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高島鈴「そこに在る身体」




 東京駅に辿り着き、切符を買い、ホームで新幹線を待っている間も、雪仁はずっと気が気ではなかった。何度も何度も背後を確認して、侍従が追ってくるのではないか、そればかりを心配した。隣では羽村がコンビニで買ったおにぎりをもくもくと頬張っている。羽村の首筋には、季節外れの汗が滲んでいた。ぬぐってやりたい、と思ったけれど、食事中の人間に触れていいのかどうか、雪仁はそれすらもわからなかった。
「キョドりすぎ」
 突然羽村がこちらを向いてそう言うので、雪仁は「え、ごめん」と急いで謝った。羽村はもごもごと口を動かしつつ、「謝ることじゃないけど」と続けた。
「おまえ、そんな後ろばっか見てたら、逃げられるもんも逃げらんないよ」
 羽村はこちらを見ないまま、ぼそりと言った。そう言われると、改めて自分が「逃避行」の最中であると思い知らされる。朝の目覚めも、明日どこに行くのかも、この先をどう生きるのかも、これまでほとんどを他人に管理されてきた自分が、何も告げずに同級生とどこかへ消えようとしている。今、それを実行に移している。今。
 どうせすぐに捕まると思っていた。自分は一億の民に顔を知られた身だ。こんな狭い島の中では、すぐに見咎められてしまう。切符を買う前に、購入ボタンをタッチする指を掴まれてしまうと思った。だが実際はどうだ。自分は驚くほどすんなりと、改札を通過した。もしかしたら、という期待が、確かにあった。
 そしてさらに驚いたのは、今行われていることが世に知られれば一番最初に槍玉に挙げられるであろう羽村が、妙に落ち着いていることだった。
 おにぎりを食べ終わった羽村は、ホームのゴミ箱に向かっておもむろに席を立った。そのベンチを離れるわずかな時間にも、雪仁は緊張していた。一人で何かをさせてもらえた試しのない雪仁にとって、今の羽村は拠って立つ杖だった。あまりきょろきょろするなと言われたばかりなので、羽村を目で追うような真似は控えようと心がける。それでもずっと、背後に意識がいく。雪仁は自分で自分の肩をさすった。誤魔化しきれないほどに身体が固い。
もうすぐ新幹線が到着すると、アナウンスが告げる。まもなくホームの奥にヘッドライトが光るのが見えた。慌ててつい羽村の方を振り返ると、ゴミ捨てから戻ってきた羽村が、雪仁の身につけていたパーカーのフードを、視界が遮られるほど目深にかぶせてきた。この上着も、羽村の私物だった。
「羽村」
 目の前でゆっくりと探るように停車位置に着く列車を前にして、雪仁は声をかけた。名前を呼んだだけだったが、限りなく不安の滲んだ、甘えたような響きを伴っているのが自分でもわかった。羽村は雪仁の方を見ずに、雪仁の頭をフードの上からぽんぽんと撫でた。
「大丈夫だから」
 根拠がないことはすぐにわかった。それでも、雪仁は信じた。この人を信じてみたいと思った。
 雪仁は黙って羽村の手を握った。わずかに羽村の手が硬直している。こんなに堂々としているのに、こんなに何でもできそうな顔をしているのに、この人も自分と同じなのか。それがなんともおかしくて、雪仁は静かにくつくつと笑った。羽村は雪仁が笑っている理由がわからずに「どうした?」と聞いたが、雪仁は説明しない。
「やってやろうね」
 約束みたいに、そう口にする。握った指先にぎゅっと力を込める。
 二人がドアをくぐると、発車ベルが鳴った。車体が揺れ、よろけた雪仁の身体を、羽村が抱き止める。
 あ、触った、と思う。思わずホームの方を振り向いた。誰も追いかけてきていない。ただ、わずかに目を見開いてこちらを見る人や、わざとらしい角度に首を傾けて視線を逸らしている人がいるのがわかった。押さえ込んでいた心細さが、煙のように細く長く吹き出ていくような気がする。
 新幹線は北へ向けて、静かに東京駅のホームを出発した。




 羽村と知り合ったのは、大学でのことだ。
 文学部史学科に進学した雪仁は、同じ学科にいた羽村の存在を、まもなく知った。誰もが後方の席を選んで固まって座っている必修の授業で、羽村は最前の席を取り、堂々と斜めに頬杖をつきながらノートを取っていたのだ。時折誰の目にも明らかな身振りであくびすらしていた。羽村の髪は金髪に近い明るい茶髪で、後ろ姿がよく目立った。
 出自のせいもあっていまいち学科に友人ができずにいた雪仁は、そのときどっちつかずの真ん中辺りの席に一人で座っていたのだが、最前列にいながらふてぶてしい体勢で受講する羽村の姿を見て、心臓が痒くなるような感じがしたのをよく覚えている。そこに座るなら、もっと背をぴんと伸ばして、手を机に置いて、息を整えて学べばいいのに。羽村の所作は、自分が教え込まれてきたものとはまるで違う。雪仁は長い間美しい姿勢を保って話を聞くのが得意だった。それができなければいけない家に生まれたからだ。
 雪仁は今に教授が羽村を注意するのではないかと思い、たびたび教授の表情を伺ったが、教授はクラスに配るプリントを毎回羽村に手渡すくらいで、それ以外に羽村へのリアクションを見せなかった。大学とはそういう場所だと、初めて知った。
 あるとき、余ったプリントを前に渡してほしいと言って、後ろの席の学生が雪仁に紙束を回してきたことがあった。その日、雪仁より前に座っていたのは、羽村だけだった。仕方がないので雪仁は立ち上がり、直接教授のところまでプリントを持っていこうとした。教壇に接近すると、初めて羽村のノートがちらりと見えた。
 驚いた。あまりにも美しい字をしていたからだ。あんな姿勢で書ける文字だとは思えなかった。呆気に取られて、プリントを渡したあとも羽村の前で数秒止まってしまった。羽村はそのとき初めて雪仁を見て、何? とでも言いたげに顔をこちらに向けた。鋭く澄んだ鳶色の目がこちらを捉えて、ばちん! と音がするように目が合った。冗談ではなく、星が飛んだような気がした。
 雪仁は自分の振る舞いが急に恥ずかしくなり、黙ってそそくさと席に戻った。
 戻ってからしばらくは上の空になる。
 あんなふうに人と視線を交わしたことなんて、雪仁のこれまでの人生にはなかった。

 初めて会話したのは、それからしばらく経ったのちのことだ。雪仁はどこかで夏風邪をもらい、テストを前にしながら数日間大学を欠席した。例の必修も、この日にテストの内容をある程度事前に告知する、と言われていた回に、ちょうど出られなかった。まだほとんど学友を作れていない雪仁にとって、これは死活問題だった。誰かに話しかけて、テストについて聞いて、可能であればその回の板書も写させてもらいたい。そう考えると、やはり雪仁の頭に過ぎるのは、羽村ただひとりだった。
 だが雪仁は、羽村の連絡先を知らなかった。次の必修授業が行われる前に、板書などを見せてもらいたい。だが、羽村がどこにいるのかわからないのでは、どうしようもない。
考えあぐねてぼんやりとキャンパスを歩いていると、ふと掲示板のポスターが目に止まった。一見学内の合唱部とオーケストラが参加する合同音楽会の案内であるかのように見えたが、よくよく見ると、音楽会の後に皇族の血を引いているという触れ込みで活動している作家が講演会を行うと告知されていた。何やら日本を称賛する内容らしい。協賛には複数の政治家が名前を連ねている。
 雪仁も、こういうものを目にしたことがないわけではない。存在は知っている。だが、いつもどう考えてよいかわからなかった。自分は立場上、このような人物に対して何らかの意見を持ってはいけないことになっている。とはいえ、自分がこれから継承しなくてはいけないものを過剰に持ち上げる人間を見ると、そんなに器が好きならあなたがなってくださいよ、と言いたくなってしまう。自分が抱えている投げ出せない枷を勝手に羨ましがられても、雪仁は虚無感しか覚えない。
 張り紙の前で立ちすくんでいると、後ろから声がした。
「お前、こういうの興味あるの」
 振り向くと、そこにいたのは羽村だった。
「羽村くん」
 思わず名前を呼ぶと、羽村は「あ、名前知ってるんだ」と目をわずかに見開く。
「自己紹介からかと思ってた」
「知ってるよ。きみ、有名人でしょう。いつも長崎先生の必修で、一番前に座って……」
 そう言いかけると、羽村は苦笑した。
「悪目立ちしてるって?」
「いや、えーと、そうじゃなくて」
「じゃあ浮いてる?」
「それは僕も同じでしょ」
 食い気味に言ってしまった。とっさにその返事が出たことに、自分でも驚く。羽村も雪仁のぴしゃっとした返事にびっくりしたようで、「へえ」と言ったきり、少し黙ってしまった。雪仁は沈黙を押さえ込むように言葉を継いだ。
「ええと、あの、プリント返すときに、ノートが見えて。それで、羽村くんのノートがあまりきれいだったから。覚えてて」
「あれ見たのか。恥ずかしいな」
 羽村は顔を下に向けて頭を大仰に掻いた。照れているのがかわいらしくて、雪仁は笑った。今なら言えそうだと思った。
「ねえ、今さ、先週の長崎先生のノートってある?」
「あ、そうか、お前、なんかいなかったよな」
 羽村が自分の不在を認識していたと知って、雪仁は拍子抜けした。一番前にどかっと構えている羽村が、その後ろでひっそり受講している自分を知っているわけがないと思い込んでいた。
「知ってたんだ」
 そう尋ねれば、羽村は顔を上げて、「まあ、だってお前のほうがよほど有名人だから」と言った。
「それもそうか」
「どうしたって否定しようがないもんな」
 羽村があっさりとそう言うのを、雪仁は反射的に心地よいと感じた。
 これまで少し会話した同じ学科の同窓生たちは、みんな不自然に雪仁の家の話題を避けていた。それはそれでありがたい配慮ではあったのだけど、態度にはどこか雪仁を「高貴な人」として扱うような妙な丁重さがあって、それが引っかかっていた。大学は中高とはまた違って、もっといろいろな人と出会える場所ですよ。侍従のひとりからそれを自由であるかのように告げられたが、それがはりぼてであると気づくまでに時間はかからなかった。どこまで行っても自分は皇太子だった。
 羽村も、別に雪仁をその枠組みから外して見つめてくれているわけではない。だが、雪仁が今背負っているものを認めて、その意味に向き合おうとしてくれている気がする。気のせいかもしれなくても、雪仁は羽村に期待を抱いた。
「ノート、今持ってるよ。学食で写す?」
「あ、ありがとう!」
 先に歩き出した羽村の後を、雪仁はすぐに追い、横に並んだ。




「寒くないか」
 羽村に譲ってもらった窓際の席でぼんやり外を眺めていると、雪仁はそう尋ねられた。確かにガラス越しにはわずかな冷気を感じていたが、耐えられないとは全く思わなかったので、静かに首を振った。
「寒かったら言えよ」
 羽村は簡単に周囲を確認すると、上着を雪仁との間の手すりにかけ、荷物を足元に置いた。いざというときすぐに持ち出せるようにそうしていることは、明白だった。
「羽村」
「ん?」
 雪仁は羽村の緊張を少しでも解きたい一心で、つい羽村に話しかけていた。何を言えばいいか迷って、雪仁は言葉を紡ぐ。
「ねえ、……あの、さ」
「うん」
 羽村はこういうとき、決して目を逸らさない。逆に雪仁は、その視線の距離の近さに慣れることができずに、わずかに顔を背けながら話した。
「もし何事もなく向こうについて、何も追いかけてこなかったら……、まず、何する?」
 羽村は一瞬目を細めたあと、次の授業なんだっけ、と聞かれたときのようにすんなりと視線を宙に向けた。
「……飯食うかな」
 岩手久しぶりだし、と羽村はつぶやく。目的地が岩手なのは、そこに羽村の祖母が独居しているからだ。しばらく顔を見せていないし、ばあちゃんも俺が来たら喜ぶだろうし、少し金を借りることもできるだろう、と羽村は雪仁に説明していた。
 ただ、雪仁が今聞きたかったのはその話ではない。
「さっきもおにぎりを食べてた。まだお腹が空いてるの?」
「いや、そうじゃないけど……」
「なんか、もっと……まあ羽村は、僕とは浮かれ方が違うのかもしれないけど、なんか、ないの」
「じゃあお前は何したいの」
「……」
 改めて自分を「お前」と呼ぶ羽村の稀有さに感じ入りながら、自分は、と顧みて、雪仁は自分も自分でぼんやりした考えしか浮かんでいなかったと気づいた。なにせ、突発的な旅だ。何の計画も持っていなかった。ただ、やりたいことがないわけでは、ない。
「……僕は」
「うん」
 羽村は強めに頷いた。
「とりあえず、働いてみたい。普通に。本屋とかがいいかな。アルバイトでもいいから、ただの人として」
「本屋きついよ。すげー体力仕事だって」
「そうなんだ」
「友達から聞いた」
「でも、やってみたい」
 雪仁が俯きながらも目を輝かせているのを、羽村は見つめている。雪仁もそれがわかるから、余計にうまく顔が上げられない。
 羽村が不意に、下から掬い上げるように、雪仁の左手を握った。そして素早く、二人の間に置かれた上着で繋いだ手を隠す。わずかに汗をかいた大きな手のひらが、ぎゅっと雪仁の白すぎる手を包んだ。
「やりたいなら、やろう。できるようにしよう」
 羽村はこちらをまっすぐに射止めるような目をしている。
 この人のこういうところが好きだ、と雪仁は思う。




 雪仁が羽村への好意――友情と区別したくなるほどの何か――を自覚したのは、最初の会話から半年経ったころのことだ。学科で浮いていて、サークルにも特に入っていなかった雪仁と羽村は、いつも二人で行動するようになっていた。たくさんの話をした。雪仁が飼っている犬のこと。羽村が好んでプレイしているゲームのこと。お互いがどんなふうに育ってきたか。授業について意見を交わす日もあれば、読書会をする日もあった。一見とっつきにくそうに見えた羽村は、単に静かなだけで、気取らない性格の優しい男だった。羽村はヨーロッパ中世の教会に関心があると言った。調べてきたことを、「俺は全然、まだよくわかってないけど」と慎重に前置きしながらも、楽しそうに語るときのわずかに目を伏せたやわらかい笑みが、雪仁は好きだった。向かいに座った羽村の、根本だけ黒くなったつむじを見ると、ここに手を乗せて、愛犬にそうするようにわしゃわしゃと撫でてやりたいような気持ちになった。
 あまり人間関係に恵まれてこなかった雪仁にも、恋の経験は何度かある。最初は小学五年生のときにクラスにやってきた教育実習生、二回目は中学の先輩、三回目は高校の同級生。全員男性だったから、自分のセクシュアリティについては明確な自覚があった。同時に自分が何を期待されているのかもよく知っていたから、その考えの全ては常に秘匿された。雪仁は、そういうものだ、と思うようにしてきた。自分の役割を果たす以外に、自分に道はないのだと。
 それが、急に剥がれた。
「みんな恋愛してて、なんかすげえよなあ」
 いつものように、ほとんどひとけのない時間帯の学食で勉強会をしていたときだったと記憶している。突然羽村がそうつぶやいた。羽村はふだんは同期の恋愛になどまったく関心がないかのように振る舞っていたから、雪仁は少なからず動揺し、同時にわずかに高揚した。羽村に脈があるとは思っていなかったが、羽村がどんな相手に関心を持つのかは、興味があった。
「みんな元気だよね。余裕ありそう」
 あまり関心がなさそうな調子を心掛けて、雪仁はそう返事をした。そこで終われば、それだけの話だと思った。
「お前は、なんかないの」
 羽村は鳶色の瞳を意味ありげに逸らして、そう尋ねた。
「ない……って、ことになってる、でしょ」
「それは、お前の家的な意味で?」
「まあ、そんな感じ」
「別に、恋愛じたいだめってわけじゃないよな。お前の親は自由恋愛だったってテレビで見た」
「それはそう、なんだけど」
「なんか、もう、決まってるのか? 許嫁? とか……」
「いや、それはさすがにない……と思う……まだ何も言われてないし、少なくとも多少は選ばせてもらえる、と思うし……?」
 はぐらかしているうちに、雪仁はだんだん決まりが悪くなってきた。選ばせてもらえるって何だよ、僕も相手も絶対に嫌なはずなのに。どこか責められているような感じがする。全てを吐き出して楽になってしまいたいという気持ちもあったが、そのカミングアウトの結果として羽村が離れてしまう可能性や、万一羽村がアウティングしたときのリスクを想定すると、簡単には告白できない。
 自分が手を振ると、白地に赤丸の旗がいっせいに振り返される、正月の光景を思い出した。このガラスを突き破って身を投げたら、世界はいったいどうなるんだろう、と何度か想像しながら、そんな勇気も持てずにひたすら微笑んでいたことも。
「……俺は」
 羽村は重たい前髪をぐしゃっと自分で掴みながら、自分の話に切り替えた。
 そして、言った。
「俺は、ゲイで。要は、ずっと男が好きなんだけど。親にも、周りにも、何も言ってない。で、大学来たら、なんか変わるかなって期待して来た。うちそういうサークルも、いちおうあるじゃん、てかあるんだけど、そもそもサークルとか、あんま俺、集団得意じゃないから、ダメで。友達とかも、まあ、ネットではちょっとできたけど、あんま仲良くなる感じでもなくて……そういうのむずいな、って、思ってる」
 いつもより明らかな早口で、しかし言い淀みながら、一連の言葉を口にし終えたあとも、羽村はこちらを見なかった。おそらく見られなかったのだろう。
 反面、雪仁は飛び上がりたくなるくらいの感動を覚えていた。それは誰にもカミングアウトしてこなかった羽村が自分に打ち明けてくれた喜びと、自分が思いを寄せていた人が自分と同じ指向を持っていたことへの驚きでいっぱいになっていたからだった。この人は、この人は、この人は! なんと言っていいのかわからない、ただ、今目の前にいる相手は、明らかに自分を見上げていない。
 興奮で何も言えないでいると、羽村は大きく広げていた教科書をわずかに自分の方に引き寄せて、「……こういう話、嫌だったら帰るけど」と言った。雪仁は慌てて身を乗り出すようにして止めた。
「そうじゃない、あの、僕もそうだから!」
「え?」
 羽村は手を緩めた。この人を今引き止めたいと思い、雪仁は初めて羽村の手を握った。羽村はずいぶん驚いた様子だったが、それ以上腰を浮かせなかった。雪仁は必死に言葉を継ぐ。自然と半分ほど立ち上がっていた。
「ずっと言えなかった。いつか絶対女の人とどうにか家族にならなきゃいけないってわかってたから。そういう決まりの中で僕は生かされているから。でもわかってるんだ、僕は、どんな人が僕のところにやってきても、その人を愛することはできない。……わかってるんだ、僕の生活は恵まれてる、でも、人生が、僕のも相手のそれも、ぜんぶ他人の取り決めでめちゃくちゃになるのが確定してるってことは、本当に、残酷なことだと、ずっと思ってる」
 一息に話し終えて、雪仁は羽村の反応を待った。他にももっとたくさん話したいことはあったけれど、今これ以上話そうとすれば、泣いてしまうと思った。
 羽村は、笑った。
「え?」
 今度は雪仁が目を丸くする番だった。なぜか羽村はくつくつと静かに笑い、握られた腕を自然に解くと、雪仁に「座れよ」と椅子をすすめる。
 雪仁が困惑しながら腰を落ち着けると、羽村は湖面のようにおだやかに微笑んでいた。
「お前、辛かったな」
「……辛かったのかな? 残酷だとは言ったけど、ありあまるほど恵まれてるよ、僕は」
「辛いのと恵まれてるのって別だろ。どんだけ恵まれてても不幸な人はいる」
「そうかな……」
 雪仁は自分が苦しんでいるという点に関して、これまで全く信じきれていなかった。だって御所に住んでいるから。送り迎えは車だし、死ぬまで衣食住は最高のものが用意されるだろう。その状況で、辛いとか苦しいとか、そういう気持ちを根本的な部分で感じてもいいという確信が持てなかったのだ。もっと苦しい人がたくさんいるのを、雪仁とて公務のおりに見て知っている。
 羽村はその迷いを振り払うように、重たい前髪ごとかぶりを振った。
「お前だって人間だ。人間には、人権がないとおかしい」
「それくらい」
 ある、と言おうとして、雪仁は言葉に詰まった。そうは言えないのかもしれないと思った。これまで無視して来たものが、羽村によってさらりと暴かれた。とっさに目尻が濡れるような感覚があって、恥ずかしくなって下を向いた。羽村の声は、霧雨みたいに穏やかに降ってきた。
「お前はさ、好きな人と幸せになって、いいんじゃないかな。この先だって、お前が嫌なら、逃げたっていいと思う。ずっと世襲で、っていうのも、なんか変な話だし、古いよ。それにほら、イギリス王室なんかは後継ぎもいっぱいいて、女王もいて、ゲイだっているだろ。だからお前だって、自由に、なっていいはずなんだよ……」
 声がだんだんか細くなっていくのを、雪仁はむしろ頼もしく思った。語っている内容は雪仁には薄っぺらく感じられるものの、羽村は羽村なりに、話しながら困難にぶち当たってくれている。雪仁がとっくに諦めたものを、羽村は雪仁の手前にいるからこそまだ握りしめているのかもしれなかった。雪仁は思わず笑っていた。羽村はむっとした顔で言った。
「お前、人が必死に喋ってるのに、笑うなよ」
「ごめん、だって」
 ひとしきり笑ったあと、雪仁は意を決して言った。
「僕はきみが好きだ」
「……え?」
 羽村は周囲を見まわした。誰かに雪仁の話を聞かれることを、羽村は雪仁以上に恐れていた。幸い学食は遠いテーブルに二組ほどの学生がいるばかりで、自分たちの声が聞こえる範囲には誰もいなかった。
「お、俺」
「きみ、僕の伴侶になってくれないか。……何も冗談じゃないよ。羽村、僕はきみの答えが聞きたい」
 一瞬音が消えた。何もかもが心地よく遠のいていくような気がした。掌は、再び静かに握られていた。




 もうすぐ福島に差し掛かるらしい、ということは、風景の変化でわかった。雪仁は何度か公務で足を運んだ福島のことを思い出していた。先ほどまで繋いでいた手は、羽村が水筒を取り出そうとしたときから外れている。今羽村はちびちびと水筒からお茶を啜りながら、スマートフォンを鏡にして、周囲をさりげなく見渡していた。
 ふと思い立って、雪仁は羽村に尋ねる。
「ねえ、僕って、難民になれたりしないかな?」
「は?」
 羽村はお茶を吹き出しそうになり、実際に口の端から垂れた水滴を慌てて手の甲で拭った。
「そんなに驚く?」
「いや、ちょっと、さすがに海外まで行くのは、俺はむずいと思う」
「海外じゃなくてもいいんだ。……人権ないって言ってくれたのは、羽村、きみだろ。人権ない状態の人間がこのまま放置されるのって、実際、国内であってもおかしいんじゃないか」
 羽村は明確に眉間に皺を寄せた。これまでも何度も見て来た表情だ、と雪仁は理解する。雪仁に説明しがたい「世間の常識」みたいなものを教えるとき、いつも羽村は苦虫を噛み潰したように苦しげにする。まるで、自分の口からは言いたくないみたいに。
 しばらく沈黙があってから、羽村は口を開いた。
「……無理だよ。ていうか、俺は、それをお前が何も知らずに言ってることが、結構、やばいと思う……はっきり言えば『残酷』だ」
「どういうこと?」
 残酷だ、と面と向かって言われたのは、雪仁にとって初めてのことだった。
「確かにお前が置かれてる境遇は、その、俺からしたらだよ、俺からしたら酷すぎると思う。好きな人と好きに生きていくことも、嫌いな政治家の名前を口にすることもできないんだから。もしかしたらお前が全部をぶちまけてみんなを説得しようとしたら、少しは何か変わるのかもしれない。もしお前がそれを望むなら、俺はなんでも助けてやりたいとも思う」
「うん」
 雪仁はそれと難民の話がどう繋がるのかわからずに、目を瞬かせた。羽村はまだ眉間に皺を寄せていた。羽村なりにかなり言葉を選んでいることは、いつもの滑らかな応答を思い起こせば、すぐに理解できた。
「それでな、お前は知らなかったのかもしれないけど、この国で『難民』になるのって、死ぬほど難しいんだよ。ほとんどの人は申請が通らないまま、ビザがないから入管ってとこに入れられる。入管ではいろんな人が虐待されてる。人が死んでるんだ。……それより詳しく話すのは、今の俺には……きつい。それを」
 羽村は唇を噛み、一度膨張した自分の空気を抜くように、すーっと息を吐いた。もし羽村が猫だったら、今その毛は静かに逆立っていただろう。雪仁は羽村の話を聞いていたが、プラスチック板にかけられる水のように、身体に浸透しないような感覚を覚えていた。聞いたことがないわけでもない、テレビでデモの様子が流れているのも見たような気がする。だが、自分には本当にどうすることもできない話としてしか、それを受け取れなかった。
 羽村は続けた。
「軽々しく、難民になれるかな、なんて、言わないでほしい。お前はこれから死ぬほどつらい思いをするかもしれないけど、死にはしないんだ。もちろん、お前の魂が削り取られることを、いいとは絶対に思わないよ。お前はひとりの人間として尊重されなきゃいけない。そのはずだと思う。その苦しさを他の何かと比べるつもりもない。でも……」
 そこで羽村は息を詰まらせた。雪仁は思わず背中をさすった。見た目のわりに骨ばった羽村の背中は暖かく、それは確かに身体だった。雪仁は思わず背に当てていた手をじっと見つめた。じわじわと、指先が熱くなるような感覚が湧く。雪仁は今、雪仁が座ってきた椅子について批判されている。そして羽村は、おそらく目の前の雪仁に対してそれを告げることに葛藤し、痛みを覚えている。雪仁は考える。自分はどうすればこの人の言葉を受け止められる?
 雪仁の経験の部分はこう言っている――自分のために用意された椅子と、それに座るであろう自分に対して批判があるなら、それは「沈痛な面持ち」で受け止めればいい。責任も痛みも、どうしても雪仁には全部がどこかで絵空事だった。ずっとばかみたいに豪勢な暮らしを豪勢とも思わずに享受してきて、それは全部、この先に待ち受けている巨大な苦難の贖いなんだと思った。それでどこかが麻痺してしまった。雪仁にはずっと、身体があるようでなかった。玉座には透明な皮膚だけが浮いている。誰も自分に内側など求めていないのだから、自分だって内面で何かを感じ取る必要はないんじゃないかと思った。
 だが一方で、羽村を慕う雪仁は、変わろうとしていた。好きな人が、目の前で迷い苦しみながら雪仁と雪仁のための椅子を批判している。なぜ葛藤しているのか、なぜ言い淀むのか、わかりたいと思った。そして目の前の相手を理解したいと願うとき、雪仁の身体は確かにそこにあった。その椅子に腰掛けるのは、他ならぬ雪仁の身体だったのだ。雪仁は批判されながら確かに高揚していた。ゆっくりと飛行機が離陸するように、雪仁はどこか別の領域へと、自分の思考が動いていくのを感じていた。
 羽村は水筒に少し口をつけて「ごめん」と言うと、背をさする雪仁の手を払った。羽村は雪仁の静かな昂りには気づいていないらしく、そのまま言葉を続けた。
「要するに、俺は、お前の想像もしないところで生きてていいかどうかを値踏みされ続けてる人がいるってことを、お前が無視してるのは、あまりに無神経だと思う。俺はお前のことを一人の人間として見ているけど、お前の立場も無視できないと思ってる。それは、お前がどんなに酷い境遇にあっても、そうだ」
「……なんか、本当に」
「うん」
「僕、羽村と来て、よかったよ」
「……お前、ほんとにわかってる?」
「……わかってないかもしれない」
「……そうかよ」
「でも、わかりたいと思う。ねえ、やりたいこと、またできた。……この身ひとつで、ちゃんと、人の話を聞くんだ」
 羽村は怪訝そうな顔をした。
「別に、それ、いつでもできると思うけど」
 雪仁は静かに首を横に振ってみせる。
「人の話を自分の身体の中に入れたい。僕を変えてしまうような言葉をちゃんと受け取ってみたい。ちゃんと痛がって、ちゃんと自分のしたことに責任を取りたいよ。もう嫌なんだ、僕は……僕は、器じゃない」
 雪仁の声と身体は、すでに震えている。羽村はわずかに息を呑んでから、控えめに雪仁に身体を寄せて、肩を抱いた。雪仁も羽村の肩に腕を回す。二人とも周囲からの視線に勘づいてはいるが、お互いに今この仕草を必要としているのはわかっていた。
「お前はさ、酷いやつかもしれない。今は」
「うん。そう思う」
「でも、俺、助けるよ。お前が酷いやつじゃなくなるように、一緒に考える」
「……ありがとう……」
 羽村がぽんぽんと背中を叩いてから、あっさり身体を離すのを、雪仁は名残惜しく思った。ずっとこうしていられる場所があればいいのに。




 二人を乗せた新幹線は、ついに盛岡へとたどり着いた。
 新幹線内のアナウンスを聞き取ると、二人は改めてフードを被り、荷物を前に抱えてドアの前に並ぶ。いち早く降りて、いち早く改札を抜けなければならない。まだバレていないとしても、一刻も早く群衆に紛れる必要があった。誰と一緒に出たかなんて一瞬で足がついてしまう。雪仁と連れ立って行ったのが羽村だとわかれば、すぐにやつらは盛岡まで追ってくるだろう。
 外に出れば、東京のそれとはまるで違う空気が広がっていた。針のように張り詰めた冷たさがつんと肌を刺す。よく乾いて、表皮の水気を軽々と奪っていくような寒さだ。雪仁は身震いした。
「大丈夫、大丈夫だから」
 羽村が自分に言い聞かせるように、雪仁に語りかける。身体の前に抱えた荷物を撫でながら、羽村はその心細いほどの軽さに怯えている。
 改札に続く階段は、ホームの端だった。
「あそこから出よう」
 しっかりと短く切り揃えられた羽村の爪が指差す先を、雪仁は必死に追った。二人は小走りで、階段を駆け降りた。岩手観光を促すポスターの前を何枚分も通り過ぎた。触れるもの全てが硬質な新鮮さをもって雪仁に接近した。ここから自分の新しい日々が始まるのだ、と、思った。
 その矢先だった。

「ご旅行は、お楽しみになれましたか。殿下」
 とっさに羽村が雪仁を庇うように立つ。目の前には見知った顔があった。
「……菅原」
 雪仁が呼び慣れた侍従の名前を、こうも震えた声で口にしたことは、未だかつてなかっただろう。だが逆に言うと、雪仁の動揺はその程度だった。足腰は屈するように崩れなかったし、涙も出なかった。こうなるという想像は、確かに雪仁の中には存在していたからだ。
 菅原は背後に数名の私服警察らしき人物を引き連れて、こちらに近づいてきた。咄嗟に羽村が叫ぶ。
「こいつがどれだけ今いる場所に苦しんでるかわかってるのかよ!」
「羽村」
「頼む、逃がしてやってくれ、こいつは、雪仁は人間なんだよ。お前らが勝手に人生を決めていい理由なんて一つもない、好きにさせてやってくれ。もう終わりにしてくれ。こんなの、こんなのは」
「羽村」
「酷すぎるよ。新幹線乗るだけで終わりって、そんなの。こいつが違う運命を選びたがってるって、理解してくれよ。頼むよ。何を賭けたらいいんだ、なんだって支払ってやるから、見逃すだけでいいから、なあ」
「羽村」
 雪仁の喉からは、本人が思うよりも強い声が出た。羽村の涙声を、周囲の人が奇異の目で見ているのがわかった。私服警察は静かにこちらを取り囲むように展開していた。もう潮時だった。
「羽村」
「雪仁」
 今度は雪仁が、羽村を穏やかに牽制する。一歩前に踏み出した雪仁は、静かに振り向いて、羽村に口付けた。
「……!」
 菅原たちが音が出るほど息を呑む。公衆の視線も、寒さ以上に突き刺さる。羽村もやはり驚いていた。二人は愛し合っていたが、口付けさえしたことがなかった。初めてのキスは、世界一残酷な瞬間に始まって、あっけなく終わった。唾液の味を交換することさえ、二人には許されなかった。
「羽村、ありがとう。僕をここまで連れてきてくれて」
「雪仁」
「菅原、迷惑かけたね。すまなかった」
「雪仁!」
 雪仁は羽村の元を離れようとして、「あ」と気がついたようにパーカーを脱ぎ、簡略に畳んだ。
「これ、返すね。ありがとう」
 羽村はもうぼろぼろと落涙している。グレーのパーカーにいくつも染みができた。
「お前、これでいいのかよ。俺ら、これから、なんだって」
「なんだって、は、ないんだよ」
 雪仁は自分で口にしながら、自分が羽村に見せてもらった夢を自分で諦めたのだとはっきり気がついていた。結局、羽村だけだ。雪仁の自由を諦めていないのは。
「なかったんだ、最初から。……でも、ドキドキした。こんな冒険は、僕の人生で最初で最後だろうね」
 雪仁はそのまま菅原に歩み寄り、鞄を預けた。菅原はまだ衝撃に目を見開いたまま、手癖のように鞄を受け取る。
「忘れないよ。羽村」
 そう告げると、雪仁はもう振り返らなかった。菅原と警察官たちは、そのまま雪仁を守るように改札を出て行った。
 たった数時間前に抱いていた背中はどんどん群衆に紛れて、やがて見えなくなった。
 羽村はまだぬくいパーカーを握りしめて、その場に崩れ落ちた。




 それからまもなく、雪仁は父の病気を理由に公務を増やし、それをこなすことを理由に大学を辞めた。雪仁の学問は、御用邸に直接教授が訪問する形で継続されると、羽村は報道づてに耳にした。
 羽村の元に、どこから調べたのか菅原侍従が訪ねてきて、真っ白い封筒を突き出してきた。
「なんですかこれ」
 羽村が敵意を隠さずに聞くと、菅原侍従は表情を変えずにこう言った。
「君が殿下に遣ったお金は公費ですから。受け取ってください」
 封筒を開くと、あのとき羽村が支払った新幹線代がきっちり二人分、端数まで入っている。
 羽村はむしり取るように封筒を奪うと、何も言わずに玄関を乱雑に閉めた。ドアに背中を預けてしゃがみこみ、封筒を額に当てるような姿勢でぐしゃっと握りしめる。羽村はその金を火にくべてやろうかと思い、一瞬キッチンに向かったが、すぐに虚しくなってやめた。金は金だった。それは唯一無二の、それぞれどこかからどこかへ渡ってきた数枚の歴史ある紙切れだったが、どの紙であろうが果たす意味は同じだった。悲しいくらいに、そうだった。

 それ以来羽村は、皇室に関わる人物にいっさい接触していない。




 あれから何年経ったか、羽村はもうとっくに数えるのをやめている。年末年始も結局仕事を入れた。年末に「お互い頭を冷やそう」と言い合った恋人からは、年が明けてしばらくしてもなんの音沙汰もなかった。もう潮時だということは、羽村もとっくに察していた。もうLINEもブロックしてしまおうかとぼんやり考えた。その方がお互いのためかもしれない。
 自炊する気にもなれず、ふらりと入った街の中華屋のテレビで、今年の歌会始のニュースが流れているのを見た。あまりこの手の話は耳に入れないようにしていたが、久しぶりにあいつの顔が見たいと、一瞬でも思ってしまった。顔を上げると、アナウンサーが明るく原稿を読み上げていた。
「今年のお題は『友』です。天皇陛下は大学時代のご学友とご旅行で出かけた東北地方の思い出を、歌に詠まれました――」
 明らかに自分の話だ、と直感した。
 周囲の人が羽村を見るので、そこでやっと羽村は自分が机を殴りつけていることに気がついた。拳にぽたぽたと雫が垂れた。なんの感情で泣いているのか、自分でもすぐにはわからなかった。
 悲しくて、悔しかったのだ。自分に背を向けるしかなかった雪仁が、結局最後まで自分のことを「友」としか言えなかったこと。自分たちにできる最大の攻勢として仕掛けた逃避行が、「ご学友とのご旅行」に均されてしまったこと。自分に雪仁を最後の最後まで勝ち逃げさせるだけの力がなかったこと。今の雪仁のそばに、雪仁が友と言えるだけの、自分の話を打ち明けられるような相手がいるのかわからないこと。そしてあのときお互いが抱いたはずの情熱が、全部国家に更地にされたと思ったふたりだけの庭が、わずかな形でのみ雪仁の中にも残されていたこと。その全てが、羽村と雪仁にしかわからない歴史で、そして絶対に誰にも明かされることのない秘密にされてしまうのが、あまりにも、堪えた。
 なあ、俺たちのあの時間、あの逃避行は、なんだったんだろう。
 そう問いかけたところで、雪仁から答えをもらうことは、もう生涯できない。

 肝心の歌は聴きそびれて、それからすぐにニュースは高速道路で起きた火事の話に移っていった。羽村は黙って運ばれてきた麻婆豆腐を掻き込んだ。花椒がつんと鼻を刺して、余計に涙を煽った。中国語を話す店員が、わずかに羽村を伺ってから、テレビのチャンネルをバラエティ番組へと変えた。


高島鈴
1995年、東京生まれ。ライター、編集、アナーカ・フェミニスト。『布団の中から蜂起せよ』(人文書院)で紀伊國屋じんぶん大賞2023の1位を獲得。

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