【2024/2/29非公開予定】「宇宙世紀……じゃない? スパロボだ、コレ!?」 作:永島ひろあき
追記
指摘があったので主人公の独り言の大部分を心の中でのものに変えました。
「宇宙世紀……じゃない? ガンダムの世界じゃないのか!」
プルート財閥の若き総帥ヘイデス・プルートが社長室でそう叫んだのは、浅く広くところどころ深くゲーム好きだった前世の記憶を思い出した時だった。
癖のあるこげ茶色の髪と同じ色の垂れ目を持った容姿のヘイデスは、デスクの上に置かれた電子カレンダーの日付を見て、わなわなと体を震わせている。
時に
ただし、これが機動戦士ガンダムの世界であったなら、暦は“宇宙世紀”でなければならないし、179年ではなく79年でないとおかしい。
「どう、どうなっているんだよ、これ!?」
思わず腰を浮かせたヘイデスだったが、すぐにへなへなと脱力して最高級品の椅子にどかっと音を立てて腰を落とし、頭を抱え込む。
今、ヘイデスには二十三年生きてきたヘイデスとしての人格に、二十一世紀を生きた日本人男性の記憶と知識が混濁している。ただ前世の人格に戻ったというわけではなく、ヘイデスが7、前世が3の割合で融合したという実感がある。
そしてヘイデスが自分の居る世界が宇宙世紀でないのもそうだが、なによりもコロニーが落ちなかった事実が、ここがガンダムの正史世界ではないと実感させた。
ありとあらゆる分野で世界経済の重役を担う大財閥の総帥として、ヘイデスには数多くの情報が迅速に届けられる。
その情報の中に、スペースコロニーが地球へと向けて落下する最中、地球連邦軍でもジオン軍でもない何者かによって破壊され、微小な破片が地球に降り注ぐに留まったという一報があったのである。
「まさか……メテオ3? セプタギンか!? いや、マクロスの可能性も、でもあれはαの世界だとソロモン攻略の時にワープしてきた筈。後は何が考えられる? ひょっとしてパスダー、ゾンダーだったりするのか? もしそうならスパロボ世界か!?」
思いつく限りの可能性を口にしてゆくが、たとえどれであっても地球存亡、人類絶滅の危機に繋がるとんでもない事態だ。
「そりゃスパロボは楽しんだよ、生涯の趣味だったよ。でもさあ、画面の向こうで遊ぶのと画面の向こうに来ちゃうのは別だろう!? スパロボとか修羅の世界じゃねえか。
いや、初期のスパロボなら負けても地球が征服されるだけで済むかもしれんけど! 場合によったら銀河滅亡とか宇宙消滅とか、そこまでいくじゃん! ダメじゃん!」
いいやああああ、と思わず叫んで頭を掻きむしるヘイデスだったが、一代で世界的財閥を築き上げた才覚を持つヘイデスとしての人格は騒いでも仕方がないと落ち着き始める。
前世の人格がメインになっていたら、更に床の上で転がり回っていただろう。これまで随分とべらべら喋ってしまったが、幸いにしてこの部屋にはヘイデス一人だし、もともと彼の社会的立場を考慮して防諜を徹底している。盗聴の心配はあるまい。
とはいえ、口に出せばどこから漏れるか分からないから、考えは頭の中でこねくり回すに留めるのが最善だ。
(いや、いや、考えても仕方がない。仕方がない。そうだ、まずは参戦作品を把握しよう! ファーストはまず確実だ。スパロボ御三家の内、ガンダムは確実。
アムロは頼りになるけど、シャアはなあ。アクシズ落としをやる前のクワトロ時代の参戦で済めば助かるのに)
味方の時はトップエースの一人だけど、敵に回ると勢力を一つ作るからなあ、とぼやきながら、ヘイデスはPCを操作してマジンガーZの光子力研究所、ゲッターロボの早乙女研究所、コンバトラーVの南原博士、ボルテスVの剛博士などなど、思いつく限りのスーパーロボットの開発者や研究施設を検索し始める。
(マジンガーとゲッターロボも作品次第でとんでもないことになるからな。できれば初代の第三次とか第四次とかのテレビ版の流竜馬とかが居て欲しい……)
そうして作業を続けて一人、また一人とスパロボでおなじみの博士や単語がヒットして行き、その度にヘイデスは、ひい! いやああ、と成人男性としては情けない限りの声を上げながら自分の置かれた状況を把握していった。
なにしろ参戦作品の数が多ければ多い程、敵対勢力は増えて行き、ヘイデスの命の危機も加速度的に増してゆくのだ。
ヘイデスにとって、ここはプレイヤーがクリア可能な前提で用意されたゲームの中ではなく、本当に死んでしまう現実の世界となってしまったのだ。
(あひい、いや、前向きに考えよう。うん。とりあえずトップをねらえ!とイデオンは参戦していないと考えてよさそうだな。億単位の宇宙怪獣と戦わないで済んだのと、イデにリセットされるのは免れるか。
あ、やだ、確かFの完結編でイデオン勢が二百年か三百年後くらいからタイムスリップしてきたんだっけ? ある日突然、ソロシップとバッフ・クランがこんにちはとか、勘弁してくださいよぉ)
次から次へと思いつく厄介ごとに、ついつい死んだ魚の目になったヘイデスだったが、それでも自らに【気合】をかけてなけなしの気力を振り絞る。
(これからファーストガンダム通りの歴史が進むとして、今からV作戦に参加するのは難しいか。RX計画もとっくに進んでいるし。
幸いウチは軍需産業にも手を出している。取り越し苦労ならいいんだが、モビルスーツ(MS)以外の脅威にも対抗できる機動兵器の開発を進めないと……ひょっとして俺は主人公のスポンサー枠だったりするのか?)
大きな、それは大きな溜息を零して、ヘイデスはそれでもこの世界の住人としてこれから来る激動の時代を生き抜いて、平穏を手にするべく最善を尽くそうと行動を開始した。
*
ヘイデスが前世のスパロボ知識を思い出して数日後のことである。
プルート財閥傘下の軍事技術の研究と軍事兵器開発の一翼を担うヘパイストスラボに、ヘイデスの姿はあった。地球圏の経済に強い影響力を持つ財閥トップの訪問に、ラボの誰もが緊張に身を浸したのは言うまでもない。
ヘイデスはラボの応接室で、自身より五歳ほど年上の北欧系美女を前にしていた。天才と呼んで差し障りのない才覚を持ちながら、エキセントリックな性格からどこの企業からも放逐されたこの女性が、ラボの所長だった。
出されたコーヒーならぬ正体不明の紫色の栄養ドリンクを、クスハドリンクかよ、とヘイデスは正直な感想を零しながら口をつけなかった。
所長はヘイデスがわざわざ紙媒体で印刷した資料を食い入るように見つめている。アイスブルーの瞳は、瞬きを忘れて随分と経っていた。
「……総帥は我がラボにMSをお望みなのかしら?」
とびきり優雅なロシアンブルーの猫を思わせる美女の眼差しを受けて、ヘイデスはそのとおりと言わんばかりの笑みを浮かべる。プラチナブロンドを長い三つ編みにして垂らしている所長には、ヘイデスの笑みが以前よりも子供っぽく見えていた。
「そう! その通りさ。もともとウチは宇宙での作業用や月面の低重力下での作業用重機の開発と販売を行っているだろう?
これからの時代、主要な軍事兵器は戦闘機や戦車からMSに移り変わるのは間違いない。ジオンのザクだって元を辿れば作業機器だろう? それなら我が財閥の誇るこのラボだって、負けないものが作れるさ」
「評価してくださるのは嬉しいですが、今から開発しても地球連邦の開発計画に参入するのは難しいのでは? あちらはアナハイムをはじめハービック社などが既に関わっておりましてよ」
「もちろん分かっているよ。だからその資料を持ってきたんじゃないか。君も意地が悪いな。僕が“この戦争中に連邦軍にMSを売り込むつもりがない”のは、その資料を読めばわかるだろうに」
所長は悪戯っぽくにこりと笑むと、自分の分の紫色の粘っこいドリンクを一息に飲み干した。気力が下がる代わりに精神ポイントが回復しそうなドリンクだ。
「ええ、それにしても素人の思い付きといっては失礼かもしれませんが、この人体の骨格に見立てたフレーム構造……ムーバブル・フレームですか。非常に画期的ですわ。
ジオンのザクはモノコック構造、つまりは昆虫などのように装甲が骨格も兼ねておりますが、それゆえの欠陥もあります。装甲の損失が多大な機能低下につながるなどのね。しかし、このフレームならば文字通り新世代のMSを開発できるでしょう。
それにこのサブフライトシステムも興味深いですわね。宇宙と地球上とでMSを迅速に輸送し、展開する為には有用なんじゃありません?」
「まあね。ムーバブル・フレームはともかくサブフライトシステムはジオンあたりが実用化していてもおかしくはないけれど、研究しておいて損はないでしょう。上手くすればMS単体での飛行能力獲得につなげられるし」
「それに、総帥はこれからの時代は装甲よりも運動性重視とお考えでいらっしゃるようで」
「うん。MSがビーム兵器を携行し出したら、装甲はあまり頼りにならないでしょう。対ビームコーティングを施したシールドか、ビームを弾くバリヤーでも実用化しない限りは、防御より回避を重視した方がいいよ。はは、とはいっても僕も君も兵器のスペシャリストではないけれどね」
「でも先見の明はあるように思えますわ。この無限軌道を搭載した四つ足の機動兵器も面白そうですわね。曰く人間は銃器で武装してようやく猛獣と対等と言いますけれど、その理屈で言えば火器を搭載した鋼の獣は、MSに勝ることになりますかしら」
ヘイデスは量産できる動物型の機動兵器として最初はゾイドを考えたが、ゾイドコアがないからとガンダムSEEDのバクゥのアイディアを持ち込んでいたのだ。
「扱いは難しそうだけれど、複数人で運用すればいけるんじゃないかな?」
「総帥はアイディアの宝箱ですわ。ちなみに総帥はどれくらいでこの戦争が終わるとお考えですか?」
「ん~、そうだねえ。一年」
「一年? 流石にそれは早すぎるのでは? ジオンのザクが連邦の宇宙艦隊をさんざんに蹴散らしたんでしょう? 規模を考えても十年かかってもおかしくないのでは?」
「宇宙ではね。地球の環境をジオンは知らなさすぎると個人的には思うよ。それに地球はスペースノイドが思うよりも広く、環境が多彩だ。それにジオンはMSでなにもかもをやらせようとし過ぎる。
連邦がMSの量産を本格的に進めたら、あっという間に逆転さ。僕の考えの通りなら、この戦争は後に“一年戦争”と言われるだろう」
フフン、と自慢げに笑う年下の青年に、所長は半分呆れ、半分もしかしたらと思いながら困ったように笑う。ここまで面白い人物だったろうか。
「分かりました。では出来得る限りのものを開発して総帥のご期待に応えましょう。総帥としては具体的にいつごろをめどにと考えておいでですの?」
「そうだねえ、八年後くらいかなあ」
ファーストガンダムと照らし合わせれば、Zガンダムの時代、グリプス戦役の年代をヘイデスは意識していた。
(αもリアル系はグリプス戦役からだったし、Zもそうだったからな)
・サブフライトシステム
・バクゥ(もどき)
・ムーバブル・フレーム採用MS
三つのフラグが立ちました。
主人公の会社が作るロボットですがバンプレストオリジナルからなるべく拾ってゆくか、版権ロボの改造機で進めてゆこうかなと思っています。
バクゥが出てきましたが、この世界はSEEDシリーズが含まれていません。
設定の誤りや誤字脱字がありましたら、こっそりとお教えください。なおわざと捏造したり都合よく変えている部分もあります。