反ユダヤ主義の深層 チャールズ・スモール氏(上)

インタビューfocus

世界反ユダヤ主義政策研究所所長 チャールズ・スモール氏

過激イスラムと極左の「同盟」

 イスラム組織ハマスが先月7日にイスラエルを攻撃して以来、欧米の大学キャンパスなどで反ユダヤ主義に基づく暴力・脅迫事件などが急増している。「世界反ユダヤ主義政策研究所」の所長であるチャールズ・スモール氏にその背景について聞いた。(聞き手=ワシントン・山崎洋介)

大学から「憎悪」が拡散

 ――反ユダヤ主義が高まっている背景には何があるのか。

世界反ユダヤ主義政策研究所所長 チャールズ・スモール氏

 Charles Small カナダ生まれ。英オックスフォード大学で哲学博士号を取得後、ロンドン大学やイスラエルのヘブライ大学などで教授職を歴任。現在は、自身が創設した米フロリダ州に拠点を置く世界反ユダヤ主義政策研究所所長として、国連や各国議会で証言を行っているほか、米ハーバード大学など世界各地の大学で学術セミナーや会議を開催。

 われわれの調査が突き止めたのは、中東の産油国カタールから米国の大学に何十億㌦もの資金が流れ込んでいたことだ。カタール王室の知的・精神的指導者はイスラム組織ムスリム同胞団であり、カタールは本質的にムスリム同胞団だ。

 約100年前にエジプトで設立されたムスリム同胞団は、欧州の反ユダヤ主義やナチズムを取り入れ、曲解されたイスラム教の教義と融合させた。彼らは世界中のユダヤ人の殺害や滅亡を呼び掛け、民主主義社会を破壊してカリフ(預言者ムハマンドの後継者)制に置き換えようとしている。

 カタールから多額の資金提供を受けてきた大学界では、この30~40年のうちに、ユダヤ人やシオニズム(ユダヤ人国家建設運動)に関する言説が一変した。

 ユダヤ人はナチスによるホロコースト(ユダヤ人大虐殺)の時代は、白人でないという理由で捕らえられ、殺害された。われわれユダヤ人は、白人であるアーリア人種の純潔さを汚しているとされたのだ。

 しかし今の知識人や学生たちは、ユダヤ人は白人であり、諸悪の根源であるかのように言っている。ユダヤ人は「白人至上主義者」「植民地主義者」「占領者」「ナチス」であり、「アパルトヘイト(人種隔離)体制を支持している」というのだ。

 こうした知識人たちは、2世代も経(た)たないうちに、白人でないとされてきたユダヤ人を白人だと定義し直した。そして、イスラエルがアパルトヘイト国家であり、ユダヤ人が白人至上主義者であるならば、彼らを殺害し、レイプし、首を切る行為は正当化される、というのがこうした知識人たちのメンタリティーだ。

ユダヤ人を白人至上主義者などとするイデオロギーのルーツは何か。

 コロンビア大学教授だった哲学者の故エドワード・サイード氏は1980年代初頭、パレスチナ人である自らを「最後のユダヤ人知識人」であると主張した。

 フランクフルト学派(新マルクス主義の源流の一つ)の思想の継承者であるサイード氏は、パレスチナ人こそが「ユダヤ人」であり、本来のユダヤ人については「ファシスト」「ナチス」であるとした。当時の人々は、彼がやや正気ではないと考えた。

 しかしそれから40年後、大学がムスリム同胞団とつながりが深いカタールから数十億㌦を受け取り、教授職を設け、研究所を設立し、出版部門が支配されていくうちに、サイード氏の主張に沿う方向に言説がシフトしていった。

 われわれの調査は、米国の大学こそが反ユダヤ主義の源泉であることを示した。反ユダヤ主義は社会から大学に流入しているのではなく、むしろ大学から社会へと拡散されているのだ。

このイデオロギーは、“文化マルクス主義”から来たものだということか。

 そうだ。われわれはこれを、イスラム過激派と極左勢力による「赤(共産主義の象徴)と緑(イスラム教の象徴)の同盟」と呼ぶ。

 イスラム過激派は、米国など西洋諸国による「覇権主義」に反発し、中東地域からこうした国々の影響を排除したいと考えている。マルクス主義者もこれに賛同する。彼らは民主主義諸国を弱体化させること、そしてユダヤ人を憎悪することにおいては一致しているのだ。

BLM団体に反ユダヤ浸透

ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大事、BLM)運動のグループが、ハマスの攻撃を正当化する声明を発表したが、BLM運動は反ユダヤ主義と関係があるのか。

 米国で人種差別に抗議する運動は、アフリカ系米国人コミュニティーをはじめ社会全体に広がっており、人種差別をなくしたいと願う善良な人々が(2020年にミネソタ州で白人警官に暴行を受けて亡くなった)ジョージ・フロイドさんの事件に憤慨したことは非常に重要だ。

 しかし、BLM運動を代表すると主張する非常に小さな団体は、反ユダヤ的で過激な人々によって運営されている。つまり、問題はこのBLM公式組織であって、人種差別に対する抗議運動そのものではない。

 われわれの調査が突き止めたのは、ルイス・ファラカン氏が指導する黒人イスラム系組織「ネーション・オブ・イスラム」が、BLMの公式組織に浸透しているということだ。

 このため、反イスラエル、反ユダヤの風説や虚言が流れ込んでいるのだ。実際にBLMの公式組織の一部の人々は、イスラエルや人種差別についてあらゆる種類の誤った主張をし、長年にわたってイスラエルを悪者にしてきた。それは非常に危険なことだ。

反ユダヤ主義の深層 チャールズ・スモール氏(中)
反ユダヤ主義の深層 チャールズ・スモール氏(下)

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