関するタリン・マニュアル2.0」がまとめられ、2017年に刊行された。

 現時点ではタリン・マニュアル1.0および2.0は、国際合意でも、NATO 防衛センターの公式見解でもないが、将来、サイバー空間における国際行動規範になる可能性を有している。

イ.タリン・マニュアル1.0の主要なルール

 本項では、①サイバー攻撃が自衛権行使の対象となり得るかという自衛権の行使に関する論点と②市民または民間企業等を攻撃することができるかという民用物(軍事目標以外のすべての物)に関する論点の2つに絞り関連するルールを紹介する。

 米国は既に、2011年5月に公表した「サイバー空間国際戦略」の中で、「サイバー空間でのある種の攻撃的な行為に対する固有の自衛権を有する」とし、サイバー攻撃が場合によっては自衛権行使の対象となるとの見解を示している。

 本マニュアルも、「武力攻撃と同様の被害をもたらすサイバー攻撃を受けた場合、国家は同等の規模であれば自衛権を行使してもよい」としている。

 また、民用物を攻撃することは既存の戦時国際法で禁止されている。

 ジュネーブ条約第1追加議定書は、軍事目標について定義し、それ以外を民用物とし、攻撃を軍事目標に対するものに限定している。

 本マニュアルも、民間施設等への攻撃を禁止している。以下、関連するルールを紹介する。