3.国連総会第1委員会の報告書とNATOのタリン・マニュアル

(1)全般

 米国は、「サイバー空間にかかわる国家の行動に関する規範については、国際慣習法の再策定を必要としていないし、既存の国際的規範は陳腐化していない。長期にわたり平和および紛争時の国家の行動を導いてきた規範はサイバー空間にも適用できる」としている(出典:「サイバー空間のための国際戦略」2011年5月)。

 一方、中国は、サイバー空間は新しい特殊な領域であるので、既存の国際法を適用するのではなく、新しい条約等で対応すべきであると主張している。

 そして、新しい条約は国連で議論すべきであるとして、現時点で、すべてのG7諸国を含む68か国が締約国となっているサイバー犯罪に関する条約(略称:サイバー犯罪条約)にも加盟していない。

 現在、サイバー空間における国家の行動規範が確立されていないことが大きな問題である。

 これまでに、この問題解決に向けた2つの国際的な取り組みがなされ、それぞれ成果は発表している。

 一つは、国連総会第1委員会の「国際安全保障の文脈における情報および電気通信分野の進歩に関する政府専門家グループ」の報告書であり、もう一つは、NATOのタリン・マニュアル・プロジェクトが作成・刊行した「サイバー戦に適用される国際法に関するタリン・マニュアル」である。

 以下、それぞれの概要について述べる。

(2)国連総会第1委員会の報告書

 国連総会第1委員会(国際安全保障・軍縮担当)は2010年12月、「国際安全保障の文脈における情報および電気通信分野の進歩」に関する政府専門家グループを設置して国家のICT利用に関する規範について2012年から2013年にかけて議論することを決定した。

 そして2015年6月22日に事務総長から国連総会「国際安全保障の文脈における情報および電気通信分野の進歩に関する政府専門家グループ」の報告書が提出された。

 報告書の要旨は次の通りである。

①国家による国際法、特に国連憲章の義務の順守は、彼らのICT使用における彼らの行動の必須のフレームワークである。

②国家主権および主権に由来する国際的な基準・原則は、ICTに関連する活動および彼らの領域の中のICT基盤に対する管轄権に適用できる。

③国際法における既存の義務は、ICTの使用に適用できる。国家は、人権と基本的自由を尊重・保護するために、国際法のもとの義務を順守しなければならない。