親子の関係が大きく変わろうとしている。離婚後の共同親権導入に向け、法相の諮問機関・法制審議会の家族法制部会で民法改正要綱案の原案がまとまり、議論は大詰めを迎えている。離婚した父母のどちらか一方が親権を行使する単独親権のみを定める現行法を見直し、双方の合意によって共に親権を持ち続ける共同親権を可能にする。
合意できなければ、家裁が共同か単独かを判断する。政府は早ければ通常国会に改正案を提出したい考えだ。離婚に際し共同親権を選ぶと、進学や就職、医療など子の今後に多大な影響を及ぼす事柄について、子と暮らす同居親と離れて生活する別居親が話し合い、双方合意の上で決める。
合意に至らないと、家裁がその都度、どちらが決定するかを決める。また命に関わる緊急手術のように「急迫の事情」があるなら、単独で決定できるようにする。しかし賛否の溝は深い。とりわけ、ドメスティックバイオレンス(DV)の被害者らの反発と不安は根強い。暴力から逃れようと別れても、相手との関わりが続く中で被害が継続しかねないと訴える。
家族の形がかつてない変化にさらされる中、子の利益をいかに守るか考えるとき、DV対応は避けて通れない。導入ありきで法案提出を急がず、被害者らの不安を置き去りにしないよう制度設計などで万全を期すべきだ。
自民党を中心とする超党派議員連盟が2016~17年ごろ、離婚で親権を失い、子と引き離された親の権利を守るとして面会を原則義務付ける「親子断絶防止法案」の提出を模索。離婚後の親子関係の議論が広がり21年、当時の上川陽子法相は共同親権や面会交流などについて家族法制見直しを法制審に諮問した。
22年8月末、家族法制部会は共同親権を選べる案と、単独親権のみの現行制度を維持する案とを併記した中間試案を取りまとめようとした。ところが事前に法務省から試案の説明を受けた自民党法務部会の一部議員が共同親権導入を強硬に主張。「共同親権を原則にすべきだ」などと試案の変更を迫り、取りまとめと公表は先送りされた。
政治介入など、あってはならないことだ。結局、2カ月以上遅れ、部会は当初内容を基本的に維持した試案を公表。一般の意見公募を経て昨年8月、共同親権導入の方向性を打ち出し、4カ月後に原案がまとまった。
一方、DVを受け、子を連れて家を出た人が多いシングルマザーの支援団体は導入に反対し、単独親権維持を提言。世論は真っ二つに割れた。内閣府調査では近年、DV相談は年12万件前後で高止まりが続いている。
原案では、家裁はDVで子の利益を害する恐れがあり、共同親権が困難な場合、どちらか一方を親権者と定めなければならない。またDVを背景に離婚協議で立場の弱い側が不本意な合意を強いられたら、請求を受け親権者を変更できるようにする。被害者の立場に一定の配慮が示された。
だが家裁は共同親権絡みの多くの争いをさばき切れるか、子の手術で急迫の事情を巡ってもめ手遅れにならないか。さらに同居親が再婚したとき、別居親が共同親権を盾に子の転居に反対しないか―など、不安や疑問は尽きない。制度の安定を確保できるか、一つ一つ丁寧に検討と説明を尽くしていく必要がある。(共同通信・堤秀司)