「じゃあ学校で、賢者の石を守ってるって言うんですか?!」
「まだ決まった訳じゃないよブルーム。あくまでも僕の推測」
「まさかフラメルの名前が蛙チョコレートに載ってるとは思わなかったぜ……」
「僕、蛙チョコレートのカードはたくさん持ってるけどフラメルのカードとか持ってないよ?賢者の石を作った人なのに、なんで今まで出てこなかったんだろ」
「カードになるかどうかは本人の承諾が必要ですから。奥ゆかしい人だったんでしょ、フラメルは」
ハリーがアルバス・ダンブルドアのカードに、ニコラス・フラメルの名前を発見すると、寮の部屋でザビニたちと賢者の石についての話になった。
ダンブルドアはフラメルとの共同研究によって、賢者の石という魔法のアイテムを作り上げたことで知られている。賢者の石は世界に一つしかないと言われる石で、永遠に残り続ける黄金と、長寿を与える命の水を精製できると言われている。
「もしも賢者の石だったら全部の辻褄が合うぜ!ハロウィンのときも、クィディッチ会場でハリーを襲ったのも、騒ぎを起こしてパニックになったあとで、石を盗むつもりだったんだ!」
「狙う動機としては十分ですもんね、賢者の石って」
「……凄いとは思ってたけど、皆から見ても凄いんだね、賢者の石は」
ハリーは苦笑して言った。アズラエルが次第に興奮して、賢者の石についての蘊蓄を垂れ流すのを見るのも楽しみだった。四人の話題は犯人についてのものから、石を使って何をするのかに逸れていった。
「そりゃあそうですよ。僕だったら、黄金でキャノンズのオーナーになって、キャノンズを優勝させてみせます」
アズラエルは胸を張ってそう言った。実家が金持ちなせいか、アズラエルの言葉は大袈裟なわりに妙に大人びていた。
「どんだけ黄金を積んでも無理なやつだな……」
「僕だったら黄金で好きなものを買うなあ。服とか魔法の本とか……闇の魔術の本とか」
「闇の魔術の本は専門家じゃないと所持してるだけで違法らしいね」
ファルカスはアズラエルよりは現実的だった。最後の一言を除けばだが。
「ザビニならどうする?」
ハリーがザビニに聞いた。ザビニもアズラエルと同じく実家が太いようなので、ハリーはザビニも黄金を使うのかな、と思った。
「……俺なら……命の水で俺が一番かっこいい時間が続くようにするな。ハリーならどうするんだ?俺らにばかり言わせるのは狡いぜ」
「ザビニらしいね」
「僕だったら早く大人になりたいですけどねえ。さ、ハリーの番ですよ」
意外にも、ザビニが選んだのは水の力だった。命の水で優れた自分を保つということらしい。考えてみれば。容姿に自信のあるザビニならそれが一番いいのだろう。
(犯人は何のために石が欲しいんだろう)
ハリーは心の中で犯人のことを考えながら、自分ならこうすると思ったことを言った。
「僕はアスクレピオスに命の水を飲んで欲しいな。長生きして欲しいから」
ハリーが石を使うのなら、今は自分の愛すべき蛇に使いたいと思った。将来のための黄金より、自分のクスシヘビが長生きすることのほうがよほど大事だった。アスクレピオスはまだ若くて、まだまだハリーと共に居ることはできる。それでも、蛇と人とでは時間の進み具合が異なるということを、蛇と会話できるハリーだからこそ敏感に感じ取っていた。
「それはハリーらしいけどよ……自分でパーっと使うほうがいいんじゃねえの?」
「ハリーは本当にアスクレピオスのことが好きだもんね……」
「命の水と黄金だけでも、考えたらいろんな使い道があるもんですねえ」
アズラエルはそう締めくくった。ハリーは心の中で、犯人は一体何に賢者の石を使うつもりなんだろうと思った。
「……もし扉の先に石があったとして、やっぱり、石を守るべきだよね……?」
ハリーは珍しく、迷いを持って三人に問いかけた。ハリーはダンブルドアに対して、今すぐインセンディオしたいほどの怒りはあった。強盗犯に石が盗まれたとしても、それはダンブルドアの自業自得だ。ハリーの心の恨みも少しは晴れるかもしれない。
それと同時に、たとえダンブルドアでも、石を盗まれるということがとても気の毒なことだという思いもあった。ハリーは自分のものを奪われる辛さを知っていた。
「僕らが危ないことをする必要はないんじゃないですか?ハリー。石はダンブルドアが管理してるんですから」
「ダンブルドアが学校に居るうちは、敵も変なことはしないんじゃないかなあ。それに、強盗犯と関わるのはちょっと怖いし……」
アズラエルとファルカスは、積極的に危ないことをするべきではないと言った。対して、ザビニは悩んだ後、ハリーに任せるとはっきりと言った。
「俺たちのボスはハリーだ。お前がやれって言うなら守るし、盗めって言うんなら、盗んでもいいぜ?スリザリン生だろ、俺たちは」
「いや、ザビニ。盗むのなんてやっちゃいけませんよ……いくら僕たちがスリザリン生だからって犯罪はまずいですって」
「アズラエル。それをお前が言うなよ」
「……そうか、ありがとうザビニ。ちょっと考えてみるよ」
ハリーはこの友の申し出を受け止めて、心の中で答えを探し続けた。
賢者の石を守るべきか、それとも……